白河夜舟

水盤に沈む光る音の銀砂

ご報告

2006-04-22 | 公開書簡
みなさんへ、お知らせがあります。





Lanonymatの名前を冠しての活動を再開します。





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Lanonymat。
もともとは2002年に結成したピアノトリオの
名前なのですが、
当初、ぼくが主宰する音楽プロジェクトはすべて
この名義で行うつもりでいました。
何も主張せず、何も強要せず、
ただ、名もない音が生まれ、消えていく場所が
生まれるように、という願いを込めて、
フランス語の「無名性」を意味する語から取りました。





その後、さまざまの事情や、自分自身の思いもあって
演奏活動を完全に停止してしまっていたため、
もはやハンドルネームに成り果てていたのですが、
今春、僕自身がようやく動こうという気持ちになったので、
封印をとくことにしました。





編成は、ピアノとトランペットのデュオから始めます。
完全即興のユニットです。
ソロ・コンサートにホーンが乗るような音から
おそらくは始まるのでしょうが、
互いの持ち合わせている文脈を螺旋状に編み合わせ
縒り合わせて行く過程で、
どのような音が放射されていくのかが楽しみな
ところでもあります。





互いがキース・ジャレットという文脈を
持ち合わせていることから、
ある程度は出てくる音の傾向については
想像がついてしまううらみがありますが、
その点、僕自身の背景にあるさまざまの音を
楔代わりとして、
いままでなかったもの、そしてこれからも決して
ありえないものを目指すことが出来れば、と
思っています。





今後必要に応じて、ベース、ドラム、DJなどを加え
編成を変えるかもしれませんが、
ひとまずは、デュオでのライブを経て、といった
ところでしょうか。
ライブの時期は未定ですが、決まりましたら
告知したいと思います。





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活動再開に当たって共演者に選んだのは
類まれな才能をもつトランペッターであり、
彼とは互いの才能に敬意を払い合えるような
音楽的には稀な信頼関係にあります。
ぼくは彼の感性を信頼しています。





もともと、ぼくが大阪を去る少し前、
彼のほうから、デュオでなにかできないか、という
オファーはありました。
けれど当時、ぼくの精神状態や衰えてしまった
演奏技術やインスピレーションをもってしては
彼の求めるものに応えられない、という思いから、
ぼくはオファーを断りました。





彼が音楽を棄てるかもしれない、という噂を
耳にしたのは今年初めのことです。
ちょうどその頃、ぼくは音楽活動の再開を
企て始めていました。
それには彼の力が欠かせないと考えていたぼくには、
彼を音楽に戻せるかどうかが、とても重要な問題でした。





そして一ヶ月ほど前、ぼろぼろのピアノで試みた
即興の場所に居合わせた彼は、
ぼくの音を聴き終わったとき、
「そこに、入れないですか?」と言いながら、
楽器を取り出したのでした。
このとき、ぼくはLanonymatの名前を使おうと
思ったのです。
音が始まろうとして、こころのなかに、静かに、
波紋が生まれ、拡がり始めました。





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美しいものは狂気を孕み、滅びいくものへの
限りない憧憬を示しがちですが、
心臓を羽毛でなぞるような音のなかには
その鼓動が必ず転移していて、
生を証するような力が始まろうとするものです。





あらゆるものの始源、ミシェル・セールによれば
「基調の響き」とでもいうもの、
これが、バシュラール言うところの「想像的墜落」の中に
極限の燃焼を瞬時に示しつつ消えていくようす、
そのなかを、音の現場に居合わせるものが
「生き尽くす」ことができるように。





どこまでできるかはわかりませんし、
試みは挫折のうちに育まれるものでもありますから
成果というものは望んでいません。
ただし、音に触れたものに傷をつけること、
それに気付かぬうちに瘡蓋をつくること、
こうしたずるい試みが許されるのであれば、
ぼくたちの試みはある程度、成されたことにも
なるのでしょう。





砂時計のくびれた場所へと音を注ぎ込み、
そこから降り落ちた音の粒が、砂時計の底に
ぱっくりと大きく口を開けた漏斗状の闇へと
落ち込んでいくまさにその瞬間に、
一閃、まばゆい瑠璃色の、珊瑚色の光彩を放ち
刹那、紫黒班へと転じて寂滅するさまを
聴き手の頭蓋へと、幻燈のように投影し、
影絵のように残像することができたら、と
思っています。





胸のなかに重く、鉛でも抱えたかのように霞みかかり、
しかしそれは発熱して切なくこころを燻すような、
それを排気しようとすればおもわず歌になるような、
苦しみをやさしく、微笑して抱きしめたまま
じっと動かないでもだいじょうぶなように、
そんな場所が生まれることを願って、
音を試みようと思います。





そろそろ、動きます。





Lanonymatの再始動に、どうぞご期待ください。

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1 コメント

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とうとう (maldror)
2006-04-26 08:20:04
復活されるのですね…!次の報告を楽しみに待ちます!!
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