歴史だより

東洋と西洋の歴史についてのエッセイ

≪囲碁の攻め~石倉昇氏の場合≫

2024-08-10 19:00:04 | 囲碁の話
≪囲碁の攻め~石倉昇氏の場合≫
(2024年8月10日投稿)

【はじめに】


 今回のブログでは、囲碁の攻めについて、次の著作を参考に考えてみたい。
〇石倉昇『NHK囲碁シリーズ石倉流攻めとサバキの法則』日本放送出版協会、2005年[2007年版]
 前回のブログでも記したように、石倉昇氏は、攻めの要点について、次のようにまとめている。

【攻めの5か条】
①相手の根拠を奪う
②むやみにツケない
③自分の用心……自分の弱い石から動く
④モタレ攻め
⑤攻めながら得をする
※この中でとくに実戦で役に立つのが、「自分の弱い石から動く」である。
 これらの法則を頭に入れて実戦を打つと、それだけで勝率が上がっていくことだろうとする。


〇覚えておきたい法則として、次のものを挙げている。
・一段落したら、まず「弱い石」を見つける。
つまり、一段落したら……
①自分の弱い石を探す……あったら守る
②相手の弱い石を探す……あったら攻める
③大場に打つ

・また、守るときと攻めるときの打ち方をしっかり区別して身につけること
【サバキ】
①ツケ
②相手が厳しくきたら……ナナメ
 相手が穏やかにきたら……まっすぐ
③捨て石を使う
(石倉昇『石倉流攻めとサバキの法則』日本放送出版協会、2005年[2007年版]、100頁、105頁、126頁)

 この要点を棋譜をテーマ図として掲げて、解説するというスタイルで叙述している。
 その中でも、私の印象に残った箇所を紹介してみたい。
(ただし、掲載されている棋譜を逐一アップロードするのは、難しくて煩瑣なので、一部省略した。とりわけ、変化図は省いたが、是非、本文をあたってほしい)

【石倉昇氏のプロフィール】
・1954(昭和29)年6月生まれ。神奈川県横浜市出身。
・元学生本因坊。
・1977年東京大学卒業。日本興業銀行を退職後、1980年入段。1991年八段。
・2000年4月九段に昇段。
・1982年棋道賞「新人賞」を受賞。
・1985年、1989年、1999年、2004年後期にNHK「囲碁講座」の講師を務める。
➡知性的でやわらかな講座が人気を集める。
 アマチュア出身ということもあって、囲碁普及にも情熱をもやす。
・2003年「テレビ囲碁番組制作者会賞」受賞。
 


【石倉昇『石倉流攻めとサバキの法則』(日本放送出版協会)はこちらから】
石倉昇『石倉流攻めとサバキの法則』(日本放送出版協会)





〇石倉昇『NHK囲碁シリーズ石倉流攻めとサバキの法則』日本放送出版協会、2005年[2007年版]

【目次】
上達への5K
1章 星の定石
1 スベって二間ビラキ
2 一間バサミ
3 新しい打ち方

2章 小目の定石
1 大ゲイマガカリ<1>
2 大ゲイマガカリ<2>
3 一間高ガカリ<1>
4 一間高ガカリ<2>

3章 攻め
1 「攻めの5か条」
2 弱い石から動く
3 置碁は序盤で強く戦え
4 相手の弱点をねらえ
5 とっておきの秘策

4章 打ち込みと荒らし
1 3線に打ち込む
2 ツケて荒らす
  ワンポイントレッスン
3 ツケてサバく
4 打ち込みで局面をリードする
5 ツケからの攻防
6 定石後の打ち込み
7 私の実戦から
  上達への5Kまとめ




さて、今回の執筆項目は次のようになる。


・はじめに
・上達への5K
・「攻めの5か条」のテーマ図と解説(3章より)
・「ツケからの攻防」のテーマ図と解説(4章より)
・【補足】小目の定石(大ゲイマガカリ)~切り違いの法則




はじめに


・囲碁は記憶だけで強くなれるものではない。
 たくさんの定石を苦しんで覚える必要もない。有段者として知っておきたい定石は、せいぜい10ほどだという。
・定石を丸暗記しても、相手がその通りにはなかなか打ってくれないもの。
 多くの定石を覚えるよりも、その定石の意味や、定石はずれへの対応、その後のねらい、戦いの法則を知ることのほうが重要であるという。

・「これさえわかれば初段になれる」ことを、「定石」「攻め」「打ち込み」の3本立ての構成で解説していく。
 石倉流の法則を使えば、楽に強くなれることができること請け合いとする。

・本書は、2004年10月から2005年3月まで、NHK講座で放送された講座「石倉昇の『上達の秘訣』教えます」をもとに、加筆し構成し直したものであるそうだ。

・初段を目指すレベルが中心だが、10級から3、4段まで、どなたにご覧いただいても、碁が楽しくなるという。棋力アップの一助になれば、幸いと著者は記す。
(石倉昇『石倉流攻めとサバキの法則』日本放送出版協会、2005年[2007年版]、2頁~3頁)

上達への5K


・碁の上達に欠かせないことを、著者は「5つのK」で表している。
 Kとは、「感動」「好奇心」「形」「考え方」「繰り返し」のローマ字表記の頭文字をとったものである。
①「感動」
・プロの碁や講座を見て、「なるほど」と思うことが「感動」につながる。
 丸暗記はすぐに忘れるが、感動したことは頭に定着する。
②「好奇心」
・新しいことを覚えたら、実戦で使ってやろうと思うのが「好奇心」。
 覚えたことを実戦で使ってみて、はじめて自分のものになっていく。
③「よい形」
・「よい形」をたくさん知って、映像として頭に入っている人が、碁が強いといえる。
 「よい形」を知っていれば、しらみつぶしに読む必要がなくなり、読みのスピードも速くなる。
④「考え方」
・また強い人は、正しい「考え方」(法則)を知っている。
 戦いでどう打つか悩んだとき、「考え方」を知っていると、正しい手が打てるようになる。
⑤「繰り返し」
・どんな天才でも、1回見ただけで覚えることはなかなかできない。
 「繰り返し」使ってみることも大切である。
 そうすれば必ず身についてくる。
 身体の機能、五感を使うと、よく身につく。
(目で見て、耳で聞いて、自分の手で実際に並べてみることを勧めている)
(石倉昇『石倉流攻めとサバキの法則』日本放送出版協会、2005年[2007年版]、6頁、221頁)

「攻めの5か条」のテーマ図と解説(3章より)


【テーマ図A (黒番)】
≪棋譜≫(102頁)


☆右辺の黒模様に、白が1と入ってきた。
 これは少々無理気味な打ち込みである。
 ⇒ここは黒が優勢になるチャンス
 しかし、攻め方を間違えると、形勢を悪くする。 
 どう攻めるか?

【テーマ図Aまでの手順~三連星の布石】
≪棋譜≫(103頁の1図)


・黒は1、3、5と三連星の布石である。
・黒7の一間バサミは、白に8と三々に入らせて外勢を築こうとしている。
・黒13まで基本定石である。
・黒19のカカリに白20とハサんで、29までこれも大事な定石。
・白30と左辺に白模様ができた。
・黒31と肩突きで消すのが絶好。
<ポイント>
・3線のヒラキには、4線から消す。

☆さて、テーマ図Aの場面をみてみよう。
 黒模様に入ってきたのであるから、この白をうまく攻めたいものである。
 そこで、石倉流攻めのコツを5か条にまとめている。
【攻めの5か条】
①相手の根拠を奪う
②むやみにツケない
③自分の用心……自分の弱い石から動く
④モタレ攻め
⑤攻めながら得をする
(石倉昇『石倉流攻めとサバキの法則』日本放送出版協会、2005年[2007年版]、105頁)

【①相手の根拠を奪う】
≪棋譜≫(105頁の5図)


☆まずは5か条の①相手の根拠を奪う
・黒は1と鉄柱して、白の根拠を奪うことが大切。
※白a(18, 十)とスベられると、簡単に根拠を作られてしまう。
・白2のトビには、黒3とノゾくのも大切な手。
・白が4とツグと棒石になり、眼形が作りにくくなる。

≪棋譜≫(8図、10図、12図、14図、15図)



【④モタレ攻め その1】
≪棋譜≫(106頁の8図)
・黒7で白8のトビを誘導して、黒9に肩を突くのが名調子である。
※ただ追いかけるのではなく、攻めたい石の反対側にモタれることが大切。(5か条の④)

≪棋譜≫(107頁の10図)
・続いて、黒11とトンで白12のトビを誘う。
・もう少しで手をつなぎそうになった瞬間に、黒13とばっさりと分断するのが、うまいモタレ攻め。(5か条の④)

【ほぼ封鎖が完了】
≪棋譜≫(107頁の12図)
・続いて、白が14、16と眼形を作りにくれば、黒15、17と黒地が固まる。
・白18と外に出ようとしても、黒19の棒ツギが好手
・白は20とツイだとき、黒21にかぶせる。
 ⇒ほぼ封鎖が完了

≪棋譜≫(108頁の14図)
・続いて、白は22のコスミツケから24となんとか生きをはかろうとしている。
※黒としては白を全滅させようなんて、考える必要はない。
 狭いところで生きてもらえば、いいのである。
☆しかし、白26のときには注意が必要である。

≪棋譜≫(109頁の15図)
・黒27、29と自分の用心を忘れないようにしよう。(5か条の③)
<ポイント>
〇攻めるにはまず自分の用心
・白30で何とか生きられそうであるが、黒31にまわって下辺に大きな模様ができ、攻めながら得をすることができた。(5か条の⑤)

※ここで形勢判断をしてみる。
・白地は左辺が10目強。上辺が10目。右辺が3目、右下が8目、左下が15目で、合計46目強。
・黒地は下辺だけで40目以上ありそう。
 さらに左上が10目、右上が15目あっては、黒が圧倒的に優勢。

・これでは足りないといって、白が32と突入してきたら、黒は33とモタれるのが、うまい攻めである。(5か条の④)
・黒35まで、白32の石をのみこめそうで、黒がますます好調。
(石倉昇『石倉流攻めとサバキの法則』日本放送出版協会、2005年[2007年版]、101頁~109頁)

「ツケからの攻防」のテーマ図と解説(4章より)


⑤ツケからの攻防
【テーマ図A】黒番
・白が三角印の白にヒラいたところ。
 三角印の白は問題の一手だった。
・黒としては、チャンス到来。
 上辺の白模様に黒がどう入っていったらいいのかを、考えてみよう。
≪棋譜≫(200頁)


【1図】
・白6の大ゲイマガカリは、小目へのカカリの中では、最もわかりやすく、おすすめ。
・右辺の黒模様には、白28とツケて荒らすのが好手。
・白34まで、うまく荒らした。
・左辺の黒39までの構えは堅く、好形。
・白40とヒラいた上辺の白に、黒はどこから入っていくのがいいだろうか。
≪棋譜≫(201頁の1図)



【2図】
・黒1と打ち込みたいのだが、三角印の白があるときには、苦しい。
・黒3とフトコロを広げようとしても、白4とサエギられては不自由。
※三角印の黒と白の交換がないときには、黒1は有力。
 けれども三角印の黒と白があるときには、ほかの手段を考えたほうがよさそう。
≪棋譜≫(201頁の2図)


【3図】
・黒1とツケるのが、好手。
※サバキはまずツケから始まる。
・白が2とハネて厳しくきたら、黒は3とナナメに動く。
※黒3を捨て石に使うことで、上手に荒らすことができる。
<ポイント>
サバキ
①ツケ
②相手が厳しくきたら……ナナメ
    穏やかにきたら……まっすぐ
≪棋譜≫(202頁の3図)


【4図】
・黒は7の切りから、11とカカエ。
※三角印の黒(黒a)の一子を捨て石にして、サバキ。
≪棋譜≫(202頁の4図)


【5図】
・白12に逃げたら、黒は13とアテて、15にカタツギ。
・黒19のオサエがぴったりで、封鎖して、黒よし。
≪棋譜≫(202頁の5図)


【6図】
・白としては前図の12と逃げないで、1と切って、3と連絡するくらいのもの。
・黒4まで左辺が厚くなって、黒は大満足。
≪棋譜≫(202頁の6図)


(石倉昇『石倉流攻めとサバキの法則』日本放送出版協会、2005年[2007年版]、200頁~202頁)

【補足】小目の定石(大ゲイマガカリ)~切り違いの法則


・前述の201頁の1図の右下隅にできた小目の定石について、補足説明しておきたい。

<小目の定石~大ゲイマガカリ>
【テーマ図A 黒番】
・白6の大ゲイマガカリは、小目へのカカリの中で、最もわかりやすいカカリ。
 覚える定石が少ないうえ、悪い手になる場合が少ない。
 こんな楽な定石は、なかなかないという。
(著者のおすすめの手である)
・大ゲイマガカリに、黒7とハサミ。
≪棋譜≫(56頁のテーマ図)


〇白の立場で考えてみよう。
 ハサミへの対策を知っていれば、大ゲイマガカリを自信を持って打てるようになる。
≪棋譜≫(70頁の4図)

・右辺は黒の強い所だから、苦しいときには、白1とツケるのがコツ。
・黒としては、2とハネ出すほうが厳しくてよい。
・黒が厳しくきたら、白は3とナナメに打つ。
※「ツケてナナメ」がサバキの極意である。
<ポイント>
【サバキの原則】
①サバキはツケ
②・相手が厳しくきたら……ナナメに動いて、捨て石
 ・相手が穏やかにきたら……まっすぐ動く
※強くなったら反撃せよ

☆ここからの変化を詳しく見てみよう。
※白3は切り違いである。
 よく「切り違いは一方をノビよ」というが、これは例外の多い格言である。
 石倉流切り違いの法則は、次のようになる。
<ポイント>
◎切り違いの法則
〇自分が多いとき……ノビ
〇相手が多いとき……アテ
※アテは大切な石から

≪棋譜≫(71頁の5図、6図)

※黒のほうが石数が少ないので、この場合はアテが好手になる。(黒(17,十二)は遠いので勘定に入れない)
・黒4、6とアテて、8とツグのがいい。
・白は9にオサえることで、三角印の黒を制する。
・黒10のトビは一見、危なそうに見えるが、三角印の黒があるので大丈夫。
・白が11と出て、13に戻り、黒も14にツイで、定石の完成である。
※黒が厚く、よさそうに見えるが、黒が一手多いことを考えると、これで互角と見られる。

(石倉昇『石倉流攻めとサバキの法則』日本放送出版協会、2005年[2007年版]、56頁、70頁~71頁)