マグロチャンピオンの料理道場

人気バラエティー番組、TVチャンピオンの「マグロ料理人選手権」優勝者が、本格料理を分かりやすく教えるブログ。

牛タンのインジェクションビーフ

2011年07月20日 | 食品加工
暑い日が続くと、不思議と刺身や寿司よりも焼き肉や焼き鳥でビールということになる。

特に、厚切りに焼いた牛タンに「ネギ塩タレ」を乗せ、上からレモンを絞って食べると格別に旨い。

<ネギ塩ダレの作り方>
ゴマ油にひとつまみの塩とタップリの万能ネギのみじん切りを加える。
これを焼いた牛タンの上に乗せ、レモンをたっぷり絞って食べる。(お好みで白ゴマを上から散らす)

さて、この牛タンだが語源は英語で舌を意味する tongue の音からきたようだ。

日本では太平洋戦争の前にはほとんど食べられることがなく、また、牛タンは珍味の扱いで一般の家庭で牛タンを食べることはなかったようだ。

牛タンが普及したのは、1991年からの牛肉の輸入自由化で、これに伴い安価に材料が入手できるようになり、焼き肉店などから牛タンが広まったようだ。

ちなみに焼いた牛タンにレモンを絞って食べる「タン塩」は東京の六本木にある焼肉店「叙々苑」が発祥とも言われている。

この牛タンの食べ方だが、焼いて食べる調理法以外には「タンシチュー」などの煮込み料理が多い。

それは、タン先が繊維質で硬く、長時間煮込んで軟らかくしないと食べられないからだ。

実際に脂肪の付き具合の良い牛タンでもタン先は硬くて焼いて食べるには向かない。

特に牧草で育てた牛肉は、まったく脂肪がなくタン先どころか、タン全体が赤身肉で硬い。

そこで、ほとんどがひき肉にすることで、ハンバーグの増量剤などに利用されている。

この牛タンにも同じように、牛脂をインジェクションしたら美味しく食べられるのではないかと思い、テストをしてみたのだが、サーロイン同じように、赤身肉が軟らかく美味しく食べられるようになった。

下の写真が原料の牛タンだが、硬い皮つきのままだ。


このままではインジェクターの針が刺さらないので皮をカットしたのが下の写真だ。


製造方法はサーロインのインジェクションとまったく同じで、牛脂と水を乳化し、また、酵母や酵素を加えて牛タンにインジェクション(注入)する。

下の写真は実際に出来上がった牛タンのインジェクションだが、肉全体に綺麗に「サシ」が入っている。


そして、この牛タンの大きな特徴は、本来硬くて食べられなかった「タン先」まで、軟らかく食べられることだ。

工場では出来上がった商品を必ず毎回、自分で試食をしているが、今回の牛タンは「しゃぶしゃぶ」にして食べてみた。

肉は軟らかく適度に脂肪があり、あの赤身肉が原料とはまったく思えない素晴らしい出来上がりとなった。

インジェクションとしう加工法には、これからも大きな可能性があると思う。

たとえば、牛肉以外に豚肉のモモ肉(赤身肉)ラードをインジェクションすれば、トンカツにも利用できるだろう。

また、「どんぐりの香りのオイル」を一緒にインジェクションすれば、「イベリコ豚」のようになるだろうし、各種のハーブオイルを一緒にインジェクションすれば「ハーブ豚」になるだろう。

ただし、作る側は正確な「情報開示」をして、また、食べる側も、インジェクションミートだと理解した上で食べれば、インジェクションミートは加工法というより肉の調理法として食を楽しくしてくれると思う。


インジェクションビーフ(霜降り加工肉)はどのように作るのか(5)

2011年07月19日 | 食品加工
「インジェクションミート」についてずいぶん長々と話をしてきたが、原理はいたって簡単だ。

水と牛脂(ヘット)を乳化剤を使って混ぜ合わせて、ピックルインジェクターという大きな注射針が60本~100本付いている機械で、で肉の塊に注入(注射)するだけだ。


この針だが、通常の注射針とは違い、液体は針の先端から真っすぐに出るのではなく注射針の針先の横に穴が開いていていて、その穴から水平に液体が出るようになっている。

それは、肉に針を刺すときに肉が針の中に入って針の目詰まりを起こさないようにする為と、横に穴が開いているので筋肉組織に沿ってくまなく脂を拡散させ注入するための構造だ。

また、60本~100本の針を一度に肉の塊に刺すことで「ジャガード」と同じく肉を軟らかくする効果が得られる。

「ジャガード」とは、たくさんの針(刃)を一度に肉の塊に刺すことで肉の筋繊維や組織を槌で打つようにたたき切ることにより肉を柔らかくする方法だが、特に西洋料理店やトンカツ店などで広く利用されている。

「インジェクションビーフ」では、さらに、筋肉の隙間にまんべんなく油が浸透することで、硬くて旨味もなかった赤身肉が、美味しい脂ののった「霜降り肉」になる。

そして、更に肉を軟らかくする為に柔軟剤も使用するが、これも「酵母」や「酵素」や「有機酸」で、天然素材から作られている。

よく家庭で豚肉の料理を作る時に、あらかじめ豚肉をパイナップルジュースに漬けこんで肉を軟らかくするが、これはパイナップルの「パパイン酵素」の働きだ。また、ベルギーでは「牛肉のビール煮」という硬い牛肉をビールで煮る料理があるが、ビール酵母が肉を軟らかくしてくれる。

それと、「インジェクションビーフ」は、水と牛脂(ヘット)を乳化させる為に「乳化剤」を使用するが、もともと水と油(脂)が混ざり合うことはないので、乳化を助けてくれる物が必要だ。

マヨネーズというのは、水と油、そして卵から作られるが、卵黄に含まれるレシチンが油を小さな粒子に変え、酢の中に分散させる働きをしているからで、これを乳化作用(エマルジョン)という。

「インジェクションビーフ」の水と牛脂を乳化させる為に使用する「乳化剤」も、レシチン等の天然素材から作られている。

このように「インジェクションビーフ」とは牛脂、水、それと天然素材から作られた「乳化剤」や「柔軟剤」を使用して、草を食べて育った(赤身肉なの商品価値は低いが)健康な牛に脂(へット)を注入し、誰もが美味しい霜降り肉を食べられるようにする画期的な食品加工方法なのだ。

ちなみに、自分は国産黒毛和牛の高級霜降牛はあまり食べないようにしている。

1㎏の肉を作る為に10㎏もの穀物を食べるということも感心できないが、それより、体脂肪50%以上などという動物は本当に健康なのかが不思議である。人間なら仮に生きていても超メタボで心臓疾患の他、糖尿病など多くの病気を抱えているだろう。

また、高級霜降り牛を作る為には、いっさい草は食べさせないという。

それは草に含まれる「ビタミンA」を牛が摂ると肉が痩せてしまうからだという。

その結果、多くの牛が「ビタミンA」不足の為に失明するという。

草の中には多くのビタミン、ミネラルが含まれているので、草を食べて牧場を走り廻った牛は健康だが、カロリーの高い穀物ばかりを食べさせ、ビタミンを与えず、病気にならないようよう、より多く太らせる為に抗生物質やホルモン剤を注射され、狭い場所でろくに運動もさせずに育った牛が健康とはとても考えられない。

「インジェクションミート」に付いては賛否両論あるとは思うが、今回、あえてその話をしたのは、マスコミの情報から善悪を決めるのだけはなく、正確に「インジェクションビーフ」を知ってもらいたかったからだ。

最後に加工の写真をいくつか紹介しよう。


インジェクション前


インジェクション後


脂の抽出(上澄みの綺麗な油だけを使用する)

どうか、「インジェクションビーフ」についての理解を願いたい。

尚、次回は「牛タン」のインジェクションに付いて話をしよう。








インジェクションビーフ(霜降り加工肉)はどのように作るのか(4)

2011年07月18日 | 食品加工
美味しくて、安心、安全な食品を作ることを心がけて食品加工を行ってきたが、「インジェクションビーフ」を作るにあたり最も気をつけなければならないのが牛肉(原料)と注入するピックル液(水と油脂を乳化させた液体)の温度管理だ。

牛というのは人間よりも体温が高く38℃~39.5℃で、牛脂の融点(固体が融解し液体化する温度)は40℃~45℃だ。

よく、友達連中と「焼肉」を食べに行ったりすると、『牛肉を食べる時は牛の体温は人より高い42℃~45℃なので牛脂は人の体温では溶けずに、皮下脂肪に蓄積したり、血がドロドロになって脳梗塞や心筋梗塞の原因になるからあまり食べない方が良い』ということを言い出す人がいないだろうか?こういう「都市伝説」は、あちこちで耳にする。

まず、体温が42℃にも上がったら牛でも死んでしまうだろうし、もし牛脂が人間の体温で溶けないのであれば、分解吸収もされないはずだ。

実際には、脂肪がそのまま体脂肪として蓄積されるのではなく、胃や腸で吸収され脂肪酸に分解されリンパ管を通り肝臓で中性脂肪に合成されて血液中に送りだされる。そして、エネルギーとして使われなかった中性脂肪は体のさまざまな細胞で蓄えられる。
確かに、脂の多い牛肉を食べると肥満の原因となり、肥満が原因で脳梗塞や心筋梗塞のリスクも上がってしまうだろう。ただし、1日に1㎏や2㎏も肉を食べることは考えられないので、肉だけが原因ではなく、たとえば肉をまったく食べなくても甘いお菓子や、フルーツ、それにアルコールを摂り続ければ同じことだ。

さて、また話が横道にそれてしまったが、牛脂の融点が40℃~45℃であるから、ピックル液は40℃以下になると固体となってしまい、肉の繊維に分散することもできないし、また、ピックルインジェクターの針も目詰まりしてしまう。

肉へのダメージも考えると45℃~50℃の温度帯をどのようにキープしてインジェクションするかがとても大切だ。

そして、この45℃~50℃という温度帯で「ウェルシュ菌」など細菌の増殖をいかに防ぐかがだ。

「ウェルシュ菌」の最適増殖温度は「43℃~49℃」と、インジェクションするピックル液と同じ温度帯だ。

また「ウェルシュ菌」には芽胞菌という熱に強いものがあり、100℃以上に加熱しても死滅しないものもある。

一度に大量の食事を調理する給食施設などの「カレーやシチュー」が原因でたびたび集団食中毒が発生することがあり、この「ウェルシュ菌」には“給食病”の異名もある。

大きな鍋で一度に大量の食事を調理した場合には、加熱後に鍋を放置すると外側は直ぐに冷めるが、中心の方はなかなか冷めない。「ウェルシュ菌」の最適増殖温度は「43℃~49℃」で空気の無い状態でより増殖を続け、鍋がゆっくり冷める時が絶好の条件となる。
そして、増殖した菌が体内に入ると腸内で多くの毒素を作り、腹痛、下痢といった症状があらわれる。

100℃、1時間加熱でも死滅せず、また、最適増殖温度は「43℃~49℃」といったこの「ウェルシュ菌」のような細菌もあるが、通常は、ステーキ等を食べる時には、中心まで火が通るように両面を十分に焼いてから食べればほとんど問題はない。

しかし、日本人は「レアー」や「ミディアムレアー」といったように、牛肉を生に近い状態を好んで食べるという習慣もあり、必ず十分に加熱して食べてくれるという保証もない。

これまで、生食用の食品(刺身マグロ、刺身イカ、刺身サーモン)等、今まで多くの水産加工品を手掛けてきたが、水洗い塩素系の消毒液を薄また水溶液にて殺菌をする等の方法がある。
(スイミングプールの水の消毒にも塩素系の消毒液は広く使われている)

そして、このインジェクションビーフの場合も、同じように肉の表面の徹底的な水洗いと殺菌を行っている。

また、大腸菌の場合には動物の大腸でしか生息しないので、肉の内部には発生しない。

だから、一番危ないのが人の手だ。トイレの後に大腸菌が付着することもあるだろう。

工場では加工スタッフが工場に入る前に何度も手洗いをし消毒をして使い捨ての手術用の手袋を着用し、肉に触れる場合には更に消毒を義務づけてある。

そして、ピックルインジェクター等の機械も、洗浄のあと、熱湯(100℃)にて殺菌を行っている。

下は熱を沸かす機械だが、大量の熱湯を使って殺菌ができるようにいつでも準備してある。


さて、ピックル液の温度(45℃~50℃)の問題だが、仮に万が一、「ウイルシュ菌」のような細菌が紛れ込んでしまったとしても、菌数を増やさないことだ。

菌やカビ等は天然界にはどこにも存在する。試しに手の平の細菌をチェックするとしよう。

誰の手であっても、何種類もの細菌がすぐに検出される。

一番大切なのは工場内に菌を入れないこと、また、菌を増やさないことだ。

原料となる牛肉は、肉の中心温度を5℃以下になるように冷蔵庫で保存し、45℃~50℃でピックル液を注入した後、ビニール袋に入れ90分以内に肉の中心温度が3℃以下になるように氷水の中で十分に冷やしている。
(こうすることで、菌の繁殖はほとんど進まない)

そして、これまで、毎回、加工後に肉の細菌検査をしているが、結果はすべて「陰性」となっている。

日本でこれまでに加工肉で「O-157」等による食中毒が幾例か発生しているようだが、まな板や包丁、そして使用する機械の消毒、加工スタッフの手洗いは十分だったのだろうか疑問だ。

どんな食品を加工するにあたっても、これが守られない限り事故は続いてしまうだろう。

さて、続きは明日にしよう。






 





インジェクションビーフ(霜降り加工肉)はどのように作るのか(3)

2011年07月17日 | 食品加工
これまで、ずいぶんと長い年月を料理を作ることと、食品加工の技術者として歩んできたが、食品加工を始めたきっかけは10年以上も住んでいたヨーロッパから日本に帰国し、日本でマグロの商社勤めが始まってからだ。

マグロの商社というのは横のつながりがもの凄く狭い社会で、同業他者との集まりの時もいつも同じ顔ぶれだ。

もう、30歳を過ぎての入社だったが、このまま、この狭い社会で生きてていいのかと疑問を感じ「開発課」を立ち上げ、前にも話したと思うが「マグロのレストランの経営」や「マグロの通信販売」そして「大手外食チェーンへのマグロの直売」を始めたが、この中で一番大きな売上と利益をたたき出してくれたのが「大手外食チェーンへのマグロの直売」だった。

当時、マグロはとても複雑な流通経路で、一次問屋、二次問屋を通してから市場に運ばれ、そこからお客さんのところに渡ったりしていて、当然、幾つもの問屋を通るので、末端に行く頃にはかなり割高になってしまっていた。

そこで、自分たちの工場でマグロを加工して、直接、外食産業に売ってはどうか?と考えた。

幸い、自分が勤めていたマグロ商社は「清水の次郎長」でも知られる静岡県の清水にマグロの加工工場を2つも持っていた。

しかし、このアイデアは実現にこぎ付けるまでに紆余曲折を経ることになる。

まずは、既存の販売ルートに乗せないと「現金回収」が難しいのでないかという話しが出た。

マグロのような高価な商品は、問屋に販売すれば5日以内に販売代金が振り込まれる。

ただし、当時の大手外食チェーンの支払いサイトは、月末〆の翌翌月末という支払いが普通だった。

たとえば1月1日に販売したマグロの代金が振り込まれるのは、3月31日で最長90日後ということになる。

また、外食チェーンレストランは北海道から沖縄まで日本中にあり、各店に毎日、1㎏や2㎏といったごく少量を配達しなければならない。

そして最大の問題が「超低温」物流だった。

マグロの変色を防ぐ為には、最低-45℃(できれば-60℃)の温度帯で運ばなければならない。

これらの問題を解決する為に、毎日、毎日、走り廻ることになった。

まず、支払いサイトの問題だが、外食チェーンレストランの本部に何度も通い交渉を続けた。

マグロの売り買いというは「一船買い」でも通常は5日以内に現金払いとの決まりがある。高価なマグロを積んで帰港した船の場合には、3億円や4億円という金額を5日以内にマグロ船の船主に支払わなければならない。

そういうマグロ業界のことをねばり強く説明して、やっと支払いサイトを月末〆の翌15日にしてもらった。
これなら、たとえば1月1日に販売したマグロの代金は2月15日に振り込まれるので、最長45日ということになる。

そして、もう一つの問題、「超低温」物流だが、日本全国にある「超低温冷凍庫」を調べて、一つずつ電話を掛けて荷を預かってもらう交渉をした。

同業者で、なかなか返事をくれない四国の「超低温冷凍庫」などへは、直接、足を運びお願いをした。

そして、日本全国への「超低温物流」ネットワークを完成することができた。

まず、自分達のマグロ工場の超低温冷凍庫から、-196℃の液体窒素ボンベを積んだマグロ専用のトラックでそれぞれの地区の超低温冷凍庫にマグロを運ぶ。

そして、そこを拠点として外食チェーンの各店舗にマグロを運ぶ。その時には通常の-18℃の温度帯だが、店では2日間程しか在庫として持たないので変色の心配もない。

そして、外食チェーンへのマグロの直売が始まったのだが、特に「ビントロ」は人気商品となり、回転寿司チェーンでも採用されることにより、この「ビントロ」だけでも年間10億円を超える売り上げの商品となった。

マグロの外食チェーンへの販売が順調になり、大手居酒屋チェーンや、ファミレスの商品開発部の人達との横のつながりは深まっていったのだが、その時は「マグロ」という商品しかないので、そのうちに皆が会ってくれなくなってきた。
マグロは定番でメニューに入っているので、『マグロ以外の話しなら会うよ』ということだ。
外食チェーンレストランの本部には、自分の会社の商品を売り込む為に、毎日、多くの来客があり、商品開発部の連中も忙しいのだ。

そこで、マグロ以外の商品を探していた頃、塩釜に居る友人が「宮城漁連」に連れて行ってくれた。

当時、宮城漁連では「伊達の銀」という銀鮭の販売に力を入れていて、せっかく宮城漁連まで遠でをしたものの、その鮭の話しばかりでガッカリした。
「伊達の銀」のその当時の価格では、輸入物の養殖の鮭にはとてもかなわないからだ。

ただ、宮城漁連では大きな収穫があった。それは、『来週、八戸でイカの入札があるが、ムラサキイカの軟骨を10ケース持ち帰るので使ってみてくれないか?』という話しだった。

あまり興味はなかったが無料(タダ)で送ってくれるというので、東京の「はな家」新橋店(当時、自分が責任者として経営していた店)に送ってもらうことにした。

そうして東京に戻った数日後、その「ムラサキイカの軟骨」が店に届いた。

早速、箱を開けてみると、ちょうど野球のボールのような大きなイカの軟骨が10個程入っていた。

生で食べてみたのだが、とても硬くて食べられない。そこで、バター焼きにしてみたら肉も軟らかくなり、なかなか行けるではないか。

それから、フライや、唐揚げにしてみたら、これはビールのつまみに最高だと思った。

そして、直ぐに宮城漁連に連絡して、集められるだけこの軟骨を集めて欲しいと伝えた。

何度か試作と試食を重ね、結局、「イカ軟骨の唐揚げ」という、イカ軟骨を軽くブランチング(ボイル)して、唐揚げ粉を付けた商品を居酒屋チェーンの商品開発部に持って行くことにした。

ビールのつまみになるように、味付けはスパイシーにして商品の仕上がりもよかった。

居酒屋チェーンの商品開発部の連中は、またマグロの話しかと思ったらしく、ずいぶんと待たされたが2時間位待ってやっと商品説明の時間を貰えることになった。

結果から話しをするが、この商品は直ぐに季節メニュー(年に4回取り替え)に取り上げられ、月間に30トン以上の商品を約3か月に渡って納品した。

とてもラッキーだったのは、当時、「ムラサキイカの軟骨」を原料としていたのは自分だけの「オンリーワン商品」だったので、原料の仕入価格も100円/㎏以下で、居酒屋チェーンにとっても、こちらにとっても利益がたくさん出る商品となったことだ。

商品開発の楽しさを知ったことで、次々といろいろな商品を大手外食チェーンに提案していった。

同じムラサキイカの原料を使用した「イカ軟骨の松前漬け風」は、するめイカの代わりに「イカ軟骨のボイル」を使用し、価格の高い昆布の代わりに「メカブ」を使用し、これにニンジンと調味料を一緒に和えて「お通し」に提案したところ、周年使用される商品になり、これも毎月30トン以上を納品することができた。

また商品開発を通じて知り合った「製品製造委託工場」の人達や物流会社の人達との横のつながりも増えていった。

もし、あのままマグロだけを扱っていたら、未だにあの狭い社会の中に居ただろう。

そんなある時、たまたま「巻き網」で漁獲されたキハダマグロの商品が6品も一度に季節メニューに採用されることに決まった。

「巻き網」漁法とは大きな網でマグロを一網打尽で獲る方法だが、マグロどうしがぶつかって擦れ合ったり、マグロが死ぬ前に体温が上昇する為におこる「身焼け」(上昇した体温でマグロ自身の肉を加熱してしまう)の為に鮮度は良いものの、色が悪いマグロが混じってしまう。

そこで、6品のうち3品を生食用に、残りの3品を加熱調理用にて、「マグロフェアー」として提案したところ、6品全部が採用されるという連絡をもらった。季節メニューに1品でも採用されたら幸運なのに、一度に6品も採用されることが決まったので、「製品製造委託工場」の連中や同じく商品開発をやっている連中が集まり「お祝いの会」をすることになって、ある居酒屋に集まった。

皆の興味は「商品開発」であるから、その居酒屋のメニューを見て、そして商品を注文して、その商品の味付けや加工方法、商品のネーミングの話まで話がつきることはなかった。

そして、そろそろ夜が更けても商品開発の話が続いたので、毎月、月に一度どこかの居酒屋に集まり「居酒屋メニューの勉強会」をやろうという話がまとまった。

そして、その時集まった7人のメンバーのうち、自分を含め6名が偶然にも「いのしし年」生まれだったので、その会の名前は「いのししの会」となり、毎月の勉強会のたびにメンバーが増え続き3年後には450社を超える規模の主に食品関係の会社の人達の交流会と発展していった。(もちろん、いのしし年生まれ以外の人の参加もOK)

その「いのししの会」は後に正式に会長を選出して、自分は事務局長として会のバックアップをしていたが、日本でBSE(狂牛病)が最初に発生した時には厚生省のBSE担当者を講師としてお呼びしたり、会で発行した正式な招聘状を当時、中国で最大手の食品工場に送り副社長を日本に呼んで、中国の食品業界の話をしてもらったこともある。(今では大手の会社の役員なら日本に来るのは難しくないだろうが、当時正式な招聘状がないと中国人が日本に来ることはできなった)

その後、いろいろな商品の商品開発に携わってきたが、今でも信念にしていることは「美味しくて、安心、安全」な商品を作ることだ。

「大手居酒屋チェーン」の商品開発でも、ほとんどの商品に「保存料」は使用しなかったし、アミノ酸系(うま味調味料)も極力使用しないようにした。

それは、自分の師(メンター)となってくれた西森章一先生の商品開発の哲学から学んだことが多い。

西森先生は日本で「マーボー豆腐」の素を最初に開発された方だが、その後、数々のヒット商品を生み出してきた。日本で長年売れている商品の数多くは先生が手掛けたものだ。

なぜ、そんな商品を作れるのか不思議だが、先生の書かれたレシピ(スペック)をある時に見せてもらい、その理由が分かったような気がした。それは、たとえば粘度を出す為に使用する「増粘剤等」も一番良い物の使用しているのだ。

必要の無い添加物は使用しないので、どの添加物を何の目的に使用しているのかが一目瞭然だ。

よく、一般消費者で、特に生協活動をされているお母さん方などで、「添加物」という言葉を聞いただけで、アレルギー反応を起こし、あげくの果てに「パン」に使用されているイーストも添加物だから天然酵母のパンしか食べない等と言う人もいるが、イーストは酵母を乾燥して休眠させているものだと言っても信じてくれるだろうか。

また、そういうお母さんが熱々のご飯で「おにぎり」を作って、子供が遠足に持って行って、長時間炎天下の中を歩き回ってお昼に「おにぎり」を食べ、お腹が痛くなって食中毒になってしまったら遠足どころではなくなってしまうだろう。

ちゃんとした知識を持たずに添加物を語るのは本当に危険だと思う。

遠足に持って行かせる時には「おにぎり」を作る時に素手でおにぎりをにぎらず、サランラップを使ったりして菌をつけないようにしたり、弁当箱には保冷剤を入れたりすれば菌の繁殖を抑えることもできるだろう。

日本という雨が多くて湿気が多い「カビ」「細菌」が繁殖しやすい国には「制菌剤」や「防腐剤」等の添加物を使用しなかった食品の方が健康に悪い場合も多い。

多くの人が利用するコンビ二の「おにぎり」や「弁当」にも多量の「制菌剤」が使われいるがコンビニの「おにぎり」で集団食中毒ということは聞いたことがない。

結局は何の目的で何の添加物を使用するのか作る側が正確な情報開示をし、また、食べる側の消費者も食品に対する正しい知識を増やすことが必要なのだと思う。

さて、今回も「インジェクションビーフ」の製造まで話が進まなかったが、「インジェクションミート」にも、「乳化剤」「乳化補助剤」「肉を軟らかくする柔軟剤」を使用している。

そして、それぞれに、使用する意味があるということを先に言っておきたい。

「美味しくて、安心、安全」な商品を作る為に。

尚、下の資料は当時のイノシシの会の定例会の案内となるが、2枚程貼り付けておこう。

中国での食品加工についての勉強会(第3回目)


オーガニックについての勉強会(この日はいのししの会の忘年会も兼ねていた)















インジェクションビーフ(霜降り加工肉)はどのように作るのか(2)

2011年07月16日 | 食品加工
前回は「ガストロ」の話しになってしまったが、今回は「インジェクションミート」に話しを戻そう。

以前から「水産加工」ばかりやってきた自分が、なぜ「インジェクションミート」を作ることになったのか。

それはある日、昔からの知り合いの中国人社長が、オーストラリアから中国へ牛肉を輸入したいという相談を受けたことから始まる。

彼も、これからは中国では「牛肉の消費が伸びる」と考えていたのだ。

ある日、彼がやってきて『牛肉のどの部位を持ってきたら良いか? グラスか、又ははグレインどちらが良か?』と尋ねてきた。

彼にとっては我々の経営している何軒もの日本料理店は牛肉の売り先でもある訳だ。

ここで、少しオーストラリアの牛肉について説明しよう。

オーストラリアの牛肉を別名「オージービーフ」と呼ぶが、この方が親しいような感じを受ける人も多いと思う。

スーパーなどでは「オージービーフ」として売っている場合が多いからだ。

もともと、オーストラリアは広大な敷地で牛を放牧し、牧草を餌として食べさす(グラスフェッド)という牛肉を生産していた。草ばかり食べているので肉質は赤身が多くて硬い。

当然、ステーキには向かず、カレーやシチュー、又はひき肉にしてハンバーグの原料となる。
(ちなみに日本のマクドナルドのビーフパテの原料の多くは、オーストラリア産だ。)

近年になり、日本の大手ハムソーメーカーや現地の精肉会社がオーストラリア政府の協力も仰ぎ、日本向けに脂肪分の多い霜降り牛を生産するようになった。

従来のように草を餌にしたのでは霜降り肉にならないので、トウモロコシ、大豆、麦などの穀物を餌として食べさす(グレインフェッド)という牛肉で、現在、日本のスーパーで販売されているオージービーフのほとんどがグレインフェッドとなっている。

さて穀物を餌として食べさすグレインフェッドは穀物肥育の日数によってショートグレイン、ミドルグレイン、ロンググレインと三段階に区別されている。ショートグレインは、牧草を食べさせて肥育したあと100~120日穀物肥育し、ミドルグレインは150~180日、ロンググレインは200日以上となる。

この日数の差によってサシ(脂の乗り)と柔らかさも違ってくる。

余談になるが、雄子牛のはほとんどが生後5~6ヵ月で去勢される。

これも肉の柔らかさや赤身の色に関係するらしい。

さて、また話しが長くなってしまったが、中国人社長の『牛肉のどの部位を持ってきたら良いか? グラスか、又ははグレインどちらが良か?』という相談に、うちの店で使用している牛肉の多くは、ステーキ用にサーロイン(西冷)と、すき焼やしゃぶしゃぶ用に肩ロース(眼肉)であること、また、脂の無い硬い肉は要らないので、必ずロンググレインを持ってきて欲しいと伝えた。

それから、3カ月位経ってから、オーストラリアから牛肉が10トン届いたので使ってみてくれと、サンプルとして3㎏程の牛肉が届いた。

そして、早速、肉を見て驚いた。

まったく脂の無い、真っ赤な肉色で焼いてみたら、案の定、硬くてどうしようもない。

そのことを直ぐに中国人社長に伝えると、購入したのは間違いなく「ロンググレイン」だと言う。

そういう訳で、その肉は彼が幾ら商売上手だといえ誰も買い手が見つからなく、また、オーストラリアに送り返すこともできないという。

まさか、中国人の上手を行く商売人がオーストラリアに居るとは思っていなかったが、その肉は結局、1年程、冷凍庫に入ったままとなってしまった。

そのまま、肉のことは忘れかけていた頃に、青島郊外のある食品加工工場から工場を見にきて欲しいとの依頼があった。

日本向けの「冷凍野菜工場」の指導の件だったが、その工場の敷地には「冷凍野野菜工場」以外にも幾つもの工場が建ち並んでいた。

総責任者にお願いし、それらの工場内を見せてもらえることになったのだが、その一つに牛をして精肉にする工場があった。

その工場内に置いてある肉を枝にカットする機械等はすべてアメリカ製で値段もはるものだろう。

しかし、もう1年以上も稼働してないという。

中国では最近は牛肉の消費が伸びて原料となる牛が足りないのだ。

しかし、この工場には以前加工した「赤身のモモ肉」の在庫がたくさんあり、それを何かに利用できないか?という話しがあった。

そこで、提案したのが「インジェクションミート」だった。

インジェクションミートの原料となる肉は、この工場の他にも10トンまるまるあるのだ。

その後、インジェクションミートの話しはトントン拍子で進み、毎月、青島に行くことなった。

さて、今日も「インジェクションミートの作り方」まで話しが進まなかったが、これから各店を廻らなければならないので、話しの続きは明日にしよう。


















インジェクションビーフ(霜降り加工肉)はどのように作るのか(1)

2011年07月15日 | 食品加工
前回に続き、今回は「インジェクションビーフ」の作り方について説明しようと思うが、その前にこのブログにコメントを送ってくれている方にお礼をしたいと思う。

コメントはとても嬉しいし、ブログをやっていて張り合いも出てくるものだ。

さて、「インジェクションビーフ」の話しに戻るが、この技術を知ったのは今から15年程前になる。

そして、牛肉ではなく魚に魚油を打ち込む(注入)する方法を模索していた時に、「インジェクションビーフ」なるものがあることを知った。

当時は日本のマグロ商社に就職が決まり、10年間住んでいたベルギーというヨーロッパの国から、日本のマグロ商社に入社し、その後はマグロやその他の魚に付いて勉強や研究をしていた。

もちろん、「DHA」(ドコサヘキサエン酸)の抽出の研究などもやった。

油脂の研究所を訪れ、「超臨界」状態で、マグロの魚油から良質の「DHA」を取り出すことにも成功したが、コスト的にはかなり厳しい結果となった。

そんな研究をしていた頃、「ガストロ」という魚を初めて知った。

当時勤めていたマグロ商社は中堅だったが資金力があり、マグロ船の一船買いという、マグロ船が漁獲した荷をまるまる全部買う方法を取っていたが、別々に好きな魚を入札して買う従来の方法よりも船主も全部を一緒に買ってくれたほうが手っとり早いし、買う側にとっても安く買える場合もありメリットも大きい。

ある時、南半球で主に「インドマグロ」(南マグロとも言う)という高級マグロを狙って操業していたマグロ船が帰港した。

マグロ船は「はえ縄漁法」という、3000本以上の針にエサを付けたロープを、200㎞~250㎞も海に流して魚を釣る漁獲法でマグロを狙うが、お目当てのインドマグロは数十本しか針に掛らず、実際は雑物(ザツモノ)と呼ばれるインドマグロ以外の、サメやカジキ類ばかりが掛る。(はえ縄漁法に付いては別の機会に詳しく説明しよう。)

しかし、その船の場合には最悪だった。何と「ガストロ」という二束三文の魚を山ほど積んで帰ってきたからだ。

下がガストロという魚だ

ガストロという名前はちょっと変わった名前だが、遠洋漁業でこの魚が獲れ始めた1960年代のキューバのカストロ議長に顔が似てからとか、gastronomique(ガストロノミック)というフランス語で「ごちそう」という意味が込められているとも言われている。

ただし、この魚の欠点としては、冷たい海で漁獲されるので皮下には3ミリ~5ミリも油がバッチリ乗っているのに、身(肉)にほとんど油が無くて、パサパサしていることだ。
料理時には火が付いて燃えてしまうことから、皮下の油は料理前にほとんどを取り除いてしまうので、どんな料理にしても美味しくない。

美味しくないから、当然、価格も安い。

当時、インドマグロが3000円/㎏以上の価格で取引されていたが、このガストロという魚は150円/㎏しか値が付かなかったのだ。

その魚の身(肉)に、皮下にたっぷりある油を溶かし、注入(インジェクション)できないか?

それから、インジェクション技術にのめり込んで行った。

ただし、肉と魚とでは肉の繊維が違うので、肉では針数が60~100あれば肉の繊維にそって油が分散するもの、魚は繊維にそって分散しない為にインジェクターも針数の多い機械を使用する。

このインジェクターは鮭用の「塩水注射用」だが、打ち込みも圧力も大きく魚にはピッタリのインジェクターだ。
(写真はガストロではなく鮭)

ガストロの身にガストロの油を打ち込む研究は何度も何度も行ったが、水分の多い魚肉に油を打ち込む(注入)することはとても難しく、乳タンパクを油に混ぜ「乳化」させた後にインジェクションしたりしたが、なかなかうまく行かなかった。

特に「フライ」等、揚げ物にした場合には、ちょうど茹で卵のヒビのところから白身が抜けだすように、油が身が抜け出してしまう。

そこで、試しに使ってみたのが「寒天」だ。

そして、これは非常にうまく行った。魚の繊維内に油を抱き込み、外へ出さないばかりか、加熱温度が高くなるほどゲル化の強度も強くなる。

このようにして、ガストロの身(肉)へのガストロの油のインジェクションは大成功した。

ただし、その頃にはガストロの原料価格が150円/㎏から、350円/㎏~400円になってしまっていた。

これに加工料その他、工場経費を加えると、600円~700円/㎏になってしまう。

結局、ガストロのインジェクションの製品化にはならなかったが、この研究は将来、必ず役に立つ日もあるだろう。

魚は冬は油(脂)が乗り美味しいが、同じ魚でも夏場に漁獲された物は油(脂)か少なく、二束三文となる。

これらの魚に良質のサラダ油等をインジェクションして、学校給食で使用するなど用途はたくさんあるだろう。

さて、牛肉のインジェクションの話しだが、今日は話しが長くなってしまったので明日にしよう。






インジェクションビーフ(霜降り加工肉)について考えてみる

2011年07月14日 | 食品加工
昨夜、青島から3日ぶりに上海に戻ってきた。

青島へは「インジェクションビーフ」(霜降り加工肉)を作りに行ったのだが、工場は青島郊外にあって、食品加工の工場では規模は大きい方だろう。
もう、この食品加工工場にはまる2年程、毎月のように指導に行っている。

まず、「インジェクションビーフ」を知らない人の為に少し説明をしようと思う。

「インジェクションビーフ」とは、主に脂が無くて硬い赤身肉に脂を注入(インジェクション)し、サシを入れた牛肉でのことで、ブロック状の牛肉に巨大な注射針が60本から100本付いた「ピックルインジェクター」という機械を使用して牛脂を注入(注射)する。

ただ、牛脂は常温では固体なので、そのままで肉に注入するには、機械への負担も大きいので、牛脂を溶かし水と一緒に混ぜて「ピックル液」を作り肉に注入して冷凍すると、水は肉に吸収され脂が綺麗にサシとなって残る。

下の写真が注入前の牛肉の写真と、注入後の写真だ。

注入前の牛肉(青島牛のサーロイン)


注入後の牛肉(同じく青島牛のサーロイン)空気に触れて赤く発色している。

もう一枚、下の写真は脂をたくさん注入した牛肉だ。

青島牛のサーロインに脂を40%程注入し、A5クラスのサシになっている。

さて、今回は、このインジェクションビーフについて、賛否両論があるので、それを取り上げてみたいと思う。

実際、この仕事を引き受けた自分自身も、2年程前には「インジェクションビーフ」に付いては否定的だった。

それは、当時、日本の大手ステーキチェーンが、オーストラリア産サーロインに牛脂を注入した霜降り加工肉を「霜降りサーロインステーキ」と表示して販売して行政指導を受けたり、また「O-157」による食中毒も発生していたからだ。

今でも多くの消費者が「インジェクションビーフ」には否定的だと思うが、だが、実際にはファミリーレストランで食べている多くの「ビーフステーキ」はこの「インジェクションビーフ」だろう。
何しろ日本ではこの「インジェクションビーフ」が年間8000トン以上も生産され、その販売先の多くはファミレスや安いステーキレストランだ。

最近では表示に対してうるさいので、メニューの写真の下の方に「日本の技術を取り入れ精製を施し、安定した霜降りと味を高めた霜降り加工肉です。」などと書いてあったら100%「インジェクションビーフ」で間違いないだろう。

また、一人前500円以下のステーキの場合にはほとんどが、屑肉を接着した「結着肉」と呼ばれるものだ。安いサイコロステーキ等も同じで、原料にどんな肉が使われているのか分からない物が多く、また、接着する為の薬品に付いても有害なものが多いので食べない方がよいだろう。

この「インジェクションビーフ」だが、今から約35年以上も前に既に製品化されていたようだ。

そして、その技術は「ハム、ソーセージ」の加工技術が元になっているようだ。

本来、「ハム」とは豚のもも肉に味をつけて塩漬してから薫製して造る物だが、これを安く作る為に、植物性蛋白、澱粉、水などを多量にモモ肉に注射してプレスハムという本物のハムとは別物のハムが生まれた。
そして、日本ではサンドイッチ等には、ほとんどこのプレスハムが使用されている。

もし、ドイツやスペインやイタリア等を旅行して本物のハムを食べたことがある人なら分かるはずだ。

マーガリンにしても同じで、高価なバターの代用品として1869年にマーガリンの原型が生まれた。

それは、ドイツとの戦争でフランスでバターが不足したため、皇帝ナポレオン三世がバターの代用品を募集した。
これを受けて化学者メージュ・ムーリエ・イポリットが、牛脂に牛乳を混ぜたものを提案して採用された。

これの名前には「真珠のように美しい油の固まり」という思いを込めて、オレオマーガリンと名付けられたそうだ。
オレオoleoはオイルoil、マーガリンmargarineは真珠を意味するギリシア語margariteに由来するとのことだ。

そして、1912年 日本では、マーガリンの輸入量が増えてきた為に、山口八十八が国産化に着手。 価格の安さと使いやすさが人気を呼び、またたく間に一般家庭に広まった。

しかし、現在、そのマーガリンのトランス脂肪酸やその他の有害物による健康への害が問題視されているが、その事を知っている一般消費者が日本にはどれ位いるだろう。

マーガリンには価格の安い油を使用するので、老化、酸化しやすく日持ちが悪い。

そこで日持ちを良くする為にマーガリンやショートニングなどには水素を添加するが、それよって発生したトランス脂肪酸やその他の有害物が心臓病やガンの原因になっていることは多くの研究にて既に明らかになっている。

天ぷら油が老化すると飲食店では廃棄するが、実は日本で販売されているマーガリン30種類をカナダのSGS研究所が分析したところ、使い古しの天麩羅油よりトランス脂肪酸が10倍以上も多いと報告されている。
 
さて、話しがそれてしまったので「インジェクションビーフ」に戻るが、自分で作ってみて、これは、地球の限られた資源という観点から見ると、とても有効なことではないかと思うようになった。

それは、世界で生産されているトウモロコシなどの穀物の四分の一は、豊かな国の牛のエサになっているっていうことだ。

現在の世界人口は、約62億人だが、そのうちの8億人強の人たちが、今、この瞬間にも飢えで苦しんでいるのに、穀物の四分の一が牛のエサになっているという現実がある。

たとえば、脂の多い軟らかい牛肉を1キロ作るのに必要なトウモロコシの量は8キロだそうだ。牛を1キロ太らせるのに、餌にはその8倍の穀物が必要になり、高級和牛の場合には10キロのトウモロコシが必要になるという。

今の中国では、牛肉より豚肉の消費が多いが、しかし、日本も戦前は牛肉より豚肉の消費の方が多かったそうだ。
しかし、今の中国の牛肉の消費量を見ていると、必ず日本と同じように牛肉の消費が伸びてくるだろう。

13億人の中国人が牛肉を食べ出したとしたら?

アメリカ人や欧米人は、鶏は胸肉、牛肉は赤身肉を好むが、日本と同じように、赤身肉より脂肉の方が好きな中国人が脂の多い軟らかい肉を食べ出したら、いったいどの位の穀物が必要になるのだろうか。

「インジェクションビーフ」なら、草を食べさせて育てた牛に、脂を注射(注入)すれば良い。硬い肉は天然の酵素や酵母を使用して軟らかくすることも可能だ。

そろそろ、地球の限られた資源を考え、この瞬間にも飢えで苦しんでいる8億人強の人たちがいることを認識しなければならない時ではないかと思う。

次回は美味しくて、安心、安全な「インジェクションビーフ」の作り方に付いて説明しよう。