もっとましな嘘をついてくれ ータイ歌謡の日々ー

タイ歌謡について書いたり、うそをついたり、関係ないことを言ったりします。

怒らないから 言ってごらん

2023年09月22日 19時49分39秒 | タイ歌謡

 そう言われたら、これは大体まず怒られる前兆だ。考えてみたら、おれは言われたことがない。とはいえそれはおれが品行方正だったからではなく、出し抜けに予告なく怒るような、ばかで下品な人しか周りにいなかったってことだ。
 ただ息子が幼かった頃に、うちの奥さんが「อธิบายหน่อยจะได้ไม่โกรธ(怒らないから説明しなさい)」と言ったのを聞いて、(これ、怒るのかな)と息子の横で身構えた。もし怒られたら慰めてやんなきゃ、と考えていたのだが約束通り怒らずに、それどころか息子をハグしながら優しい声で諭していて、さすがタイ人だなと感心した。同時に(ずるいぞ、ちくしょう。おれも叱られてぇ)と思った。ハグして欲しさにグレたらどうすんだとも思ったが、そんなこともなく素直に育った。まあタイ人全員がこんな風ではないかもしれん。
 似たような言い方で「文句を言うわけじゃないんだけれども」というのもあって、これで始まる話は、これはもうほぼ間違いなく文句だ。ていうか頭の良い人なら、そんなことは言わない。また、言葉の額面通りに理解していいのか悪いのか判然としない言い回しもあって、「逆に」ってやつがそのひとつだ。
 風邪ひいちゃって、いくら身体を温めても熱が下がんないから、薄着で寒い部屋に我慢して座ってたら、なんか治っちゃったんだよね。
「あー。逆に」
 そうだね。逆療法っていうか聖路加病院や西洋の病院もそうだし、バンコクの上流の人が行く高級病院ではこれをやられて駐在の日本人のお母さんは我が子が冷房の強く効いた部屋で裸で寝かされてる姿にビックリして「やめてぇ!」と泣き叫んだりするんだが、この「逆に」は正しい遣い方だと思う。まあ向こうに言わせりゃ日本式療法である布団に包まって身体を冷やさない、ってのが逆に逆療法なんだろうね。逆に。
 でも、火力を強めるのに鞴(ふいご)で風を送ったんだって話に「あー。逆に」とか、カネが欲しいんだったら無駄遣いせずに働けばいいと思うよって意見に「あー。逆に」って言うような奴がたまにいて、こういう返答は間違ってるし、ばかみたいだ。「向こうの空き地に囲いができたってねえ」「あー。逆に」や「この帽子どいつんだ?」「逆に!」に至っては間違いすぎてて冗談にしかならない。

 ところで、「なーんもしてないのに壊れた」なら数度聞いたことがある。そう言ってラップトップのパソコンを持ち込んできた年長の知人がいて、(いったい、どういうことをしたらこんなふうになっちゃうんだよ)と思いながら直したが、いち度だけ一体全体どうしていいものかわからず、もうメンド臭くなっちゃったんで「これ、以前のバックアップの時の状態に戻しちゃっていい?」と訊いたら、「お。おう!」と答えるので、そうしようと思って操作していたらバックアップの履歴がない。「え? バックアップ取ってないの?」と訊いたら、「え? 取ってくれてなかったの?」と逆質問してきた。いや。なんでおれが、あんたのマシンのバックアップなんか取るかよ。面倒くささのゲージが、ぐん、と跳ね上がった。「じゃ、買った時の状態に戻すしかないけど」
「え。……これまでに作った文書とか消えちゃうってこと?」
「うん。バックアップ取ってないからね」
「困るよ」怒りを隠しきれない様子だった。「そりゃ困る」
「んー。じゃ、おれでは手に負えないから、業者に持ってって直してもらって」
「それ、カネがかかるだろ」
「じゃないかな」
「いくらだよ?」
「それは業者に訊かないと」
「もういいよ」そう言ってパソコンを持ち帰ったが、また数日経ったところで連絡があって、「あのね、買ったときの状態でいいから、戻してくれる?」と優しく言ってきた。
 まあ回復ドライバのUSB差し込んでちょこっとポチポチ指示するだけだから簡単ではあるが、初期状態に戻ったあとで「悪いんだけどoffice入れてくんない?」とか言い出して、やっぱりメンド臭い。Windows7の頃だったから、Xpの昔より簡単で速かったとはいえ、なんでおれが、という気になった。そういえばWindows10になってからは、こういうことを言う人はあんまりいなくなったな。いち度あったのがMicrosoft Officeが使えなくなった、と言う話で機械を見たら、まともにOfficeが入ってるのに「Office365を入れましょう」みたいなWindowsの案内に素直に誘導されてまた別途、新たに別バージョンをインストールしてしまい、パスワードを要求されていた。そりゃ使えないわ。まあね。このおじさんも還暦あたりから独学でエクセル使えるようになったのはエラいけど、普通の文書で、それワードで作れよ、ってのもエクセルで作ってて気持ち悪かった。地方自治体の申請書をダウンロードしたら、同様に(なぜこれをエクセルで作った?)という様式もあって、そういう世界ってのはあるんだね。「え? (エクセルでも)できるんだから良いじゃん」ってことで、大きく間違ってはいない。ただ、おれとは違うタイプなんだな、とは思う。あと断言するが、なーんもしてないのに、あんなふうになるなんてことは、ないぞ。
 ない。

 もうアレなんじゃないの。電源を切らないでください、って注意が出ても切っちゃってない? と訊いてみた。
「んなわけねぇだろ。さすがに我慢するよ。あんまり長く待たされたときは切るけど」
 切んのかよ!
「うん。でも、そういうときって、もいっかい電源入れても、またずっと待たされて、あーそうだった、って思い出すよね。だからさ、切るなって言ってるときは切らない方がいいよ」
 ありがとう。ナイスなアドバイスだ。
 良い大学出てんのに、これなんだよな。スイスに長いこと住んでてフランス語も上手いのに、そういうのって何の役にも立たない。やっぱ覚えるんならタイ語だな。タイ語は役に立つなんてもんじゃない。うちの奥さんや息子と話ができるからね。世界でいち番うつくしい言語だ。
 
 ところで、そんなふうに誰かのパソコンの困りごとを助けると、その知り合いが「悪いけどおれも」「じゃぁおれも」と、ワラワラ涌いてきて「なんか最近動きが遅い」とか「カメラが勝手に動いてて、テープ貼って塞いだんだけど、これウィルスかな」とか言いながらパソコンを持ってくる。何かヘンなサイト見に行って地雷踏んだんじゃないの、と訊いても「いや。ヘンなのなんて見ないし」ってきっぱり言ってて、「それに、あなたのパソコンは感染してるから、ここをクリックして、っていうのが出てきたから、ちゃんとクリックして直したんだけど、でもあんまり早くなんないんだよね」とか言う。騙されてウィルス導入してんじゃねぇ。簡単に詐欺に引っかかっちゃうタイプだろうか。笑っちゃったのは、その手の人は全員Hao123が導入されてて、「うーん。そんなの知らないなぁ」などと言う。ウィルスが凄そうだな、と感想を述べると、「そんなことないよ。アンチウィルス入れてるもん」と言うのだが、この手の人たちのパソコンって、例外なくウィルスチェックかけると、数百個のウィルスやマルウエアがいた。一人だけ千個超えてた人もいたな。おめでとう。新記録だよ、って言ったら、「そうかー。なんか娘のクレジットカードが勝手に使われちゃってたんだよ。そのせいだったのかー」って普通に感心してたが、なんで放っておくのだ。
 クリーンアップもしたことがない人ばっかりだった。「やってるよ。必要ないのはゴミ箱に入れてるもん」というが、そのゴミ箱がゴミで一杯で、クリーンアップなんかしてない。そんなだから、デフラグなんて知らない。やったことない。気が向くとしてあげたが、これじゃ遅くなるのも無理もない。ていうかウィルス飼うな。
 べつに、そういう修理というかメンテナンスで金品などの見返りなどは要らないが、それにしても当然みたいな感じで「ありがとう」くらいは言ったり言わなかったりで、面倒くさいから正直に「メンドくさい」と言って断ったこともあった。自分で何とかしなさい。
 まあそういうのも、Windows10になったあたりからセキュリティが向上したので、めっきり少なくなった。おれが入院した頃からSSDに換装してくれって話もなくなった。誰か別に便利な人を見つけたのかもしれない。最近はラクになった。最初からSSDになってるマシンが増えたしね。

「行けたら行く」ってのも、個人差があって、だいたいはこう言われたら(あー。来る気がないのだな)と思うものらしいが、おれが「行けたら行く」と答えたときは行くことのほうが多い。そのまえに予定があって、その予定が長引いたら行けなくなっちゃうので、そう答えているわけで、行く気がないのなら、きっぱり断る。だから、付き合いの短い人などには「え。本当に来た」と軽く驚かれる。待ち合わせなんかも「◎◎の一階の登りエスカレーター脇のベンチで16時28分に。いや、27分だな」などと言って、付き合いの浅い人には冗談だと思われる。が、キリの良い時間だと、ヘンに長く待ちそうでイヤだから、こう言っている。中途半端な時刻だと、(じゃあ家を出るのは余裕をもって30分まえとして……)と無駄な待ち時間が減る。ざっくりキリの良い時刻だと、出発時刻もざっくり早まっちゃって、待ち時間が長くなってしまうでしょ。それがイヤだ。遅れそうなときも今はスマホを持ってるのが普通だから、「申し訳ない。サソリに刺されて毒を吸い出すのに少々かかりそうです。5分遅れて16:32に変更願います」などと連絡したほうがカッコいいよね。

 結婚式の披露宴の出欠を問う往復はがきに「行けたら行く」という項目がないので、そういう気持ちのときは欠席する。いち度、なんだか距離感の微妙な人からの案内に「欠席」と返事して(あとでお祝い包めばいいか)と思っていたら、知人にも漏れなく通知が来ていて皆(なんでおれに?)と思ったという。ひどいのは「出席」と返事したのに当日現れなかった者が半数くらいいたと聞いて、(なんだそりゃ)としか思えなかった。数年後に離婚したと聞き、(あー……。そう……)しか言葉がなかった。つまり言葉がなかったってことだね。そういえば今思い出したが、あとで包もうと思っていたお祝い、まだ渡してなかったな。いや、もう遅い。ていうか連絡先も不明だな。なんかごめん、とは思うが、軽い貰い事故に遭ったみたいな感じもある。誰も幸せになってないというギリシャ悲劇のパターンなのに、ドラマチックな要素が微塵もない。

 さて、今回の歌だが、エントリーのタイトルみたいな歌を探してみたがあるわけもなく、近いのか遠いのかโกรธไหม(怒ってますか)という歌があって、それにした。このブログでもなん度か登場しているルラさんの歌だ。ルラさんはタイ式の正統派ウィスパーヴォイス歌姫で、よく考えたら数度登場のわりには経歴を知らなかった。もうデビューして20年くらい経ってそうなのに、なんで歳取ってないんだ? と思ったが経歴を見たらデビューしてまだ15年。しかも最初はボサノヴァ歌手としてデビューしてて、あんまりニッチすぎて有名にはなれてなかった。有名になったのは2ndアルバムの2010年くらいから。2011年末に公開の映画「ATM」の主題歌มองได้แต่อย่าชอบ(見えるけど好きじゃない)を歌って、一気にブレイク。コメディー映画「ATM」はタイ喜劇史上画期的な作品で、それまでの差別的でビンボ臭い喜劇を丸っきり脱却して軽妙でナンセンスで馬鹿馬鹿しさが矢継ぎ早に炸裂するローラーコースターみたいな映画で、映画館は爆笑の坩堝と化した。あれはホントに面白かった。GTHというタイの映画配給会社が最も脂の乗りきった時期で、これで調子に乗って後年รัก 7 ปี ดี 7 หน(7年愛して7度良し)という映画に社運を賭け、大コケにコケて会社は消滅。社の抱える3大監督のオムニバスで、映像美にこだわった、ちょっと捻ったサザエさんの実写みたいな映画になってしまって、映像研の学生は喜ぶけど、荒唐無稽さのない洒落臭い映画になってしまった。あれは残念だったね。
 そんなことよりルラさんのキャリアがまだ15年かそこらってことに驚いた。最初から大物っぽかったからね。昔からタイのジャズフェスなんかに出場して人気者だったんだよ。
 高校卒業後、オーストラリアに渡ってボサノヴァの研究(本人談)をしていた。なんでオーストラリア? と思うが、タイ人ってオーストラリアに留学したがる人が多い。治安も良さそうだし、差別も少なそうだって言う。実態はどうか知らないが。まあ、そこでボサノヴァの腕を磨いた。ウィスパーヴォイスと、ヘンにリズムを外しにくるのは、そういう訳だったんだね。知的な歌い方だ。
โกรธไหม (เพลงประกอบละคร จากศัตรูสู่หัวใจ) - LULA [OFFICIAL MV]
 この曲はルラさんの歌には珍しく、頭も悪そうだし、なんかグズグズ揺れ動く女の歌だ。しょうがない。これはTVドラマの主題曲だからで、タイのソープオペラは、エグいくらいに馬鹿が喜びそうな内容だから、主題曲が馬鹿っぽくなるのは必然なのか。早速だが、歌詞だ。

私が心細いと わかってるの?
まるで 私が意地悪な人みたいに思ってない?
そうじゃなくて 私には心がないということが わかるかしら

私が動揺していること わかってるの?
あなたを傷つけ続けるたびに
そんなに気にしていないふりをするのは 苦痛なの

私はあなたを愛している でも何かが私に囁くような気もする
私は心からあなたを愛していないということを

私の したことすべてに 怒っているの? それであなたは悲しそうなのかな
私がどれだけあなたを愛しているか 一度も伝えなかったことに怒っているの?
心で私を見てよ ただ理解してほしいだけ
愛していると言いたい 私がどれだけあなたを愛しているかを伝えたい
でもね 私にその権利があるかどうかはわからない

昔はちょっとした痛みだった
でも愛するたびに 痛みが増す
だって 私の心が望んでいた愛じゃなかったんだもん

彼にあなたの代わりを してもらってもいいかな?
それは私を悪夢から 救ってくれると思うの
だからあなた 一度だけ本当に愛してみて

愛してる それは私の心が私に言い続けている声
心からあなたを愛したいと
私の したことすべてに 怒っているの? それであなたは悲しそうなのかな
私がどれだけあなたを愛しているか 一度も伝えなかったことに怒っているの?
心で私を見てよ ただ理解してほしいだけ
愛していると言いたい 私がどれだけあなたを愛しているかを伝えたい
でもね 私にその権利があるかどうかはわからない

 つまらない歌詞だ。楽曲じたいも、まあこんなものか。どってことない。どうでもいいが、メイクのアイラインというのか、目張りが酷い。
 これではちょっとあんまりなので、ルラさんの代表歌唱を貼っておこう。先述の映画「ATM」の主題曲だ。これを見るだけで(お。この映画、面白そう)って思うでしょ。
 このMV撮影時で32歳か。やっぱり歳取らない人だな。
MV มองได้แต่อย่าชอบ (Official mv OST. ATM)
 で、このMVを観たら、11年まえからルラさんの化粧は凄いことになってた。これでふつうなのだろうか。画像検索かけたら、わりとナチュラルメイクの方が多い。でなきゃ、めっちゃ派手。タイ人だなぁ。

 よし。今回のエントリは短く、と決めて書き出しただけあって、思ったより長くなったが前回の半分くらいか。ふつうのブログって、こんなに長くないよね。
 まえに、文章量を半分くらいに短くして倍のペースで配信するということも考えたことがあったが、そんなことをして読みやすくなって、万が一読者が増えるのもイヤだな、と思って、あえての長文なんである。なんぼでもダラダラ書けるのであった。延々と無益でくだらないが、どこを切り取っても一貫してくだらない、というのは潔いことなのか。
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