「キ、キミは来ちゃだめだ」
「だって、アナタだけじゃ」
「いや、コレはワナだったんだよ」
「だけど、なんだかおいしそうなニオイ」
「そう、ボクも、このニオイに誘われてここに来てしまった…だけど、だけど、今はとっても後悔している」
「ちょっと待ってて、仲間を呼んでくる」
「いやダメだ、絶対にそれはやっちゃダメだ」
「だけど、アナタそのままじゃ、死んじゃう」
「いいんだよ、コレで。コレがオレの運命だったんだよ」
「アタシも、このままアナタと一緒にいたい」
「いや、きちゃダメだ!ダメだって!あっ、う、う、うしろ〜っ‼︎」
「えっ⁉︎」
SE:パチンとハエ叩きの音。
夫「なんか、カーテンにとまってたハエって、
ハエ取り紙に引っかかったハエと交信していたような…」
妻「あぁ、それでハエ取り紙に、引っ掛からなかったんだ!バカね、ジッとしてるから叩き潰されちゃうのに」
夫「瞬殺のほうが、ハエ取り紙で餓死するよりはいいのかもなぁ」
妻「そうね、だけどホント、ハエ取り紙って引っかからないよね、まだ昨日から2匹だけだよ」
山間の鄙びた別荘地でシニア犬と暮らす夫婦の日常会話は、こんな他愛ないものである。
完