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危険な関係

2005-02-27 23:26:24 | ダンス
全幕物のバレエでは、これまで見た中で、一番短かったです。全二幕の展開はとてもスピーディーで、上演時間は休憩時間とアンコールをいれても2時間少し。正味1時間40分ぐらいでしょうか。

バレエを見たというより、言葉のないお芝居をみた、というのがあたっているような舞台だったように思います。ここぞ、というところには踊りがはいり、見せてくれましたが、個々のテクニックを見せるものというより、あくまで物語を語るのが目的の振りというのがいいような。古典バレエのようにジャンプや回転、バランスや細かい足裁きなどのテクニックで感嘆させるというのではなく、AMP版白鳥のようなモダンともちがいます。長時間のリフトやからみの多いねっとりした振り付けでした。あれはあれで難しいと思いますが、ダンスを見るつもりでいけば、ちょっとものたりないかも。でも、物語から想像するように、あやしさのたちこめる振りでして、物語効果はなかなかのものでした。

全編オリジナルという音楽は、チェンバロ、ピアノなど鍵盤楽器、弦楽器、フルートが使われていて、オペラっぽいソプラノの声楽の歌もはいります。バラエティはありましたが、やはり18世紀を意識してありました。一部をのぞいて、シンセサイザーで処理してありました。おもしろかったのは、心理的なキューとなるところで、打楽器系の音がコン、コンとはいるところ。何で音を作っているのか私にはわかりませんでしたが。

幕が開くと同時に、ロウソクやたいまつを持った宮廷の人々が行きかいます。セットがなかなか豪華で、宮廷風というか、貴族の屋敷風につくってありました。衣装はかつら、ドレス、タイツに長い上着といういかにも18世紀のフランス貴族です。これでは踊りにくいのでは、と思えるような丈でちょっと重たげに見える素材の衣装でした。踊れるかどうかよりも、時代設定をちゃんと見せることを重視していたようなかんじにみえました。奥に窓があり、光や正面にいる人物を写しだすのです。どうも、マジックミラーみたいになっているという設定らしくて、メルトゥイユ侯爵夫人とヴァルモン(だと思います。まちがってるかも)が外からロウソクをもって行きかう人不倫や恋愛ゲームにひたっているらしき宮廷の人たちらしい)を眺めていました。紗幕もつかってあって、冒頭から怪しい雰囲気満載。



一転して、セシル親子が登場します。このあたりの話の展開は、原作を読むか、映画を見るかでもしていないとわかりにくいかもしれません。メルトゥイユ侯爵夫人は、かつての自分の恋人ジェルケール伯爵がセシルと婚約するという噂をきき、腹いせにヴァルモンにセシルを誘惑させようとします。セシルのヘレン・ディクソンはけっこう踊ります。ちっともじっとしていられなくてエネルギーをもてあましている女の子、といったかんじがでてました。一方、メルトゥイユとヴァルモンはなにやらたくらみをもっているのはわかるのですが、それほど踊りません。

舞台は変わって、明るい陽光を思わせる光とともにトゥールヴェル夫人が登場。信仰心が強く、貞淑な未亡人という設定ですので、黒い服に帽子をかぶっています。が、金髪(かつらだったのかもしれません)のサラ・ウィルドーのきれいなこと。他のどの女性陣と比べても群をぬいてました。これはプレイボーイなら誘惑してみたくなるだろう、と、でてくるだけで納得。そして、トゥールヴェル夫人がでてくると、ここまでは比較的おとなしかったヴァルモンが、一挙に危険なにおいをただよわせながら、生き生きしはじめるのです。シルエットそのものはそれまでの幕できていたのと同じなのですが、上着とタイツ(というかズボンというか)が皮でできてまして、APM版のプレイボーイ黒鳥をちょっと思わせるところがありました。知能犯な分、たちがわるいです。逃れようとする夫人を先回りし、動きをとめるところなど、宮廷一の危険なプレイボーイとはかくあらんというかんじ。このあたりで、アダム・クーパーは相当おどってくれます。上着を翻らせて進むシェネなどもみせてくれます。たしかここで、この公演ではめずらしかった回転技もありました。踊りは偉大だ、と思ったのは、踊りのほうが、夫人を虎視眈々とねらうヴァルモン、拒みながらもどこかで惹かれている夫人の関係がでていたこと。セリフで説明しづらい部分なのでは。

一方、セシルはピアノ教師のダンスニーと惹かれあいます。チェンバロを囲んだ二人の踊りがありまして、なかなかきれいでした。ヴァルモンやメルトゥイユ侯爵夫人はまたもやたくらみをこらし、ダンスニーにセシルを誘惑させようと、二人を密会させます。ところが純愛をはぐくむ二人はたくらみの通りには動きません。

ここからおそらくこの舞台のハイライトになるシーンがはじまります。トゥールヴェル夫人に拒否され、いらいらしているヴァルモンが召使に手伝わせながら衣装をどんどん脱いでいきます。そしてガウンに着替え、セシルの誘惑をはじめます。舞台映像にもちらっと移ってる寝室のシーンになります。いったんはあきらめたかと見せて、ベッドの天蓋から姿を見せる、という振り付けもでてきます。

本気になってトゥールヴェル夫人を愛しはじめたヴァルモンを尻目に、メルトゥイユ夫人は一人罠をめぐらせはじめます。メルトゥイユ夫人のサラ・バロンは、踊りまくるというところはありません。でも、ねっとりしたからみは本当に多く、一挙一動が怪しいです。オペラグラスでのぞいてみると、表情も豊かで、なかなか役者ぶりです。

モラルとの葛藤に悩みながらも、ヴァルモンを愛してしまったトゥールヴェル夫人は悩むわけですが、とうとうヴァルモンを受け入れてしまいます。ここのパドドゥは舞台映像でもちらっと見れます。白い下着のサラ・ウィルドーと短髪のアダム・クーパーがうつっているところがそれです。リフトが多用されていて、舞台をみたときは流れですっと見てしまいましたが、映像を見ると、やっぱり難しいことやってました。セットに大きな肖像画が使われているのですが、気持ちの悪い絵で、これは破局の暗示となっていたようです。相思相愛の関係となったかと思われた次の瞬間、二人の前にメルトゥイユ夫人やそのお付もろもろが現れ、ヴァルモンを叱責します。原作でも、メルトゥイユ夫人のけしかけでヴァルモンはトゥールヴエル夫人と別れてしまうのですが、舞台の登場の仕方では、メルトゥイユ夫人は実物ではなく、ヴァルモンの潜在意識ととれなくもなくて、

その後、ヴァルモンはトゥールヴェル夫人を拒否し、傷つけ、ショックを受けたトゥールヴェル夫人は、剣で自殺してしまいます。この場のセットが凝っていて、舞台の後ろのほうでは雨がふりしきり、水に濡れながら夫人は死んでいきまです。雨は夫人の涙なのか、それとも陽光と共に登場した夫人が永久にいなくなったことをあらわすものなのか・・・解釈は他にもあるとは思いますが、なかなか忘れられないシーンでした。たしか映画や原作では、夫人がなくなるのはもっと後で、ヴァルモンが本当に夫人を愛していたことを知ってからでしたので、多少の救いはありました。が、舞台のほうでは奈落の底で死んでいったわけですね。気の毒に。

その後、下手にダンスニーとの火遊びを楽しんでいるメルトゥイユ夫人、上手にセシルにまとわりつかれているヴァルモンが登場します。ダンスニーがセシルとヴァルモンの関係に気づいて決闘となり、ヴァルモンは死んでしまいます。実際に血のりを使って、倒れていくんです。そしてかなり長い間、舞台で横たわっています。

ここで赤がはっきりとポイントとなる色になりまして、メルトゥイユ夫人は舞台中央で入念にでかける用意をしていきます。一幕でどんどん脱いでいったヴァルモンと対照的に、どんどん衣装をみにつけていきます。それも色は赤。

しっかり着飾った夫人を貴族たちがロウソクをもってとりかこんでいきます。でも、一幕最初と態度は急変。ロウソクを手に、夫人をいれかわりたちかわりなぶっていきます。映画ではたしか、オペラハウスでグレン・クローズ演じる夫人がまわりから失笑されていたと記憶しています。そのシーンですね。社会的な失墜、社交界からの追放をさしているらしい。そして、背後から、むきだしのライトが容赦なく夫人を照らしていきます。何もかもむき出しにするように。

バレエ公演になると、どうしても、まず踊り、次いで演技、それから衣装、セット、音楽、ライトと優先順位がつけて見てしまいます。もちろん、マラーホフのコートのように、ある意味でライト(ストラボ)が一方の主役、という舞台もあります。といっても、コートは物語性はなくて、動く現代アートのようなものです。今回ほど、お話のある舞台でセットやライトにしげしげ注目した舞台はめずらしいです。最初のロウソクの光にはじまり、ロウソクの明かりを暗示すると思われるベージュ(黄色)系のライト、セシルの寝室など怪しげなシーンで多用される青いライト、窓や扉からもれる一筋の光、トゥードヴィル夫人とメルトゥイユ夫人に使われるライトなど、注目してしまいました。もっとバレエ公演にはめずらしいぐらい計算したライトの使いかたをする公演でした。

総合的な意味で面白い公演でした。美術のレズ・ブラザーストンやAMP版『白鳥の湖』で99年のトニー賞最優秀デザイン賞を受賞した人だそうです。なるほど。

劇場入り口で、いつものとおり、アンケートやチラシをもらったのですが、写真とちがうパターンのダックス広告のファイルにはいってました。ふだんもつかえるもので、ちょっと得した気分になりました。


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