もっとましな嘘をついてくれ ータイ歌謡の日々ー

タイ歌謡について書いたり、うそをついたり、関係ないことを言ったりします。

心と電話番号、電気料金と鍋のそれぞれの等価交換と警官についての考察

2020年10月18日 21時28分19秒 | タイ歌謡
ขอใจเธอแลกเบอร์โทร (Your Heart For My Number) - หญิงลี ศรีจุมพล【OFFICIAL MV】
 インリー・シーチュンポンさんといって、知名度は高い。モーラム・ルクトゥン歌手としては実力派です。ファンも多い。歳のわからない顔をしておられますが、1983年生まれというから37歳。まあ、そんなところでしょう。
 見た目が、芸人とかそっち方面だよね。キンキラキンのシルクハット被せてクマの肩なんかに乗って出て来てほしい。くす玉もいいね。大きなくす玉が、ぱーん、て割れて、中から紙吹雪とともに「みなさーん」とか言いながら出てきたら似合いそう。浮世離れというか、ちょっとフリーキーていうか、なにやら「あやかし(妖怪)」っぽさもある。狸御殿系ではあるが。
 さて曲だ。タイトルはขอใจเธอแลกเบอร์โทร (Your Heart For My Number) といってタイ語部分は「電話番号を交換してもよろしいですか」という意味。英語の副題が付いて(Your Heart For My Number)ねえ。「あなたの心が、私の電話番号に」ってことか。つまり電話番号の等価交換なんかじゃない。アタシの電話番号が知りたいなら、あなたの心が丸々必要なのよってことだ。アリ地獄みてぇな女だな。
 まずギターのイントロが丁度良く下品に、さらにトレモロアームで不安定に下降したところで、お約束みたいに情けない音色のオルガンが入ってきます。もう、鉄板みたいな、このオルガンは「モーラムは、これじゃなきゃ駄目」って決まってんのか。それとも、この後に入ってくるベースが更にショボいから、ちゃんと中間地点に着陸できるように計算され尽くされた、いぶし銀のパフォーマンスだったりして。しかしそこに被さってくるドラムスは良い。ウラにウラに回ってくるシンコペートはタイ人ならでは。
 で、インリーさんは心の赴くままに歌うんだが、これが上手い。上手いんですよ。おれはこの歌が好きじゃないんだけどね。
 そういえば、この曲がヒットしてるとき、早朝の街を歩いていたら、公園の広場で老人と子供たちが集まって、この曲に合わせてエアロビクスを踊っていて、ほんと何でもアリなんだなって笑っちゃったんだが、子供が合わせて踊る歌詞ですか、これが。

ほら見てちょうだい あなたが心をうばったのよ
わたしがどれほど可愛いか 教えてあげたい
ちょっとヘンだけど 良くも悪くもなくて平凡よりはマシ

だから女らしいふりをする
あなたが待ちきれずに(電話)番号を尋ねるまで気が付かないフリをして
私はあなたに伝えたい 
急いで家に帰ってちょうだい

別の電話番号に電話すると
待つような呼び出し音が聞こえるけど
この番号なら わたしのハートが聞こえます

あなたは心の前払い金を払って
登録して 決心して 元を取ってちょうだい
 今日 わたしを落としてね
わたしは 心を決めて 休暇を取ってあるから

あなたが勝った場合
私が最初に抱いた愛のイメージ通りだから
ダメージはないの

他の電話番号も 待っている音が聞こえる
でも待ってください

この電話番号が あなたの心を捕まえるのよ

あなたは心の前払い金を払って
登録して 決心して 元を取ってちょうだい
あなたは 私の心の残高を一気に浚いました
私はあなたに電話します ああ、なんてこと

電話は それを待っている会話を聞く
そして この番号は私が思っていることを聞く

あなたは心の前払い金を払って
登録して 決心して 元を取ってちょうだい
あなたは 私の心の残高を一気に浚いました
私はあなたに電話します ああ、なんてこと

電話は それを待っている会話を聞く
そして この番号は私が思っていることを聞く


登録して 決心して 元を取ってちょうだい
私の負けです あなたの顔を見たときから
私に任せて あなたの心 電話番号を交換しましょう ooh ooh

 って、なあ。おそらく管理売春組織の歌ではなさそうですが、なんかインチキくさい。
 そんなインリーさんですが、またの名を「ลำซิ่งเมียงู」ラムシン・ミア・ングーという異名があって、ラムシンというのは「モーラム・シン」のことで、モーラムはイーサーン地方の泥臭い芸能でしたね。じゃ、シンて何だよというと、これがレーシングまたはレーシング・カーのことで、つまり(レーシングみたいに)バカ速いモーラムです。そういうジャンルがあるんです。
 で、ラムシン界のミア・ングーだと。「ミア」ってのは「婦人」ですね。妻という意味で使うことも多い。で、「ングー」は「蛇」。身体をクネクネさせて歌うからでしょうが、タイ語って、ンで始まる言葉もあるんだよね。
 これはおれにとっては結構な衝撃で、「ンで始まる単語を持つ言語は未開である」というような漠然とした偏見があったので、怯んだことがあったが、考えてみたらンで始まる言語には広東語はじめタイ周辺の諸国にもあり、珍しいものではないですね。
 まあ、とにかくラムシン・ミア・ングーだと。「ラムシン界の蛇姫様」だと。
 人気あるんだよねえ。この人が好きじゃないというタイ人を見たことがない。
 まあ、おれは好きじゃないんじゃなくて「苦手」なだけだ。
 ラムシン・ミア・ングーの動画を御覧ください。
หญิงลี ศรีจุมพล ณ มมส.จ้า - ลำซิ่งเมียงู
 すごいね。観客が客席から現金を剥き出しで渡してる。モーラムならではですね。インリーさんも顔色ひとつ変えずに受け取っているでしょ。
 これがルクトゥンだったら首にレイみたいなのをかけるんだけど、そのレイは千バーツとか二千バーツとか値段が決まってて、会場で買うのね。歌手はそのレイを販売所に戻すと、なん割かのキックバックが入ります。
 田舎の垢抜けない会場だと、紙幣をステープラーで留めたレイがかけられることもありますが、さすがに現金(タイ語だとเงินสด。直訳するとナマ金。現生ってことか)では渡さないぞ。これは、資本主義と通貨の果たす役割の新しい形というわけでもないと思う。たんに現金は不浄のものという感じか。

 あと、大した話ではないが、今年の5月、インリーさんへの電気料金に間違いがあって電力会社が20,000バーツ(68,000円弱)高く請求してしまったらしいんだが、このときの協議の結果として「鍋を変えた」という。わからない話だ。なぜ鍋なのか。ともあれ鍋を変えると物事は解決するというのか。何かの問題に巻き込まれたら、鍋を変えれば良いというのは、憶えておく価値があるんだろうか。よくわからないが、これで解決なのかと思ったら「警官が、その鍋をリセットし忘れて、結局料金変わらず」と続報が出た。
 なんだそれは。
 わからないうえに警官の登場で、いよいよわからない。リセットも、わからない。二度読み返したが、ぜんぜん意味がわからない。
 おれのタイ語もまだまだだな、と思い、うちの奥さんに意味を訊いてみたら、「あー、これはあなたのタイ語が下手なんじゃなくて、記事を書いたタイ人のタイ語が下手すぎる」と言う。「これは誰が読んでも意味がわかりません」
 どうなってんだ。鍋と、そのリセットは。
 そして警官は何かの鍵を握っているのか。すっごく気になる。

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