白河夜舟

水盤に沈む光る音の銀砂

奇想のマリーサ

2008-12-22 | 日常、思うこと
仕事を終えてホテルに戻り、
皇居、国立劇場、最高裁判所を眼下に、
奥にはペニンシュラ、警視庁、合同庁舎群、国会議事堂、
東京タワーを望みつつ、
Mixi radioから流れるエグベルト・ジスモンチを聴きながら
文章を書いている。





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12月21日午前11時53分発のぞみ12号8-3Aに座り
昼食のサンドウィッチとエビスビールを交互に口に運びながら
富士山の見えぬ車中で時間を慰めているうちに、
13時33分東京駅着、丸の内南口からタクシーに乗りこむと、
半蔵門へ向かう車窓の光景は、
天皇誕生日を控えて記帳所の設営の進む広大な皇居前広場と
国会議事堂、三宅坂周辺に残る皇居濠端の巨大な土塁、
程なく宿へと到着。





予定時刻よりもやや早いチェックインの後、
慌ただしく身なりを整え、半蔵門から東京メトロに乗り、
三越前を経由して銀座線に乗りかえ、上野にて下り、
公園口から段を昇り、西郷像を右手に公園をしばらく歩くと
上野の森美術館、藤田嗣治展の会場は思ったほど混雑しては
いなかった。





東京は太平洋高気圧の季節外れの流入で暖気に覆われていた。
この陽気ではトレンチコートは場違いで頓馬である。
午後3時過ぎ、携帯電話が震えて、着信を受けて振り向くと
50mほど先に、待ち合わせた日本画家が立っていた。
マリーサ・モンチに似た麗人である。





眼の共有を場の共有へと振り替えて、自由気儘に作品を眺め
1時間ほどを過ごしたあと、
上野駅へ引き返して銀座へ向かうことにした。
藤田の宗教画は猥雑な匂いがした。
危うく地下鉄を乗り間違えかけるところだったものの、
無事銀座線を見つけて乗り、京橋で下りて、
そこから銀座の街へと歩くことにした。
地上へ出たところで、彼女は北を南だと指さした。
しばしの逡巡の後に何とか正確な方位を見定めることが出来、
分裂的で妄想に溢れた冗談を交わしながら歩くうちに、
大通りいっぱいの人間の海が眼の前にひらけはじめた。





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まず、山野楽器に立ち寄り、3階のジャズブースにて
「ジャパネットたかた&寺山修司のテレビショッピング」の
ネタを披露しながら、Radoka Toneff「Fairytales」を購って
画家へ贈呈したあと、
銀座ウェストにて好物のリーフパイを50枚ほど購い、
資生堂ギャラリーに移り、津田直の写真展を眺めてから
近くの喫茶店でしばし休息をとった。





芸術家がものを書くことは作品からの逃走であることや、
自分が制作したものについて、どうやって作ったのかは
実は本人にもよく分かっていない、ということ、
作品がいったん公にされれば、作品の謎はひとりでに
雪だるまのように膨れ上がること、
哲学とは、眼差しに目蓋をおろしたときに網膜に映る
影像を見つめること、
倫理学とは、哲学の影像を保って再び眼を開けること、
表現行為にはトランスが常に付属すること、
埴谷雄高など、形而上学と現象学を往還しながら、会話。





喫茶店が早く閉まったので、予約していた時刻よりも早く
秋田料理専門店に赴くと、
カウンター席予約であったはずが、かまくら型の個室へと
案内された。
秋田料理というものを口にしたのは初めてだったのだが、
いずれも親しみやすく飾り気のない、純朴な味をしていて
おいしく頂いた。
初めて口にしたきりたんぽのおいしさを伝えようとして
顔をあげると、麗人がきりたんぽを先端から、かぷり、と
咥えていた。





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7時過ぎ、恒例であるという「なまはげショー」が始まり、
秋田からの派遣なまはげが突如個室へ踏み込んできた。
何かを大声で言っているのだが、訛りが強いので
いったい何を言っているのか、まったく見当がつかない。
え、と聞き返すと、なまはげの訛りが少しほぐれた。
一時期山形に住んでいたという画家の通訳によって
ようやく、悪いことはしていないか、という意味であると
理解できた。
はい、わるいことはしてません、ぼくたちは純潔です、と
先代馬風に思いきり痛罵されそうな返答をして、
なまはげに帰ってもらった。





ここでも、「麻生太郎の職業相談」や「貴乃花親方」などの
持ちネタを披露しつつ、
芸術論とマンガ考と狂気について、感覚のみを杖として
混淆とした会話を続けた後、
9時30分、店を出て、数寄屋橋のジャズバーへと移り、
ヘミングウェイで乾杯をした。
この時点で、ビール1本、日本酒4合ほど飲んでいたため
こちらは随分出来上がっていたのだが、
画家はほとんど顔色も変えずに、ラムを飲み干したと思うと
グラッパを頼み、これもするるる、と喉奥へ灌いだ。
降参、である。





相当のインテリと思しき経済人と同席して、少しばかり
経済の話をしたあと、店を出ると、時計は零時を回っていた。





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風が落葉を巻き上げるなかを並んで八重洲まで歩き、
画家を無事に高速バスへと見送った後、
タクシーに乗り、ホテルへ戻った。





昔、僕は亀甲縛りのできる女性を知っていたが、
画家は、何日か後にパピヨンマスクと網タイツと鞭を持って
ピンクレディを歌うという。





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これから、しばらく休んでから、渋谷へ。






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