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京の辻から   - 心ころころ好日

名残りを惜しみ、余韻をとどめつつ…

17音の先に

2023年07月08日 | こんな本も読んでみた

江戸の春の大火で巻き添えを食った犬や猫、鳥を憐れむ一茶。その夜、蛙が鳴いていた。
というところで引用されていたのが、〈蕗の葉を引きかぶりつつ鳴く蛙〉。

継っこ育ちの一茶。父親の遺言書を手に、「遺産を半分貰わないではおかない。見てろ、おさつに専六。なめるなよ、おれを」
と継母と異母弟に迫り続けるが、「忌めましい業つく張りがまだ、たんごろ巻いていやがる。図太て野郎だえ」とおさつに罵られ、いっこうに取り立てられない。祖母の33回忌の折にようやく取極め一札の証文を得た。
けれどそれでも終わりとせず、過去7年間分…、30両を払えと言い出す一茶。
どうなるこの一件…(『ひねくれ一茶』)。

ある席で(『北越雪譜』で知られる)鈴木牧之と知り合う場面があって、そこにこんな言葉があった。「私が数十行を費やして書いたのより、一茶さんの句のほうがぴったりだ」

原稿用紙10枚より31文字で、とか言われていたのは道浦母都子さんではなかったか。
気になって、切り抜き探しが始まった。

  
早大に入学してまもなく学生運動にのめり込んだ道浦さん。「純粋に反戦や平和を願う気持ちから出発したはずなのに…」と理想が社会と乖離していったことを語っておられたのを読み返し、やはり学生運動に走った弟のことが念頭にのぼった。
「純粋に反戦や平和を願う気持ちから出発した」、…そうだったんだろうなあ。

〈炎あげ地に舞い落ちる赤旗にわが青春の落日を見ゆ〉
  東大安田講堂“落城”の日に「生まれた」一首が歌人として立つきっかけだったという。
〈「始めの一歩」踏みはずしてより辻褄の合わぬ人生たぶんこのまま〉
〈明るい国いえ死んでいる国なのかシュプレヒコール聞こえてこない〉

「原稿用紙千枚分を三十一文字で表現するような一首ができるかもしれない」と記されていたから、桁違いの思い込みだった。

生きものにやさしい、暖かくほっこりした心を素直に、息するように次々と詠む才のある一茶。
けど、そればかりじゃない。知らなかった一茶の姿が膨らんでいく。


コメント (2)
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