天使の図書館ブログ

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動物たちの王国【第二部】-14-

2014-03-13 | 創作ノート


 え~と、今回は間違いなく言い訳事項があります

 ↑のような本を参考にしてはみましたけども、書いてることが正しいのかどうか、わたしにはよくわかりません(殴

 言い訳事項はとりあえずこの点だけなんですけど、カリヤ式って一体どんな術式なんでしょうね☆とか、わたし自身も思っているという、何かそんな感じです(笑)

 え~と、あとはまあどうでもいいこととしては、褥瘡予防としてエアマット使ったりって書いたので、軽く医療用のものをググってみたんですけど……わたしがたまたま見たページがそうだったのかどうか、結構いいお値段なんだな~と思いました(^^;)

 たぶんこれ、物にもよるのかなって思うので、わたしの書いてるのはたまたまそこの病院のがそうだった……と思って読んでほしいんですけど(汗)、褥瘡予防にはエアマットということで、実際に使ってみたところ、なんとなく体位交換がしずらいな~☆と思った記憶があります

 う゛~ん。なんていうか、結局マットレスに空気が詰まってる感じなので、あんまり軽すぎて患者さんを右や左にずらした時に、マットレスごとずってくるっていうんですかね。あと、何やらシーツが乱れやすくて、体位交換の終わったあと、はみでたシーツの端っこをもう一度ベッド下に押しこんでみたりと、何やら手間がひとつ増えたりして、微妙な気持ちになった記憶があります(^^;)

 そんでもまあ、患者さんがそれで寝心地良ければいいんですけど、何分意識不明状態の方だったので、果たしてこれで本当に自分たちは良いことをしたのかどうか、いまいちわからないという感じでもありました。

「なんかこれ、寝心地良さそうに思えるかい?」、「いや~、どうなんだろ。わたしはあんまりエアマットに寝てみたいと思わないけど」……みたいな会話を看護師さんとしていた記憶があったり(^^;)

 でもネットで見た、結構いいお値段のものは「わたしもこれ、ちょっと寝てみたいな~」みたいには思ったんですけどね(笑)

 なんにしても、このエアマットひとつ取ってみても、前回書いた医療用酸素のことにしてみても、病院ってやっぱり「すげえ金かかってんな」とつくづく思います。

 んで、病棟で使ってる医療器具の価格を単純に積み上げただけでも、素人が眩暈を起こしそうな金額ですよね、たぶん。わたしもたま~に看護師さんなどから、「これ、いくらすると思う?」とか「これ、ひとつ○○円もするんだって」とか聞いた記憶があるんですけど(=取り扱いには気をつけろ☆的な・笑)、でもお医者さんや看護師さんっていうのは、実際はいちいちそんなこと考えてらんないですよね、当たり前ですけど

 でもあくまでも一種のコントとして、急患が運ばれてくる=その時に使う器具や薬を手にするたびにいちいちその金額言ってたら面白いかなと思ったり(診療点数でもいいですけど・笑)


 大河内Dr:「おおっと、挿管が入ったァッ!!この管は一本○○円、処置料金のほうは△△円だぁっ!!そして人工呼吸器はなんと一台××万円!!こいつは高いぞ!!果たして患者はこのことを知ってるのか!?アドレナリンも入ったようだが、これは一本□□円だッ!!と、ここで甦った患者、どうやら目を開けたようだぞ。果たしてここは天国か、それとも地獄なのか!?」

 翼:「……おい、誰でもいいから速く、あいつを処置室からつまみ出せ

 
 みたいな??(^^;)

 というわけで(どういうわけだか☆)、病院の総資産っていうのは相当な額にのぼるのと同時に――そこへハイエナのように「でっへっへっ☆」と群がる医療業者さんも多いんだろうな……などとぼんやり想像する次第であります。

 それではまた~!!



       動物たちの王国【第二部】-14-

 だが、それまであまりに遠くにいて、恋愛対象として見ることすら出来なかった男に対する唯の恋情は、その微かな芽生えの瞬間と同時に、すぐ根を枯らせることになった。

 唯は特別病棟から実際にオペ室へ異動になるまでの間――勤務中に時折、結城医師が顔を見せたら自分はどんな態度をとったら良いだろうと、胸をドキドキと高鳴らせていたが、結局彼はあれから一度も十三階へやっては来なかったのである。

「羽生さん、外科病棟にでも押しかけていっちゃえば?それで直談判しちゃうとかさ。「どうしてあんなことしたんですか」って」

「そんなこと、出来ません。そんな恥かしいこと……」

 十二号室の昆飛鳥の体にうっすらとではあるが、褥瘡の兆しが見え始めたため、ベッドのマットをエアマットに交換するという作業を行っていた時に、どことなく元気のない唯に対し、今里がその件に切り込んでいた。

 褥瘡は寝たきりの老人に特に出来やすいものであるが、昆の場合体格ががっしりしていて(百九十センチある)体重が重いため、それだけ背中の皮膚にかかる負担が大きいのだろうと思われた。そこで普通のマットレスよりもエアマットのほうが負担が軽くなるのではないだろうかと、昨日のカンファレンスで決定していたのであった。

「まあね、あなたの気持ちはわかるわよ。わたしも逆の立場だったら、とても聞けないわね、そんなこと。それでも相手が比較的まともっていうか、お医者さんって結局、根が真面目で優しい人が多いじゃない?中には時々そうでもない、かなりおかしなのもいるけど……だからね、そういう人が相手なら、わたしも勇気だして聞けるけど、何しろ相手が結城先生じゃねえ。結城先生だけに、そんな勇気も出なくなるって感じだわ、たぶん」

「…………………」

 昆のことを右や左に転がしつつ、シーツ交換をする間、唯は彼に声かけする以外では無言だった。(おまえら、人を右や左に転がしながら、くだらんことをくっちゃべるなよ)と彼が思っているに違いないと想像したからではなく――ただ、唯は結城医師との間に起きたことが、単純にショックだった。

 もちろん唯にしても、彼がとても忙しい身の上だということはよく承知している。けれど、あれから三日経っても何も言ってこないところを見ると、昔からの悪い癖で彼がからかっただけではないかと、そのように思えてならなかった。

 そして唯はそんなモヤモヤした気持ちのまま手術室へ異動になったのであるが、もちろんこの場所で外科医の翼と顔を合わせることもあるだろうと、わかっていた。けれどもうその頃には、最初の時とは違い(どんな顔をしたらいいのかしら)などとはまったく思わなくなっていたといってよい。

 何分、手術室では多くの時間をマスクをしたままで過ごさなければならない。この顔が半分隠れた状態というのが、もしかしたら唯を大胆にさせたのかもしれないが、唯はオペ室の廊下で彼とすれ違ってもつーんと取り澄ました顔をして通りすぎることが出来た。さらにその後、あらゆる外科系医師から「可愛こちゃん」と意味ありげに呼ばれるにつれ、唯の翼に対する思いというのは嫌悪に近いものにすら変化していたかもしれない。

「ねえ、羽生さん。どうして外科系の先生たちはみんな、あなたのことを「可愛こちゃん」なんて呼ぶのかしら。何か、心当たりある?」

 一日の勤務が無事終了し、休憩室でほっと一息ついていると、花原師長に師長室へ呼ばれ、そう聞かれた。

「……いえ、特に心当たりなんてありません。わたし、勤務初日の三日目くらいまでは、先生たちがある種の歓迎の意味をこめて冗談でそんなふうに言うのかなって思ってたんです。でも今は……結城先生が「可愛こちゃん」って言葉の後ろにいるんだろうなと思って、妙に納得してます」

「どういうこと?」

 ここで唯は、手術帽とサージカルマスクを手にしたまま、勇気をだして順に説明した。彼が前にいた職場の同僚であったこと、自分が新人であるのをいいことに、セクハラめいた発言や意地悪を繰り返されたこと、また最初の頃は結城医師より「お嬢ちゃん」と呼ばれて馬鹿にされていたことなど……。

「困ったものね、結城先生にも。てっきりわたしは最初、「可愛こちゃん」っていうのはわたしに対するあてつけめいた発言だと思ってたのよ。というのもね、水原さんや他のペットを飼ってる職員が写真を見せてくれた時に、わたしつい言っちゃうものだから。「まあ、なんていう可愛こちゃんなんでしょう!」みたいに……でもそれは関係なかったみたいね。そう……そうだったの」

 それから花原は少しの間何かを考えている様子だったが、唯はここで「言うなら今しかない」と思い、塵ひとつなく整えられた師長室で、彼女にこう詰め寄った。

「あの、花原師長っ。勝手なことを言うみたいなんですけど、わたし、結城先生のオペにだけは絶対に入りたくありません。なんていうか、昔あった色々なことを思いだしてしまうし、彼も自分が優位な立場にあるのをいいことに、またからかったり意地悪してくると思うんです。だから、その……」

 唯は自分の発言がオペ室の仕事に厳しい看護師長にどう受け止められるか不安だったが、意外にも花原は割合あっさりと、「わかったわ」と返事していたのである。

「えっ!?」

「そういうことってね、べつに特別ってほどのことでもないの。「わたしは時間の短くて終わる簡単なオペしか入りたくありません」っていうのは困るんだけれど……やっぱり相性の良し悪しっていうのはありますからね。看護師の中でも時々いるのよ。さっきのあなたみたいに切羽詰った顔して師長室にやって来たと思ったら、「整形のなんとか先生のオペには金輪際入りたくありません」とか、そういうふうに言ったりすることがね。逆に、先生のほうでもわたしにこう言ってくることがあるわ。「あの女だけは我慢できん。金輪際俺の元には寄こすな」って、そんなふうにね。だから、羽生さんと結城先生のことは暫くの間、その相性の悪い者同士として扱うことにします。あなたも、それでいいわね?」

「は、はいっ!!ありがとうございました」

 唯は深々と花原に向かって頭を下げ、狭い師長室を辞去しようとしたが――唯がドアに手をかけようとした瞬間、花原は最後にふとこう言った。

「でもおかしいわね……結城先生はそこらへんの公私についてはきちんと分けられる人なはずなんだけれど。羽生さん、あなた自分の認知がもしかしたら少し歪んでいるなと思ったことはない?」

「認知、ですか」

 唯は振り返ると、アンティーク調の机の前で、手術記録に目を通しはじめた師長のことを振り返った。壁には手術に関係した医療書籍がぎっしりと詰まり、キャビネットにはファイルされた書類が整理整頓されて並べられている。その手前に革張りのソファと椅子、それにテーブルとがあって、テーブルの上には何故かいつも、動物クッキーが盆にのせて置いてあった。

「誤解しないでね。あなたは誰に対してもとても平等に接することの出来る目を持っていると思うの。そしてそれは結城先生も同じなのよ。でも、羽生さんは彼のことを意地悪で嫌な人間だと思っているのでしょ?だから、彼に対して羽生さんは少し間違った認識を持っているのじゃないかなって思ったっていう、ただそれだけ」

「もしかしたら、そうなのかもしれません」

 師長としての仕事に半分埋没しはじめた花原を邪魔しては悪いと思い、唯はただ一言そう言って、師長室から出ていくことにした。普段は厳しいけれども、言うべき時には言うべきことをきっちりと言う――そうした花原の姿勢に、唯はかつての自分の上司である鈴村や徳川の姿が重なり、ますます彼女に対して尊敬の念を深めることになった。

 特に唯の中では、花原は会った瞬間に何故か、徳川の面影を思わせるものがあった。顔が似ているということではなく、雰囲気的にどこか少し感じが似ているのだ。長い髪をきっちりと結い上げているところも、長丁場の手術が終わったあと、髪の毛一筋乱さず冷静な面差しをしているところも、一見思いやりがなさそうでいて、どこか面倒見の良いところも……そして彼女の仕事ぶりを見るにつけ、自分も花原師長のように器械出しが出来たらと、唯はそのように途方もない夢まで見るようになっていた。

(もちろん、わたしが花原師長クラスになるためには、まだあと何年も修行を積まなくちゃいけないけど……ううん、センスとか才覚っていうのもあるから、何年かかっても同じようにはなれないかもしれないけれど、それでも)

 唯はオペ室に勤務して一週間後には、新しいそのような目標を見つけ、大きな慰めを得た。何よりもこの日、午後からあった脳外科の館林医師のオペ室での一言が大きかったというのもある。

 脳動脈瘤の手術だったのだが、花原が色々と口うるさく唯に注意するのを見かねて――館林はうっかり口を滑らせてしまったのである。

「花原さん、そんなにガミガミ叱ることないよ。どうせ羽生さんは近いうちに結婚退職するんだろうし……そんなに頑張って最初から根を詰めることもないさ」

「わたし、結婚する予定なんて全然ありません」

 自分でも思ってみないことだったが、唯は気づいた時には冷徹な眼差しでそう言い切っていた。それから第一手術室は突然しーんとなり、手術器具を操作する音とモニターなどの機械音、オペに関する必要最低限の会話だけが粛々と続いた。

(脳動脈瘤の手術では、開頭して硬膜下出血の止血をしたら、No,11メス、硬膜剪刀、メッツェン、ネオブレード4-0にダイヤモンド持針器、モスキートを準備して……)

 唯は今日あった手術の内容を順に思いだしていると、自然と指先が動きだしそうになるのを感じた。こうした手順を覚えるのが唯はとても楽しかったし、面白かった。見た目としては「血を見ただけで倒れる、お嬢さんタイプ」に唯は分類されるのだろうが、実際はそんなことはなく、人間の脳や臓器がさらけ出されるのを「うっ」と思う、最初のその「うっ」が通りすぎるなり、唯はすっかりオペの魅力の虜になっていたかもしれない。

 もちろん今はまだ花原師長がついていて、見ていてくれるから彼女の肩に半分以上よりかかる形で、それで「楽しい」とか「面白い」という余裕があるのだとも、唯はよくわかっている。それにやはり、患者と術前や術後の介助だけで接するのは物足りなくもあり、手術室という海の中でこれから自分がどんなふうに揉まれていくのか――唯は不安であると同時に、この新しい船出にわくわくしてもいた。

 と同時に、今ではもう結城医師と偶然廊下などで出会っても、まったく怯まなくなっていた。最初の頃こそ、態度だけはつーんとしても心は震えたが、今ではそんな心の震えすら、すっかり遠のいていたといっていい。

(そうだわ。結城先生はきっと、わたしが「ゆ、結城先生。ど、どうしてあんなこと……」とでも、顔を赤くしながら聞きにくるとでも思ったんじゃないかしら。でも絶対にそんなことにはならないんだから)

 この時、唯が怒っていたのはただひとつのことについてだけだった。彼があんなくだらないことのために、過去の良い思い出のすべてを握り潰し、汚いシミのようなものを最後につけたこと、唯は何よりもそのことに対して怒っていたのである。

 そして廊下で結城医師の姿を見かけるたびに、唯はこう自分の心に言い聞かせた。

(そうよ。あんな人は花原師長の言う、「馬鹿な人」、「愚かな下民」なんだわ。わたしも結城先生とすれ違う時にはそう思って、頭からその存在を無視してやればいいのよ)

 花原師長との間で「結城医師のオペには入らなくて良い」という約束が出来上がっていたため、唯はこの時とても強気だった。だが、そんな彼女にもひとつだけ失念している大きなことがあったかもしれない。というのも、花原師長はあと一月半でオペ室の師長ではなくなり――そのあとを、また別の人物が引き継ぐことになるということを、どうやら唯は愚かにも忘れていたようである。



 >>続く。





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