横川がみえるようにというだけあって、
疋田さまの住まいは山をちょっと上ったところにあった。
最後にみた家から、ずいぶん歩いたから、
これは、近在のものと、口をきくのも億劫であろう。
やはり、もしかすると
お松が死んだのも、知らないのかもしれない。
やがて、疋田様の住まいが見えてきた。
小さい屋敷に移り住んだと聞いていたものの
役宅と比べればというだけであって、
きちんと門構えもあ . . . 本文を読む
老爺に案内されるまま、座敷に通されると
老爺は疋田さまを呼びに行った。
漏れ聞こえてくる老爺の声からも
やはり、川端が来ると見越している疋田さまである。
「お連れしました」
ただ、それだけで、だれといわずとも川端の訪問だと通じているようだった。
やがて、座敷のふすまが開き、疋田が、現れた。
「突然、ぶしつけに・・」
いきなりの訪問を詫びる言葉を疋田が制した。
「なに、気にすること . . . 本文を読む
川端の中で迷いがあった。
お松が亡くなった内儀に似ているというので、
話をしたいというのは、判る。
だが、その話をする刻をわざわざ、夜にしたのは
やはり、疋田に男の欲があったせいではないか?
と、思える。
だとすれば、疋田の本心は確かに良いところに嫁がせてやりたい。
と、いうことだろうが、
なにも、通わせるでなく、あっさり、身請けして
養女に直しても良いだろう。
それをわざわざ . . . 本文を読む
川端は役人の自分であることが先だと自分を叱咤すると、
ぬるくなった茶を一口すすった。
「お松は死ぬ前に頬あたりに小さな打ち傷を作っていました」
疋田の表情が、どう変わるか、
川端は、それをみつめるだけだった。
だが、疋田はかすかな瞠目を見せただけだった。
「それは、お松がころされたかもしれないと・・いうことか」
疋田もまた、川端同様、お松が恨みを買うことは無いと考えているということに . . . 本文を読む