天使の図書館ブログ

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カルテット。-3-

2012-12-05 | 創作ノート
【ジュピターとテティス】ドミニク・アングル


 この小説、サブタイトルが「詩神の呼ぶ声」なんですけど、この詩神ということについては、もう少しお話が進んだら、要がそのことについて触れてるかな~なんて思います

 とりあえずわたしが詩神が来ていたと感じるのは、詩人ならエミリー・ディキンスンとフェルナンド・ペソア。

 そんでもって音楽ならクラウディオ・アバドということになるわけです(^^;)

 アバドのCDを聞いてて何が驚きだったかというと、一番はその点かな~という気がしたり。

 絵画については、見ていて詩神が指で触れたあとを自分もなぞって見るのが好きです(というか、わたしの中ではそれが美術鑑賞とやらの絶対的な定義☆)

 もちろん、肉体的な努力の積み重ねでも面白い本は書けるし、絵の世界で高い評価を受けることも出来るとは思うんですけど……詩神が指で触れたあとがあるかどうかって、実際のところすごく大きいんですよね。

 なんでかっていうと、それが結局<永遠の命>を芸術的に持ちうるかどうかの分かれ目だと思うので。

 まあ、わたしが自分の心に詩神を感じる場合、すでに亡くなった方の絵を見たり、本を読んでたりする場合が多いんですけど――唯一アバドだけは、「今も生きてる人」っていう意味でもすごく特別というか(^^;)

 これから100歳以上も健康に生きられて、指揮台に立ち続けてほしいと思うんですけど、アバドは天国でも天の楽団を率いて指揮棒振ってそうな気がするので、地上も天国もこの方にとってはあまり変わりないかも……とか思ったり(笑)

 前回トップに貼ったモーツァルトの41&40番のCDは、わたしが持ってるのと違うのなので、これ見つけた瞬間「絶対買う!!!」とか思いましたww

 もっともわたし、アバドのことはそういうので好きってわけじゃないんですけど、それでもジャ○ーズの△□くんが好き!!っていう方の気持ちは、アバドを好きになってからすごくわかるようになりました(^^;)

 というのも、「心が綺麗」とかなんとかいうのも、言ってみればある意味わたしの妄想にすぎないことかもしれず……それでも、インタビューとか、あるいは「アバドってこういう人らしい☆」的な文章を読んだ限りにおいて、わたしがアバドに対して持ってるイメージっていうのは、ある程度正しいんじゃないかな、なんて思ったりしてます(笑)

 まあ、現在79歳のおじいちゃん捕まえて「内気」とかいうのもなんなんですけど(笑)、アバドってもともとの性向がどちらかというと内向的でシャイな人だって、何かで読んだんですよね。その時に、「えっ、イタリア人なのに内気ってほんと!?」みたいな、新鮮な驚きがあったというか(^^;)
 
 もちろん、ただ内気なだけの人があれだけの音楽を出来るわけがなく、アバドって人との関わり方が謙遜というか、誠実な人っていう気がしますよね。いわゆるアサーション(え?あさしょん?殴☆)というか、「あなたもOK、わたしもOK」、「あなたも勝つし、自分も勝つ」といった関係性をすごく大切にする人なのかな~なんて。。。

 なんにしても、アバドのCD聞いててわたしが幸せなのは、彼と詩神との関係性を耳を通して聞けるってことかもしれません。

 そしていつも思うわけです。「こんなに詩神に愛されていて羨ましい」みたいに。

 しかもアバドの場合、そこに奢りのようなものが一切感じられないのがさらに凄いというか(^^;)

 まあ、これもまたわたしが「心が綺麗」同様、アバドに対して勝手に思ってることなんですけど、アバドのCDを聞いてると、音楽を通して詩神とひとつになる、その頂点を味わう過程を何十回、何百回となく繰り返してるのがわかるというか、そのあたりの部分が個人的に一番の聞きどころとなっています♪

 CDっていうのは結局、デジタルなものなので、生演奏には当然勝てないと思うものの……詩神との関係性を記録として残すというか、そういう意味においてこれ以上の録音はないと自分的には思っていたり(^^;)

 もちろん今はちょっと音が外れたところとか、あとから直せてしまう技術があるということで、クラシックにおいては特に「じゃあ、いい演奏ってなんだろう?」みたいに言われたりもするらしいんですけどね

 なんにしても、わたしがアバドについて書いてることは一ファンとして勝手にそう思ってるという程度のことなので、あまり突っ込まないでいただけると助かります(笑)

 それではまた~!! 



       カルテット。-3-

 南沢湖は、イギリスのネス湖のネッシーの妹、ミッシーがいるとされている湖だった。

「流石にそりゃ、無理があんだろ」

「まあ、そう夢のないことを言うなよ」

 晴天の夏風の中、フェラーリ・コンバーチブルを走らせる要の横で、旅行のパンフレットを見ながら、翼はなおもけたたましく笑い続ける。

「いーや、言わせてもらうぞ、要。イギリスのネス湖とこの日本の南沢湖と、一体何万キロ離れてると思ってんだ!?にも関わらず、湖のそばに下品にもクッシーの首にリボンをかけたミッシーの像なんかがあって、観光名所になってる。しかも、観光土産がミッシーまんじゅう……絶対何かが終わってるって思うのは、俺だけじゃねえだろ」

「さてね。ミッシーまんじゅうは僕も食べたことはないけど、これもまた、南沢湖周辺の観光業者たちの苦肉の策だったんじゃないかな。ここらへんってほんとど田舎で、湖が綺麗だっていう以外、これといって見るべきところもないからね。この南沢湖で毎年夏にある音楽フェスティバルも――そうした関連から、なんとか人を呼ぼうっていうイベントとして企画されたらしい。んで、何かと噂の指揮者、西園寺圭が東京の楽団を率いてやって来るってことで、おととしくらいから結構、人にも知られるようになったっていうか」

「あ~、あいつってなんとなく、顔は似てないけど、キャラ的におまえと被ってる感じするよな」

 山と森の緑に囲まれ、セミやキリギリスの鳴く中、誰も人通りのない信号機で車が止まった瞬間、要はどこか怪訝そうに隣の相棒を見返した。

「なんていうか、血筋のいいサラブレットのおぼっちゃんっていうか、ルックス的に同じ王子タイプじゃん。音楽と絵で、描いてることは違っても、同じような芸術家肌タイプっていうかさ。俺、高校でおまえと同じクラスになった時、なんでかわかんないけど、無条件でぶん殴りたい奴だって、見た瞬間に思った。西園寺圭に対しても、あいつがたまにテレビで気取ったようなこと言ってると、意味もなく殴りたいものを感じる……なんでかはわかんないけど」

「随分懐かしいことを言うな。僕は翼のことを最初に見た時――こいつとは物凄く仲良くなるか、憎しみあうかのどっちかだなって気がしたけど。西園寺圭も意外と、話してみるといい奴かもしれないぜ?僕みたいにさ」

「い~や。あいつはおまえとは違う」

 翼が妙にきっぱりと言い捨てるのを聞いて、要は思わず吹きだしそうになった。

「父親が外交官で、小さい頃からヨーロッパのあちこちの国に住んで、五ヶ国がペラペラな上、超有名音楽院を卒業後は、世界中のあらゆる楽団から引っ張りだこだなんて――絶対気なんか合うわけねえだろ。しかも奥さんってのが元ミスユニバースなんだぜ。嫌味にもほどってもんがあらあ」

「まあ、確かにね。でも彼、指揮者としちゃ、典型的なトスカニーニ・タイプらしいよ。もしかしたら翼も、西園寺圭がコンサートで指揮棒振る前のドキュメンタリー・フィルムとか、見たことあるかもしれないけど……徹底した完璧主義者で、厳しいことで有名らしい。それも音楽に対する愛ゆえって感じでね、その<愛>や<情熱>っていう部分がわかるから、楽団員たちもついてくるっていう、そんな感じなんだってさ」

「ふう~ん。で、これから行くホテルとやらには、そういう音楽祭の関係者も多数宿泊してるから、誰も聞いてないからといって、変なところでポロッと本音を洩らすなって言うんだろ」

「ま、そういうこと」

 要はサングラスをかけ直すと、湖の光り輝く湖面を照り返すように建つ、<南沢湖クリスタルパレス>なるホテルまで、曲がりくねる湖畔の道に沿ってゆっくり車を走らせていった。

 翼は複雑な生態系を持つことで有名な南沢湖を眺めながら、(確かに何か、棲んでいそうだ)と思いはしたが、自分が病院を退職する前の夜、見た夢のことについてはまったく何も思いださなかった。

 というより、湖自体が何か魔力を持った神秘的な神聖さをたたえているので、ここでは泳いでみたいという気持ちすら、翼は起きなかったといっていい。そしてその神秘さと不気味さとは紙一重の青さを持っているとも思い――気温は三十度近かったにも関わらず、一度など背筋がぶるっと震えたほどだった。

 とはいえ、それは車の中に入りこむ風のせいだろうと翼は思い、特に気に留めはしなかったのだが……。



 >>続く……。





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