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ヒストリアン

2006-04-24 22:55:17 | 
ヒストリアン・I

日本放送出版協会

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ダ・ヴィンチ・コード以来、歴史もののミステリが増えました。この本は、NHK出版のために、ラジオ講座のテキストに広告が前からのってまして、洗脳された形になっていました。とはいえ、自分では買わずに妹をたきつけて買わせてしまいました

純粋歴史もの、謎解きもの、というよりホラーの要素がたっぷり。

中身はなかなか壮大です。なにせ、3代にわたる歴史家一家のドラキュラ探索+ラブストーリー+家族愛の物語なのですから。祖父、父、そしてこの物語の最初の語り手である16歳の少女がかわるがわる語り部となったり、不幸なる自分の後継者にあてた手紙の書き手となって話をすすめていきます。

おかげでけっこうややこしい構成。最初の語り手は女性。16歳の少女のころに謎の手紙を見つけたのを発端にした過去を話していきます。16歳だった彼女は、父にその手紙の背景をはなしてくれるようにねだります。ついで少女の頼みを受けた父の回顧談となり、少女の手紙の書き手が登場し、その間にまた少女の視点にもどり・・・と、けっこうややこしいです。作者はナレーターを変えて話をあちこちに交錯させる、という試みをやっていて、たぶん、それで物語の厚みを作ろうとしているのですが、これが成功していると感じるかどうかは人によって評価が分かれそう。一部は成功、一部は失敗というのが私の感想です。大過去(祖父)、中過去(両親)、過去(16歳の少女)、現在(少女が成長し歴史家になっている)の相乗効果がそれほどでもないのでね。しかも、まだ古い結社や中世のドラキュラとオスマントルコの話、ドラキュラに魅せられた他の歴史家たちの記述がはいりますから、そうとうの力技がなければまとまりそうもないネタです。

はたして、作者の体力と気力があふれているところは面白く、そうでないところはトーンダウンし・・・といったのが見えるんですよ。特にラストの親子(にその友人)とドラキュラの対決は、とてもあっけないです。映画化された暁にはここが一番派手になるはずですが・・・お話の面白さを期待するなら、映画が公開されるまで辛抱したほうがいいかも。中欧を中心にロケをしっかりやれば、見ごたえがあるものができるかもしれません。

この本の魅力は、ミステリー的な謎でも、ホラーの怖さでもなく、作者がねらっていたと思われる家族の物語がおりなす時間のうねりでもなく、新鮮なドラキュラ像でしょうね。ステレオタイプの吸血鬼に加え、知性にあふれがサディストであり、永遠の命を求める暴君として登場。しかもなぜか歴史家愛好家(笑)荒俣宏が「 本書によって、ドラキュラ物語はついに第三次進化に達した!」と叫ぶ気持ちはわかります。最後に主人公が夢想するドラキュラ像はなかなか好きですね。物語はこんな記述でしめくくられています。

「(ドラキュラは)絶えず危険にさらされている男のようにはまるで見えない---いつ死に見舞われてもおかしくなく、自分の魂の救済という問題を常に考えているはずの指導者には。そうではない、と修道院長は思う。彼の前途には、無限の未来が広がっているように見える。」







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