京の辻から   - 心ころころ好日

名残りを惜しみ、余韻をとどめつつ…

あなたのお越しをお待ちします

2022年11月13日 | こんな本も読んでみた
若い方のブログで『本バスめぐりん』(大崎梢)が紹介されていたのを拝見し、早速購入して楽しんだ。著者は13年間にわたる書店員体験があるという。並んでいたデビュー作『配達あかずきん 成風堂書店事件メモ』と合わせて。


移動図書館、“本バスめぐりん”に乗り込むのは定年退職後に再就職した65歳の新人運転手テルさんと25歳の図書館司書ウメちゃん。
積み込む3000冊の本は向かう先々の利用者の好みを知って入れ替えられ、市内16か所のステーションを巡る。そうした日々にさまざまな利用者たちとの出会いを重ね、時にトラブルも抱える。見知らぬ人が「めぐりん」を介して近づきあう瞬間が温かい。
ーここにいますよ。二週間に一度。雨の日も晴れの日も曇りの日も。
  あなたのお越しをお待ちしますー

『配達あかずきん…』では書店の日常業務も描かれ、客との関わりの中で事件が持ち上がる。むろん警察沙汰というものばかりではなく、書店員杏子とアルバイトの学生の多絵を中心にして謎が解き明かされていく短編集だった。
これまで文庫本の背に表示されている記号や数字を意識することなくいたことに気づかされた。

独り暮らしで80歳に近い寝たきりの清水さんから、本を差し入れてほしいと頼まれた男性が成風堂を訪れた。清水さんが不自由な言葉で伝え、うまく聞き取れないままメモされた紙には、
「あのじゅうさにーち いいよんさんわん ああさぶろうに」
と呪文のような言葉がならぶ。出版社は「パンダ」だと言ったと断言した。

「ああさぶろうに」では →「あ」の「さぶろうに/3.6.2」→「あ」の「36」番目は新潮文庫で綾辻行人を指す→その「2」番目の本、…となると『殺人鬼』。
読書家だった清水さんが、パンダの絵のある新潮文庫目録からタイトルに変えて発した記号や数字は、助けてほしいというSOSのメッセージだったのだ。

どの話も平板ではなく、文学臭も濃く、細やかに描き込まれて解明への道をたどっている。
なかなかの作品だなと、謎解きを追い追い楽しんだ。


日に30点近い文庫本新刊を平台にどう並べるかは難題で、微妙な法則があると書く。
通は平台を見ただけで、その本屋の個性と担当者のセンスを見切る、と言われているとも。


図書館と書店とでは本の流れが異なるが、「本を一冊読むたびに、自分の中の窓が開く感じなんだな」と言うベンの言葉(『プリズン・ブック・クラブ』)が思い出され、だからこそ、読書は面白い!といいたくなる。

【彼女の隣には、物言わぬコミックが一冊、いつも寄り添っていたのだろう。傷ついても裏切られてもあきらめず、希望をなくさず、ギリギリのところで勇気を振り絞り、苦境に、立ち向かっていく主人公が。そして、たくましくも陽気な、その仲間たちが。】
コメント (2)
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