マグロチャンピオンの料理道場

人気バラエティー番組、TVチャンピオンの「マグロ料理人選手権」優勝者が、本格料理を分かりやすく教えるブログ。

あん肝の酒蒸しと工場での思い出(最終回)

2008年03月14日 | 酒肴
これまで、工場での「あん肝の酒蒸し」の生産について書いてきたが、今回はお店での「あん肝の酒蒸し」の作り方に付いて説明をしよう。

このページに貼り付けてある写真は、中国工場でつくってきた冷凍の「あん肝の酒蒸し」で作った料理の写真で、タイのバンコクの店で撮ったものだ。

さすがにタイでは「あんこう」の水揚げが無いので、中国の工場からバンコクにハンドキャリーで持ってきて使っていた。

半解凍の時に切って盛り付けるだけで、立派な「あん肝の酒蒸し」になる。(写真をクリックすると拡大)

さて、お店での作り方だがとても簡単だ。

蒸し上がりの形が多少ゆがんでいても、盛り付けでカバーできるだろうから、失敗を恐れないで作ってみよう。

できれば、あん肝はなるべく大きなサイズの物を選ぼう。
小さなサイズは脂が少ない。

あん肝の美味しい季節は、10月までは脂が薄く、11月過ぎに脂が乗ってくるが、3月になると嘘のように脂が抜けるので、食べ頃は11月~2月までだ。

早速、作って行こう。

①あん肝はよく水洗いをする。
②強めに塩を振って1時間程置き締める。
③塩を洗い流して、血菅をトゲ抜きで綺麗に取り除く。
④2㎝位の大きめに切って、塩少々と酒少々を加えて混ぜる。
⑤ラップを広げて④を乗せ、4㎝~5cmの円柱になるように巻き、両端を輪ゴムで留めるか糸で縛る。
⑥さらにその上からアルミホイルを巻く。
⑦蒸し器に入れ、20分~30分蒸して蒸し器から取り出し、冷めてから冷蔵庫に保管する。

ポイントだが、血菅を綺麗に取り除くことだ。
血管以外でも血の固まっているところがあれば、もったいないが切り取って捨てよう。

美味しい「あん肝の酒蒸し」を作るには、鮮度の良い材料(鮮度が落ちると緑色に変色する)を選ぶことと、血菅と血のまわっている部分を綺麗に取り除くことだけだ。
臭みの無い最高の味になる。

美味しい「あん肝の酒蒸し」を作ってみよう。。。


あん肝の酒蒸しと工場での思い出(3)

2008年03月14日 | 酒肴
プーケットのマグロ工場に着いても、ケーシングのことが頭から離れない。
どうしたら破れないケーシングを見つけられるのだろう?

豚や羊のケーシングも試したが、動物の腸では破れてしまう。

ビニール素材は熱に弱く、また、あん肝を詰めて外側から針で穴を開けてやっても中に気泡がたくさん出来てしまって、最終商品の品質にバラツキきが出てしまう。

食品の開発をしている友人に片っ端からメールや電話を掛けてみたが、皆も分からないという答えばかりだった。

そんな時、たまたま、携帯の電話のベルが鳴った。日本からの電話で昔からお付き合いのある包材メーカーの水沼さんからだった。

水沼さんは筆者と歳はちょうど2回り上で兄貴のような存在の人だ。たまに日本に帰る時に連絡すると呑みに誘ってくれていろいろと話を聞いてくれる。

以前、まぐろ商社に勤務していた時に冷凍マグロ柵の急速解凍袋「食べころ君」という商品を作って東急ハンズ等に販売したのだが、少ロットでの生産を引き受けてくれて、また「実用新案」を取る時には、データ取りに親身になって協力してくれた。

水沼さんからの電話はいつものように『元気でやってる?今度はいつ日本に帰るの?』というものだった。

そこで近況を報告し、破れない「ケーシング」を探している話をして電話を切ったのだが、それから1時間もしないうちに水沼さんから電話があった。

『ファイバーケーシングを使ってみてはどう?』ということだった。ハムやソーセージを製造する時に使用するかなり強度のある紙のような素材とのことだった。

サンプルを直ぐに送るということで、たまたま中国の工場の社長が日本に居たので、そこに送ってもらい工場に届くようにしてもらった。

しかし、その当時は『ファイバーケーシング』を見たこともなく、とても不安だったのだが、これが非常に優れものだった。

その後、プーケットから中国の工場に飛んで行って早速試してみたところ、あん肝をこのケーシングに入れて、両端からギューギュー絞っても決して破れないし、その状態で高温で蒸しても袋が破裂することも無かった。

さて、ケーシングさえ見つかれば、後は特に問題ない。

あん肝の血菅の掃除も、1~2秒、ブランチングすれば、血菅が浮き出ていとも簡単に取り除けることが分かった。
また、アクティバの結着時間も何度かテストをして冷蔵庫に2時間も入れて置けば良いことも分かった。

そして、2月3月とほとんど工場に居るような状況で2トンの製品を日本に出荷した。

価格は、2,500円/㎏としたが、ちょっと季節外れなのに直ぐに完売となった。

そして、その年の10月からの大手居酒屋チェーンの冬のメニューへの採用も決まり、廻転寿司チェーンへの販売も決まって、結局その年は10月~1月まで、ほとんどその工場で寝泊りしながら、15トン以上の冷凍「あん肝の酒蒸し」を生産して日本に送った。

しかし、孤独な日々だった。朝から晩まで商品を作り、工場の食堂で女工さん達と一緒に食事をするのだが、当時は中国語がまったく駄目で、皆が一生懸命に話し掛けてくれるのだが、ただ、うなずくしかなかった。

結局、この商品は翌年も同じ位の数量を作ったのだが、2年で生産を中止した。

原料となる「あん肝」の入荷が少なくなり、とても採算が合わなくなったからだ。

中国の魚市場に行くと、手のひらサイズの小さな「あんこう」が売られているのを見掛ける。

あんなに小さなサイズまで、底引き縄で根こそぎ獲ってしまったら、「あん肝」が不足するのは当然だろう。

以前にも、「これからは食料の奪い合いの時代になるだろう」と書いたが、「あん肝」に限らず、全ての海洋資源が同じようになっているのだと思う。。。