もっとましな嘘をついてくれ ータイ歌謡の日々ー

タイ歌謡について書いたり、うそをついたり、関係ないことを言ったりします。

牛丼に赤い薔薇

2024年07月06日 12時09分58秒 | タイ歌謡
 タイ料理らしいタイ料理に「ヌアファイファースティッ(เนื้อไฟฟ้าสถิต)」というのがあって、直訳すると「静かな牛肉」というような意味か。たしかに料理自体は静かであるが、総じて料理というものは音をたてるものではない。
 新婚の頃、ゲイの人のお宅に招かれて出てきた料理の最初の皿が塩と酢だけの味付けをしたサラダで、「ちょっと待っていてね」とその皿に熱したオリーブオイルを回しがけると、ばちばちと爆ぜた音と共に湯気が上がって、ゲイの人というのは、こういう演出が好きなのかと眉を掻くわけにもいかず鼻白んでいると、隣の席でおれの奥さんが「んはー!」みたいな小さく歓声をあげて手を叩いて喜んでいるのを見て(この人と結婚して良かったな)と思ったのを思い出した。
 それはそうと「静かな牛肉」だ。
 その一品がタイ屈指であると、根強い常連客が絶えない有名店がトンブリにあるといい、店の名は「プンバムポチャナー(พลบค่ำโภชนา)」だった。おれは鴨肉のローストに落花生ソースをあしらったのが好きだったが、それを頼むと店の奥さんが「そんなの止めて牛を食べたらいいのに」と必ず言い、なん度目かの来店で顔を見るなり「今日は鴨じゃなくて牛でどうかしら」と挨拶されるようになったが、そんなことを言われたら鴨を頼むしかなくなってしまう。
 この奥さんが40歳くらいで、料理人の亭主は60代半ばといった年格好で、見るからに奥さんが亭主にぞっこんといった風情だった。隙あらば亭主にベタベタする。まあタイの奥さんに、こういうタイプは一定数いるので、それほど奇矯というわけではないのだが、亭主の見た目は大して男前でもなければ頼り甲斐もなさそうで、でも男女関係って、そういうもんだ。
 ところが今年の雨期の滑り出しの夜、若い娘が来店して名物の牛料理を注文したんだそうだ。運ばれた料理をひと口食べて、目を閉じたという。そして深く息を吐いて、「ได้รับแล้ว(見つけたわよ)」と静かにつぶやき、「อยู่ที่นี่(ここに居たのね)」と、つかつか歩いて店主の腕を取って言った。「ฉันจะให้บริการคุณ(私は、あなたにお仕えいたします)」
 そんなこと、妻が許さないだろうと、他の客が息をのんで見ていたら、奥さんは大きく溜息を吐き、「ช่วยไม่ได้」と言った。直訳すると「救いがない」だが、この場合「しょうがないわね」くらいの意味だ。エプロンを外して、若い娘にそれを預け、店から去った。主人の人生からも去った。
 じぶんが、まえの妻にした仕打ちだったのだそうだ。
 料理に魅了された娘が新妻になる。そして不定期に新たな妻が出現することは、ときどきあることなんだそうだ。不思議と新旧交代で揉めることはないんだそうで、客達はこの光景を見て、「ああ、これか。これが、そうなのか」と納得する。
 日本では、そんな話は聞いたことがないぞ、と言うと、「あなたが知らないだけじゃないの?」と笑われた。そういうものなのだろうか。

 という話を思い付いたので、忘れないうちに書き留めておいた。料理名も店名も嘘だ。でも、料理に魅了された娘が妻になるというのは、ありそうな話だが、これも作り話だ。ついでに料理名の「ヌアファイファースティッ(เนื้อไฟฟ้าสถิต)」というのは直訳だと「静電気の牛肉」くらいの意味で、そんな料理はないと思う。ググっても出てこない。出てくるわけない。
 とはいえタイでは妙な名前の料理が次々と出現しては消えていくので、ない、と断言はできない。ナコンパトムの店が思い付きで出した「ร้านกุ้งอบภูเขาไฟ(エビの火山焼き)」は、ただのエビの姿焼きなんだが、それに火山を模したカバーで覆って火を点けただけなのに、そのばかばかしさで名物になってしまった。今では観光客が続々と訪れるという。数年経つというのに模倣店がないというのも考えられないんだが、おそらく模倣店は出現しては消えていく、うたかたの如き様式なのか。

 そういえば、まえにも書いたことがあったかもしれないがไข่ระเบิด(カイラバート)って名前の料理を知ったときは(あ。これはウソだ)と思った。だって直訳すると「爆発卵」だぞ。いやほんとにあるんですよ、美味しいものです、というので(それは恐ろしく凶暴に辛いやつだな)と身構えながら頼んだら甘みのついたケチャップ味の、コドモが喜びそうな味付けだった。爆発してないじゃん。と思ったが考えるまでもなく通常、料理は爆発などしない。卵は電子レンジで加熱すると爆発するが、そんなものを提供するわけなかろう。爆発した卵が旨いとも思えないし。
 不味くはないが、コドモ味だ。もしかしてアメリカーンな感じなの? と訊くと、嬉しそうに「ใช่! ใช่! เข้าใจดี(そう! そう! よくわかりますね)」と褒められた。どうもケチャップ味ってのがタイ人の考えるアメリカン料理らしい。なるほど。そういやケチャップ味の炒飯を「ข้าวผัดอเมริกัน(アメリカ炒飯)」という。ところで通常、英単語を外来語としてタイ文字に置き換えて表記するときに「a」は「เอ」もしくは「แอ」と書いて「エー」か「エ」と読ませる。だから「Apple」は「แอปเปิล」となり、しかも語尾が「L(エル)」の代替文字「ล」で終わってるから、タイ文字のL・R音が語尾のときは「ン」と発音する、というルールが発動して「エップーン」と発音するのが近い。
 ここでアメリカ炒飯に戻るが、Aで始まる外来語だから「エーメリカーン」と読むのかと思いがちだが、Americaをタイ文字で表記するときは例外として「a」を「อ」と書いて「アメリカーン」と読ませる。すんごくどうでもいいことを長々と説明してしまったが、このアメリカ炒飯ってのもケチャップ味で炒めた炒飯にフライドチキンまたはソーセージ(あるいはその両方)と目玉焼きのセットで、まるでお子様ランチなんだが、もちろん子供の好物ではあるが、これを食べている大人もよく見かける。タイ人だからね。(こんなの食べてるとヘンな人だと思われちゃうかな)とか(大人なのにこういうものを食べちゃうもんね)というような料簡はまったくなく、好きだから食べてます、みたいな感じだ。信じられないかもしれないが、タイ人だって辛くないものを食べたいときがある。

 とはいえ、「こんな料理、アメリカにはないぞ」と言うと「またまたご冗談を」みたいに言われる。おれが言うからか信じてもらえない。いや、だってアメリカ人滅多に米の飯なんて食わないぞ、と言いながら(あ。でも中華の炒飯はよく食ってるなアメリカン)と思ったが、それを聞いたタイ人は、そんな逡巡を余所に「ラー↘」と消沈気味に納得してた。ついでにข้าวผัดเซี่ยงไฮ้(カオパッシャンハイ - 上海炒飯)も上海では食べられてないように思うが、確証はないので黙っていた。

 それはともかくケチャップを纏うと何でもアメリカンになるってのは、あながち間違いでもなくて、まだおれが若かった頃バンコクのハンバーガー屋でコーヒーを飲んで休憩していたら、床に躓いて転んでしまった店員さんが運んでいたケチャップを頭から浴びたことがあって、「うわなんだこれ。ケチャップじゃん」と日本語で言ったのにアメリカ人と間違えたらしく「アイムソーリーな」と言われたから間違いない。確かにおれ達はケチャップまみれの人を見ると(ああ。アメリカ人だな)と思うものだ。
 ケチャップまみれのスパゲティをナポリタンというが、あれはフロリダのナポリ(Naples)のことなのかな。そうなると「ナポリを見て死ね」の英文慣用句「See Naples and then die」もフロリダの方か。テキサスにはパリもあることだし、世界の大体は合衆国だけで完結できる。

 ところでKADOKAWAのサイバー攻撃がエラいことになってて、攻撃なのにサイバーだから痛くないわけかと思ったら肉体的には痛くないだけで、社会的には痛いなんてもんじゃなかった。「カドカワなんでカネ払うかなー」ってのが大方の感想だろう。普通は無視して自己解決で事なきを得る。暗号化されたデータを戻すのは難しいだろうが、普通はバックアップ取ってるから問題ない。それを言われた通りに払ってお替わり要求されて脅されてる。特殊詐欺に引っかかる老人と同じパターンで、ランサムウエアに引っかかってるけどサーバー上にナカムラって名の個人フォルダに個人情報入れたまま削除せずに放置してたから、その情報が漏れた。このナカムラは叱られるだけでは済まない感じだ。
 いや。
 そんなことより。
 情報流出でおれがまえにニコニコで使ったパスワードも漏れてんじゃない? と心配になって調べてみたら、すんげー数の海外からのアタックがあって、ブラジルだったり米国だったり夥しい国からのものでビビった。でも、どれもこれも「サインインの失敗」が並んでいて実害はなくてホッとしたんだが、これパスワード使い回ししてる人は正直ヤバいと思った。OSがWindowsの人ならここのリンクから調べるといいよ。

 ついこないだのようで、もう20年以上もまえなのか。20世紀の終わり頃に友人から来たメールがどうにも怪しくて、だから添付ファイルは開かずに「おれにメールした?」って電話で訊いたら「いや。送ってない」って答えるから、「あー。やられたね。たぶん。ウイルスに感染してて、メールの登録アドレス全員にウイルス送ってると思う。チェックしてみて」と言っておいたら午後になって「会社のパソコン殆ど感染してました。ワクチンでどうにかするって」と他人事みたいな返事だった。ウイルスまき散らしたけど、それはウイルスが悪いんで、あたしじゃないもん、というのが言ってないけど絶対思ってるな、と苦笑した。
 そのあと、別の知人から連絡があったときに、「あ。そうだNさんからメール来てない? 来てたら、それウイルス感染してるから開いちゃダメよ」と忠告すると、「えー! それでNさん大丈夫なの?」と心配してたから「うん。会社でワクチン入れて何とかするって」と答えると、知人は「うわあ……Nさん大丈夫かな。熱とか出てなきゃいいけど」と言ってて、(あ。これは根本的に理解がおれと違うアプローチで人生に取り組んでる人の発言だ)と思ったが、噛んで含めるように説明できる自信が持てなかったんで「ねえ……」とかテキトーな返事して電話を切ったことがあった。
 もう細かいことは憶えてないが、トロイの木馬やワームみたいなウイルスだった。当時はコンピューターウイルスと呼んでいたな。今でもそうか。PCウイルスが人体に感染するという発想はなかったんで、知人の反応は面白くて、(ヒトに伝染って、風呂上がりに身体が青白く発光したりしたら面白いな)とか(口からCDロムが、みー、って出てきたりして)とか(エッチなこと考えたら身体が桃色に発光したらサイコーだな。妄想がエスカレートしたら一層輝いたりして)ってのを想像してうちの奥さんと喋って笑った。いちおう気になって奥さんのPCもチェックしたら、しっかり感染してて、ワクチンも信用できなかったんでOSから再インストールした。当時はメールで感染させるのが主流で、奥さんの友人から来るメールが、どれこもれもウイルス持ちで(どうなってんだ)と思ったよね。
[MV Full] Heart Gata Virus -หัวใจไวรัส- / Mimigumo
 ハートガタウィラス? タイ語でガタといえばフライパンとか鉄板のことだけど、意味がわからないな、と思ったら元歌があってAKB48の「ハート型ウイルス」って曲だった。まんまアルファベット表記にしただけで、タイ語タイトルหัวใจไวรัส(ホアチャイウイラス)は心臓ウイルスみたいな意味。メロディーも同じで、作詞は秋元康、作曲が井上ヨシマサだった。なるほど。道理でプロっぽい作りだと思った。3人娘が若いのにわかりやすいあざとさで、こんなのに血道を上げるくらいなら普通の顔でいいから女友達と遊んでた方が楽しいと思うんだが、女友達がいるなら、こんなものにはハマらないか。タイ人の坊やとオタク気質は相互乗り入れが容易いから日本で流行ったオタクビジネスはタイでも受け入れられがちだ。

あなたと出会った時は 不思議なものだった
クリックして 開かないと迷惑みたいな
尋ね方 話し方 答えないこと 興味がないようで 無関心な態度
あなたが良い人だと わかっていても
一見 わたしには普通に見えた
わたしがあなたを好きになるような そんな要素は何もなかった

どういうわけか どうしてこうなったのか わからない
何を考えているのか わかんない 偶然 本当の恋に落ちたの

どういうわけか どうしてこうなったのか わからない
いつ 終わるの?
どこから始めればいいのか わからない

ハートガタウイルス
それがわたしを襲い ウイルスが わたしの心に侵入した
注射ってどれくらい効くの? いくらやっても まだ消えない

どうなるんだろう どうすればいいのか
ウイルスのハートが 突然広がる
症状が止まらず 何もできない

何か良いところがあると 友達は言う
そして 愛の終わる兆しはない
どうしても あなたを嫌いになれない

 と、半分くらい訳してばかばかしくなった。意味なんてないな。タイ歌謡にしても無類の無意味さだな、ひょっとして、と探したら日本のAKBが元歌だったわけで歌詞も概ね日本のを踏襲している。細部が違うのはタイ人向けの表現になってるからだろう。
 悪くはない、という作品で、でも世の中にあってもなくてもどうでもいいような歌だ。とはいえ、世の中に必要な歌なんて、どこにもない。じゃ、いいのか。
 面白いのは、タイ人がタイ語で歌っただけでタイ歌謡になってるところで、オリジナルが日本だと気が付かなけりゃ(へえ。プロっぽい作りだ。平均点は取りに来てる)と感心しちゃうところだった。なんていうか量産型の水準が高くなってきてる。

↑(左)ワンコインさっちゃん  (右)量産型ワンコインさっちゃん 価値が1/100

 それにしてもドトールの鳥羽さんが石丸に貸し付けた5000万円はクラウドワークスに流れて(これだと公職選挙法に抵触しないと思ったようだ。ていうか、こんなマネロンみたいな手口ってあるんだね)、でも暇空叩きの工作資金で使い果たしたようで、票を得る効果はまったくなかった模様。ネットでチューチューされたわけで、ここまで見事な死にガネを見たのは久しぶりな気がする。石丸は恫喝訴訟敗訴してるしポスター未払もある。これ返す気あんのかな。ってか払えるのか。
 ドトールのコーヒーはうまい。鳥羽さんの趣味にケチつける気もないが、そうやって趣味の政治に手ェ突っ込んで傾いた会社を幾つか知ってるので社員と家族には迷惑かけなきゃいいとは思う。まあ、おれが昔いた会社がそうで、あれ社員にはいい迷惑なんだよね。でも、社員にも選挙運動が面白くなっちゃって、選挙が近いとクルマのトランクに3日ぶんくらいのお泊まりセットを搭載していた人もいた。何のお泊まりって、そりゃパクられたとき用だよ。
 3日でいいのか、ってのも愚問で、それより長引いても差し入れがあるからいいんだって。

 最後にタイトルの「牛丼に赤い薔薇」ってのは、なんだか‘70年代のドラマのタイトルみたいだが全然違ってて、うちの奥さんが牛丼屋の前を通りかかったときだったか牛丼のポスターを見て「わあ。すてき♡」と呟いた。「あの料理、ดอกกุหลาบ(薔薇)を飾ってる」
 見ると何てことのない牛丼の写真。
 あー。あれは薔薇じゃないよ。ขิง(生姜)だ。
「え。真っ赤ですよ」
 うん。日本には真っ赤に染めた生姜があるんだ。
「ラー……」
 意味わかんないだろうな、と思った。子供の頃から見慣れているから紅生姜なんてそんなものだと思っていたが、たしかに何で赤く染めようと思ったのか。どうせ不良の生姜を安く仕入れたか何かで「きったねぇ生姜だな、おい。染めちまうか」とか、そんな感じか。「いや。青く染めんのはダメだよ。赤でいこう」とか。

 そういえば牛丼屋はタイにもあって、もう市民権を得たといっていいくらいに店舗拡大しているが、最初の出店はたしか1996年か1997年あたりで、吉野家だった。当時は日本の本体の倒産後ダンキンドーナツなんかと共にセゾングループ傘下になってて、ちょっと不思議な経営戦略だった頃だ。前回のエントリでも書いたが、タイ人にとって牛肉というと水牛しか食べたことがなくて(あれは不味いから……)という印象が主流だったころだ。だからタイ語のネーミングもข้าวบีฝโบล(カオビーフボール)みたいな牛の連想を英語でボカした中途半端なものだった。カオはご飯。ビーフボール(Beef bowl)は英語の牛丼で、直訳だと「牛丼ご飯」ということになる。ちなみにบีฝโบล(ビーフボール)ってのは、うろ覚えのスペルだから違ってる可能性もあるが、だいたいそんな感じで、タイ人が発音すると「ビーフボーン」になって、ますます間抜けな感じだった。
 開店当初は懐かしくて行ってみたら、値段は35バーツだったか50バーツだったか、よく憶えてないが(まあ、そんなものかな)と思う値段設定だった。米はタイ米100%で、(まあ、こんなもんだよな)と思った。店内は割引クーポンをばらまいたせいか盛況で、牛丼の味はタイ人好みだから受けているようだった。そういえば開店当初、紅生姜はなかった気がする。
 今では名前もข้าวหน้าเนื้อ(カオナーヌア)といって、タイ語っぽい名前で定着した。直訳だと「ご飯の表面に牛肉」となるが、タイ語のメニューとしては自然なネーミングだ。卓上には紅生姜もある。すき家なんか、バンコクのそこら中にあるもんね。
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