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天の父よ!
猫に追いかけらる
ネズミを見守ってやってください
あなたの王国の中に
ネズミの「家」を作ってやってください
浄らかな戸棚で心おきなく
一日中エサを齧らせてやってください
そして、何くわぬ顔で
厳かに月日を巡らせていってください!
(「エミリ・ディキンスン家のネズミ」エリザベス・スパイアーズ著・長田弘さん訳/みすず書房)
つい先日、図書館で「エミリ・ディキンスン家のネズミ」という本を借りてきました♪(^^)
いえ、前からずっと読みたいと思っている本だったので……最初に本屋さんで見かけた時は速攻買おうかと思ったんですけど、図書館で借りてきて正解な本だったかもしれませんww
まあ、とにかく「エミリ・ディキンスン」と名のつく本はすべて、いつか出来る限り集めたいと思っているものの(アン・フリークの方が、赤毛のアンと名のつくものはすべて欲しいと思うのと同じ心理☆)、とりあえず読んでみて「ディキンスン入門」として最適かと言われると、正直う゛~ん
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ええと、わたしがこの本を一目見て衝動買いしそうになるほど一瞬で「欲しい!」と思ったのには、理由があります。
まず、表紙がとても可愛らしいこと、それとディキンスンがネズミのことを描写した詩で、とても好きなものがあるので――たぶんそのネズミとエミリーが何がしかの心の交流を持っていた……という、そうしたメルヘンチック☆な内容が想像されたので「絶対読みたい!」と一瞬で感じたのだと思います。
たぶん、アメリカなどでは、ディキンスンの詩ってとても有名だと思うので、フィクションを半分以上混ぜた物語でもまったく問題ないのかなって思ったりするんですけど、このお話を「まんまそのとおり☆」と受け止められるとしたら、日本のディキンスン・ファンとしてはちょっと微妙な気持ちです
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もちろん、児童書としては優れていると思いますし、ネズミのエマラインの詩もとても可愛らしいと思うんですよ♪(^^)
でもこの本はたぶん、英文で書かれた元の本を読める方にはオススメできても、「エミリー・ディキンスン」という名前に馴染みがなく、彼女の詩もまったく読んだことがないという日本の読者向けではない気がしますww
ええとですね、不満な点のまず第一点目は、エミリーの妹のラヴィ二アがエミリーに対し、ガミガミ☆と色々物を言い立てているという点。
もしかしたら、確かに現実でもこれと似た場面はあったかもしれません。
でもエミリーとラヴィ二アは、お互いにお互いを支えあって生きたという、とても仲のいい姉妹だったんですよ。
おそらく、未婚の姉妹が生涯互いを支えあって生きた……なんて聞いたとしたら、ふたりとも器量が悪くて嫁き遅れたのかな、なんて想像する方がいらっしゃるかもしれませんが、ラヴィ二アは写真にも残っているとおりすごく美人でした。
彼女は結婚適齢期といっていい頃に、相思相愛だった男性がいたのですが、父親の反対を乗り越えることが出来なくて、結局結婚を断念しています。
以来、姉と助けあって家のことを切り盛りしたりして生涯を過ごした――とも言えるのかもしれませんが、ラヴィ二アは実際活発な性格であり、(外面的には)内向的な姉のことをよく助けてくれたと言っていいと思うんですよね。
つまり、家に引きこもって極力人に会わない姉にかわり、外交的なことはほとんどラヴィ二アがうまく処理していた、また彼女はそうしたことが得意で、外の人と会ってした面白い話なんかを姉に聞かせてあげていたわけです。
そしてこの妹のラヴィ二アこそ、姉の死後にエミリーの詩の束を見つけて、版代まで支払うことさえして、出版にまでこぎつけた人だったんですよ(^^;)
さらに、編集を手伝ったルーミス・メイブル・トッド夫人と、その後エミリーの遺稿を巡って裁判になった時も、ラヴィ二アは姉のために最後まで戦ったのでした。彼女がそのことで勝利したのは、死ぬ前年のことだったと言いますし、しかもこのトッド夫人はエミリーとラヴィ二アの兄であるオースティンと不倫関係にまでなっていましたから――彼女の心中というのは、かなりのところ複雑なものがあったと思うんですよね。
もちろん、アメリカやイギリスなどでは、ディキンスンの生涯についてよく知られていると思うので、この本のどこがフィクションでフィクションでないかというのは、見抜くのが容易だと思います。つまり、向こうではこれで問題なくても、日本の読者さんには最初からその点を誤解してほしくないという思いが、わたしにはあるということ(^^;)
そして不満な点の第二点目。
ネズミのエマラインがネズミ駆除の人が放った白イタチに捕まえられる前に――エミリーがバネ仕掛けのネズミ捕り機をエマラインの部屋の前に置く、というシーンがあるのですが……エミリーは白イタチがそのバネに挟まるのを笑って見ている、というような性格では絶対ありえないと思います。
その前に、エマラインがラヴィ二アの飼っている猫に追い立てられるというシーンがあり、実際ラヴィ二アは猫派で、猫を何匹も飼っていたんですよね(笑)そしてエミリーは犬派でカーロウという名の大きな犬を飼っていました。
鳥と犬を愛する性格のエミリーとしては、ラヴィ二アの飼っている猫に対して、心中穏やかでいられないということがあったらしく――手紙の中で冗談めかしてこんなことを書いています。
>>「ヴィニー(ラヴィ二アのこと)はクリスマス・プレゼントに四匹仔猫をもらいました――その前に二匹神様からいただいていたので、全部で六匹になりました。猫たちを殺してくれる殺し屋を見つけるのが、私のひそかな願いです」
(「エミリ・ディキンスン評伝」トーマス・H・ジョンスン、新倉俊一さん・鵜野ひろ子さん訳/国文社より)
もちろん、手紙の中でこう書いているからといって、エミリーが本当に猫嫌いだったとは言えないでしょうし、白イタチに対しても自分の愛犬同様、「毛むくじゃらの愛しい生物」といった眼差しを彼女は持っていたのではないでしょうか。
まあ、絵本として「起承転結」を考えて物語を進めた場合、こうした事件が必要になってくるとか、ラヴィ二アやヒギンスンを若干悪役寄りに描くということが必要だったというのは理解できるんですけど(^^;)、入門書として読んだ場合には、むしろ誤解を招くのではないか?という感じのすることが――わたしの首を少し捻らせる、というか。。。
でも、エミリーの優しい性格についてはよく表現されていますし、また彼女がそれでいて「嵐の夜」のような大胆な詩を書く女性でもあった、ということが紹介されているのも、ファンとしては嬉しいかな、と思ったり♪
嵐の夜よ、嵐の夜よ!
あなたとともにいられれば
嵐の夜も
二人の喜び
風もむなしい――
港に入った心には
羅針盤はいらない
海図もいらない!
エデンの中に漕ぎだして――
ああ 海よ!
今宵 わたしが錨を下ろせたなら
あなたの中に
それと、エミリーに「出版を遅らせるよう」手紙で返答した、批評家のヒギンスンが彼女と会っている時、ネズミのエマラインが部屋の花瓶を落として壊すシーンも、愉快でよかったと思います(^^)
まあ、後世の人々はヒギンスンに対して<無能>の烙印を押したがるに違いありませんが(笑)、そんな彼が実際にエミリーと会って話をし、その時のことを手紙に書き残しているといった点についてだけは――もしかしたらヒギンスンのことをわたしたちは多少なりとも評価できるかもしれません。
ちなみに、本の中のエミリーとヒギンスンの会話というのは、手紙の中でのやりとりがベースになっているので、エミリーがヒギンスンを実際に自宅に招いた時には、もう少し別のユニークな会話を色々しているということを、一応つけ加えておきますね。
後世の人間であるわたしたちは、ヒギンスンに<無能>の烙印を押したい気持ちを抑えられませんけど(笑)、それでいてエミリー自身が「人というのは、知らない間に他の人の命を救っているものです」と言っているとおり……彼がエミリーのことを救った部分があるというのも、確かなことであると言えたかもしれません。
それでは、最後にこの本の中にも収められているエミリーの詩を二篇紹介して、この記事の終わりにしたいと思います♪(^^)
ではまた~!!
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もし私が一人の心の傷を癒すことが出来るなら
私の生きるのは無駄ではない
もし私が一人の生命の苦しみをやわらげ
一人の苦痛をさますことが出来るなら
気を失った駒鳥を
巣に戻すことが出来るなら
私の生きるのは無駄ではない
(「エミリ・ディキンスン詩集~自然と愛と孤独と~」中島完さん訳/国文社刊)
家の中では私は一番目立たなかった
一番小さな部屋を私は使った
夜には小さなランプと本と
そしてゼラニュームの一鉢――
そのミントの香りが
絶え間なく私へと運ばれるような場所に置いたのでした
そして私の手提げ籠――
ええ 間違いなく
これでみんなです
声をかけられるまで私は決して話しません
それも短く低い声で――
大声で生きるなんて私は堪えられないし
大騒ぎなど恥しいのです
だからもし遠くでさえなければ
知っている人が誰もそこへ行くのでしたら――
よくそんな風に考えたことでした
私もそっと死ねそうだと――
(「エミリ・ディキンスン詩集~自然と愛と孤独と~第4集」中島完さん訳/国文社刊)
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