八十八夜

学生時代から大好きなマンガの2次小説です

まやかし婚186

2022-09-30 08:00:00 | まやかし婚(完)

 

 

俺の礼と謝罪に、西田の顔が一瞬笑ったように見えた。

なんとなく、不気味な笑いに見えた。

マジで『脱童貞ならぬ、初イキソビレ』なんてことになんねーよな。

こんな不安を抱いたまま、機体は国内線の無い空港へと静かに着陸した。

 

移動中の車で、『信じられないほどの仕事がたまっている』と西田から聞いてはいたが…。

マジでシンガポール支社では、スゲー量の仕事がたまっていた。

まさかこんな状態になっていたのかっつー程だった。

 

これはヤバイ。

あまり考えたくねーが、シンガポール以外の支社はどうなっているんだ?

西田に聞かずとも、かなりヤバイ状態になっていることがわかる。

もしかすると、これからしばらくは出張が続くのを覚悟しねーといけねーのかもしんねー。

 

とりあえず、今の目標は28日には絶対に帰国。

あいつの誕生日を一緒に過ごす為に、俺は必死になって働いた。

マジで休憩どころか、殆ど睡眠もとらねーで働き続けた。

 

なんとか28日には間に合うだろうと判断した時─────。

西田も同じような事を言ってきた。

「28日の帰国は難しいかと思っていましたが、なんとかなりそうですね。」

 

西田のこの言葉に、俺は頷いた。

そんな俺を見て、西田がスゲー嫌なことを言ってきた。

「もうお気づきかと思いますが、シンガポール支社以外も同じ状況です。しばらくは出張が続くことを覚悟していてください。」

 

やっぱそうだよな。

覚悟はしていたが…。

つくしとこれからって時に、なんで出張が続くんだよとも思う。

 

この時─────。

俺はあることを思い出した。

 

「西田…。お前、俺がつくしと結婚した頃、自分は愛のある結婚だから出張は行きたくねーとか、言ってなかったか?」

「そうですね。確かに、そのような事を言いました。ですが、今は状況が変わったのです。」

 

西田の状況が変わった?

いよいよ嫁に、愛想をつかれたか?

それとも、見捨てられたのか?

俺的には、見捨てられたが濃厚だと思った。

 

が、西田からの返事はスゲー意外なモノだった。

「実は我が家に、赤ちゃんが来てくれたのです!」

興奮気味の西田が言ってきた。

 

あ"?

西田に赤ちゃん…?

 

唖然としている俺に、興奮気味の西田。

「来年の夏には、西田もパパになります!」

 

西田がパパ?

世も末だろ。

西田のガキだぞ。

能面で愛想も無く、俺に仕事と無理難題を押し付けてくるに決まってる!

 

「ガキが産まれるのに、出張なんて行っていていいのかよ?」

西田が無理なら、つくしが秘書になったらいいんだ。

こんな期待を込め聞いてみた。

 

が、帰ってきたのは、こんな期待外れの返事だった。

「ご心配には及びません。妻は悪阻がきつく、実家へ帰っております。妻の母が付いてくれているので心配はいりません。その為、私としましても心置きなく出張へ行くことが出来ます。」

 

なんだよ。

俺の期待を返せっつーんだ。

 

その上、

「産まれるのは7月です。その頃の出張は、司様お一人でお願いします。」

なんてことまで言ってきた。

 

俺は、今までに一度も『お前と一緒に出張に行きたい。』なんてことは言ってねー。

俺がこんなことを思ってるっつーのに─────。

 

「これからしばらく、妻と離れた上に、司様と一緒に出張。ため息が出そうになりますが、これも仕事です。仕方ありません。西田は、愛する妻と産まれてくる可愛いわが子の為に頑張ります!」

なんて言いだした。

 

俺が思ったことを、先に言うんじゃねーっつーんだ!

こんな西田とのやり取りを繰り返しながら、俺はシンガポールでの仕事に没頭した。

 

 

 

そして、いよいよ私の24歳の誕生日がやってきた。

今日が仕事納めの日。

残業が確定している日。

そして、道明寺が帰国する日。

 

どんな顔をして会ったらいいんだろ?

きゃー!

ドキドキしてきた。

 

この前は、西田さんの邪魔…。

じゃなくって!

西田さんが道明寺を迎えにきてくれたから未遂だったけど…。

 

でも、西田さんって本当に優しい人なの。

あの日、西田さんが突然迎えに来てしまって─────。

『道明寺と少しだけ時間を下さい。』ってお願いしたら、

『では、私は一足先に出てエレベーターホールで司様を待つようにします。』なんて言ってくれたから…。

触れるか触れないかくらいになってしまったけど、道明寺にキスすることが出来たの。

 

キスでもこんな状態なのに、大丈夫かな?

いよいよなんだ。

ドキドキしながら、私は仕事に集中した。

 

仕事が終わったのは20時過ぎ。

数日前から総務に纏わりついていた緊張感が一気に解けた。

 

「お疲れ様でした。」

「良いお年を。」

なんて言葉で挨拶が始まった。

私もそんな挨拶をしながら、会社を後にした。

 

晩ご飯、どうしよう…。

今日まで道明寺はシンガポールだから、和食だよね。

茶碗蒸し?肉じゃが?焼き魚?

それとも、親子丼?

 

私が晩ご飯のメニューを考えていると─────。

後ろから誰かに呼ばれる声がした。

 

振り返って見ると、そこには営業の織部くん。

 

「少しだけ良いですか?」

織部くんが私に声を掛けてきた。

 

営業部の人たちは、もっと早くに帰社しているはず…。

どうして?

 

私は、織部くんの真剣な顔が気になった。

いつもの明るい感じの織部くんじゃない。

私は織部くんに小さく頷いた。

 

 

 

 

お読みいただきありがとうございます。


転校生つくしちゃん10

2022-09-29 08:00:00 | 転校生つくしちゃん

 

 

帰り際。

つくしを送る時も、俺も一緒に車に乗り込んだ。

運転手だろうが、男なんだ。

つくしと二人きりになんてさせられねー。

 

車に乗っても、ニコニコと話しているこいつ。

「大きい車やなぁ。」

「ピカピカやん。」

 

それなのに、数分もしねーのに急に静かになった。

俺の部屋で2時間も寝たっつーのに、つくしは気持ちよさそうな顔をして寝ていた。

 

どれだけ寝るんだ?

車から伝わる小さな揺れに合わすかのように、つくしは体を揺らす。

俺は、そんなつくしの頭を、自分の肩にもたれさせた。

 

しばらくすると、完全に寝入っているつくしは─────。

俺の肩から胸に、そして、そのまま俺の大腿までズレてきた。

つくしの真っ白い肩が、俺の目を刺激する。

 

目に毒だ。

なんて思いながらも、俺はこいつの肩から目が離せなかった。

 

 

 

翌朝、

またいつものように、つくしのマンション前で待つ健気な俺。

 

「おはようさん。」

「はよ。」

 

いつもの朝の挨拶の後、つくしは話し出した。

「昨日はおおきに。むっちゃ楽しかった。そんで、家まで送ってもらってホンマにありがとう。お邸の人たちにも、ようお礼言うててな。それに、プール楽しかっ、あっ…。」

 

話し終わる前に、つくしは顔中どころか耳や首まで真っ赤にした。

俺が告ったことやキスしたことを、やっと思い出したようだ。

 

お互い一言も話さない状態で歩く。

少しは俺を意識しろっつーんだ。

 

「あ、あんな。」

この微妙な雰囲気に堪えられなくなった、つくしが口を開いた。

 

「昨日、類ん家で虫に噛まれたやん。昨日、帰ったらまた反対側、噛まれててん。」

自分の肩を指差ししながら話すつくし。

 

気付いたんだな。

笑い出しそうになるのを何とか堪え、俺は無表情のままつくしの話を聞いた。

 

「類の家より大きくて赤なってたけど、痒くないねん。」

不思議そうに話しているこいつ。

 

「そうだな。虫じゃねーからな。」

「えっ?虫じゃないん?だから、薬塗っても治らんかったんや。」

 

あ"?

薬を塗っただと…?

俺の所有の印をなんだと思ってんだっ!

 

「虫じゃないんやったら、なにに噛まれたんやろ?痒ないし変なの。」

不思議そうな顔をしているつくし。

 

なんで気付かねーんだ?

俺がつけたから痒くねーんだ。

 

昨日の夜。

夜の車の中だっつーのに、お前の細い肩は─────。

まるで俺を誘うかのように、皓々としてたんだ。

 

キスマークを付けても、虫に噛まれたってなんだよ。

俺の付けた印が、まさかの虫と同レベルとかねーだろ。

 

キスマークに薬を塗るようなこいつでもわかるように、俺は一語一句丁寧に話した。

「好きな女の水着は見れねー。抱きしめて告っても、その男の部屋でグーグー昼寝して、返事もくれねー。やっと帰りの車で二人きりになれたと思っても、誰かさんは俺の膝枕でグーグー寝てしまったんだ。だから、俺の所有の印をつけたんだよ。わかったか?」

 

俺が話し終ると─────。

顔を真っ赤にしたつくしが、自分の肩に手をやり叫んできたんだ。

「えっ!えっーーー!これって、これって。」

 

やっと気付いたか?

この鈍感女。

 

「『ごちそうさん。』っつーんだろ?」

俺の関西弁に

 

「よろしゅうおあがり。ってちゃうわ!」

やっぱ関西弁で返してくるこいつ。

 

よろしゅーおあがりって何だ?

 

「使い方もちゃうしー。使う場所も発音もまちごーてる!」

これ以上ねーってくらい顔を真っ赤にしたつくしが言ってきた。

 

 

学校に入る直前、類と合流する。

類はつくしの真隣で歩きだす。

 

小さな声で類がつくし話しかけた。

「昨日の服、どうだった?」

 

「シーっ!もう!そんなんここで言(ゆ)うたらアカン。」

つくしは口の前で人差し指を立てながら、小さく話した。

 

二人とも小声のつもりなのか?

丸聞こえだぞ。

 

「なにが『言うたらアカン。』なんだよ?」

俺の声に、明らかにつくしがヤバって顔をした。

 

「昨日のつくしのワンピース、可愛かっただろ?」

類が俺に聞いてきた。

 

そうだった。

昨日、つくしは邸に来る前に類の家に行った。

こいつら、二人で何してたんだ?

キスマークが蚊ってことに安心してしまったが…。

なんでつくしが、類のベッドに入ったんだ?

 

「俺、昨日はゆっくり寝るって決めてたのに。つくしに無理に起こされてさ。」

類が俺に話し出した。

 

「『この服でおかしないか?』とか『道明寺はこんなワンピー…』」

つくしの口調を真似した類の言葉に─────。

 

「イヤー!もう、類!いらん事、言わんといてっ。なんでそんな余計なこと言うん?」

つくしの叫び声が重なった。

 

でも、俺の耳には類の声が間違いなく届いた。

「『道明寺はこんなワンピース好きやろか?』って言いながら、俺のベッドの端に急に跳びのるからベッドから落ちたんだよ。」

 

昨日、類の部屋に行ったのは─────。

類に、俺の服の好みを聞きに行ってたのか?

 

スゲー嬉しくなった俺は、隣にいるつくしの顔を覗き込んだ。

恥ずかしそうなつくしを見ながら、俺は確信した。

つくしからの『むっちゃ好きやねん。』を聞ける日は、かなり近い。

 

 

 

 

お読みいただきありがとうございました。


いつもたくさんの応援を本当にありがとうございます。

転校生つくしちゃんの(私の中の)第二章はここまでです。

関西弁が楽しすぎて、毎日更新することができました。

第三章は冬頃になる予定です。


まやかし婚185

2022-09-28 08:00:00 | まやかし婚(完)

 

 

~西田side~

皆様、覚えていらっしゃいますでしょうか?

私が粗大ごみを引き上げた時です。

正確に申し上げますと、日本に帰国した翌朝だというのに、私は司様に呼び出されました。

(詳しくは7~8話をお読みください。あの当時の司様が、人としても上司としてもクズだったのかがよくわかります。)

 

あの時の話をすると、司様は珍しく反省されたように見えました。

これが演技なのか、はたまた、クルクル上司の作戦なのか?

間違いなく司様は単純なので、少しは反省したはずです。

 

ですが…。

『恋人たちの貴重な時間を潰した罰です。司様の脱童貞の邪魔をすることが出来て、西田としましては最高に幸せです。いやー。まさか、脱童貞は昨日に済ませているとばかり思っていたので…。今日はタイミングを見計らって、司様のイきそびれを狙ったつもりだったのですが…。まさかの脱童貞だったとは(笑)』

私のこの言葉により、司様の反省は一瞬で終わってしまいました。

 

反省するが一瞬。

これは、人間としてありえません。

だから、司様はいつまで経ってもダメなのです。

 

このポンコツを今後、どのように教育していくべきなのか…?

ジェットに乗りながら、西田は色々と考えようとしました。

 

しかしっ!!

そんな私の考えの邪魔をする騒音。

ジェットのエンジン音ではございません。

エアポケットに入ったわけでもございません。

 

道明寺家のプライベートジェットは、機体もパイロットも超一流。

このポンコツだけが、正真正銘の三流です。

 

「てめー!俺の脱童貞を返せー!」

「俺とつくしがラブラブなのが、ウマヤラシイんだろっ!」

「絶対に28日に帰れるんだろうなっ!」

「おいっ!聞いているのか??」

 

そうです。

隣のボンクラが話しかけてくるのです。

これぞ、まさに雑音です。

しかも、『ウマヤラシイ』ではなく、それも言うなら『羨ましい』です。

情けない…。

牧野さんに振り向いてもらいたく、必死になり多くの本を読み、日本語の勉強をしていましたが、相変わらず日本語は弱いですね

こんなのが私の上司だなんて、信じたくもありません。

 

それでも、日本語のミスは訂正しなくてはなりません。

恥をかくのが司様だけなら良いのですが…。

何といっても、道明寺ホールディングス東京支店の支店長です。

企業として恥をかきます。

 

そして、運悪くその場に私も一緒だったなら─────。

私まで恥をかいてしまいます。

これだけは絶対に回避させなくてはいけません。

恥をかくのは、このポンコツだけで十分です。

 

私は、『羨ましい』という日本語を丁寧に指導しました。

そして、どうしても28日に帰国したいのであれば、仕事に真面目に取り組むようにと、園児にでもわかるかのように説明しました。

 

するとですね…。

「あの…。よ。」

なんて、ぼそぼそとボンクラは話し出しました。

 

「はい、どうしました?」

このように聞きながら、

 

心の中では

『さっさと話して下さい。司様がポンコツなお蔭で、私はずっと忙しい思いをしているのです。』

と思っていました。

 

こんなことを思っている私に、ボンクラは信じられないことを言ってきました。

「あのよっ。悪かった。」

 

まさかの謝罪です。

西田、シンガポールで耳鼻科に行くべきでしょうか?

それとも、司様の仰られていた鼻耳科を探すべきでしょうか?

 

「何を謝られているのですか?」

この疑問に、

 

「お前と嫁のことだよ!…邪魔して…悪かった。」

肝心な悪かったという言葉は小声でしたが、司様からの謝罪がありました。

 

天変地異の前触れでしょうか?

もしくは、このジェットは乱気流に見舞われるのでしょうか?

腰だけのシートベルトではなく、乗用車用の肩からするシートベルトも欲しくなりました。

 

この快適だったフライトを、ますます不安にさせるようなことを司様は再び言ってきたのです。

「あとだな…。サンキュ、な。」

 

まさかの礼です。

やはり天変地異の前触れです!

妻に最後の言葉を残すべきでしょうか?

 

「何に…ですか?」

私の返事に

 

「お前が俺の結婚相手に、つくしを選んだことだ。」

なんて答えてきました。

 

司様の相手に牧野さんを選んでしまったのは痛恨のミスでしたが、司様からこのような言葉を聞けて少し心が軽くなりました。

あとは、リアルに理不尽な結婚生活を過ごして頂くように仕向けないといけません。

 

司様は、話し続けました。

「大学卒業した後も、西田の言うとおり、大学に通って修士号を取ったことも助かった。」

 

礼には及びません。

あの当時の私は…。

司様と接触するのを減らす為に、司様に大学に通い続けるように仕向けたのです。

 

まさか、このような形で、司様にとって有利に働いてしまうとは…。

非常に残念な結果となってしまいました。

 

司様が牧野さんの為に教師になるなんて言い出した時は、万年筆を折りそうになりました。

教師と言うのは、皆様もご存じの通り、《教える》立場です。

日本語すら、まともに話すことが出来ない司様が教師ですよ。

私は、英徳と交渉するに辺り《授業内容は全て英語》という条件にしました。

そうしないと、道明寺ホールディングスの株価が翌日には大きく下落するからです!

 

そして、司様はもっと信じられないことを言ってきたのです。

「俺が高校の時…。赤札を貼ってしまった奴、いや…。赤札を貼ってしまった方たちに、ずっと連絡をとってくれて…だな。マジで助かった。…サンキュ。」

 

最後には、消えそうなくらいの小さな声になっていましたが…。

この時、私の中で司様は《ボンクラ》から《非常に手の掛かる上司》となりました。

とはいえ、何といっても司様です。

まだまだ、私の手のひらで転がってもらいましょう。

 

 

 

 

お読みいただきありがとうございます。


転校生つくしちゃん9

2022-09-27 08:00:00 | 転校生つくしちゃん

 

 

「しかも、発音ぜんぜんちゃうしな。」

キスの後だっつーのに、関西弁には厳しいこいつ。

 

そして、文句を言いながら、俺の胸を押してくる。

「名前で呼んだら、離してくれる言うたのに…。もう、離して。」

 

そんな力じゃ、ビクともしねーよ。

 

「離さねぇ。」

俺の言葉に、

 

つくしは困った顔をしながら─────。

上目使いで俺を見上げてきたんだ。

 

!!!

うぉっ。

お前、今、俺の胸の中にいるんだぞ!

そんな可愛い顔で見上げてきたら、ムチャクチャにしたくなるじゃねーかっ!

 

そして、言ってきたんだ。

「うち、ほんま恥ずかしいねん。離してよぉ。道明寺は、いけずや。」

 

こいつの上目使いに『離してよぉ』に『いけずや』だぞ!!

牧野のあまりの可愛らしさに、俺の腕は一瞬緩んでしまった。

 

 

あの後、直ぐにプールから出た俺たち。

こいつの可愛らしさに、俺の腕が緩んでしまったのが原因だ。

 

そして、その可愛いつくしは、

「人様のお家で、お昼寝なんてよーせんわ。」

なんて言っていたのに…。

 

つくしは、俺のベッドで2時間も爆睡した。

その間、俺もこいつの可愛い寝顔を堪能した。

 

流石に、一緒のベッドで寝るっつーことだけは…。

なんとなく止めた。

でねーと、目が覚めたこいつがデケー声で叫びそうだろ?

 

目が覚めたこいつは、開口一番。

「なんであんたが、ここにおるん?」

こんな可愛くねーことを、言ってきた。

 

「ここは俺の部屋だ。」

っつー俺の返事に、

 

「えー!!そうなん。ごめん。ベッド占領してもうたなぁ。あんた、何人も寝れそうなベッドに寝てんやなぁ。」

一瞬で驚いて謝って、感想まで話すこいつ。

 

「何人もは無理だろ。」

「そうかなぁ?ごっつい大きいからいけるで。」

 

この会話の後、

「俺は、お前と2人で使いてーんだけど…。 」

こう言った俺が、ベッドに片膝を乗せると─────。

 

つくしは、一瞬にしてベッドから飛び下りた。

なんでそんなに素早いんだよ。

 

そして、廊下へ続くドアに駆け寄りながら─────。

噛みまくりながら、言ってきたんだ。

「あ、あ、あっ。う、うちお腹空いたわ。せ、せ、せや、持ってきた回転焼き、みんなでた、食べよう。ぷ、ぷ、プールの後って、むっちゃお腹空くでな、なっ。」

 

 

つくしは持ってきた回転焼を、邸の連中と食べだした。

なんでも、黒あん・白あん・カスタード・抹茶にチョコ味があるらしい。

すっかり邸の連中と、仲良く楽しそうに過ごしている。

俺が視線を送っても全く気付かねー。

 

そのくせ、心配そうに言ってくるのが、まさかのこんなこと。

「なぁ、道明寺。あきらくんと総ちゃんに声、掛けんでえーかな?回転焼き、無くなってしまうんやけど…。」

 

・・・・・。

男と女が、それぞれの部屋に消えていったんだぞ!

回転焼きの為に、声を掛ける必要があるか?

あきらや総二郎のヤッてる所なんて、俺は見たくねー。

 

それよりも!!

つくしのこの辺りの感覚は、どうなってんだ?

俺が告ったっつーのに、こいつは嬉しそうに回転焼きを食ってる。

 

まさか、昼寝して忘れたわけじゃねーよな?

なんとなく不安に思いながら、俺たちは夕食の為にダイニングに移動した。

 

回転焼きを食った後でも、こいつの胃袋は一瞬にして圧縮されるみてーでバクバク飯を食い出した。

 

食べ終わった後、つくしは両手を合わせて

「美味しかったです。ごちそうさまでした。」

俺と邸の奴らに、礼を言ってきた。

 

学校で弁当を食った後は、『ごちそうさん』っつーて手を合わしているこいつが、『ごちそうさま』っつーのに、俺が笑うと─────。

 

「私もきちんとした所では、少しくらいきちんとするの。」

こんなことを笑いながら言ってきた。

 

まさかの『私』発言に、俺が笑うと─────。

「もう!何で笑うんよー。」

なんて言ったつくしが笑い出す。

 

そんな俺たちを見て、邸の奴らも口元を綻ばせている。

タマは皺だらけの顔が、ますます皺だらけだ。

このダイニング、こんなに明るい雰囲気だったか?

いつも俺が一人で食っている時なんて、殺風景で音もねー。

つくしがいるってだけで、こんなに明るくなるのか?

 

ダイニングを明るくしたつくしは、自分の使った食器を厨房へ運ぼうとした。

そんなつくしを見て、邸の奴らが慌てて止めに入る。

 

邸の奴らは、客に皿を運ばせることなんてっつーので止めているのに─────。

「大丈夫ですよー。高そうなお皿なんで、気を付けて運びますね。」

なんて言ってるこいつ。

 

俺も思わず、コーヒーをふき出しそうになった。

皿の値段なんて、誰も気にしてなんかいねーよ。

あきらや総二郎が連れ歩いてる女たちと、違いすぎだろ?

 

邸の奴らがいくら止めても、つくしは食器を厨房へ運び、シェフたちにお礼を言いだした。

いつもは職人面しているシェフ達が、スゲー嬉しそうに笑いだす。

 

そんな邸の奴らやシェフたちを眺めながら─────。

つくしと結婚すると、邸はとこんな感じになるのか?

っつーことを、俺は想像してしまった。

 

 

 

 

お読みいただきありがとうございます。


まやかし婚184

2022-09-26 08:00:00 | まやかし婚(完)

 

 

やっと脱童貞っつー時に、なんで邪魔が入るんだよっ!

しかも、シンガポールに出張ってなんだよっ!!

 

「行ってくる。」。

不機嫌全開の俺の声に、つくしが顔を曇らせた。

 

つくしが悪いんじゃねー。

こんなヘビの生コロガシなんてねーだろっ!!

 

そんな態度の俺を気にしながらも、つくしは外を確認した。

西田が先に行ったことを気にしてるのか?

あいつのことなんて心配いらねー。

寒い中、いつまでも俺を待ってろっつーんだ。

 

つくしは、俺を見上げ言ってきた。

「行ってらっしゃい。気を付けてね。」

 

『あぁ。』って返事は出なかった。

俺から出た言葉は、まさかの「おわっ。」だった。

つくしが、ネクタイを思いっきり引っ張ってきたからだ。

 

思わず、前かがみになってしまう俺。

この瞬間─────。

俺の唇にやわらけーモノが触れた。

 

つくしからのキスっつーのに、気付くのが遅れた俺。

気付いた時には、つくしの唇は離れて─────。

 

顔を真っ赤にしたつくしが、

「待ってるね…。」

なんてスゲー小さな声で言ってきたんだ。

 

この時の俺の顔は、締まりのねー顔をしていたと思う。

つくしからのキスに、待ってるの言葉だぞ!

 

すぐさま、俺はつくしを力の限り抱き締めた。

これ以上力を入れると、つくしの骨が折れるかもしんねーって不安に思った瞬間─────。

 

胸に閉じ込めているつくしから、くぐもった声。

「苦しい…。」

 

力を緩めると、つくしは

「もう、バカ力…。息できないじゃない!」

なんて、ブツブツと俺を見上げながら言ってくる。

 

そんなつくしの首筋に顔をうずめた俺は、つくしの耳元で囁いた。

「絶対、28日の夕方には帰る。」

 

コクンとつくしが頷くと─────。

つくし自身の香りとサラサラの髪が、俺の顔や首をくすぐった。

 

 

邸に向かう車の中で、

「年内に間に合ってよかったです。」

なんて、クソ真面目な表情で言ってくるクソ西田。

 

殺意を抱く。

やっと、俺の脱童貞の歴史的瞬間を邪魔した罪は重いぞ!

 

ジト目で西田を睨んでみたが…。

「いやー。良かったですね。これで正真正銘のご夫婦ですね。司様も、ようやく、やっと、遅いくらいの脱童貞となり、誠におめでとうございます。」

こんなことを言い出した。

 

あ"?

こいつ、今なんつった?

おめでとうございますじゃねーっつーんだよっ!

脱童貞の邪魔をしてきたのは、お前だっ!!

 

「いやー、それにしてもめでたい。実にめでたい!これで私は、これからも牧野さんと共に、司様の異常な生態を語り合えることが出来ます!!同じ悩みを持つ、同士がいるというのは実に素晴らしく心強いですね!!」

こんなことを、西田は話している。

 

あ"??

俺の異常な生態ってなんだ?

 

「そして!司様には、一日でも早く、結婚という墓場体験をしていただきたい!これに関しては、西田も司様の味方になれます。」

西田は力説している。

 

・・・・・。

このバカ秘書はなにを言ってんだ?

結婚という墓場?

つくしと結婚して墓場になんてなるわけねーだろっ!

 

「お前、今さっきから何言ってんだ?」

「は?」

俺の質問に、マヌケな返事をしてきたクソ西田に俺は話した。

 

「いいか?西田。俺は、あいつとマダ何もシてねー。」

この俺の言葉に、西田はバカ面をしながら言ってきた。

「はっ?今…なんと仰いました?」

 

「なにもシてねーっつったんだっ!なにが、脱童貞だっ!なにが、おめでとうございますだっ!!その邪魔をしたのは、お前だっつーんだよっ!」

俺の怒鳴り声に、西田は目を見開いた。

 

そして、ニンマリ笑いながら言ってきたんだ。

「あー、マダでしたか。そうですか。それは、仕方がないですね。仕事と同じで、そっちもすることが遅かったのですね。」

 

あ"?

仕方がない?

仕事と同じで、そっちもすることが遅い!?

コイツ…。

俺の秘書の分際で言いたい放題かよ?

 

俺がジト目で睨んでいると、西田は話し出した。

「日本に帰国した、その翌朝。司様は私をペントハウスに呼びつけました。覚えていますか?」

 

そんなの一年以上も前のことだろ。

覚えてねーっつーんだよ。

 

「私が妻と─────。その当時は、付き合っていたのですが…。久しぶりに過ごす貴重な朝を、司様は一通のメールで邪魔をしてきたのです。」

明らかに恨み節の西田。

 

「あの日、私を呼び付けたというのに…。司様は、まだ寝ていらっしゃいました。」

西田は静かに話しているが…。

 

怒っているのだけは伝わってくる。

やべっ。

一年前の俺は、そんなことしていたのか?

やべぇ。

流石(ナガレイシとは言わなくなった!)の俺も、西田と嫁に悪かったっつー思いが出てくる。

 

そんな俺に、西田は─────。

「恋人たちの貴重な時間を潰した罰です。司様の脱童貞の邪魔をすることが出来て、西田としましては最高に幸せです。いやー。まさか、脱童貞は昨日に済ませているとばかり思っていたので…。今日はタイミングを見計らって、司様のイきそびれを狙ったつもりだったのですが…。まさかの脱童貞だったとは(笑)」

なんてことを、嬉しそうに言ってきたんだ。

 

 

 

 

 

お読みいただきありがとうございます。