天使の図書館ブログ

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動物たちの王国【第二部】-1-

2014-02-22 | 創作ノート
【モナ・リザ】レオナルド・ダ・ヴィンチ


 さて、第二部です♪(^^)

 この第二部のほうもなんとも言い訳事項が多かったりするんですけど(汗)、まあこの一回目からしてがそうだと思います

 最初に書いた時には、(いつものパターンとして)まずは一通り書いてからまたはじめに戻ってきて、変なところから順に(少しは)直していくか……といった感じなんですけど、まあ直しも何もなくここはほとんど最初に書いたそのまんまだと思います(^^;)

 え~と、翼がダ・ヴィンチを操作するのが上手くてヨーロッパの病院なんかに招聘されるとか、こういうことって実際あるのかどうかってわたしにはさっぱりわかりません(笑)

 なので、最初は同じ手術支援ロボットでも「ダ・ヴィンチ」じゃなくて、何か別の名称をと思ってました。<手術支援ロボット・ジュピターⅣ>とか、何かそんなのを。

 でも「ダ・ヴィンチ」って、もうただそれだけですごく名称に説得力があるんですよね。「ダ・ヴィンチコードは、タイトルがダ・ヴィンチコードだったからあれだけ売れた。タイトルがもし他のラファエロ・コードとかミケランジェロ・コードだったら、ここまで売れなかっただろう」っていいますけど、何かそんな感じ(笑)

 というわけで、そのまま「ダ・ヴィンチ」ということにしてしまったんですけど、仮に翼がいくら手術支援ロボットで手術するのが上手かったにしても――それって海外まで行ってデモンストレーションしなきゃいけないほどのことなのかどうかっていうのが、わたしにはいまいちよくわかってないという

 う゛~んだからようするにそういうこととか、書いてるわたしのほうでは全然わかってないっていうのが一番の言い訳事項というか(^^;)

 基本的に書きたかったのが、恋愛的な部分と後半のミステリー的部分だったりするので、そこを書くのに医療的にそれなりに必要と思われる描写については存外テキトーっていうんですかね。何かそんな感じだと思いますm(_ _)m

 あと、このお話を書く前というか、する前に一応自分で前に書いた話とか読み直したほうがいいんですけど……まだ一部分しか読み直してなかったりするので、微妙に変な間違いがあったらどうしようかなと思ったり(時間の経過的なこととか

 色々なことを含めて、何やらいいかげんなところの多い小説なんですけど(ほんとにな☆)、「そんでもまー、大事なのはこういうことだよね」的なことが伝わるといいなーと思ったりしますm(_ _)m

 それではまた~!!



       動物たちの王国【第二部】-1-

 翼がR医大病院の救急部を退職してから、約二年ほどの時が過ぎた九月、翼は自宅のリビングで論文と格闘しているところだった。

 論文を定期的に学会で発表しない医師は出世しない――というのはよく言われることだが、翼の場合は何も医学界で認められ、そこに永久に自分の名を刻みつけたいという野心あってのことではなかった。

 単に、医療機器メーカーとして長く歴史ある会社と内視鏡手術の最新型モデルを共同開発したこと、また笹森病院長に懇請して<ダ・ヴィンチ>という手術支援ロボットを導入してもらったことなど、外科部長としての責任というのか、何かそうしたものによって論文を執筆することを余儀なくされているに過ぎない。

 翼は今年の六月から約三か月ほど、K病院を留守にして、アメリカとヨーロッパの病院で研修を受けていた。というより、何故かドイツのハンス・ケラスターゼ博士という高名な医師に呼ばれ、彼の外科教室でサイプロファス社製の内視鏡を使い、胃や大腸の癌を切除する手術を実演することになったのである。

 この種のことは今では、インターネットを介した大画面で世界中に配信することが出来るし、またそうした手術を実際に行ったあと、さらに操作の注意点やコツを詳細に説明したり、質疑応答を受けたりといったことなら、翼はこれまでにも何度となく行っていた。

 ハンス・ケラスターゼ曰く、「実際に君と会って話をしてみたかった」ということなのだが、その翌日に翼は彼の自宅に招待され、ケラスターゼの妻の手料理をご馳走になりつつ、他の知り合いの医者にも是非君を紹介したいといったようなことを言われた。

 普通に考えたとすれば、おそらくそれは翼にとって医学界で頭角を現すための大きなチャンス、足がかりを築くための第一歩といえたかもしれない。だが翼はフィリップモリスの看板と、いつまで経ってもそこに自分が本当に見たいポスターが飾られないことを思いだし、「日本の病院でも多くの患者が自分を待っている」と遠まわしに言って断っていた。

 だがケラスターゼはしつこく食い下がり、「もっと君は世界に名を知られるべきだ」といった話を続けた。発表している論文も少ないし、この機会に狭い日本だけでなくインターネットではわからないヨーロッパ医療の実情といったものも是非見ておくべきだと……。

 このケラスターゼの最後の言葉には、翼も心を動かされるものがあった。そこでケラスターゼの紹介でフランス、イタリア、スペイン、オランダと、<ダ・ヴィンチ>を導入している大学病院を中心に大腸癌患者の手術を行うことになった。

 ある意味当然のことだが、翼がサイプロファス社と共同開発した内視鏡の機械にせよ、ダ・ヴィンチにせよ、当然術者、操作者の習熟度には違いがある。その点、翼はほとんど機械の一部であるかのように機械を操作し、誰よりも短い時間で難手術を次から次にこなせるという点で大きな違いがあったのである。

 手術はどこの国でも成功し、患者に喜ばれるだけでなく、大学病院の教授や研修医からも賞賛の声が上がった。もちろんそうしたことは翼にとって心地の好いことでもあったが、最後に自分の我が儘のようなものとして、アメリカで救急医療の現場に当たらせてもらった時にこそ――むしろ翼は自分にとってもっともやりたいことを行えているという充実感を感じたかもしれない。

 とはいえ、翼は自分を取り巻く今の現状を「大人になる」というのはこういうことなのだろうと、冷静に受け止めていた。つまり、自分の体が自分のものだけというのではなく、大袈裟に言うとすれば翼が右に行くか左へ行くかを決定するだけでも、周囲の人間の状況が細胞レベルで変わるかもしれないということである。そこには当然社会人として、人間としての責任が関わってくるし、そうした意味でも翼は医学論文などという七面倒くさいものと格闘していたのだった。

 翼は斎木充に任せておいた統計学的なデータをチェックし、また途中まで完成した日本語の文章を英語の堪能な部下宛に送付しておいた。これは翼に英語力がないことを意味しているということではなく、単に時間短縮のため、ある程度先に訳してもらったほうが速いということであった。

「ふあ~あ。この続きはまあ、明日にすっか」

 翼は目頭を押さえると、ノートパソコンの電源を切ったのち、USBポートから論文のデータであるUSBを抜きとった。こんなことをしている暇があったら、もっと他に人間として有意義に過ごす方法があるのではないかとすら、翼はつい感じてしまう。

「けどなあ……笹森院長には俺の我が儘みたいなもんで、「どうしてもダ・ヴィンチが欲しいよう、買って買って~!!」みたいにダダこねてあんな馬鹿高いもんを導入してもらってるからな。ま、その分の恩義はそれなりにきっちり返しておかなきゃなんねえわけだ」

 最近翼は、ひとりでいる時に独り言が多いと気づいている。そして対照的にあたりの空気がしんとしていることに気づき、思わず自分で笑ってしまうのだった。

「さて、腹も減ったし、ちょっくらメシでも食ってリフレッシュするか」

 翼は先日母親が来た時に作り置きしていったいくつかの食事を、タッパの中から取りだして食べることにした。自分で言うのもなんだが、翼ははっきり言ってマザコンである。といっても、通常言われるような「お母さんのおっぱいから離れられない」という種類のマザコンではなく――その逆に、自分の母親を好きになれないという意味でのコンプレックスを持っていた。

 ゆえに、翼はこの時「筑前煮」や「かれいの煮つけ」、「切干大根」、「五目ひじき煮」……といった実に家庭的な料理を食卓に並べながらも、そのどれに対してもなんらの感慨すら抱いていなかった。普通であればわざわざこうしたものを作っていってくれた母に対し、「ありがとう、おふくろ」と感謝の気持ちのひとつも述べつつ、手を合わせてから食べるべきかもしれない。だが翼の場合は、「とりあえず何も食べるものがないから仕方なく」夕食にしているようなものであった。

 とはいえ、翼と彼の母・亜季との関係は、表面上はそれなりにうまくいっているように見える。ついこの間突然やって来たように、半年に一度、あるいは多くて三か月に一度の訪問をどうにかやり過ごせばいいのだから、その間翼は彼女に好きなことを言わせ、自分は黙って聞き流すというポジションを取り続けた。

 ちなみに、数日前に亜季がやって来た要件は取りも直さず「見合い」の話であったが、翼はその時にも「そのうち」とか「三十五までに」と適当に言葉を濁して言い逃れた。そして母親が置いていった見合い写真をろくに見もせず、「あちょう!」とブルース・リーの真似をしてすべてへし折り、ゴミ箱行きの刑に処したのであった。

 またその日の夜のうちに、つきあいのある女性のひとりを電話で呼んで寝た。彼女は東京に住んでいるのだが、何故か「出張」して会ってもいいと言ってくれる女性のひとりで、翼は一度は清算したかに見えた女性関係のだらしなさを復活させていたといえる。

「おまえさ、俺みたいに将来結婚する気のない男とつきあってて楽しい?」

 セックスの終わったあと、始発で東京へ戻るというナツミという女が、鏡の前でつけまつげをつけている時に、翼はそう聞いた。彼女はジル・スチュアートのワンピースを着、翼からもらったばかりのサマンサ・タバサのバッグを持つと、鏡の前で目をパチパチさせ、巻いた髪の毛を後ろへやりポーズを取っている。

「翼は特別だからね、あたしにとって」

 メイクも決まり、すっかり帰り仕度のすんだナツミは、コートを着ながら無邪気に笑う。

「だから、結婚とかべつに関係ないってゆーか……翼はあれでしょ。そのうち出世のために、院長の娘なんかと結婚するつもりなんじゃない?でもねー、わたしは全然それでいいの。翼が結婚してからも時々わたしと会って、今みたいにタバサのバッグをプレゼントしてさえくれればね」

「なんだそりゃ。おまえ、漫画か医療ドラマの見すぎなんじゃねえのか?」

 翼が煙草を吸いながらベッドの上で笑っていると、ナツミは自分の衣服が乱れない程度に彼の体にしなだれかかっていた。そして翼の唇にではなく首筋に、ディオールの赤い口紅のあとを残していく。

「またいつでも呼んでよね、翼」

 ――こんなふうに、自分の母親がまず気に入らないだろう女性と寝るのは、翼にとって何よりの大きなストレス解消となることだった。何故それがストレス解消になるのかは、翼としても説明が難しい。だが、彼と母親の間に横たわる溝というのは、一日に一センチちょっとずつずれていったものが、十年後には取り返しようもなく深くなっていた……という種類のものであったため、翼自身もそのことを言語化するのに、随分長い時を要していたものである。

 よほどひどい肉体的・精神的虐待でも受けていない限り、自分の母親のことを嫌いになる子供など滅多にいないだろうと、相も変わらず味付けの薄い亜季の料理を食べながら、翼は思う。

 医師である父親の健康管理も兼ねて、結城家の食卓の味は伝統的に薄かった。だが翼はその反動として、外食するのが大好きだったし、今も味付けの濃いものが好物だった。また彼女が「甘いものばかり食べると虫歯になるし、馬鹿になる」と言って、おやつを極端に制限したことから――翼は友達の家へいった時には思う存分ケーキやスナック菓子を食べていた。一度など、「翼くんは少し意地汚いところがある」と同級生の母親に指摘され、いい恥をかいたと叱られたこともあった。

 ようするに簡単にいえば、翼の母親の教育方法は大抵の場合、すべて裏目に出たのだった。だが翼は何もいまだに、幼い頃に味付けの濃いものや甘いものを食べさせてもらえなかったことを恨んでいるわけではない。翼が何にも増して反射的に拒絶反応を感じるのは、あの母親がどうにかうまく都合のいいように自分をコントロール下へ置こうとしてくることだった。

 もっとも亜季のほうになんら悪気がないということ、むしろ翼によかれと思ってしていることは、翼自身もよくよく承知していることではある。だがそれが<無意識>であればこそ、なおのこといっそう始末が悪いということが、世の中にはあるものである。

 だから翼は今も、誰かから「好みの女性のタイプは?」と聞かれるたび、口では「アンジェリーナ・ジョリー」とか「黒木メイサ」と答えながらも、心の中では(母親と真逆の人間)と思っていることが多い。

「あーあ。まったくどっかにいねえもんかなあ、そんないい女が」

 食後に味の濃い、甘いものが食べたくなり、翼は先日退院した患者が置いていったとらやの最中とフェスティバロの唐芋ケーキを食べることにした。それから風呂に入ってさっぱりすると、夜のニュースを見ながら酒を飲み、来週一週間詰まっている手術の予定件数のことや気になっている患者の容態について思いを馳せた。

 翼は今の、こうした自分の生活に特別不満を持っているわけでもなければ、自分のために美味しい夕食を作ってくれたり、晩酌をしてくれる相手が欲しいというわけでもない。ただ、彼は本能的、あるいは直感的にわかっていた――フィリップモリス以上の絵になる看板を、どうやら自分には作り出す能力がないらしいということが。



 >>続く。





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