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火星ネズミ(4)

2017-01-21 09:43:39 | 童話
僕は仕方なくみんなに挨拶をした。

『僕も宇宙飛行士になりたかったのです。みんなに迷惑をかけないので火星に連れて行ってください。僕の食べる物とお水は持っていますし、オシッコやウンチを貯めて押し固める袋も持っています。』

三人の宇宙飛行士は相談した。
『今この宇宙船から外へ出したらハツカネズミは死んでしまう。食べ物もお水も持っているし、ハツカネズミは体が小さいので酸素もあまり使わないから連れて行こうか。』

僕は大喜びをして、
『みんなの訓練の様子はずっと見ていましたので、この宇宙船のことは大体分かりますので、僕を宇宙飛行士として手伝わせてください。』

『よしっ、分かった。君には機械の操作はできないが計器の見張りをやってもらうよ。空気の圧力や炭酸ガス濃度、それと電気の状態を毎日記録するんだ。いいかい、君は宇宙飛行士なんだから。』

僕はすごく嬉しかった。
『よしっ、頑張るぞ。』

こうして、僕は宇宙飛行士となり、3人の宇宙飛行士と一緒に、今も火星に向けて飛行している。みんなとミッションを成功させて帰ってくるように頑張っている。
 
             おしまい

火星ネズミ(3)

2017-01-20 21:14:58 | 童話
そして、人間の訓練が順調に進み、僕の訓練も進んだ。

今回のロケットの行先は火星であり、永い宇宙旅行による。
そして訓練が終り、十名の宇宙飛行士から今回乗り込む三名が決定した。
発射の1ヶ月前となり念入りの最終チェックが続いた。
僕もロケットに乗り込む物の最終チェックをした。

機体の確認ができたのでロケットに荷物が積み込まれたが、その時に僕が荷物を持って、そっと乗り込んだ。
成功だ、僕は宇宙飛行士になれるのだ。

いよいよ、ロケットに燃料が入れられて、発射の秒読みが始まった。
僕は足を踏ん張って、発射の時に体にかかる重力のGに耐えられるようにした。

大きな声のカウントダウンのアナウンスがあった。
十、九、八、七、六、五、四、三、二、一、発射。

僕はすごい衝撃を受けて体が床に押しつけられた。
三人の宇宙飛行士も座席に押し付けられていた。
しばらくして押し付けられる力が弱くなり、立てるようになった。

そのあと、こんどは体が浮かび上がった。
今迄隠れていたが、空中に浮かんだので3人に見つかってしまった。

火星ネズミ(2)

2017-01-19 21:22:09 | 童話
それから僕は、みんなが宇宙の勉強をしている教室に入って行き、テーブルの隙間から勉強の様子を見ていた。

そうか、地球の空気が無い宇宙では、宇宙に飛んでいる宇宙線や、太陽からの太陽風が直接当たるので体を悪くするのか。
宇宙船はその影響を少なくするようになっているが、太陽の爆発が大きくなった時は、それでも防げない場合が予想されるので、その時は安全な宇宙服を着るんだ。

そうすると僕も宇宙服を作らないていけないね。
だけれど、僕は機械が使えないので宇宙服が作る事ができない、どうしようか?
そうだ、倉庫に有る宇宙服用の布地を少しもらってきて、ロケットに乗り込む時に持って行こう。もし宇宙で危険になった時に、宇宙服用の布地にくるまっていればいいや。

そして僕は倉庫に行った時に、実験に使った宇宙服用の布地を僕の住家に持ってきた。
その時に、宇宙食とお水、それとオシッコとウンチを貯めて押し固めておく袋も一緒に持ってきた。
宇宙飛行士として、人間に迷惑をかけないようにするためだ。

火星ネズミ(1)

2017-01-18 22:01:04 | 童話
僕はハツカネズミ、僕の仲間には宇宙環境の実験のために、小さなオリに入れられて宇宙へ行ったネズミも居る。だけれど、僕は宇宙飛行士として宇宙に行きたいと思っている。

日本の宇宙飛行士十人は、ロケットの発射による重量に耐える訓練や宇宙船の操縦、そしてボットアームの操作の訓練を毎日行なっていた。

一日の訓練が終ると疲れて、宿舎に帰って食事をしてお風呂に入ったら、すぐ寝てしまうのだ。
ハツカネズミの僕はみんなが寝ている間に訓練の装置を見て回った。
僕は機械の操作はできないが、全部見ておけば人間が実際に訓練している様子が良く分かる。
昼間は見つかってしまうので夜の間の探検だ。

僕の一番のお気に入りは操縦室だ。
コンピュータ画面や計器がいっぱい並んでいる。
まだ全然分からないが、打上げまであと一年くらいかかるのではないかと思うので、その頃までには全て分かる予定だ。

『訓練開始!』教官の大きな声が響いた。
僕は訓練装置の隙間から訓練の様子を見ている。
『ふぅ~ん、そうなんだ。ハッチを閉めるのは、そのボタンで、船内の気圧は、あのメーターで、炭酸ガス濃度は、こっちのメーターなのか。』

計器類の確認が終わったら『Gをかけます。』とのアナウンスがあり、徐々に僕の体が重くなってきて、ついに体が床に張り付いて動けなくなった。
『そうか、ロケットが打上げられる時に体にかかる重力なんだ。』
しばらくしてやっと歩けるようになった。
『ふぅ、大変なんだね。』
それからみんなは、いろいろな計器が異状を示した時に、原因を調べて修理する訓練をやっていた。
『ふぅ~ん、予備の装置がいっぱい付いているんだ。誰もいない宇宙に何年も飛んで行くから、全部自分達で直さなければならないから大変なんだね。』

何日か見ている間にいろいろ分かってきだした。


セミの終わる頃(27)

2017-01-17 21:17:41 | 小説
第十四章 セミの終わる頃

そして、今年の夏も終わろうとしている時に、一匹のセミが遅れてきたようにけたたましく鳴き始めたのを聞き、リミカは今年の夏はどのように終わるのだろうかと考え、活と凛とで暮らしている治子もまた、今年の夏はどのように終わるのだろうかと考えているのが目に見えるようである。

毎年もセミの終わる頃に、リミカは治子や凛との思い出や、治子から聞いていた活の治子への強烈な慕情と勇ましい行動によって、治子がこの地で生きていた時の幸せが思い起こされてくる。

また、治子の後を追っている自分も天との暮らしが、治子を鏡に映したように容易に推察され、今年のセミの終わる頃も去年と同じで、リミカの膝の上に頭を乗せて愛情を表現している天と心で会話を交わしている。

「お前はかわいいねえ。だけれど、お前に子供ができても、その子供が愛情を捧げる女性はまだ現れないね。」

そして、夏が終わろうとしているが、この地は相変わらず夏の暑い日に木々の間を渡って来る風が心地良く、温泉宿の人情味溢れる土地柄と、おかみさん達の飾らないもてなしとで、湯治に来た年配者は、帰って来たという親しみから、リピーターが多いのは今も変わらない。

また、夏になると多くのセミが種の存続のために力強く雌を求めて叫び始めるが、一方で猟師による鹿の間引きはこの夏も行われるという。

何頭かの母鹿も猟師の手にかかり、一人ぼっちとなる小鹿がでると思われるが、猟師の
「最近は鹿が増えて畑の野菜や森の木の芽が被害を受けているので、頭数を減すようにしているんだよ。」
と言う言葉が耳に残る。

リミカは、誰か私の後を追いかけて傷ついた小鹿を助けることにより、その小鹿から自分の死への願望から生きることの使命を教えられ、この地でたくましく生きる女性が現れるのではないかとの予感がして、リミカは自分を追いかけている誰かを確かめるために、セミが終わる頃になると毎年自分の後ろを振り返って見ている。

               完