切れたメビウスの輪(5)

2016-11-30 21:24:24 | 怪奇小説
横顔生夫も縦顔死郎も、昔からの知り合いのような親しみを感じられた。

「どこかでお会いしましたかね?」
「会ったことはないと思いますが、何故か懐かしいですね。」
「そうですね。だけれど、お互いに思い出せないだけじゃないですかねえ。」
「そうしときましょう、古くからの知りあいさん。」

「ところで、あなたは交通事故に遇われたのですか?」
「ええ、タクシーに撥ね飛ばされました。撥ね飛ばされている時は、空を飛行しているようでした。ゆっくりとフワフワと飛んでいましたよ。」
「わたしは、二階の窓から転落しました。わたしも窓から落ちている時にフワフワと飛んでいましたよ。まるでスローモーションでしたよ。」
「そうですね。まさにスローモーションでしたよね。」

「ところで、横顔生夫さんは死んでいるのですか?」
「いいえ、わたしは生きているつもりですよ。そういえば、縦顔死郎さんは死んでいるのですか?」
「いやいや、私は元々死んでいる世界にいますから、これ以上死ぬことはありません。むしろ、生き返ります。」
「ほう、そうなんですか。死んでいる方と親しくお話しをするのは初めてですね。」
「そうですか、わたしも生きている世界の方と話をするのは初めてです。」
「お互い初めてですが、何か不思議な縁ですね。これからも宜しく。」
「私こそ宜しくお願いします。」


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