もっとましな嘘をついてくれ ータイ歌謡の日々ー

タイ歌謡について書いたり、うそをついたり、関係ないことを言ったりします。

なんでやねん

2023年02月18日 16時00分32秒 | タイ歌謡

 最近では上方の人との付き合いが途絶えたが、苦手ということではない。以前仲良くしてもらった夫婦が共に上方の人で、喋っていると楽しかった。旦那の方は標準語で話す人で、会話中に関西人だと意識することが滅多になかったが、奥さんの方はいわゆるコテコテの関西人ってやつだった。
 座右の銘の話題になったとき、何かあるかと訊かれたので、そうですね。どっちも1.5かな、と答えたら、奥さんが間髪入れずに「それは左右の目ェやがな~!」と甲高い裏声でツッコミを入れてきて、すっげぇ、プロみてぇだ、と恐れ入った。旦那が、一拍遅れて「あ……。あ~」と笑った。
 すっごいっすね、おくさん。やっぱアレっすか、桜の季節になると山へ入って、滝に向かって手首を利かせたスイングしながら「なんでやねーん。なんでやねーん」って練習するっていう安土桃山時代からの風習でしょ、と言うと、これにも間髪入れずに「なんでやねん!」とツッコんだ。
 わっ、本物だ、本物だ。生なんでやねん、初めて聞いた、と手を叩いて喜んだら、「へっへーん」みたいに得意そうな顔で、北海道の人は、みんなこんなんですか、と訊くので、そうですね。クマとリス以外はだいたいこんな感じですよ、と言っておいた。
「あー。クマはアカンか」
 そうっすね。クマは話がつうじなくて。いきなり噛んでくるから。かぷ、って。
「いやー!」
 だから、頭蓋骨とか、こうやって形を直して。
「宮尾すすむかいな!」
 もう、痛ったいなー、って。
「なにすんねん、って」
 そうそうそう。
「そうそうやあれへんがな。うそばっかりやん」
 へへへへ。
「もう。北海道の人、ほんまにこんなんばっかなんか!?」
 うーん。だいたい。

 そんな訳で、上方の人と話すのは、楽しい。この夫婦はバブル経済の崩壊後に壮絶な借金を抱え、行方知れずになってしまい残念だ。どこかで生きているといいのだが。
「なんでやねん」は標準語だと、「なんでだよ」になるんだろうか。ちょっとキツいね。北海道弁なら「なしてさ」、もっと訛って「なんしにさ」だな。アタマ悪くてノロマな感じが、いい。

 タイ語だと「ทำไมว่ะ(タマイワ)」が相当すると思う。玉岩ではない。「葛西か?」のイントネーションで言うと通じる。ただ、この語尾の「ว่ะ(ワ)」は、相当に下品で乱暴な物言いで、教科書的なものに載ることは絶対にない。外国人が遣うと洒落にならないので、遣ってはいけない。言ってはいかん。「ทำไมยะ(タマイヤ)」でも失礼な言い方だが、親しい間柄なら外国人が言っても、まあオーケーか。ぶっきらぼうだが「ทำไม(タマイ)」だけのほうが、まだいい。できれば「ทำไมครับ(タマイカプ)- 男言葉」または「ทำไมค่ะ(タマイカー)- 女言葉」、さらに丁寧な疑問の接尾語「ล่ะ(ラ)」を挟んで「ทำไมล่ะครับ(タマイラカプ)くらいが丁度良い。実際おれは、そう言うことが多い。
 とつぜん記憶が蘇ったんだが、あれは1997年頃だったかな。携帯電話が普及する少しまえのことだ。事務所に経理のワンナーさん宛に電話があって、経理やってただけあってワンナーさんは上品な娘さんだった。日本じゃ経理は商業高校出の娘さんか、冴えないウスラ眼鏡だったりするが、タイや中国ではステータスが高い。韓国でもそうで、名刺に漢字で経理って肩書きが書いてあったら、それは役員だ。ばかとビンボーの2Bでは務まらないのだ。
「ナーちゃん、電話」みたいな呼び出しに、ワンナーさんがスリッパをぺたぺた鳴らしながら歩いてきた。ワンナーさんは良いとこのお嬢さんなのに、ストッキングはいつも絵の具の「はだいろ」みたいな色で、タイ人に「ああいうのをสีฮิปโป(カバ色)って言うんだよ」と言うと、笑って笑って呼吸困難になるほど笑って「อย่านะค่ะ(やめてください)ปวดท้อง(おなかが痛い)」と苦しんでいた。
 ワンナーさんは受話器を握って、数秒の間、話を聞いていたら、よく通る小さな声で「ทำไมยะ(タマイヤ)」と言った。言い終わったかどうかの瞬間、ぽろぽろと大粒の涙が流れ落ち、それを拭うこともせずにワンナーさんは、さらに「ทำไมยะ……ทำไมยะ(タマイヤ……タマイヤ)」と、ふつうの声量で明瞭に二度繰り返し、真っ直ぐ前を向いたまま、涙を流し続けた。
 どうしたの? と聞ける雰囲気ではなかったが、そこはそんなことなど生まれてからいち度も気にしたことのないウイさんが、受話器が置かれたと同時に「มีอะไรค่ะ(どうしたというの)」と訊き、ワンナーさんは、「わたしのお母様が亡くなりました。バス停でバスを待っていたら、そこにバスが突っ込んできたのだそうです」と言い、ワンナーさんは説明の言葉を組み立てることで意識を整理して保っているような喋り方だった。
 静かに涙を流すワンナーさんを見て、(ああ。タイだなー)と不謹慎にも思った。
「なんでやねん」とタイ語で言って泣いているワンナーさんに、「いや。バスの方が突っ込むんかーい!」と突っ込める奴はいない。
 タイ人は「なんで?」とストレートに訊いてくることが多いと、以前書いたことがあった。結婚してから4年間というもの、子供ができなかったのだが、2年目あたりから子がないと知ると「なんで?」と訊いてきた。知り合ったばかりだと、だいたい訊かれた。初めて会うタクシーの運転手さんでも訊いてくる。こんなことを日本人同士で訊くとコンプライアンス的に問題が大ありなんだが、タイ人相手にそう言い募る訳にもいかず、しょうがないから「คิดว่า วิธีการดำรงอยู่ของมนุษย์ไม่เก่ง(人間の存在維持の在り方がヘタなんじゃないかな)」というふうに外国人が言いそうもなくて、タイ人ならもっと言わないことを言って煙に巻いていた。こう言うと誰でも笑う。横で聞いていたうちの奥さんにもウケていた。
 もう、そういう国民性なのかな、と諦めていた。初対面でいきなり所得の多寡を訊いてくるし、それに正直に答えて「多いね」とか「少ないね」とか言ってる。まあ、お金は大事だけど、それが一番ではないよね、と考える人が多いから、そうなのかな、と思っていたが、こないたタイの匿名掲示板พันทิป.คอม(パンティップ ドットコム)を覗いていたら「恋人がいるかどうかを訊くのは失礼なことなのか」みたいなスレッドが立っていて、パンティップに書き込むようなタイ人はオタクっぽいひとばかりで、モテそうにもないし僻みっぽいのが多いような気はするので「ホントそういうのイヤ」って意見ばっかりだったのがおかしかった。
 街頭でランダムに訊いたら違った結果だったかもしれない。でも中京地区で、プライバシーについて訊くと、「あー。うん。プライバシー言うくらいだもんで、そりゃ尊重せんとかんわ。プライバシー大事だがね。ほんで、今まで可愛がった女の人は、なん人いるん?」とか平気で訊いてきそうで、タイ人もそういう人が一定数いる。
 パンティップってのは、むかしバンコクの秋葉原と言われた電脳ビルが「パンティップ・プラザ」といって、来場者の1割くらいは掏摸(スリ)だった。おれはここではいち度も掏られたことはないが、知人は行く度に掏られていた。カモっぽいひとってのはスリにはわかるらしい。今でも同じ場所(プラトゥーナム)で営業しているが寂れつつあり、スリは少ないという。20年くらいまえはインチキ臭くて楽しいビルだったのに。
 そんなことより掲示板のほうのパンティップはพัน(パン – 千のという意味)ทิป(ティップ – 英語のtip。部品というよりタイではヒントみたいな意味)で、1,000のヒントやアイディアをみんなで出そうみたいなコンセプトみたいだ。かつての電脳街が「千の部品」だったのより進化してる。じっさい日本の掲示板みたいに殺伐とした書き込みは少ないし、そういう人は嫌われるので居たたまれずに出て行ってしまうようだ。アタマの悪いタイ人はスマートフォンで書き込めるSNSに参加する。
 いずれにせよタイ人がプライバシーみたいなことを言うのは、思ったより早かったね。一般に平均的なタイ人は孤独をひどく嫌う。どこかに一人で行くのもイヤだし、食事を独りで摂るのもイヤがる。だから独特の距離感があって苦手だったが、おれと似たような距離感のタイ人は増えてきているようだ。うちの奥さんを始めとする育ちの良いタイ人は距離の取り方が絶妙で、おれみたいなガサツな日本人でも受け入れてくれるのはありがたい。ほんと付き合ってて楽ちんなのだ。

ขยี้ทำไม - ป้าง นครินทร์「Official MV」
 ขยี้ทำไม(どうしてぶち壊すかな)という曲で、歌っているのはป้าง นครินทร์(パン・ナカリン)という男。タイポップの中堅スターで、1967年生まれ。チュラロンコン大卒(当時のタイで最優秀校)のインテリ。ビッグヒットは数知れず。ところがそれまで専属だったグラミー社から独立したのが去年の3月。この曲は独立してすぐの曲だ。
 ちゃんとヒットしているし、古巣のグラミーからの嫌がらせもない。20年勤め上げて恩も返してるし円満独立だね。この作品はパン・ナカリンによる作詞・作曲・編曲で、独立したら作品に恵まれないってこともない。むしろ路線を指示されたりすることなく、好きにできてるからと、本人も満足のようだ。
 独立して、「言いたいことも言えるようになった」と語っているし、この手の作品は年配や、あけすけな人たちにウケが悪かろうとストップがかかっていたんだろうか。
 グラミー社はドラマと歌をセットで売り出すような戦略が多くて、だからMVが徒に豪華だったりするけれど、独立したらそんなに豪華なMVは作れない。たしかにこのMVでもセットはチャチだしカネがかかってなさそうだけど、良いMVになってる。
 娘も歌手としてデビューして人気が出たし、もう自分のペースで行きたいってことのようだ。そういう年回りだもんね。
 では歌詞だ。

なぜ いいひとがいないのかと 訊かれちゃう
良いことがあるときに限って こんな言葉を言われがち
結婚式に行く度に こう訊かれちゃう
あなたの番は いつ?

心は涙でいっぱいでも 無理やり笑うしかできない
毎回笑いが溢れちゃう
尋ねられたとき 尋ねられたとき

どうしてそんなユーウツなこと訊くの?
ぶち壊し ぶち壊し ぶち壊し 何のために来てるのかな? 何年待っても 誰も来ない
私も傷だらけで 一人で孤独を噛みしめる
なぜ私ばかり悲しい思いが 繰り返される

お母さんは 孫を早く抱きたいとうるさい
ママ 私にはまだボーイフレンドがいないって 知ってる?
友人 親戚 あなたが同情しているなら なんとかしてよ
もう訊かないで 誰もそんなこと言いたくないし

訊かないで 繰り返さないで ぶち壊さないで
やめてちょうだい 劣等感を虐めるのは
落胆して 震えが来て 何もできない
みんな そばにいて わからないの
私ったら 我慢するだけなのね
希望が見えたことなど いち度もない
まったく 何年も何年も これがわかる?

 歌詞じたいはそんなに感心する言い回しはないんだが、社会的に成功した50過ぎのおっさんが書く詞っぽくはない。
 へんに捻ったところがなく、素材勝負のアララギ派みたいな。

 ところで、上方の人が突っ込むときの定型「なんでやねん」はいつ頃から普通に漫才で遣われ出したのだろうと、ざっとYoutubeをチェックしたんだが、じつはプロはあんまり言ってないのかもしれない。手始めに「やすきよ」の漫才を幾つか見たが、「なんでやねん」は聞くことがなかった。いち度だけ「どないやねん」は、あったけれど。おっかしいなー、とWヤングや太平サブローシローを見たが、これも言ってない。若い頃のダウンタウンも言ってなかった。ますだおかだも言ってない。少し知名度を落とすか、と探したら、ビッキーズ(3分55秒あたりから)が言ってた。見つけたときは嬉しかったが、どうもプロの漫才師は「なんでやねん」は滅多に言わないもののようだ。柴田恭兵が、いち度も「カンケーないね!」と言ってないと知ったとき以来の衝撃だ。
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