「だんな・・なにか気になることがあるんなら、いってくれなきゃ、
わしでは、きにとめてもいないってこともあるんだから」
留吉が川端の失笑をいぶかしげに咎めた。
「ああ、すまない。で、お駒の話だと、夕べまではお松は元気だったってことになるんだが
実のところ、徳造がどっかの隠居のところにお松をつれていったのか?
ここんとこが、はっきりしねえなあ」
やっと話が振り出しにもどった . . . 本文を読む
ややすると
「だんな?確かに俺が最後にお駒をみたんだがよ・・
よもや、俺がお松をなぐりつけて、川にぶち込んだとでもおもっちゃいやすめえよな」
池澤にすれば徳造の方から釣り針にかかってくれたようなものだ。
「お駒がいうにゃ、おめえ、どっかの隠居のところにお松をつれていったきりだってんだがよ」
徳造はやはり嫌疑が自分にかかっていると判ると
「おい、お駒。おめえ、俺がお松をつれてけえったのを . . . 本文を読む
「しかし、徳造の話が本当だとしたら、どうもとんでもない隠居だということになる。
なんとなく、俺にはそいつが誰だか、目星がつくようなきがするのだが、
その隠居にお松がどうやって夜中に会いに行くようなことになったのか?
それも徳造が御付きの呈でお松についていって
徳造は隠居の屋敷に上がり込んでまっているってことだろ?
つまり、隠居もお松が女郎だってことを重々に承知しているってことだな。
い . . . 本文を読む
ふうむと腕をくんで、またその腕をほどくと
川端は留吉に思ったままを告げた。
「多分、間違いない。そりゃあ。前の家老だ」
「え?」
驚いたも何も、前のご家老といえば・・・
「え?本当に、そう?疋田さまで???」
川端の方が城内のことは詳しいだろう。
詳しいだろうが、にわかには信じられない。
「まず、就いていた職を解いた。
ってのは、家老の役を辞めたってことだ。
当てはまる。
そ . . . 本文を読む
「徳造が妙にあいまいな話ぶりをするのは、
疋田さまとお松のことを表ざたにしたら
店も取り潰されてしまうだろうし
役人にも、手をまわして
どのみち、疋田さまのことはあがっちゃこねえ。と、
ふんで、わざとにごしていってるとおもっていたんですよ。
ところが、池澤のだんなは、
いつまでも、はっきり、話さないなら
やっぱり、お前の作り話だろうって、徳造のいう隠居をさがしてみようともしないどこ . . . 本文を読む
それから、わしは、言われた通り、
了安先生のとこによって、ことづけをいうと
徳造の店に走って行ったんだ。
一膳飯屋の親父からでもきいてたんだろうな、
店にはいると男どもがかまちに腰をおろしていたし
女郎どもは、顔見世の座敷のほうに一塊になって、
泣いてる女もいたよ。
わしの姿をみたら
「あ、留吉が来たよ」
と、呼び捨てにしやがるんだが、
そんなことをかまっちゃあいられないし
. . . 本文を読む
「つい、話があとさきになっちまったが、
渡し場について
大八車に布団をしいてやって
お松をのせてやるってなったら、
男衆はついてこなかったし、お駒と徳造だけじゃ、むつかしいもんだから、
また、徳造はわしを呼ぶんだ。
男二人に女一人
あちこちぶつけたりしないように大八車にのせてやるのもやっぱり、むつかしいから
わしは、池澤のだんなを呼ぼうとしたんだ。
「い」って、言うか言わないかで . . . 本文を読む
白状いたせというお春にずいぶん、長い話をしてしまった。
「ここまでが、この前、留吉が来たときの話さ。
俺は、その次の朝 徳造をまとうと暗いうちに家を出て行った。
お前も覚えてるだろう。
今日は特に早い・・って、笑ってただろ。
留吉が来たら、忙しくなるのはいつものことだけど
今日は特に早いって・・な。
しばらくしたら、池澤が来たよ。
番所に灯りがへえってるから、おおかた、俺だと、察し . . . 本文を読む
お春こそが、こんなときにどういえばいいのか、よくわかっている。
「お松さんといえば、あのお松さんだよねえ。
あんたは、自分をせめちまうけど
そりゃあ、それぞれにもってうまれた「分」ってのがあるんだから」
お春が
川端が自分をせめている、と、いうのは、
ふたつ、ある。
ひとつは、あの渡し場におりた7つ8つのお松をもらい受ければよかった。
と、いうこと。
もうひとつは、兇状持ちの伊三 . . . 本文を読む
留吉と話していたときにふと、かすめた思いがあった。
お春の「分」の話から、川端は、はっきりと
かすめた思いをつかみなおした。
―お松が姐女郎の自害をしがない女郎・女郎でしか生きていけないと
思いいたっていたことがいまさらながら思い起こされる。
確かに、姐女郎が死んだのはお松のいうとおりかもしれない。
だが、死んだ人間が本当は何をおもっていたかなど
誰もわかりゃしない。 . . . 本文を読む
留吉には
男と女は量ってみることなどできない。
と、いってはみた。
いくら、人として、誠の人間であっても、
男と女という濾紙の下にたまる水までも誠というわけにいかないときもある。
重々に承知しているつもりでいる。
普段の姿が立派であればあるほど、あの人に限ってという凝り固まった「見方」をつくる。
そのたがをはずして、見なきゃいけないと判っていても
どうしても、あの疋田さまが、お松を . . . 本文を読む
握り飯を包んだ竹の皮をくるんだ布に無造作にまいて懐につっこんでいるのが、
気に障る。
お春にかえしておこうという口実で、
川端は家に寄ることにした。
道に沿って植えた椿の垣根ごしに
縁側でつくろいものをしているお春がみえた。
―なるほど、当家の主人が縁側にいるのが、みえたら
椿をわって、まっすぐ縁側にいきたくなるのも、わからないでもないー
短い垣根を通り過ぎ、玄関口まで行くのが、遠 . . . 本文を読む
結局、お春がいれてくれた茶を呑む川端になる。
そして、問わず語りは、いつものことだ。
「徳造は、今朝、解き放ってやったよ」
言葉の端ににごりがあるのをききもらすお春ではない。
「だけど、すっきりしてないねえ。なんでだろう」
さすが、お春であるとも、それを待っていた川端であるともいえる。
「うん。俺が気になったのはな。徳造がやけにさばさばしてるんだ」
「さばさばって?だしてもらえたら、 . . . 本文を読む
お春はもうしわけなさそうに話をつづけた。
「あんたは、どうしても男ならという考えでいるだろう。
それは、逆におそろしい気もする」
お春がなにか、考え付いていることは、間違いないが
どう恐ろしいのかもわからないし
男ならという考えも皆目見当がつかない。
「男なら誠の生き方をするだろうといいながら、
あんたは、
男が、女に逆上して石?かなにかで女の顔を打つのも
男だというんだ」
「 . . . 本文を読む
横川の小道をあがる川端の心中、複雑を通り越し
気がめいってくる。
お春の言うとおりであれば
疋田さまとて、お松の懐妊は、
身に覚えがあるだろう。
いや、この場合は身に覚えがないというべきかもしれない。
それどころか、
もしかして、お松が死んだのもしらず、
きかされて、仰天の涙になるだろう・・
あげく、お松が孕んでいた。
身におぼえがあれば、子まで亡くしたということになり、
身 . . . 本文を読む