もっとましな嘘をついてくれ ータイ歌謡の日々ー

タイ歌謡について書いたり、うそをついたり、関係ないことを言ったりします。

けけ結婚してください!

2024年04月12日 17時37分19秒 | タイ歌謡
 週にいち度くらいの頻度で、しょっちゅう言ってるから今さら驚きも、ありがたみもない筈なんだが、แต่งงานได้ไม่?(結婚してくれる?)と、うちの奥さんにプロポーズすると、その度に鷹揚に頷いてได้ค่ะ(いいですよ)と微笑んで答えてくれる。もう25年もこんな感じだ。あははうふふと紛う方なきばか夫婦なんだろうが、とうぜんこみ上げる愛情の勢い余って「けけけ結婚してください!」と懇願してる訳などなく、なんていうかクセで言ってる。要は「こういうこと言ってると楽しい」って、いつものやつだ。考えてみたら、これは相手のため、というより自分のために言ってる気がする。それでついでに相手が悪い気分にならないのだから、まあいいじゃないすか的な。
 พรุ่งนี้ก็สวยแบบนี้ใช่ไหม?(明日もそんなに美人なのですか?)みたいなセリフも昔は毎日言ってたが、最近は週に2度くらいか。これは同じセリフだと言う方も言われる方も飽きるかと思って少しずつヴァリエーションを変えてสวยเหมือนสาวในโฆษณายาสีฟัน(歯磨きの広告のお姉さんみたいに美人)とか、(湿度が低いときのホーム・ダウィカー[ใหม่ ดาวิกา - タイのモデル]よりも美人)とか、テキトーなことばっかり言ってるんだが、ジジイだし、もう無限に出任せなんて出てこない。新婚の頃は美しさを褒めると照れていたが、そんなのも毎日聞かされていると「あー。はいはい」って、ぞんざいな感じではないにせよ、「うん。ありがと」みたいな業務連絡っぽくなってしまう。ただ、新婚も落ち着いて照れなくなった頃に「ไม่เหนื่อยเหรอ?(疲れないのですか?)」と訊き、そのあとに「そんなに美しくて」と続けようとしたら、奥さんが「เธอสวย(美しくて)?」と、おれより先回りして言って、手を叩いて笑っていた。
 まあ褒めておいて悪いことなど何もない。あと、おれよりもガチでアタマが良いから「หัวดีนะ(アッタマ良いなー)」ってのはよく言うんだが、これは子供の頃から言われ慣れているから、うん、って普通に頷いてる。

 おれの奥さんと結婚するまで、女の人にお世辞を言うのは、あたりまえのことだと思っていたから顔見知りのご婦人には「今日もお綺麗ですね」とか「お召し物が良くお似合いで」みたいなことを思ってもなくても言っていた。これを言うと「あらやだ」みたいに微笑んでくれそうな人限定で日本語で言っていたのだが、タイに行くと、そういうことを外国の言葉で言うわけだから、羞恥心のハードルが一気に膝下くらいまで下がる。だから気軽に言えてしまう。日本語で「愛してるよ」と言うのは妻であってもハードルが高いものだが、タイ語だとハードルなんかない。これは相手がタイ人だと、愛してる的なことを言われても怖気をふるったりせずに「///な、何言ってんのォ///♡」って嬉しそうにするから言いやすいのだろうか。こう言っといて嬉しそうじゃないタイ人のご婦人なんて珍しいだろうから、円満な夫婦関係のためには言う。隙あらば言う。アメリカンな男なんかも実践していることで、北朝鮮に居た頃のジェンキンスでさえ「そこの塩を取ってくれアイラブユー」みたいに言ってたそうだ。その結果がジャカルタはスカルノハッタ空港での無理チューだ。さすがに愛してる的なことは妻にしか言わない。そこら中で言うとトラブルの元になるからね。
 とはいえ単なるお世辞なら抵抗はなかった。おれの奥さんと結婚するまえまでなら、しょっちゅう会う花屋の姉ちゃん(愛想の良い日と悪い日があって、気分屋だと思ってたら、のちに双子で同じ顔が2つ並んでいてたまげた)や、駐車場のおばさんにも「綺麗ですね」「(服や髪型などが)お似合いですね」的なことを言っていた。褒められたら嬉しいから、花屋では花を多めにサービスしてくれたり、駐車場では良い場所に停めさせてくれたりして悪いことなど何もないから、そりゃ褒める。駐車場のおばさんは褒めると身をくねらせるようになっていて面白いからいつも褒め続けた。
 ところが、もうすぐ結婚するという情報を早い段階で掴んだ駐車場のおばさんが、「あなたは私と結婚してくれないのか」と強く詰問してきた。なんという冗談を、と思ったが、おばさんの目が本気だった。え。まじすか、という驚愕と、タイ人のうわさ話のネットワークの精度は凄えなという感心が別方向から同時に襲ってきて一瞬だけ判断停止状態になった。
 あ。これはやばい。けっこう深刻にやばいありさまだ。
 急いでクルマに乗り込み、エンジンの始動ももどかしく発車した。まあそれっきりだったが、知人にこの話をすると「そりゃ、あなたが悪い」と言われた。「ヘタすりゃ刺されんぞ」とまで言われた。えー……、手も握ってないのに。お世辞を言っただけなのにぃ、と言ったら「からかって遊ぶからだよ」と言う。素直に(そういうものか)と反省した。まさか本気にするとは。
 その少しまえに按摩屋で按摩の上手いお姐さんをみつけて、(これはいい人と巡り会った)と、なん度も頼んでいたら、5-6度目くらいでいきなり後ろから抱きつかれて(これはやばい)とテキトーに身体を揉ませて逃げ帰って、それっきりということがあって、まさかこんな若い娘が、と思ったが考えてみたらこの娘は、おれの婚約者(今のおれの奥さん)と似たような年頃だった。モテたいというスケベ心がないときのほうがモテるのか。そういえば結婚直前のおれの奥さんの美しさは半端ではなく、エレベーターに乗り合わせたアメリカンの男が溜息をついて「きみの恋人はなんて美しいのだ」と漏らして横にいた合衆国妻に睨まれていた。そんなふうに有無を言わせぬ美人っぷりだったから、通勤途上に見ず知らずの英語を話す外国人に「けけ結婚してください! 毎日あなたを見かけて恋に落ちました」と路上で短期間に2度、別々の男にプロポーズされていた。「いえ。わたし、もうすぐ結婚するのです」と英語で答えると、ふたりとも触れられたオジギソウにみたいに、たちまち落胆して「……ああ……。タイ人とですか」と訊いたという。「ノー。彼はジャパニーズです」と答えると、ひとりは「そのジャパニーズがうらやましい」と言い、もうひとりは「……お幸せに……」と憎々しげに言ったという。そんな感じで、同時期にはおれもカッコ良くなる病気にでも罹っていたのか。そういえばおれの奥さんは息子に、おれの若い頃の写真を見せて「この頃はカッコ良かったのよ」と過去形で言っていたな。すまんな。今は第6形態くらいか。

 まあ、そんなことがあったので、奥さん以外の女性を褒めるということをしなくなった。さすがにもう老人と呼ばれていい年頃だから横恋慕されることもないだろうが、無駄に褒めて「色ボケジジイ」と陰口を叩かれるのもイヤだ。

 まえにも書いたことがあったが、未成年の終わり頃に「けけ結婚してください!」と、思い切ってヒターナにプロポーズしたら、泣きながら財布から写真を出して見せてくれた。それには母国に残してきた旦那と息子が写っていて、涙ながらに断られた話はしたよね。野球で言えば空振りに似てるけど、少しちがう。ホームランすれすれのファウルでもない。がっかり具合ではホームスチールされた投手に似た悔しさはあるが、ホームスチール特有の「やられたぁ!」感はない。(え……、そうか……だめか……。いけると思ったのにぃ……)と、残念と意外と悲哀が束になって、どんでん返しで襲いかかる。本人にとっては悲劇だが、他人からは(ばかだなー)としか思われない。状況としては、立ち食いそば屋で、(瀬戸物の丼だな)と認識して持ち上げたら実はプラスティックで、その予想した重力に対するエネルギーのエントロピー差で、丼がスカーっと頭上まで持ち上がり、勢い余って中身をザブン、と頭から被ってしまった事象の少なくとも10倍のダメージなのに、端から見ていると滑稽でしかない。

 けっこう深刻なのに、他人事だと笑っちゃうというのはよくあることで、おれが中学生の時の話だが、神社に願掛けに行ったら、境内に突如現れたヒグマがおれに向かって二足直立の体勢で駆け出し、猛突進してきた。やばい! 瞬時の判断で踵を返して、長い石段を駆け下りようとクマに背を向けた。あれは上り坂だと速いが、下り坂は苦手な生き物なのだ。が、平地では60k/hで走る生き物でもあるから、あっという間に追いつかれて、一緒にゴロゴロと階段を転げ落ちた。さいわい、お互い怪我もなく、(いててて)と身を起こしたら、目前におれが居た。
 え?
 思わず自分の手を見たら、毛むくじゃらだった。
 クマの掌だ。
 こ、これは…………。
 入れ替わってる?
 おれたち、入れ替わってるぅ!
 もうね。あのときは、どうしようかと思ったよね。
 たいへんだったんだよ。

คู่ชีวิต - COCKTAIL「Official MV (Cut Version)」
 คู่ชีวิต(クー・チウィット)って曲で、直訳だと人生の伴侶みたいな感じだけど、意訳だったら「ソウルメイト」とか「運命のふたり」って方が近い。小乗仏教もとい、テラワーダ仏教の前提がなくては成り立たない歌詞だから。輪廻転生がデフォルトなの。
 カクテルというバンドはタイの有名バンドなのに、これまで紹介したことがなかった筈。2002年のデビューだから、もう22年間も活動してるのか。今年になって「2025年に解散するよ」と宣言した。ファンも多いから惜しまれての解散だ。長いこと活動してるけど、オリジナルメンバーはヴォーカルの人だけで、入れ替わりの多いバンドという印象だったが、ここ10年ほどは不動のメンバーだ。とくに初期は入れ替わりが激しかったんだけど、それもそのはず、デビューしたときは全員高校2年の同級生だったから、17歳で本気でプロになろうなんて無謀なことは思わないのはタイでも普通の料簡だろう。
 とはいえ。これまで、このブログで紹介しなかったのも、そんなに興味がないからで、聴けばわかるとおり、どってことない。ヘタではないが軟弱なんだよね。これでもロックバンドのつもりだ。この曲なんかワルツだよ。ロックでワルツなんかやるんじゃねぇ、とは言わないが、軟弱なワルツはどうなんだ。しかも歌詞が全然ロックじゃねぇ。いや。怒っちゃいねえけどな。
 簡単なタイ語しか遣ってないから歌詞も訳しててラクだったけど、これテラワーダ仏教の前提なしに読むと甘ったるくて薄っぺらい反知性的歌詞でしかない。
 あ。だからタイ人に薄っぺらいお世辞を言っても本気にしちゃうのかな。

あなたがすべて 現実では夢の中で
何でもあなたの心が望むまま
あなたは 私が読む物語
目を閉じて夢を見るまえの

あなたは私の心 誰もあなたと比べられない
あなたに会えた幸運 あなたに恋をした
あなたがそばにいてくれる

地球の回転を止めることができるのは あなただけ
あなたはただ 私の目を見つめていて
私の心を止められるのは あなただけ
あなたのすぐそばに

私が望むのは あなただけ
私は魂と心を込めて 生きていく
つまり いつでも どこでも あなたを愛する
私の心の中は あなただけ

あなたは真実の愛です すべてを諦める 貴方のために
あなたに会う空のように 彼女を私と一緒にさせてください
これからも一緒に歩いていきましょう。

苦しい時も うれしい時も
病気のときも 健やかなときも
私はここにいて そして私にはいつでも 毎秒あなただけがいる
遠くはない 近くにいて 遠くはない 近くにいて
どこにも行かない

あなただけ あなただけ ただあなたを待っているだけ
遠い空の前で祈る
つまり いつでも どこでも 私はあなたを愛している
どんな人生に生まれついても 私にはあなたがいて あなたしかいない

 なんていうか、こんなの日本で歌ったら「やだ。ストーカー?」とか「かわいそうに、ばかなのね」としか思われないんじゃないか。信仰があるってのは、果たして良いことなのか迷っちゃうよね。タイに限らず甘ったるいだけのラヴソングって、余所の国に多いでしょ。スペイン語圏なんかでもそうだけど、回りくどい比喩やレトリックみたいなのを避けるのは、愛においてツンデレなんて素直じゃないよね、ってことなんだろうか。
 たしかに、おれの奥さんは「ティピカルな日本人の夫婦って手を繋がなかったり、別々に寝るとか、愛というものがない」と言う。最初は日本人なんて、おれしか知らなかったから日本人全員が寝るときは同じベッドに同衾するし手も繋いで歩くものだと思っていたようだ。風呂に一緒に入るのも一般的な日本人のすることだと思っていたみたいだ。殆どのタイ人は湯船に浸かる習慣がなく、水浴びだけだから配偶者に髪や身体を洗ってもらうということがないのだが、相手が外国人だと(そんなものか)と思うものらしい。「日本人と結婚するとアタマ洗ってくれるのよ」などと友達に言って、のちに「ウソよ! ニホンジンはアタマなんか洗ってくれない。料理だって作ってくれないし、荷物持ってくれるってのもウソだった! マッサージもしてくれないどころか要求するのよ!」と言われて、「あらー。ニホンジンっていってもいろいろなのね」と認識を改めていた。おれは奥さんに甘いからなー。

 タイの女性は結婚するまでは大切にされても、結婚してしまうと扱いがぞんざいになってしまうケースが多いらしく、子供が生まれたあとに、やっと外食できるようになって店で食べたとき、「先にお食べ」と奥さんに食事を勧め、おれが子供をあやしていたら、ひどく驚いた顔をして、それから嬉しそうに「いいの?」と訊く顔が輝いていた。そんなことで喜ぶのかと思ったら、タイの男は勝手だから、こんなふうに気遣ってくれないと言った。全員がそうだとは思わないが、奥さんの周りの男たちはそういうのが多かったってことなんだろう。
 また、まえにも書いたがタイ人は風呂場で背中を洗わない者が多いから、背中を流してやると喜ぶ。髪も洗ってやるといい。タイには銭湯がないせいか近親者と風呂場に入る習慣がなくて、美容院でもなきゃ洗髪ってのは自分でするものだ。だから洗って差し上げると殊の外感激するぞ。
 ただね。うちは普通に夫婦で風呂に入るが、息子がまだ小学生の頃、おれの奥さんの友人から架電があって、それに対応した息子が「お母さん? 今お風呂です。え? おとうさん? おとうさんも一緒にお風呂です」と正直に答えたばかりに「เอ๊ะ! อาบน้ำด้วยกันล่ะ?(えっ! 一緒に風呂入ってんのォ?)」と呆れられたそうで、タイ人的には中々の衝撃だったのか、奥さんの友人は知人に言い触らして回ってしまい、おれの奥さんは「あれぜったいลามก(エッチな)ことを考えたよね。わたしたち、そんなんじゃないのに」と少し困っていて、笑った。いや。いちおう子供もいる夫婦なんすけどね。でも確かに風呂の中でエッチな感じにはなってない。風呂場は身体を洗う場所だからね。ただ独りで義務的に身体を洗うより、好きなひとと身体の洗いっこをするほうが圧倒的に楽しい。あ。これって少しだけエッチなフレーバーのスパイス的なものなのだろうか。ていうか、そんな文明の香りより猿が2匹で互いにする毛繕いの方が近い気がする。
 おれの奥さんが「ニホンジンはね、夫婦一緒にお風呂に入るものなの!」って友人に説明しても「ふうん(また言ってら)」って雰囲気だったそうで、まあ実際の話だし嘘つくのもアレだ、と「あなたも旦那に洗ってもらうといいわよ」と勧めるのにとどめていた。

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