もっとましな嘘をついてくれ ータイ歌謡の日々ー

タイ歌謡について書いたり、うそをついたり、関係ないことを言ったりします。

あんパンと牛乳

2024年07月27日 10時01分08秒 | タイ歌謡
 1945年のヤルタ会談3日目の午後3時まえ、ルーズベルトが「はらへったな」と言って、じゃあ皆で何か食べようという話になり、提供されたのがアップルパイに似たシャルロートカ(Шарлотка)という菓子と紅茶だった。紅茶は、ジャムを合わせるロシア風ではなく、ストレートだった。(この茶葉はスリランカのウバかな?)とチャーチルは思ったが、英国人なのに間違っていたら恥をかくので黙っていた。というエピソードは、まったく意味も根拠もないおれの作り話だった。チャーチル、ルーズベルト、スターリンの3人が菓子を囲む姿は、ちょっと想像できない。ピロシキでも違う。とらやの羊羹は、もっと違う。ルーズベルトが側近に「このパッケージ、日本語だろ。何て書いてあるんだい?」と訊いて、日系人の側近が「えーと。や・ら・と……?」などと読み上げたりもしてないと思う。でも1週間にも及ぶ会談で3人揃って飲み食いがなかったというのもどんなものか。毒殺を恐れて他人の用意するものは食べないとか、そういうのもありそうではある。みんな自国の保存食を持ち寄ってボソボソ食ってたらおかしい。
「なにそれ」
「干し肉。牛の。……食ってみる?」
「うん、ありがと。……おいしくないね」
「だろ? そっちは美味しいの?」
「旨いわけないだろ。いちばん旨いのが水なのに、この魚の干したのを食ってから飲むと、すっげぇ生臭いんだ」
「そういうときはウオッカだな。持ってこさせようか?」
「やだよ。酔わせて自分が有利になろうとしてんだろ」
「ニェート。まさか。はははは……」
 そんな感じか。
 たぶん違うな。
 3人ともタヌキだから腹の探り合いだろうね。まえにも書いたことがあったけど、悪人は甘いものを食べない。その証拠に詐欺師がシュークリーム食ってるのなんて見たことないし、ミスタードーナツ連続殺人事件とか聞いたことないでしょ。前科者が猛暑に備えて塩キャラメル食ってたりするのも見たことない。悪人は甘いものなんか食べないんだよ。
 というふうに思っていたんだが、こないだりりちゃんの獄中日記でビスコに感動してたんだった。どういうことだ。りりちゃんは犯罪者なだけで、悪人じゃない、ってことか。犯罪さえなきゃ良い娘なのよーって奴なのか。

 田中角栄が中国を訪問したとき、彼の好物である木村屋のあんパンを客室に常備してあったのも驚いたが、食事に出てきた和食の味噌汁に心底驚いたんだってね。常日頃自宅で味わっている、新潟の田舎味噌と決めていた特定の銘柄のものを使って田中家の味を再現していたそうで、これは怖かっただろうな。一般に、このエピソードは中国のもてなしの心配りが素晴らしいみたいな話として紹介されるが、田中はおろか日本人の誰も周恩来の食事内容までも知るはずもなく、一方田中の情報は筒抜けだ。「な。わかったよな」と言われたも同然で、これはイヤだしキモチワルイけど、イヤとかキモチワルイのレヴェルを遙かに超えた状況で、「やろうと思えばいろいろできちゃうかんね」と言われたようなもんか。勘ぐったらキリがない。
 抜け作だったら簡単にハニトラに引っかかる。まあ国際会議でピアノ弾かせりゃご機嫌な与太郎で、「今回はピアノ弾けないのか!」って文句言ってるような奴は論外だ。中国の言いなりだし。って、そんなまるで林芳正みたいな奴はどうでもいいが、田中角栄は肝を冷やしただろうな、ってのはわかる。

 そんなことを思い出したのは、最近+803で始まる番号から着電があって、(こりゃ詐欺だな)と思って無視しようとしたが、好奇心に負けて応答してみた。すると、警視庁を名乗り、鹿児島の事件に心当たりはありませんか、今すぐ鹿児島まで来てください。事情聴取しますと言うので、(あー……。詐欺確定だな)と思って「電話をかけ直すから、電話番号と所属・お名前を」と言ったら「……この番号にリダイヤルできるでしょ」と急に砕けた口調で、そそくさと電話を切られた。所属と名前も言ってほしかった。すぐに803てどこの国だ? と調べたら、そんな国番号はなくて最近+803の特殊詐欺電話が増えてるんだそうだ。「手頃な月額料金で仮想 803 フリーダイヤルを!」みたいな怪しげなサブスクもあった。こういう電話が来たら好奇心に負けずに拒否したほうがいいんだろうね。おれはしつこい性格だから発信番号のアタマに184をつけて発信元を通知しないようにかけ直したら、非通知拒否になってるのか登録外拒否なのか繋がらない。通話料金はかからないけど、話はここで終わっちゃった。
 まあ若い人は知らない電話番号だとそもそも出ないとか、登録番号以外の通話は拒否に設定してあったりして、どんな番号でもバクバク食らいついて応答するのは年寄りってことなんだろう。それにしても鹿児島で、ってのは良いストーリーだと感心した。純真な年寄りはコロッと信じてしまいそうだ。どう考えたって+803からかけてくる警視庁なんてニセモノに決まってて、偽の話には偽で応えるのがオトナだから「カネは、こっちに取りに来い」って呼びつけて偽札を渡すのが筋なんだろうが、あいにく偽札は切らしておりまして。

 ところで角栄が好きだった木村屋のあんパンだが、やっぱりヘソに桜の花の塩漬けが仕込まれてるやつかな。もう30年くらいまえのことだが、おれよりずっとエラい役員が急に太りだしたんで、まさか病気では、と心配したら「いやぁ……、ここんとこ夜中にあんパンと牛乳のおやつが止められなくて……。毎日食ってたんだ」と言う。え……。その組み合わせって、そんなに旨いんすか、と訊くと「その答えが、この腹だぁ!」とポン、と腹を打った。「あんパンだけでも旨いのに、牛乳と組むとすっげぇんだ。あいつらは……。たぶん麻薬って、こういうんだろな」
 まじか。
 そんなに旨いのか……。
 それまであんパンは嫌いでもないが特に思い入れがあるわけでもなく、店で見かけても、立正佼成会の建物を見たときみたいに(ああ、あるな)くらいしか思ってなかった。……そうかー。牛乳と組むとすっごいのかぁー……。それ、あんパンは漉しあんですか? それとも粒あん?
「あー。おれは漉しあんだな。和菓子好きは粒あんと相場が決まってるが、牛乳と合わせるんなら、これはもう漉しあん! 旨すぎるんだ。食って、おまえも太ってしまえ」
 うーん。太るのはヤだな。でも話を聞いたら、すっごく旨そうだったんで、その日の帰りにコンビニであんパンと牛乳パック(ストロー刺して飲む200ccくらいの)を買ってウキウキしながら帰宅した。
 あ。ほんとだ。
 うまい。
 でも、これカレーパンとビールの組み合わせみたいに、とんでもなく良い相性なんだが、大きな欠点があって、それで腹一杯になっちゃう。旨いけど。旨いんだけど、食後に(あーあ。こんなもんで満腹になっちゃって……)みたいな後悔が、しみじみと来る。もっとマトモなもので口直しをしたいけど、もう食べらんない。
 翌日、その旨を告げると、「えーっ! バカだな。晩飯のあとだよ。寝るまえにおやつで食うのが旨いんだって。わかってねぇなー」と叱られて、(あー……。そりゃ太るわけだ。てか、そんなに食えっかよ)と思った。
 昼食に(何かつまんないもん食いてぇー)と思うことがあって、そういうときにあんパンと牛乳のコラボレーションは良いチョイスだと思う。カップ焼きそばなんかの、一口目に来る(うわ! まっず! これだよ! この不味さ!)という狂った高揚と、それを帳消しにする(あー……。こんなもん食っちゃって……)という後悔のマイナス同士の掛け算なのに、いっこうにプラスにならない絶妙な釣り合いも捨てがたいが、あんパンと牛乳のコラボレーションは、ふつうに旨いし、なんかちょっと嬉しさが残る。食事をした! という充実感はなく「おやつで満腹」という軽い背徳感も残るけど。

 牛乳と合わせるあんパンは、桜の花の塩漬けが忍ばせてあるやつより、芥子の実が上半分にびっしりトッピングされてるタイプの方が嬉しいかもしれない。タイでもあんパンはコンビニでも普通に売ってて、スパイシーでも何でもなく日本のと変わらないから、なん度か牛乳と一緒に食べたことがある。あんパンは、たまに食うと旨い。うちの奥さんは「美味しいけど要らない」と言う。小豆を甘くする料簡がわからないのに旨いのが腹立たしいのと、最初から最後まで同じ味で、ひとつ食べると満腹になるのがイヤなんだって。だからひとくちだけ食べさせると喜んで食うくせに「あんパンってキライだわ」みたいに言う。餅の時と同じだね。
 ちなみに「ที่ญี่ปุ่นนักสืบกินมัน(日本の刑事はこればっかり食ってるんだよ)」と教えたら、ぜんぜん信用してくれなかった。あ、そうか、と思い立ち「กินคัตสึด้งด้วย(カツ丼も食うわ)」と付け加えたんだが、ふふーん、みたいな半目で笑いやがった。

 あとカレーパンもタイで売ってはいるが、これまで食べたカレーパンの中で、とびきり旨かったのはシンガポールとマレーシアの国境近く、ジョホールバルの海峡近くに建つあばら屋みたいなパンの売店のやつだった。見るからに旨そうだったので、つい買ってみたら思いもしない逸品で、ひとくち食べて売店のおばさんに握手を求めて、残り2個ぜんぶ買い占めた。あとで冷静に調べたら、べつにジョホール名物というものでもなく、ムスリムと中華文化圏が交差する辺りで「咖喱鸡面包(かりーちーみゃんぼー)」と呼ばれる食い物だった。日本式のカレーパンみたいに揚げてあるのは少数派だ。ドライイーストをゆっくり発酵させたのか、しっとりしたパン生地だった。カレーの中身は鶏肉で、信仰上の理由で豚がダメだの牛がダメだのいう人がそこら中歩いているので鶏肉なんだろう。鶏がダメという宗教はないんじゃないかな。

 いっぽうタイのカレーパンは流儀が違う。日本のパン屋の影響で揚げてある日本式のカレーパンだ。上流のタイ人はヨーロピアンスタイルのパンを好んで食うが、庶民のパンのお手本が日本のヤマザキだったからだろう。タイの大きなショッピングセンターには必ずヤマザキが入っていて、そこではトングをカチカチいわせるのがタイ庶民の誇らしげな贅沢だった。三十数年まえ、香港ではNHKの朝ドラ「おしん」の主人公が成長したあとで興した会社がヤマザキで、社長の名は「阿信 (おーしん)」だよな! と信じられていたが、タイではそんな馬鹿げた話はなく、ヤマザキは日本における上流階級御用達の高級パン屋だと思われていて、誤解が小さい。

 ちょっと謎なのはタイ人が甘く煮た小豆を食わないわけじゃないのに、何でうちの奥さんはそれを理屈でイヤがるのか。タイ人も普通に甘い小豆を食う。茹で小豆でも食うし、月餅なんか延髄を直撃するような、ずっしり甘くて甘くて、とことん甘い小豆の餡子だ。中秋節に配って歩くし、普通に食ってんじゃん。あと、ちゃんとした月餅ってのはタイの常温で1年間腐らないものなんだそうだ。どんだけ砂糖ぶっ込めば1年間持つというのか。そういや確かにうちのヨメは月餅もイヤがるな。その辺が不思議で「タイ人みんな食べてるのに?」と訊いても、「うーん。わたしは100%タイ族(ชาวไท)だから」と、いよいよわからない。だって、あんたの実家は家族みんな月餅好きだよね、と思うが、この辺は理屈じゃない例のアレだな、と理解して黙ることにした。
相思豆
 タイトルは「相思豆」となっているが、実際の歌のタイトルは「紅豆詞・紅樓夢」だ。18世紀頃に書かれた「紅樓夢」という古い小説の中の五言律詩にも似た歌詞。小豆は古くからの中華文学で「恋煩い」の象徴。さらに血と涙の象徴でもある。日本人にはないしつこさと諦めだが、わかる。日本も中華文化圏だからね。
 MV中テロップで歌詞が出るけど、歌に合わせた区切りで漢詩的にはヘンな切り方になってる。なかなかに良い詩で、格調高いのに、おれが日本語に訳すとぜんぜんダメだ。下の和訳を、ざっと頭に入れてMVの字幕を読んでいただければ格調がわかると思う。
 作詞はオリジナルの曹雪芹が書いた詩に劉雪安という作曲家が1943年に曲をつけたもの。古いね。歌手は童麗(とんりー)で、1979年生まれ。普通話で歌ってて発音も綺麗だけど、出身は安徽省(南京の近く)だから呉方言がネイティヴかと思うんだが、大人になってからは廣東省デビューのまま本拠地にして住んでいるから粤方言(廣東語みたいなの)で生活してるのか。歌手だし、耳が良いんだろう。
 歌詞だ。

終わらない恋の病 血の涙が小豆を投げ捨てる
春の柳は限りなく咲き 春の花が絵のように館を満たす
眠れない 黄昏時の風雨の後 網戸越しに
新しい悲しみも古い悲しみも忘れられない
翡翠の粒も金も飲み込めない 喉が詰まる
鏡では美しさも薄さも見えない
(心配事が絶えず)晴れやかな顔にならない
新しいことは 何もない
ああああ
まるで目に見えない緑の丘
流れ続ける 緑の水

 ここにきて気が付いたが、これタイ歌謡じゃないな。中華歌謡だ。
 でもいいや。今回は、これで押し通す。
 理由はかんたんで、面倒くさいからだ。それに中国なんてタイみたいなもんだよね。

 そんなことよりパリオリンピックが始まってしまった。あんなものを見る奴はばかだと決まっていて、おれもばかだから開会式は見る気満々だったのに「もうすぐ開会式」みたいな番組が始まったところで眠っちゃった。まあ、そうなるかと思ってタイマーで電源が切れるようにした上で録画の予約もしておいたんで、そのうち見ようと思う。朝、目が醒めてTV点けたらセリーヌ・ディオンみたいな人が歌ってて、誰かと思ったらセリーヌ・ディオンだった。引退したとばかり思ってたから、夢を見てるのかと我を疑った。
 セリーヌ・ディオンには格別の思いもないけど、オリンピックはこれだけで良いんじゃないかと思った。期間中は開会式だけ連日やってればいいのに。
 うそだ。じつは欲を言えば閉会式も見たい。競技はどうでもいい。開会式は相撲の土俵入りと同じで、むっちゃ面白い。入場したら全員が小っちゃい金メダル貰って帰ってもらえばいいんだよ。
 オリンピックなんて止めちまえばいいのに、と思っているが、おれが心の中で思ってるだけで止める訳もない。没落貴族の食い扶持利権でしょ、あんなものは。今度はなるべくカネかけないで国際ジャンケン大会とか、運だけのものをぶつけりゃ良いんじゃないか。あみだくじ世界大会とか。安っすい参加費の総額の半分を賞金にして、残り半分は運営費だな。
 だいたい4年に1度ってのも堪え性がないよね。ハレー彗星なんて76年に1度だぞ。地磁気逆転なんか数十万年から二百万年に1度でしょ。それに比べりゃオリンピックなんて、3度の食事みたいな頻度だ。しっかし地磁気が時々反転するってのもよくわかんないけどダイナミックだよね。こないだのが77万年まえだっていうから、明日反転してもおかしくない。けど、何かダイナミックに変わるのかな。航海中に反転したらコンパスの針が、ぐるん、って回ってそれ信用したら出発地に戻ってきちゃう。登山中だったら山頂目指してるはずが下山しちゃうのか。うーん。そのくらいなら、まあいいけど、氷河期の原因とも言われているから油断はできないね。何の油断かわかんないけど。

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