今回は「乳化機でつくるラーメンスープ」の話しをするが、今、中国では日本の「ラーメン店」で中国で450店舗以上を展開する「味千ラーメン」が話題になっている。
下記は「SearChina」というインターネットのNewsサイトの記事だ。
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上海市当局が味千ラーメンを「虚偽宣伝」の疑いで調査
中国新聞社などによると、上海市当局は2日、同市内に展開する味千拉麺(味千ラーメン)を、虚偽宣伝の疑いで調査していることを明らかにした。スープに豚骨の濃縮エキスを使っていることを消費者に知らせず、栄養価が高いと誤解させていた可能性があるという。
同社が使っていたとされるのは「排骨湯精(アバラ骨スープエキス)」で、日本でいう「豚骨スープエキス」に相当する。原液はまず、山東省泰安市内の京日丸善食品工業有限公司で生産し、西蓋米食品(上海)有限公司で調味料などを加え濃縮、味千拉麺の各店舗に配送していた。
販売価格は最も安い麺(めん)が1食22元(約264円)で、多くは30元以上。同様の食品としては高価で、「消費者に栄養があるとの印象を与えていた」という。
上海市食品薬品管理監督部門は「排骨湯精は複合調味料に該当する。生産許可証や配合表などを調べたが、食品安全上の問題は今のところ、見つかっていない」と説明した。
上海市工商局の関係者は、「現在は、関連企業を虚偽宣伝の面から調査している」と述べた。
◆解説◆
上海市などを中心に、味千ラーメンがスープに濃縮エキスを使っていたことについて「各店舗で骨を煮込んでいたと信じていた」などする非難が高まった。同社が公式サイトに掲載していた栄養成分表も事実とは大きく異なることが明らかになった。同社は該当する内容をサイトから削除した。
中国では自国産の食品に対する不信感が強く、逆に日本産食品に対する評価が高い。日本からの輸入品については原発事故以降に信用が失墜したが、中国国内で日本企業が手掛ける食品については「日本企業だから安心だ」と、依然として評価が高かった。それだけに、波紋が大きく広がったと考えられる。
味千ラーメンの商品については中国側当局も、「今のところ、食品安全上の問題はない」と表明している。中国では日中関係が緊張した際に日系企業や関係職員に対する「見せしめ」とも解釈できる事態が発生することがあるが、今回の事態に政治的背景は特になく、消費者の強い声を受ける形で、当局が動いたと考えられる。(編集担当:如月隼人)
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この事の発端は7月23日に中国のメディアが報じたことから始まった。
「ラーメン一杯のスープに含まれるカルシウムは牛乳の4倍の1600㎎」と公式サイトで紹介されているにもかかわらず、実際には48.5㎎しか含まれていないのでは誇大宣伝と言われてもしかたないだろう。
また、味千ラーメンはこれまでずっと「手造り」や「栄養豊富」というイメージをアピールしてきたが、事件後に「濃縮スープを希釈して提供している」とするコメントを出して、店舗内で煮込まれたものではないことを認めている。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/00/0c/02d5cc575c8dd076724fa663103e4689.jpg)
写真は家の近くの「味千ラーメン」の写真。(お客さんは以前よりかなり少ない)
さて、前置きが長くなったが、このように中国だけでも450店舗以上もあるラーメンチェーンがスープを各店舗数で調理し、すべての店が同じ味のラーメンを販売することなどは不可能だろう。
特に中国では絶対に無理だと思う。
我々の店でも基本レシピはあるが、それさえも、しばらく店に行かないと変わってしまうからだ。
また、豚骨をたくさん使って10時間以上もスープを沸騰させ続けて「とんこつスープ」をつくったらコストも合わなくなる。
そこで、もっと簡単に、コストを抑えてラーメンスープをつくる方法について今回は話しをしよう。
最近、中国のあるメディアが「味千ラーメン」の豚骨スープは店舗で煮込んだものではなく、粉末調味料から作られており、1食分のコストはわずか数毛(1毛は1.2円)と報じた。
味千ラーメンはラーメンを1杯「22元~40元」で販売しているので、粗利はなんと60%以上もあるという。
では、どやってコストを抑えてラーメンスープをつくるかだが、「インジェクションビーフ」の時にも説明した「乳化機」を使えば、10時間も煮込まず30分もあれば簡単につくることが可能だ。
前にも話したが「乳化」とは、水の中に油が細かい粒子となって混在しているO/W型と油の中に水が細かい粒子となって混在しているW/O型の2種類がある。
水と油は決して溶け合うことはないので、サラダのドレッシングなどは瓶をよく振ることで水と油の粒子を小さくさせる。
肉眼では混じり合っているように見えるが実際には水と油が小さな粒子となって混在しているだけなので、そのまま置いておくと水は水どうし、油は油どうしが引き合って元に戻ってしまう。
(水と油が混じって白く濁って見えるのは光が屈折して白く見えるだけで溶け合っているわけではない)
乳化をさせる為には、まず、水と油の粒子を小さくさせることだ。
そこで、下記のような「乳化機」で水と油を高速回転刃で切って粒子を小さくさせる。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/52/e2/06674205b0e667bc40bc3fe01b292226.jpg)
写真の乳化機は試作用なので小さいがもっと大きいものもある。(中が見えるようにこの写真を使用)
下が「高速回転刃」の写真だ。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/71/57/b01593d5818fa60a8a331d036a4b74d9.jpg)
1分間に2000回転~5000回転の高速回転刃で水と油の粒子を切りながら、水と油の粒子を小さくし混ぜ合わせる。
この「乳化機」を使えば、水と油はあっという間に目には見えない小さな粒子となるが、サラダのドレッシングと同じで、そのまま置いておくと水と油は分離してしまい元に戻ってしまう。
そこで、「インジェクションビーフ」の時と同じように「乳化剤」を使って水と油の粒子を安定させる。
乳化剤としては、この場合にはO/W型エマルションなので、水と仲の良い乳化剤のモノグリ(グリセリン脂肪酸エステル)や、ショ糖エステル、カゼインナトリウム、レシチン等がいいだろう。(食品や飲料にも多く使われている)
また、乳化には粘度を上げると解乳化(乳化が解ける)しにくいという特性がある。
(水と油の粒子が粘度が高くなることによって動きにくくなる為)
そこで、増粘剤(澱粉等)やゲル化剤(寒天やゼリー等)を使用すれば安定した乳化が得られる。
特に濃縮スープの場合には、濃縮スープにお湯を加えた時に解乳化(乳化が解けること)が起こらなように、増粘剤(澱粉等)やゲル化剤(寒天やゼリー等)を使用する場合が多い。
下は市販のインスタントラーメンの成分表示の写真だ。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/35/e2/220a8f29415e53e4f59b511b5c91bc26.jpg)
ポークやチキンや野菜等のエキス類、乳化剤、増粘剤、アミノ酸(化学調味料)が使われている。
このように、水と油(ラード)を乳化剤を使って乳化させて、増粘剤やゲル化剤で安定させて、さまざまなエキス類で味付けをして、pH調整をして濃縮スープにすれば、長期間保存ができる安価で安定したスープの大量生産が可能だ。
ただし、「味千らーめん」のように、お客様に誤解を招くような「虚偽宣伝」をするのはやはり同じ飲食店に関わる者として恥ずべき行為だと思う。
ここのところ約2週間にわたってラーメンスープと乳化の話をしてきたが、乳化について少しは理解してもらえただろうか。
10時間以上も時間を掛けてつくった「心のこもった一杯のスープ」はとても貴重なものだと思う。
そういうラーメンスープをつくり続ける「らーめん店」が時代の流れで消えていかないことをせつに願う。
さて、明日からまた青島の工場に食品加工の指導に行くことになり上海を離れるが、工場の宿舎にはネット環境が無いので4~5日はブログもお休みとなる。
次回はラーメン以外の話をしよう。
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