もっとましな嘘をついてくれ ータイ歌謡の日々ー

タイ歌謡について書いたり、うそをついたり、関係ないことを言ったりします。

Play it, Sam.

2023年02月03日 13時37分55秒 | タイ歌謡
 ちょっとまえ、テレビを点けてみたら辻井伸行さんが独りでピアノを弾いていて、ドビュッシーもチャイコフスキーも悪くない。辻井さんというと、ずいぶんまえに一躍有名になったあと、ラフマニノフのピアノコンチェルト(たしか2番だったと思う)を演るというので楽しみに聴いてはみたが、とてもガッカリしたことがあった。でも、調子が悪かったとか、オーケストラとの共演の経験も心得もなかったのに演らされたとかいう理由だったかもしれず、あるいは素晴らしい演奏なのに、おれの好みではなかっただけかもしれず、だからいち度や二度の不服で見限ってはいけない。
 もう昔話の部類になってしまうが、ミシェル・ペトルチアーニというフランスのピアノ弾きがいて、おっそろしく巧かったんだが、そんなに好きではなかった。先天性疾患で身長が1メートルくらいの異形だったのもあって、直視してはいけないような、眼を逸らしたくなったのかもしれない。そういうことで眼を曇らせてはいけないと、今になって思うが、その曇りを覆すほどの衝撃を受けなかったってことなのか。だからあんまり気にしていなかったんだが、彼の晩年の頃だと思うがバンコクのタワーレコードに試聴盤があって、試しに聴いてみたら、いい。すごくいい。なんて、うつくしい音なんだ。すぐ買った。帰ってすぐ聴いた。やっぱり、いい。
 晩年に近づくにつれ、凄い演奏を残している。
 だから、簡単に見限ってはいけない。
Michel Petrucciani - In a sentimental mood
 ろくでもない死にざまで、ジャズマンの面目躍如なのかもしれないが、もう少し長生きして欲しかった。泥に咲くのが蓮の花なんだが、泥が汚いなんて誰が決めたんだよ、というような生き方だった印象がある。作品について良いとか言うのは勝手だが、生き方に意見するのは越権行為だよね。

 もう10年もまえのことになるのか、佐村河内守という人が評判になり、Youtubeでチェックしてみてもピンと来なかったんで、貸しCDを借りて聴いてみた。ケチだからね。買うまでもないと思ったのだ。で、ちゃんと聴いてみたけど、好きになれなかったんで、そのまま忘れていたら、やがてウソつきだと世間を騒がせた。でも、曲がつまらないってことで怒ってる人はいないようで、「そこじゃねぇよ」と思ったが、今にして思うと、新垣隆さんがヤッツケで作った曲を佐村河内に押しつけたけれど、曲がつまらなくて世間が怒ったって話ではなかったわけで、「なーんだ。インチキか」で済む話ではなく、佐村河内のキャラクターがヘンに立っていたので玩具にされちゃったって感じか。インチキがバレて騒動になったのが2014年で、この年は野々村・小保方・佐村河内のドリームチームが話題になった。どれも原因は、その3年まえの東日本大震災だ。確証などないが、言い切ってみた。
 まあ佐村河内がインチキでも何でもよかったのは、おれたちには大島ミチルさんがいたからで、あのひとの作る曲は良かった。おれたちには大島ミチルさんが、いたじゃないか。

 インチキということとは少し違うが、どうしてこの人が、という人が評価されているというのはクラシック界では少ない筈なんだが、魔女みたいなピアノ弾きの婆様は、なぜ評価されてるのか全然わからない。ルパンのほうのフージコちゃんは昭和の女性キャラクターのベスト5に入るだろうが、ピアノ弾きのほうはヘタクソではないが騒ぐほどのものか? まったく解せない。
ポンコツクエスト~魔王と派遣の魔物たち~第三十章「迷宮」
 ヘタではないが、ってのならヴァイオリン弾きのおばさんもそうでタカシマ一族の者だ。なん億もする楽器を持っているんだって威張ってたが、優秀なソリストなら財団が楽器を貸し出すのが普通で、だから高価な楽器を自分で買ったってのはまったく自慢にならないと思うが、あのおばさんも街の音楽教室の先生レヴェルでなら巧いと思う。オーケストラのコンサートマスターになれるタマではないし、ソリストでもない。なにかと気違いじみた言動でテレビを賑わせているが、ああいうキャラクター設定を演じているのかもしれない。
 ただ、音楽ひと筋に打ち込んだ者には、一般常識に欠ける者もいて、それもやむを得ないのかもしれない。有名どころでは克美しげるなんかがそうで、でも歌には罪がない。歌を聴いて、「あ。これは殺ってるな」と思わないし、克美しげるの歌を聴いて「うおー。誰か殺してぇー」とは思わない。もちろん殺人犯のほうが良い歌を歌うってこともない訳でね。まあ、アレだ。「善人なほもて往生す 況んや悪人をや」ってのを読んで、「そうか! 悪人の方が良いのか!」って思っちゃう人は、いるもんだ。
 人間的にクズで最低だと有名なのは吉幾三だが、歌と作曲は悪くない。
 てことは、品行方正で性格も温厚なのに、世の中を呪うような歌詞のデスメタルのヴォーカルなんてのがいてもいいんだが、そんな奴聞いたことがないよね。高校生バンド辺りにはいそうだが、だいたい良いところに就職しちゃうんだろうね。「これでも若い頃はデスメタルとかやってたんですよね。髪逆立ててギター弾いてました」ってはにかんでたりして。
 右手に斧、左手に花束、唇に歌、心に太陽と月、ポケットには札束とビスケットと毒薬。
 中国人だったら、あとは中華鍋を背負って、家を出る。
 またテキトーなことを言ってしまった。

 ピアノ弾きの話だった。若い頃の友人で愛知県出身のピアノ弾きは、ごりごりとハードバップを弾きまくる、左手のタッチの強い男だったが、その演奏とは裏腹に寡黙で地味な風貌だった。バンドマンには珍しく国言葉の訛りが抜けない男で、「わしのツレが音響やっとって、あ。音響ってシビャーだがね」と言い出して、あー、そうなんだ。たしかに音響ってシビアかもね、と応じたら、笑いながら静かに言った。「トロくっせゃぁこと言っとってかんわ。シビアじゃにゃぁてシビャーだがね。シビャー」文字にするとキツいようだが、これを、のんびりと言うのだ。ちなみにシビャーってのは芝居のことだった。わかんねぇよ。
 その寡黙なピアノ弾きが、いち度だけ暴力行為に出たことがあって、バンドの演奏中、いきなり席を立って、す、す、す、とギター弾きの背後に歩み寄り、とつぜん右足の膝を己が胸に引き寄せたと思ったら、やおら足の裏でギター弾きの背中を、蹴った。
 蹴られたギター弾きは、演奏を続けながら前転のようなアプローチで床を前頭葉で受け止めた。ごち、と鈍い波動が床を伝って、おれたちの足に届いた。
 ギター弾きが瞬時に立ち上がり、「なにすんだ!」と言いながらブロックコードを刻んでいたのには驚いたが、ピアノ弾きも、はっ! と我に返り深々と頭を下げ、「あ。すまん。なんかハラ立って……」と事の顛末を簡潔に説明したので、ギター弾きも「お。おう……」と演奏を中断することなく終えたのは、誰もが判断停止状態になっていたからだと思う。メンバー全員が「なんだ? なんなんだ? わっかんねーな、これ」と思いながら演奏に逃げていた。
 演奏を終え判明したのは、ピアノの和音とギターの和音が重なってぶつかるフラストレーションが少しずつ溜まっていき、それが臨界点に達しての狼藉だということだった。ジャズの場合、細かく音符が並んだ楽譜があるわけではなく、音符で書かれているのはテーマだけで、あとはコードネームだけ書いてあるのが普通だ。そのコードを弾くときの手癖が演奏者によって違うので、音の重複ってのはあまりないのだが、ときどき音解釈が似たピアノ弾きとギター弾きが遭遇して、しかも合いの手を入れるリズム感覚も似ていたら、これは、ぶつかる。しかもぴったりシンクロってことでもなくて、似てるけど微妙に違うって、それもキモチワルイ。
 似たような和音が重なると、「ちぇっ」って気持ちになるんだが、それが、なん度も繰り返される。頭で考えた「ちっ、こいつヤだなー」ではない。音で考えているときの不快が溜まっていくんである。臨界点で、身体が動く。もうね、それはしょうがない。「蹴りたい蹴りたい蹴りたい」という気持ちが溜まって重なったのではなく、音が積み重なったのだ。不快な音が。うーん。そりゃ蹴っちゃうかもね、と周りのメンバーもわかるから、「ぼ暴力は、いいけないと、お思います」なんて言わない。困ったな、って顔するだけだ。
 けっきょく、このときはギター弾きがフェードアウトして終わりだったんだけどね。こんなのジャズか他のジャンルの即興演奏の人にしかわからないことなんだろう。
Casablanca Play it again, Sam Scene (HD & Sub)
 ピアノ弾きが出てくる映画なんてのは、いっぱいあるんだろうが、そのピアノが主人公でも何でもなく、でもピアノ弾きをきっかけに物語が動き出す、ってのの古典的な名作が「カサブランカ」だ。冷静に観るとプロパガンダ映画だ。「ナチス・ドイツはいかんぞ」が前提。そのさらに前提になってるのが「戦争は痛いからイカン」ってことか。そこにメロドラマが乗っかってる。夢破れて隠遁めいた暮らしの男と、遠く離れてレジスタンスに生きる女。かつての二人は愛し合う革命の闘士だった。そんな別々の二人が、ピアノ弾きを挟んで、また巡り逢う。お互いがお互いを見つけてしまった。
 国だ! 民族だ! 誰もが命を賭けている。だがな、おれたちは愛だ。国よりも愛を取る! 民族なんかよりも、おれたちの愛なんだよ!
 手垢の付いた、紋切形のメロドラマなんだが、これが、そのオリジナルだ。あー、通俗でも良いんだ、と思わせてくれる。よくできた映画だよね。
夜霧よ今夜も有難う /石原裕次郎
 とくに「かくしておくれ 夜霧 夜霧」の2回目の夜霧のパート。ここでディミニッシュトコード(減三和音)が使われてるんだけど、ディミニッシュトコードが、こんなに効果的に、しかも自然に使われている曲を、他に知らない。 ディミニッシュトコードてのは根音から短三度、次の音も短三度、そのまた次も短三度……と上に重ねていって破綻しない和音で、クラシックなんかじゃ不協和音と教えている。もうこれだけで浜口庫之助先生はグレイトなお方なのだが、この学芸会みたいな映画に特別出演していて、観終えて「え? 出てた?」って思うんだけど、劇中でコンガという太鼓を叩いている男が浜口先生だ。映像のコンガを叩く手の動きと音がぜんぜん合ってないし、ちょい役で一瞬しか映らないばかりか顔にピントすら合ってない。これじゃわかんないよ。

 もう裕次郎を観ててもしょうがないし、見所はルリ子さんだけだ(個人的な感想です)。あとグエン役の二谷ダンプガイ英明がインチキ臭くて、いい。しかしダンプって。裕次郎がタフガイ。これはいい。アキラの兄貴がマイトガイ。ダイナマイトが百五十屯だから、しょうがないか。高橋英樹がナイスガイってのも時代だよね。で、和田浩治が、やんちゃガイ。なんだそれ。ゴルフの尾崎三兄弟が上からジャンボ尾崎、ジェット尾崎、プロペラ尾崎なのも酷いと思ったが、やんちゃとダンプもダメだろう。
TIMETHAI - มีอะไรอีกมั้ยที่ลืมบอก (TOP SECRET) [Live Session]
 さて、今日の曲だが、มีอะไรอีกมั้ยที่ลืมบอกという曲で、他に言い忘れたことはあるかい? って意味だ。副題の (トップシークレット)は要らなかったんじゃないか。要は、あまり知られたくないってことなんだろうが。
 歌っているのはTIMETHAIという男だが、タイ語表記だとธามไท แพลงศิลป์といって、読みは「タムタイ・プラングシン」だね。わずか4日まえの公開で300万回近く再生されているんだが、じつはこの曲は10年まえのヒット曲だ。大ヒット曲ってほどでもないのに、今回の再生回数に勢いがあるのには訳があって、彼の私生活だ。
 年末に、7年付き合っていた恋人から一方的に別れを切り出されたのだった。
 元恋人はโฟร์ ศกลรัตน์(フォー・サコンラッ)といって、10歳年下のアイドル歌手。ふたりが恋人同士だっていうのは長いこと有名で、事実婚の多いタイでは夫婦同然と思われていた。ところが、何があったのか去年の6月に、このフォーという女性がรีบจีบตอนนี้ สวยกว่านี้จีบยากละนะ(浮気しちゃうんだもんね。これより格好良く浮気するのは難しいかも)とか、หมดช่วงติดผู้ มาติดเพื่อนแทนนะ อยู่ตรงนี้เสมอ(中毒期間はもう終わり。これからは友達とずっと一緒よ)なんていうコメントを、複数の人々といちゃついてる写真と共にSNSに投稿しちゃったもんだから、ファンたちも「????」と首を傾げ、何かの冗談だろうが、それにしちゃ面白くないな、と静観していた。そしたら年末に破局のニュースで、「え。やっぱり。しっかし、ひっでぇ女だな」って雰囲気ではあるものの、お互いに公にコメントはなかった。
 そこへもって、4日まえの、このMV公開。10年まえの作品と一言一句の変更もない歌詞を聞いて「あー」と納得。付き合うまえに予言してたのかよ! って曲で、彼はもともとラッパーで、歌よりもダンスが上手いと思われていたような歌手で、ヒップホップだった原曲をバラードにして歌い上げたら、タイ人感激! という訳だ。
 さっそく歌詞を見てみよう。

彼女はたぶん 私が克服できないと 思っていたんじゃないか
今になって気づいた だから言おう
真実を少しずつ 明らかにするために

私があなたへの発言権を持っていないこと あなたが愛する人を持つこと
あなたはまだ 私が間違っていると思っているのか

わざと忘れているのか それとも忘れたふりなのか
待って たぶん 私がそこにいることに気づいて 待っていてくれ

さて 出発するまえに 他に私に言い忘れたことはあるかい?
他に私を だますのを忘れたことはあるかい? よく覚えておいてくれ
今日が痛いと言って 今日を終わらせてくれ
他に何か痛いことはあるかい? 私が知るべきことは他にあるかい?
自分以外は無知な人だと思っているようだが あなたはどんな人なのか?

あなた自身が自分の心を掴むことを恐れて 気分が悪くなるかもしれない
失速しないか心配だった
私はあなたを拘束するつもりなどなくて

さて 出発するまえに 他に私に言い忘れたことはあるかい?
他に私を だますのを忘れたことはあるかい? よく覚えておいてくれ
今日が痛いと言って 今日を終わらせてくれ
他に何か痛いことはあるかい? 私が知るべきことは他にあるかい?
自分以外は無知な人だと思っているようだが あなたはどんな人なのか?

 すごいね。ハマりすぎだろ。強烈なカウンターパンチになってる。
 実際のところ、男は何もしてないでフラれただけなんだけれど、女のフリ方があんまりだったもんで、男の人気が急上昇。ハンサムでダンスが上手いから、もともと人気はあったのに、加えてこのシチュエーションで、この歌。火事太りみたいなことになってるんだが、元恋人に未練があるのか、愛想を尽かしたかで、ぜんぜん違うよね。ま、こんなふうに歌っちゃってるから、もう大丈夫っぽいけどね。切り替えて、次行こう、ってセリフは嫌いだが、この場合にはピッタリなのね。
 そういえば、まえの同居人が「はあ……。あんたみたいなひと好きになっちゃって……」って言うから、「そりゃ交通事故に遭ったようなもんだと思って諦めてくれ」と答えたら、膝をばしばし叩いて「それ! それだわ!」って笑ってたのを思い出した。今になって思ったんだが、失礼だよな、それ。
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