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【ネットから読み解く】 映画「この世界の片隅に」火付け役SNSの波及力

2016-12-21 10:00:31 | 報道

(C)こうの史代・双葉社/「この世界の片隅に」製作委員会
(C)こうの史代・双葉社/「この世界の片隅に」製作委員会

 

アニメ映画ブーム(2)

 現在、インターネットで映像作品を安く気軽に楽しめるようになっています。このため、観客に劇場へ足を運んでもらい、1000円以上を支払ってもらって収益のあがる映画ビジネスが厳しい局面に立たされています。

 映画ビジネスの基本的な構造と、公開前の「情報」と公開後の「評判」の量が成否を左右することは、前回説明しました。

 これまでは、テレビや雑誌などのマスメディアに広告費を投下して情報を広め、上映館数と観客数を増やして評判をさらに広めていくのが映画ビジネスのセオリーでした。ところが、ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)などの普及で、この構図に変化をもたらしている映画があります。11月公開のアニメ映画「この世界の片隅に」です。

 なお、筆者はこの映画をプロデュースしている株式会社ジェンコのアドバイザーを務めています。この映画の宣伝で、SNSなどに関する助言を行いましたが、ここではその立場を離れて、ネット上での映画の情報の広がり方について紹介します。

コアなファンの継続的な情報発信

 「この世界の片隅に」の特徴の一つは、ネット上で特定プロジェクトへの出資を募る「クラウドファンディング」で、資金調達に成功したことです。1口1万円で作品のエンドロールに名前が表記されるなどの見返り・報酬(リワード)が用意され、目標額の2000万円を大きく上回って3900万円を集めました。この費用は、公開前の試作版である「パイロット版」の制作などに活用されました。

 クラウドファンディングの成功には、片渕須直(かたぶち・すなお)監督の前作「マイマイ新子と千年の魔法」が、評価が高かったものの興行的には失敗したという背景があります。その経緯を知る人々が、「今度こそは」と支援に加わったのです。

 クラウドファンディング出資者は、コアなファンです。彼らが公開前からSNS上で作品に関するツイートなどを数多く、継続的に発信していました。また、片渕監督自身も原作者こうの史代氏とともに、膨大な取材資料を紹介したり、作中に登場する料理を実際に作るなどのイベントを展開して、コアなファンに「口コミの材料」を提供し続けました。イベント数はクラウドファンディングを開始した2013年11月以降30回以上に達しました。

観客にサインをする片渕須直監督=2016年11月26日、庄司哲也撮影
観客にサインをする片渕須直監督=2016年11月26日、庄司哲也撮影

公開以降の「評判」が新しい観客を呼び込む

 「熱意を持ったファンが作品を支えた」と言えば美しい話ですが、現実は甘くありません。ネット上のキーワード検索回数を把握するサービス「グーグルトレンド」で、公開前の検索回数を他作品と比べてみましょう(グラフ参照)。グラフは、9月公開時で上映館数120のアニメ映画「聲の形」と、10月初め時点で比べたものです。

ネット上のキーワード検索回数の比較。赤線が「聲の形」、青線が「この世界の片隅に」。公開前の検索回数は少なかったことがわかるネット上のキーワード検索回数の比較。赤線が「聲の形」、青線が「この世界の片隅に」。公開前の検索回数は少なかったことがわかる

 監督とコアなファンを中心にSNS上で小さく盛り上がったものの、ネット全体では検索回数が圧倒的に少ない状況でした。つまり、情報の広がりという点では、うまくいったとは言えず、厳しい状態が続いていました。大手配給会社の作品に比べれば、宣伝にかけられる費用も小さいので、当然といえば当然です。

 ところが、11月に公開されると、徐々に多くの「評判」がSNS上に上がるようになります。象徴的なのが、片渕監督のツイッターアカウントのフォロワー数です。公開前は8000ほどでしたが、片渕監督がSNS上の感想をリツイートしたり、舞台あいさつをした劇場の様子を実況したりすると、1万5000を超えました(12月5日現在)。作品の公式アカウント(公開前フォロワー数7000弱から公開後に2万超へ)と合わせて、濃密な情報を発信しているのです。

 公開後の評判は、監督や原作者、コアなファンから一般の観客へと広がりました。公開1週目で映画観客動員ランキング(興行通信社調べ)10位に入ると、2週目も10位を維持して、3週目には6位、4週目に4位にランクアップして快進撃を続けています。動員は32万人を超え、上映館数も増えつつあります(12月6日現在)。時間の経過とともに観客数が下がるのが映画興行の常識ですが、それを覆す一つの例になりつつあるのです。

SNS上の声が大きなうねりを起こし始めている

 SNS上の「評判」は、映画の観客など一般人の行動に与える影響は大きくないとされ、効果は疑問視されていました。ただ、SNS上で盛り上がっている出来事をマスメディアが大きく報道するケースも増えており、SNSの影響は無視できないものになっています。

 「この世界の片隅に」は、クラウドファンディングやさまざまなイベントで、コアなファンの声をSNS上に数多く提供することに成功しました。これらが映画の注目度を高めることに果たした役割は小さくないはずで、一般客やマスメディアを引きつける土台にもなったのでしょう。上映館数も増えつつあります。快進撃がいつまで続くか、業界全体が注目しています。

 今年は、英国の欧州連合(EU)離脱や、米大統領選のトランプ氏勝利など、SNSによる大きなうねりがあちこちで見られました。映画ビジネスでも、規模は小さいものの同様のことが起きていると言えるでしょう。単純に、マスメディアが「主」で、ソーシャルメディアが「従」という従来の構図も変化し始めていると考えられます。

 

 


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