マグロチャンピオンの料理道場

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インジェクションビーフ(霜降り加工肉)はどのように作るのか(5)

2011年07月19日 | 食品加工
「インジェクションミート」についてずいぶん長々と話をしてきたが、原理はいたって簡単だ。

水と牛脂(ヘット)を乳化剤を使って混ぜ合わせて、ピックルインジェクターという大きな注射針が60本~100本付いている機械で、で肉の塊に注入(注射)するだけだ。


この針だが、通常の注射針とは違い、液体は針の先端から真っすぐに出るのではなく注射針の針先の横に穴が開いていていて、その穴から水平に液体が出るようになっている。

それは、肉に針を刺すときに肉が針の中に入って針の目詰まりを起こさないようにする為と、横に穴が開いているので筋肉組織に沿ってくまなく脂を拡散させ注入するための構造だ。

また、60本~100本の針を一度に肉の塊に刺すことで「ジャガード」と同じく肉を軟らかくする効果が得られる。

「ジャガード」とは、たくさんの針(刃)を一度に肉の塊に刺すことで肉の筋繊維や組織を槌で打つようにたたき切ることにより肉を柔らかくする方法だが、特に西洋料理店やトンカツ店などで広く利用されている。

「インジェクションビーフ」では、さらに、筋肉の隙間にまんべんなく油が浸透することで、硬くて旨味もなかった赤身肉が、美味しい脂ののった「霜降り肉」になる。

そして、更に肉を軟らかくする為に柔軟剤も使用するが、これも「酵母」や「酵素」や「有機酸」で、天然素材から作られている。

よく家庭で豚肉の料理を作る時に、あらかじめ豚肉をパイナップルジュースに漬けこんで肉を軟らかくするが、これはパイナップルの「パパイン酵素」の働きだ。また、ベルギーでは「牛肉のビール煮」という硬い牛肉をビールで煮る料理があるが、ビール酵母が肉を軟らかくしてくれる。

それと、「インジェクションビーフ」は、水と牛脂(ヘット)を乳化させる為に「乳化剤」を使用するが、もともと水と油(脂)が混ざり合うことはないので、乳化を助けてくれる物が必要だ。

マヨネーズというのは、水と油、そして卵から作られるが、卵黄に含まれるレシチンが油を小さな粒子に変え、酢の中に分散させる働きをしているからで、これを乳化作用(エマルジョン)という。

「インジェクションビーフ」の水と牛脂を乳化させる為に使用する「乳化剤」も、レシチン等の天然素材から作られている。

このように「インジェクションビーフ」とは牛脂、水、それと天然素材から作られた「乳化剤」や「柔軟剤」を使用して、草を食べて育った(赤身肉なの商品価値は低いが)健康な牛に脂(へット)を注入し、誰もが美味しい霜降り肉を食べられるようにする画期的な食品加工方法なのだ。

ちなみに、自分は国産黒毛和牛の高級霜降牛はあまり食べないようにしている。

1㎏の肉を作る為に10㎏もの穀物を食べるということも感心できないが、それより、体脂肪50%以上などという動物は本当に健康なのかが不思議である。人間なら仮に生きていても超メタボで心臓疾患の他、糖尿病など多くの病気を抱えているだろう。

また、高級霜降り牛を作る為には、いっさい草は食べさせないという。

それは草に含まれる「ビタミンA」を牛が摂ると肉が痩せてしまうからだという。

その結果、多くの牛が「ビタミンA」不足の為に失明するという。

草の中には多くのビタミン、ミネラルが含まれているので、草を食べて牧場を走り廻った牛は健康だが、カロリーの高い穀物ばかりを食べさせ、ビタミンを与えず、病気にならないようよう、より多く太らせる為に抗生物質やホルモン剤を注射され、狭い場所でろくに運動もさせずに育った牛が健康とはとても考えられない。

「インジェクションミート」に付いては賛否両論あるとは思うが、今回、あえてその話をしたのは、マスコミの情報から善悪を決めるのだけはなく、正確に「インジェクションビーフ」を知ってもらいたかったからだ。

最後に加工の写真をいくつか紹介しよう。


インジェクション前


インジェクション後


脂の抽出(上澄みの綺麗な油だけを使用する)

どうか、「インジェクションビーフ」についての理解を願いたい。

尚、次回は「牛タン」のインジェクションに付いて話をしよう。








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1 コメント

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Unknown (かいと)
2022-04-04 03:13:33
自分で加工してみたくて調べてたらこの記事に出会いました。
良いとか悪いとかでは無くて、事実を一意見として述べてるとこにとても共感が持てたし勉強になりました。
ヴィーガンとかが動物かわいそうとか言ってるのはすごく嫌だけど、酷い事をしてるのも確かで、娯楽のための食事はやっぱり減らして、工夫出来ることはしていきたいなって思いました。
ありがとうございました。
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