京の辻から   - 心ころころ好日

名残りを惜しみ、余韻をとどめつつ…

文字以外には担えない

2022年12月26日 | こんな本も読んでみた
書店員や出版営業の仕事にライトが当てられ、業界の知らなかった多くのことを垣間見た大崎梢作品だった。
「本屋って、儲からない、利益率が低く、経費ばかり、さばけなければバイトの時給も払えない」
廃業する街の小さな書店。倒産する出版社。

書店員のつくった一枚のポップから、全国的なベストセラーになったのが『白い犬とワルツを』だそうだが、小説内では、大型書店のフロアマネージャーの発案で、「輝け! ポップスターコンテスト」が開催された。

文庫本を扱う出版社の営業マンで、その店担当というのが参加資格となり、10人がエントリーした。
自社本から1冊、他社本から1冊、プッシュする本を選び、各自でポップを作製、平台に並べて売り上げを競うというもの。ただし、ポイントを競うのは他社本で、とっておきの1冊であること、みんなが忘れて埋もれてしまったような1冊を発掘する必要があった。
優れたポップで、販促、活気、売り上げに貢献したものがチャンピオンに。その賞品は、翌一か月間その人の会社の本に平台が提供される、というもの。
ここでも「謎解き」は仕込まれている。

これまで店頭でポップを読んで購入を決めたことはなく、さほど関心も持たずに来た。
「限られた売り場の中で、どの本にどのポジションを与えるかは書店員の采配にかかっている」と。ポップだけでなく、書店内を見歩く時の意識が変わるような気がする。

 

「大きな街の大きなチェーン店ばかり残ると、本屋は、そこに足を運ぶ人だけのものになる。
できるだけ身近に、歩いたり自転車に乗ったりすれば行けるような日常のそばになければ、人は本も本屋も忘れてしまう。
本屋を知らずに育つ子どもが増えて、ますます本屋ばなれが進む」

でも! でも、だ。
「想像し、分析し、総合する知性は文字以外には担えない。
ものを考えたり、書いたりという欲望がある限り、本は作られる」(『読書と日本人』)
津野海太郎さんの言葉が心強い。

『本バスめぐりん』のひとしずくを受け止められたことが嬉しい。ここから始まった。
今年の収穫の一つを、息子に話してみよう。
コメント (2)
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