(【聖母子】アンドレア・デル・ヴェロッキオ)
え~っと、実はわたし、自分が一度書いたものって、あんまり読み返さない人なので……もしかしたら、これまでに書いたお話と若干相違点があるかもしれませんww
いえ、このお話はこのお話で、時間の流れ的にはどことも繋がってないんですけど、設定的にジューダス城を取り仕切る家宰はずっとディロンさんだし、料理長の名前はオレイユとか、そゆのは同じなので(^^;)
でも、前にカルを起こす時間、わたし何時にしたっけ??とか、そゆことが全然思いだせないんですよね(アホ☆)
そこで、前に自分が書いたものを読み返せばいいのに、それもまた面倒くさく(をい!)、まあこのお話はこのお話で、単独で独立してるからいいやwwっていう感じで、細かいことは気にしませんでした。。。
ところで、聖竜~を書くようになってから、中世関係のことを再び調べはじめてるんですけど……今、「中世の食卓から」(石井美樹子さん著/ちくま文庫)っていう本を読んでいます♪(^^)
んで、今回のトップ絵はヴェロッキオの「聖母子」なんですけど、ヴェロッキオはダ・ヴィンチの絵のお師匠さんとして有名な人だったり(「キリストの洗礼」という絵の、左側の天使をレオナルドが手がけ、その出来映えのあまりの素晴らしさに、彼は絵筆を折ったというエピソードがあります^^;)
あの、まだ出てこないんですけど、この本の中から引用した箇所があるので、また別のところでそこには言及しようと思いつつ……>>赤いさくらんぼは、キリストの愛と殉教のしるし。中世・ルネッサンスの聖画では、赤いさくらんぼが、しばしば幼な子イエスのかたわらに置かれている。そのひとつ、十五世紀のフィレンツェの画家ヴェロッキオの「聖母子」(ニューヨーク、メトロポリタン美術館蔵)でも、聖母子の前に、薔薇と一緒にさくらんぼが三粒転がっている。三という数字が、父と子と聖霊の三位一体を表すことは言うまでもない。ちなみに、薔薇は、聖母マリアの表徴。さくらんぼは「豊かな実り」と、マリアの「処女性」を表す。したがって、処女はしばしば、さくらんぼとともに語られる。
なんていうか、こういう絵画の背後にあるシンボリックなことを調べるのは昔から好きだったんですけど……最後のほうでシェラがカルとえっち☆なことする前に、シェラがさくらんぼ食べてるとかいうのは、単なる偶然でした(笑)
あと、>>民間伝承では、梨は、その木が燃えやすいことから、エロスの象徴となっている。英語の梨(pear)に相当するラテン語のpirumと古仏語のpoireには、「杖」あるいは「棒」という意味もある。その形と点火のしやすさから、梨は男性性器の象徴。また、梨の形は、女性の子宮や乳房を連想させることから、女性のシンボルにもなっている。
……「もしも貴方がわたしを必要としてくれたなら。」で、カルがシェラの耳に梨の枝をかけてるのって、そーゆー意味だったんだ~☆とか、後付け的に思いました(^^;)
カルって実は、無意識のうちにもシェラとやる気満々だったんだ(笑)みたいなww
まあ、こういうことって本を読んだ時には「ほえ~。そーなんら~☆」とか思うんですけど、またすぐに忘れちゃうんですよね(周囲の声=それはオマエの頭がザル+だからって話)
うん、なんにしても、石井美樹子さんのこの本はとても面白いです~♪(^^)
それではまた~!!
Cool&Passion2-【3】-
(今朝は珍しく遅いな、シェラは……)
柱時計が六の刻を告げても、一向に側近であるシェラの姿が見えないことに対し、カルは少しばかり不満を覚えた。
いつもならば彼女は、六時よりも五分くらい前には主君の寝所へやって来ているはずなのだ。
ゆえに、その瞬間をずっと待ちもうけている身としては、そのたったの五分の間でさえも、通常以上に長く感じてしまう……カル=スの微かな苛立ちは、それが原因だったに違いない。
「カル様、おはようございますっ!!」
重厚な樫の扉が開くと同時、シェラは天蓋付きベッドに眠る主君に対し、大きな声でそう挨拶した。
いつもなら、六時よりも五分ほど前に到着し、その五分の間に水差しの交換などを終えてから――そしてシェラはカル=スのことを起こす。
だが今日に限っては、色々なことが慌ただしく、また手早く行われた。
「カル様、申し訳ありません。今日はこちらへ伺候するのが五分ばかり遅れてしまって……ですから、早くお起きになってくださいね。いつもの、「あと五分」というその五分が今日はないんですから!」
「そうか……それは残念だな」
カルは白々しく、たった今目が覚めたという振りをし、朝の美しい陽射しを背負ったシェラを、眩しい思いで見上げていた。
いつもなら、あと五分と言いながら、十分ほどは眠った振りをし、シェラがあの手この手で自分を起こそうとする過程を楽しむのだが……今朝に限っては、そういうわけにもいかないらしい。
カルが目頭をこすり、ぼんやりとした鈍い動作で体を起こす間、シェラは窓際にあるテーブルに朝食をセッティングしていく。
どうやらシェラが自分を構うつもりがないらしいとわかり、カルはフットスツールの上に足を下ろすと、そんな彼女の後ろ姿をぼんやりと観察した。
(もし、これが夢の中なら……)
と、カルは思わず考える。
(ベッドの中にシェラのことを引きずりこんでも、なんの支障もないだろうにな)
城の上に王の冠を戴いた刻印のあるパンを、シェラはふたつほど皿に並べている。それから、ポタージュスープの皿とフルーツの鉢を置き、チーズパイや温野菜、仔牛のグレイヴィソース添えなどが、順に並べられていった。
「さあ、冷めないうちに早く、お召し上がりになってくださいね、カル様」
なんとなく語尾に、ハートマークに近い何かが浮かんでいる気がして、カルはぼんやりとシェラの声に引かれるようにして、窓際のテーブルへ向かった。
カルが無言で食事をする間、シェラは主君の衣服の用意をし(今日着るものは、すでにきのうの夜決めてある)、それから王の私室を花で飾る支度をはじめたのだった。
カルはいつものように、シェラが花を花瓶に活ける姿を眺め――今朝方見た夢のことに思いを馳せた。
(夢の中で起きたことを現実にするには、一体どうしたらいいのだろうか)
ちぎったパンをポタージュスープに埋めながら、カルはぼんやりそんなことを考えてしまう。
(急に突然、「オマエは本当は女なのだろう?」などと聞くわけにもいかないしな……いや、夢の中では『わ、わたしは本当に男ですっ!!』などと言うシェラに対し、『だったら証拠を見せてみろ』と迫れたにしても……現実ではそううまくは……)
「もう、カル様ったら!!」
不意にシェラがこちらを振り返り、ずんずんと近づいてくる。
「いくら王様でも、食べ物を粗末にしちゃダメですってば!!ここはカル様の私室ですから、マナーなんて守る必要はありませんけど、パンだけじゃなくチーズパイまでスープにつけるなんて!」
「……すまない」
カルはどこか申し訳なさそうにあやまり、銀のスプーンでパイのかけらを救出すると、それを口許へ持っていくことにした。
それから、食事を七割ほど食べると、花を活け終わったシェラが、もう一度カルの元まで来、彼の口許をナプキンで拭いてくれる。
「ほら、ほっぺたについてますよ、カル様」
くすりと笑ってシェラは、プラムの汁をカルの頬から拭きとる。
「……………」
カルはこの時もまた、いつもと同じように、なんとも言えないような気持ちになり――ただ自動人形のようにぼんやりと、今度は顔を洗うことにした。
それからシェラの用意した儀礼用の豪奢な王の服を着、シェラが自分の髪に櫛を入れてくれる姿を、鏡ごしにじっと見つめる。
(たぶん、あの夢というのは……この鏡の向こう側の世界で行われたことなのであって、こちら側、つまりは現実世界にはなんの関わりも持っていないということなのだろうな)
王としての自分を、どこか晴れやかな顔で誇らしげに眺めるシェラのことを見、カル=スはそうはっきりと結論づけた。
(あんな夢をよく見るのは――ただ単に、自分の過剰な欲望が抑えつけられた結果によるものなのだろう。この娘もまた、自分に対して気があるから、それで……などと考えるのは、あまりにも浅はかというものだ)
カルはそう結論づけると、スツールから立ち上がり、どこか素っ気ない態度でその場から去ろうした。
けれど、ふとシェラが左手を隠そうとしたのを鏡ごしに見て気づき、後ろを振り返る。
「どうした、シェラ?左手がどうかしたのか?」
「い、いいえ。なんでもありません。それよりも、そろそろ謁見の間へ向かいませんと……」
<奏上の儀>がはじまる前に、カルは王の顧問を務める側近数人と、軽く打ち合わせのようなものをしなくてはならない。ゆえに、大臣や太守たちが実際に政務報告をはじめる二十分くらい前には、謁見の間の脇部屋にいるのが普通であった。
「いいから、見せてみろ」
カルはぐい、とシェラが後ろに回している手を、自分のほうへ引き寄せた。
「だ、ダメです、カル様っ!!せっかく身支度がすべて済んだのに、こんなことのために衣裳が汚れでもしたら……っ!!」
「こんなことかどうかというのは、私が決めることだ」
それからカル=スは、シェラの左の人差し指から血が滲んでいるのを見――彼女の指を自分の口の中に含んで舐めはじめた。
「カ、カル様……っ!!」
いけません、というようにシェラが何度もかぶりを振るのを見て、カルの心の中で何かが動いた。確か夢の中でも、これと同じではないが、似たようなことがあったような気がする。
「シェラ、服を脱げ」
「えっ、そ、そんな……どうし、て………」
シェラが駄目、と思う間もなく、金糸や銀糸で彩られたカル=スの白い衣裳が、彼女の血の色で汚れる。というのも、カルがシェラの左手を自分の服の胸に押しあてたという、そのせいだった。
「どうする、シェラ?王の衣裳を汚すのは、大罪だぞ?」
「あ……あの、ご、ごめんなさ……っ!!」
カル=スは、鏡の前にシェラのことを立たせると、まずは上着の留め金を外しにかかった。もちろん、彼女は自分の主君といえども、大人しくされるがままになったりはしなかった。服を脱がされれば当然女であるということがバレる――そのことだけはどうしても、隠しとおさなければならない一大事だった。
「カル様、本当にもうお時間が……っ!!それに、お召しものをお替えする時間もありませんし……っ」
「ああ、そうだな」
カル=スはあくまで冷静にそう答え、シェラの大きめのズボンを支える、ベルトを外しにかかった。
だが、しかし――好事魔多しとはよく言ったもので、この時コンコン、と王の私室のドアがノックされたのだ。
「……誰だ?」
不機嫌な声でそう答え、カルは樫の扉の向こうからの返事を待った。
「家宰のディロンでございます。ヘイスティングス卿が、領主裁判のことで、カル様に苦情を言いに参っているとか……<奏上の儀>がはじまる前に、是非ともお目どおりを、とのことでございました」
カルにしては珍しく、この時彼は内心チッと舌打ちしたくなった。
今日の<奏上の儀>は、腹心の側近といえる重臣大官のひとりに任せ――自分は気分が悪くて臥せっているということにでもしようと思ったのに……。
「わかった。ヘイスティングスには、<奏上の儀>のはじまる前、五分間だけ時間を与えると伝えよ」
「かしこまりました」
カルは週に二度ほど、民衆の訴えを直接聞く場を設けている。普段、裁判というのはその地方ごとの領主が王の権威を代行して最終的な決定を下す権限を持っている……だが、その領主の決定を不服とした農民が、王であるカルを訪ねてやって来たのだ。
カルはその農奴の小作人の言い分をよく聞き、彼の訴えを取り上げて、ヘイスティングスの決定を退ける判決を下した。まさか、ほんの40エーカー程度の土地のことで、彼が自分に直接苦情を言いに来ようとは、カルには極めて心外なことであった。
「カ、カル様……」
名残惜しさのあまり、暫くシェラの首筋に唇を押しあててから――そうしてカルは、彼女のことを仕方なく解放した。
「乱暴なことをして、すまなかった」
(やはり、現実というのは、夢の中でのようにはうまくいかないものだな)
そう思いながらカルは、アルコーブにある衣裳戸棚から、濃紺のマントを一枚取りだして着た。これを上から身に纏えば、シェラの指の赤い血を隠せるはずであった。
「……………」
シェラは何を言うでもなく黙りこんでいたが、カルにはもはや、彼女のほうを振り返る勇気もなければ時間的余裕さえなく――この時彼に出来たのは、一時的に思考を切り替えて、仕事のことにのみ神経を集中させるという、そのことだけであった。
>>続く……。
え~っと、実はわたし、自分が一度書いたものって、あんまり読み返さない人なので……もしかしたら、これまでに書いたお話と若干相違点があるかもしれませんww
いえ、このお話はこのお話で、時間の流れ的にはどことも繋がってないんですけど、設定的にジューダス城を取り仕切る家宰はずっとディロンさんだし、料理長の名前はオレイユとか、そゆのは同じなので(^^;)
でも、前にカルを起こす時間、わたし何時にしたっけ??とか、そゆことが全然思いだせないんですよね(アホ☆)
そこで、前に自分が書いたものを読み返せばいいのに、それもまた面倒くさく(をい!)、まあこのお話はこのお話で、単独で独立してるからいいやwwっていう感じで、細かいことは気にしませんでした。。。
ところで、聖竜~を書くようになってから、中世関係のことを再び調べはじめてるんですけど……今、「中世の食卓から」(石井美樹子さん著/ちくま文庫)っていう本を読んでいます♪(^^)
んで、今回のトップ絵はヴェロッキオの「聖母子」なんですけど、ヴェロッキオはダ・ヴィンチの絵のお師匠さんとして有名な人だったり(「キリストの洗礼」という絵の、左側の天使をレオナルドが手がけ、その出来映えのあまりの素晴らしさに、彼は絵筆を折ったというエピソードがあります^^;)
あの、まだ出てこないんですけど、この本の中から引用した箇所があるので、また別のところでそこには言及しようと思いつつ……>>赤いさくらんぼは、キリストの愛と殉教のしるし。中世・ルネッサンスの聖画では、赤いさくらんぼが、しばしば幼な子イエスのかたわらに置かれている。そのひとつ、十五世紀のフィレンツェの画家ヴェロッキオの「聖母子」(ニューヨーク、メトロポリタン美術館蔵)でも、聖母子の前に、薔薇と一緒にさくらんぼが三粒転がっている。三という数字が、父と子と聖霊の三位一体を表すことは言うまでもない。ちなみに、薔薇は、聖母マリアの表徴。さくらんぼは「豊かな実り」と、マリアの「処女性」を表す。したがって、処女はしばしば、さくらんぼとともに語られる。
なんていうか、こういう絵画の背後にあるシンボリックなことを調べるのは昔から好きだったんですけど……最後のほうでシェラがカルとえっち☆なことする前に、シェラがさくらんぼ食べてるとかいうのは、単なる偶然でした(笑)
あと、>>民間伝承では、梨は、その木が燃えやすいことから、エロスの象徴となっている。英語の梨(pear)に相当するラテン語のpirumと古仏語のpoireには、「杖」あるいは「棒」という意味もある。その形と点火のしやすさから、梨は男性性器の象徴。また、梨の形は、女性の子宮や乳房を連想させることから、女性のシンボルにもなっている。
……「もしも貴方がわたしを必要としてくれたなら。」で、カルがシェラの耳に梨の枝をかけてるのって、そーゆー意味だったんだ~☆とか、後付け的に思いました(^^;)
カルって実は、無意識のうちにもシェラとやる気満々だったんだ(笑)みたいなww
まあ、こういうことって本を読んだ時には「ほえ~。そーなんら~☆」とか思うんですけど、またすぐに忘れちゃうんですよね(周囲の声=それはオマエの頭がザル+だからって話)
うん、なんにしても、石井美樹子さんのこの本はとても面白いです~♪(^^)
それではまた~!!
Cool&Passion2-【3】-
(今朝は珍しく遅いな、シェラは……)
柱時計が六の刻を告げても、一向に側近であるシェラの姿が見えないことに対し、カルは少しばかり不満を覚えた。
いつもならば彼女は、六時よりも五分くらい前には主君の寝所へやって来ているはずなのだ。
ゆえに、その瞬間をずっと待ちもうけている身としては、そのたったの五分の間でさえも、通常以上に長く感じてしまう……カル=スの微かな苛立ちは、それが原因だったに違いない。
「カル様、おはようございますっ!!」
重厚な樫の扉が開くと同時、シェラは天蓋付きベッドに眠る主君に対し、大きな声でそう挨拶した。
いつもなら、六時よりも五分ほど前に到着し、その五分の間に水差しの交換などを終えてから――そしてシェラはカル=スのことを起こす。
だが今日に限っては、色々なことが慌ただしく、また手早く行われた。
「カル様、申し訳ありません。今日はこちらへ伺候するのが五分ばかり遅れてしまって……ですから、早くお起きになってくださいね。いつもの、「あと五分」というその五分が今日はないんですから!」
「そうか……それは残念だな」
カルは白々しく、たった今目が覚めたという振りをし、朝の美しい陽射しを背負ったシェラを、眩しい思いで見上げていた。
いつもなら、あと五分と言いながら、十分ほどは眠った振りをし、シェラがあの手この手で自分を起こそうとする過程を楽しむのだが……今朝に限っては、そういうわけにもいかないらしい。
カルが目頭をこすり、ぼんやりとした鈍い動作で体を起こす間、シェラは窓際にあるテーブルに朝食をセッティングしていく。
どうやらシェラが自分を構うつもりがないらしいとわかり、カルはフットスツールの上に足を下ろすと、そんな彼女の後ろ姿をぼんやりと観察した。
(もし、これが夢の中なら……)
と、カルは思わず考える。
(ベッドの中にシェラのことを引きずりこんでも、なんの支障もないだろうにな)
城の上に王の冠を戴いた刻印のあるパンを、シェラはふたつほど皿に並べている。それから、ポタージュスープの皿とフルーツの鉢を置き、チーズパイや温野菜、仔牛のグレイヴィソース添えなどが、順に並べられていった。
「さあ、冷めないうちに早く、お召し上がりになってくださいね、カル様」
なんとなく語尾に、ハートマークに近い何かが浮かんでいる気がして、カルはぼんやりとシェラの声に引かれるようにして、窓際のテーブルへ向かった。
カルが無言で食事をする間、シェラは主君の衣服の用意をし(今日着るものは、すでにきのうの夜決めてある)、それから王の私室を花で飾る支度をはじめたのだった。
カルはいつものように、シェラが花を花瓶に活ける姿を眺め――今朝方見た夢のことに思いを馳せた。
(夢の中で起きたことを現実にするには、一体どうしたらいいのだろうか)
ちぎったパンをポタージュスープに埋めながら、カルはぼんやりそんなことを考えてしまう。
(急に突然、「オマエは本当は女なのだろう?」などと聞くわけにもいかないしな……いや、夢の中では『わ、わたしは本当に男ですっ!!』などと言うシェラに対し、『だったら証拠を見せてみろ』と迫れたにしても……現実ではそううまくは……)
「もう、カル様ったら!!」
不意にシェラがこちらを振り返り、ずんずんと近づいてくる。
「いくら王様でも、食べ物を粗末にしちゃダメですってば!!ここはカル様の私室ですから、マナーなんて守る必要はありませんけど、パンだけじゃなくチーズパイまでスープにつけるなんて!」
「……すまない」
カルはどこか申し訳なさそうにあやまり、銀のスプーンでパイのかけらを救出すると、それを口許へ持っていくことにした。
それから、食事を七割ほど食べると、花を活け終わったシェラが、もう一度カルの元まで来、彼の口許をナプキンで拭いてくれる。
「ほら、ほっぺたについてますよ、カル様」
くすりと笑ってシェラは、プラムの汁をカルの頬から拭きとる。
「……………」
カルはこの時もまた、いつもと同じように、なんとも言えないような気持ちになり――ただ自動人形のようにぼんやりと、今度は顔を洗うことにした。
それからシェラの用意した儀礼用の豪奢な王の服を着、シェラが自分の髪に櫛を入れてくれる姿を、鏡ごしにじっと見つめる。
(たぶん、あの夢というのは……この鏡の向こう側の世界で行われたことなのであって、こちら側、つまりは現実世界にはなんの関わりも持っていないということなのだろうな)
王としての自分を、どこか晴れやかな顔で誇らしげに眺めるシェラのことを見、カル=スはそうはっきりと結論づけた。
(あんな夢をよく見るのは――ただ単に、自分の過剰な欲望が抑えつけられた結果によるものなのだろう。この娘もまた、自分に対して気があるから、それで……などと考えるのは、あまりにも浅はかというものだ)
カルはそう結論づけると、スツールから立ち上がり、どこか素っ気ない態度でその場から去ろうした。
けれど、ふとシェラが左手を隠そうとしたのを鏡ごしに見て気づき、後ろを振り返る。
「どうした、シェラ?左手がどうかしたのか?」
「い、いいえ。なんでもありません。それよりも、そろそろ謁見の間へ向かいませんと……」
<奏上の儀>がはじまる前に、カルは王の顧問を務める側近数人と、軽く打ち合わせのようなものをしなくてはならない。ゆえに、大臣や太守たちが実際に政務報告をはじめる二十分くらい前には、謁見の間の脇部屋にいるのが普通であった。
「いいから、見せてみろ」
カルはぐい、とシェラが後ろに回している手を、自分のほうへ引き寄せた。
「だ、ダメです、カル様っ!!せっかく身支度がすべて済んだのに、こんなことのために衣裳が汚れでもしたら……っ!!」
「こんなことかどうかというのは、私が決めることだ」
それからカル=スは、シェラの左の人差し指から血が滲んでいるのを見――彼女の指を自分の口の中に含んで舐めはじめた。
「カ、カル様……っ!!」
いけません、というようにシェラが何度もかぶりを振るのを見て、カルの心の中で何かが動いた。確か夢の中でも、これと同じではないが、似たようなことがあったような気がする。
「シェラ、服を脱げ」
「えっ、そ、そんな……どうし、て………」
シェラが駄目、と思う間もなく、金糸や銀糸で彩られたカル=スの白い衣裳が、彼女の血の色で汚れる。というのも、カルがシェラの左手を自分の服の胸に押しあてたという、そのせいだった。
「どうする、シェラ?王の衣裳を汚すのは、大罪だぞ?」
「あ……あの、ご、ごめんなさ……っ!!」
カル=スは、鏡の前にシェラのことを立たせると、まずは上着の留め金を外しにかかった。もちろん、彼女は自分の主君といえども、大人しくされるがままになったりはしなかった。服を脱がされれば当然女であるということがバレる――そのことだけはどうしても、隠しとおさなければならない一大事だった。
「カル様、本当にもうお時間が……っ!!それに、お召しものをお替えする時間もありませんし……っ」
「ああ、そうだな」
カル=スはあくまで冷静にそう答え、シェラの大きめのズボンを支える、ベルトを外しにかかった。
だが、しかし――好事魔多しとはよく言ったもので、この時コンコン、と王の私室のドアがノックされたのだ。
「……誰だ?」
不機嫌な声でそう答え、カルは樫の扉の向こうからの返事を待った。
「家宰のディロンでございます。ヘイスティングス卿が、領主裁判のことで、カル様に苦情を言いに参っているとか……<奏上の儀>がはじまる前に、是非ともお目どおりを、とのことでございました」
カルにしては珍しく、この時彼は内心チッと舌打ちしたくなった。
今日の<奏上の儀>は、腹心の側近といえる重臣大官のひとりに任せ――自分は気分が悪くて臥せっているということにでもしようと思ったのに……。
「わかった。ヘイスティングスには、<奏上の儀>のはじまる前、五分間だけ時間を与えると伝えよ」
「かしこまりました」
カルは週に二度ほど、民衆の訴えを直接聞く場を設けている。普段、裁判というのはその地方ごとの領主が王の権威を代行して最終的な決定を下す権限を持っている……だが、その領主の決定を不服とした農民が、王であるカルを訪ねてやって来たのだ。
カルはその農奴の小作人の言い分をよく聞き、彼の訴えを取り上げて、ヘイスティングスの決定を退ける判決を下した。まさか、ほんの40エーカー程度の土地のことで、彼が自分に直接苦情を言いに来ようとは、カルには極めて心外なことであった。
「カ、カル様……」
名残惜しさのあまり、暫くシェラの首筋に唇を押しあててから――そうしてカルは、彼女のことを仕方なく解放した。
「乱暴なことをして、すまなかった」
(やはり、現実というのは、夢の中でのようにはうまくいかないものだな)
そう思いながらカルは、アルコーブにある衣裳戸棚から、濃紺のマントを一枚取りだして着た。これを上から身に纏えば、シェラの指の赤い血を隠せるはずであった。
「……………」
シェラは何を言うでもなく黙りこんでいたが、カルにはもはや、彼女のほうを振り返る勇気もなければ時間的余裕さえなく――この時彼に出来たのは、一時的に思考を切り替えて、仕事のことにのみ神経を集中させるという、そのことだけであった。
>>続く……。
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