笛吹きひゃらりのひゃらひゃら日記

器用貧乏系OLひゃらりが平穏な日常の中でフルート吹いたり歴史に夢中になったりしている日記です。

偽ドミトリーという存在③【お気に入り人物伝】

2010-08-09 23:52:27 | ロシア史なお話
 さてさて。
 
『殺害されたはずのドミトリー皇帝は生きていた!』というウワサがまたもロシアを駆け巡ったわけですが、これについてちょっと詳しく調べてみたいと思います。
この人、偽ドミトリー2世と呼ばれています。
ちなみに先代の偽者(偽者に先代って…)のことは偽ドミトリー1世という呼び名がついています。
こちらがその偽ドミトリー2世。ワイルド。
もともとは辺境の地で教師をしていたとも、流れユダヤ人であったとも言われています。
 ロシアとポーランドの国境あたりで出現した彼は先代の側近(というか先代の反乱軍の黒幕)に擁立されてモスクワに進軍、
モスクワ近郊のトゥシノに本陣を置きました。
側近はご丁寧にも偽ドミトリー1世の妃であるマリーナ(逮捕後、祖国ポーランドに強制送還されてました)を呼び寄せ、
『感動の再会』を演出します。
(マリーナはなんとこの後、偽2世と子供まで作ってしまうんですよ!)
うまいこと民衆達たちは偽2世に心を奪われ始めて、
皇帝ヴァシーリーは危機感を覚えます。
あんなに丁寧に殺したはずなのにね、おかしいね?
そしてあせったヴァシーリーは、さらに民意を失う愚挙に出てしまいます。
ポーランドとはまた違う隣国であるスウェーデンに特使を送り、
「ロシア領土をあげるから味方して!軍出して!」と要請。
為政者にとって、勝手な国土の割譲ほどキケンな政策はありません。
人心が離れるに決まってます。
スウェーデンにしてみればこんなオイシイ話はないので、
ヴァシーリーに恩を着せながらモスクワに援軍を出し、偽2世軍を攻撃。
偽2世軍はみるみるうちに弱体化していくのです。
そうすると偽2世に加担していたポーランド勢は「やーめたっ」と離脱して本国軍と合流するわ、
宮廷じゃ反ヴァシーリー派がクーデター起こすわ、
ロシア、ポーランド、スウェーデンが3つ巴の争いを繰り広げるわ、
ポーランドの王子がモスクワに乗り込んできて貴族の一部が皇帝に推挙するわ、
その王子が実家の親父さん(ポーランド国王ですな)と仲間割れするわ、
 
…ひっちゃかめっちゃかじゃありませんか。
 
こんな状態のさなか、
四面楚歌の偽2世はポーランドに見限られたことを察知して逃亡します。
そして落ち延びる最中に手下と仲間割れを起こし、刺殺されてしまいます。ぐさーっ。
 
 
これで終わりかと思いきや、間髪入れずにまた出てくるんですよ。
…何がって? 
 
『実は実は、ドミトリー皇帝は、生きていた!』
 
1号、2号、そんでもって3人目。
仮面ライダー的にはV3です。
V3は1世や2世に比べてけっこう地味。
肖像画も、探したけど見つかりませんでした…、
支持者も少なかったし話し方やら存在感やらの説得力にも欠けたようで、
名乗りを上げた翌年には逮捕されて処刑されています。
こういうキャラが後になればなるほど小粒になっちゃうのは、いたしかたないですなぁ。
 
V3が亡くなったころから、なんとなくロシアの動乱は収束へ向かっていきます。
国民による義勇軍が結成されてモスクワで蜂起してポーランド勢から首都を奪還し、
全国会議を召集して新しい皇帝を選出したのでした。
その人こそ、ミハイル・ロマノフ。
ここからおよそ300年、ロマノフ王朝が続くこととなるのです…。
 
ここまで3部構成で動乱時代における『偽ドミトリー』という特異な存在に関して追ってみました。
内乱期に数多の勢力が戦国模様を繰り広げるのは世の常ではありますが、
やはりロシアは他国に比べてカラーが強いような気がします。
それがかの国の魅力と言えばそうなんですが…

参考文献:
『ボリス・ゴドノフと偽のドミトリー-「動乱」時代のロシア』 栗生沢武生 山川出版社
『ロシアとソ連邦』 外川継男著 講談社学術文庫
『イヴァン雷帝』 アンリ・トロワイヤ著 工藤庸子訳 中公文庫
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