ビタミンP

苦心惨憺して書いている作品を少しでも褒めてもらうと、急に元気づく。それをトーマス・マンはビタミンPと呼んだ。

第3回朗読会 テーマ:ホセ・ムヒカ(世界でいちばん貧しい大統領)

2016年05月16日 08時06分56秒 | Weblog
友人の小さなギャラリーで、朗読会をすることになりました。

2016年5月14日(土)於:ギャラリー60
テーマ:ホセ・ムヒカ(世界で一番貧しい大統領)のスピーチ


 今日は、とても興味深い映像を見つけましたので、まずはそれを写してみたいと思います。
★映像1(サウジの皇太子の自家用ジェット)
 もう一つあります。
★映像2(ビル・ゲイツのクルーザー)

 最初の映像は、2016年時点で(雑誌フォーブス/3月1日)世界41位の富豪と言われるサウジアラビアのアルワリード・ビン・タラール王子の所有する、一機400億円の最新鋭旅客機エアバスA380です。100億円をかけて内装を一流ホテルのように改装したプライベートジェットの内部です。
 こんなものもあります。黄金のフェラーリです。これも同じサウジの王族一族の子供がベルリンの学校に通うのに使っている車としてネットにアップされていました。親子の往復書簡が添えられていて、お金持ちの生活ぶりがしのばれます。
 でも、このビン・タラール王子も、現在は世界の41位です。2006年では8位でした。この年に全資産を段階的に慈善団体や女性の権利向上のために寄付すると表明して減ってきています。
 では、世界の第1位は誰でしょうか? みなさん、よくご存知のビル・ゲイツ(マイクロソフト創業者)ですね。写真は彼が毎夏、家族とのバカンスに使用しているクルーザー(建造費330億円)です。内部はこんな風になっています。ただし、こちらは所有しているのではなく、一週間の貸出(チャーター)料5億円で借りているものです。ちなみに彼の2016年3月時点の資産は約8兆4,750億円。タイの国家予算に相当すると言われています。ちなみに日本の2016年度の予算は96兆7,218億円。彼もプライベートジェット(写真)を持っていますが、こちらはビン・タラールと比べる、ちょっと控えめですが、それでも約53億円のカナダ・ボンバルディアGlobal7000,20人乗りの”空飛ぶ高級ホテル”と言われるものです。


 それでは、ここらで、今回取り上げます、去年まで南米・ウルグアイの大統領(2010年3月から2015年2月末まで)であったホセ・ムヒカという人を見てみましょう。
 このホセ・ムヒカという人は、これですが(★画像)、皆さんも多分、ご存知ではないかと思います。
 ちょうど一ヶ月ほど前、4月5日に初来日しまして、東京外国語大学での講演や、フジテレビでの池上彰さんとの対談をやって、京都などを訪ねた後、12日に帰国されていますので、ニュースなどでもよく見かけられたかと思います。
 ”世界で最も貧しい大統領”と呼ばれ、このような絵本(★画像)にもなって、日本でも発売されています。来日前で16万部が売れていたということですから、この来日で、もっと増えているでしょうね。
 このホセ・ムヒカさん(5月20で80歳になる)が有名になったのは、今から4年前の2012年6月に、ブラジルのリオで開催された地球サミット2012でした。世界188か国から97名の首脳や閣僚を含む約3万人が参加した国連の持続可能な開発会議で行った演説でした。その人がまた、とても質素で慎ましい生活をしているということが伝えられて、ますます注目を浴びたということもあると思われます。
 大統領ですから、月収は約97万円ほど(日本の安倍首相は205万円)なのだそうですが、その9割は慈善事業に寄付して、残りの約10万円を生活費として暮らし、個人資産は約18万円相当と言われる1987年式のフォルクスワーゲン・ビートル1台(★映像)だけという人です。この車はアラブの大富豪が1億1,600万円で買いたいと言ってきたそうですが、売らなかったそうです。

 今日は、このホセ・ムヒカ元大統領のリオでの有名な演説を読む予定にしていたのですが、実は、来日に合わせて、フジテレビがニュース番組の中で大きく取り上げていました。テレビでその来日の経緯と演説の全文を紹介されました。ご覧になった方もいるかと思われます。
 私のようなものが、稚拙な朗読をするよりも、その中で、羽佐間道夫さんというすばらしい声優さんが読んでいますので、今日は、まずはそれを聞いていただくことにします。
 羽佐間道夫さんの有名な声としては、映画ロッキーのシルヴェスター・スタローンでしょうね(★写真)。後は、ポール・ニューマンとかロバート・デ・ニーロも彼が吹き替えています。

(★映像)

 以上です。
 実はこれで、本日は終わりにしたいのですが、それでは朗読会という看板に偽りアリということになってしまいます。
 それで、本日は、ムヒカさんのスピーチとは直接関係ないのですが、型破りなスピーチを二つご紹介することで、お茶を濁させていただきたいと思います。

 はじめは、短いスピーチです。落語家の立川志の輔師匠が、「ハンドタオル」という落語の中で紹介している、師匠が実際に体験したという結婚披露宴でのスピーチです。

★スピーチ1

新潟のあるディレクターの結婚披露宴に呼ばれた時だったそうです。制作会社のディレクターさんの結婚式でしたので、その会社の社長さんが出てまいりまして、こんなスピーチをされたのだそうです。
志の輔さんといえども、こういう祝辞は聞いたことがありませんでした、と言っていました。

「えー、新郎新婦、おめでとう。
ご両家のご両親様、えー、本日は誠におめでとうございます。
私は、今、司会者の方にご紹介いただきました
新郎が勤務しております会社の社長をなどというものをやっております。

えー、私、新郎新婦に申し上げたいことは、多々あるのでございますが・・・
えー、そのー、私事で誠に恐縮なんではございますが、
実は3ヶ月ほど前に、再婚いたしまして・・・・、

まあ、会社に行きますと、この歳にして再婚、再婚と、
それは冷やかされてばかりいる毎日なのでございます。

それで、まあ、私、今、正直に思っていることを申しますと、
その~ですね、
変えてみても、あまり、変わりはなかったと・・・、
まあ、そういうことでございます。

まあ、新郎新婦も、これから山あり谷あり、
いろいろな、辛いこともあると思われます。

が、
その時は、どうか、私の言葉を思い出していただきまして・・・、

変えてみても大差はないぞと・・・

そういうことでございます。

甚だ
簡単ではございますが・・・。
これにて、両君へのはなむけの言葉としていただきます」


 二つ目は、アメリカのシラキュース大学という大学の卒業式でジョージ・サンダースという先生が行ったスピーチです。シラキュース大学というのはニューヨーク州にある有名な大学です(★写真)。ジャーナリズム学部が有名で、多くのテレビ関係者や記者を排出していることで知られています。有名な卒業生としては現在のアメリカ副大統領のバイデン(★写真)、映画ではコロンボ刑事で有名なピーター・フォーク(★写真)などがいます。
 その大学で、2013年に卒業生の一人で、短編作家でもあるサンダース教授が行った卒業生へのスピーチです。

★スピーチ


「おまえら、おやじっていうのは、金づるだとしか、思っちゃねえだろ? っていうか・・・、昔のロック、例えばThe Whoのヒット曲を思い出せないときに、「ねえ、あれなんだっけ」とか尋ねてみたり・・・、
 まあ、お前らにとって親父の出番っちゃあ、そんなとこなんだろうさ。

 で、たまたま気が向いた時に、「このおやじはなんでこんなんになっちまったんだろう?」とか興味を持ったりしてさ、
「ねえ、人生でさ、一番、後悔してることは、何なの?」
なんて、失礼千万な質問をぶつけてきたりする、だろ?
 ま、もちろん、そんな質問されても、こっちはへっちゃらだけどね。逆に言い聞かせてやるさ、聞きたくないって言われたって、ふんづかまえてでも、話してやる。

 で、おれは誰かって・・・?、まあ、「成功した」と一般には思われてる作家のおれだけどね。

 お前ら、おれが、人生で、一番後悔してることは、なんだと思ってるんだ?

 たまに、ビンボーしてたこと? 違うね。
 えげつない仕事に明け暮れたこと? それも違う。
 あ、あれか。スマトラで川に落っこちて、それを300匹のサルたちに笑われたってこと?
 いや、違うな。
 そういえば、あいつら、盛大に川にウンチをしやがって・・・、その水を飲んでしまったおれは、病気になって、7か月も入院したんだぜ。
 大失態だった? 
 でも、違うな。
 ホッケーの試合で、好きだった子の前でヘマをしてさ、嫌われてしまったことがあったっけ。

 でも、そんなことじゃないんだ。

 あれは、確か、中学校1年のときだった。
 エレンちゃんって女の子が転校してきた。
 エレンちゃんはさ、ばあさんしかしないような大きな眼鏡をしていて、いつも、ピリピリしてたな。緊張すると、金髪の髪を口にもっていって、噛んでた。
 クラスのやつも、近所の連中も、ほとんど、彼女を無視してた。そして、たまに、からかった。
「お前の、髪、いい味するの?」なんてね。
 もちろん、おれは、そんなことには加担しなかったよ。どちらかといえば、そんなことから、彼女を守ろうとした・・・、つもりだったんだ。
 だけど、何もしなかった。

 でも、知ってたんだよ。
 彼女が、朝、学校へ行く前、家を出て学校へいくのを、まるで恐れるように、長い間、家の前庭で立ち止まっているのをね。

 そのうち、彼女は、行っちまった。
 転校して、いなくなった。

 まあ、それだけの話だ。

 でも、
 そいつがさ、42年経った今でも、おれは忘れられないんだ。

 おれが、人生で、一番、後悔しているのは、そういうこったよ。
 なんで、あの時、親切になれなかった、んだろう・・・。


 さすがにね、いまじゃ、おれの目の前に、ひどく困った人間が現れたら、すんなりと同情できるし、親切に、やれることをやる。


 なぜ、親切になるのは難しいのかね?
 ダーウィン流に、生き残るための間違った意識が遺伝子の中に組み込まれているんだと、おれは推測することにしているんだ。

 つまり、こんな風に、思違いしてるんだよ、みんな。
(1)自分こそが世界の中心だ、とか、  
(2)自分は世界から切り離された存在だ、とか、
(3)自分の命に終わりはない、とかね。

 頭じゃ、わかっているのさ、誰でも。でも、本能的に、そんな風に考えて行動しちまうのが、人間ってものなのさ。


 どうやったら、そんな思違いを払しょくできるんだろう?
 難しい問題だ。・・・子犬を飼ってみるとか、いろいろあるんだろうけどね。

 おや、もう、スピーチの時間が3分を切った。(時計を見る)
 あたりまえの方法を言っても仕方ない。先にすすむぜ。
 これについちゃ、まあ、自分で考えてみてくれ。


 でも、まあ、ちょっと待ってくれ。この件についちゃ、やっぱり言っておきたいこともあるんだ。

 おれたちは、歳をとると、自然に、ある程度は、「親切に、やさしく」なるもんだよ。
 人生、いろいろと辛いことがあっても、助けられることだってあって、社会とつながってるし、みんな助け合って生きているんだっていうことが、実感できるようになるのもなんだ。
 知り合いが、ポロポロと死んでいきゃあ、否が応でも、自分もそのうち、あちら側へ行くことが、実感として、わかるようになるしな。

 そうさ、おれみたいな人間でも、たいていの人間は、歳をとると、優しくなるものなんだよ。


 だから、ひとつ教えておいてやるよ。
 いいかい、なんだかんだ言ったって、おまえのその「おれがおれが」っていう利己心は、歳をとるにしたがって、いつか薄れていくよ。
 で、お前の存在の中心にあった「おれ」はどうなるかって・・・・、
 照れくさいけどね、これだけははっきり教えてやる、
「愛」さ、愛って奴に、置き換わっていることに、いつか気づくんことになるんだよ。

 おまえら、思ってるだろ?
 なんで、父ちゃんと母ちゃんは、たいしたこと成し遂げてないのに、あんなに幸せそうなんだろう、って・・・。
 お前の父ちゃんと母ちゃんの中心は、今のお前のように「おれ」じゃないんだよ、
「お前に対する愛」に置き換わってるんだぜ。
 だから、あんなにも、幸せそうなんだ。
 お前ら、全然、わかっちゃいないだろ? お前も、いずれ、そうなるんだ。


 まあ、ともかく、卒業、おめでとう。

 で、お前ら、これから社会に出て、成功したいって、思ってるんだろ。いい大学出て、いい会社に入って、きれいな嫁さんもらって、稼ぎのいい旦那を見つけてって・・・
 もちろん、天職をみつけて、その分野で成功したいと思ってるだろ。
 いいよ、それでいいんだよ。
 がんばれよ!


 でも、知っておいたほうがいいぜ。
 そう言った成功は、カゲロウみたいなもんだ。
 知ってるだろ? カゲロウってやつ、それを目指して、いくら歩いても、どんどん遠ざかって、結局到達できない。
「成功」を追っかけて、「成功」は手にしたけど、それが思っていたもんじゃなかった、って場合もある。
「成功」ばかりを追っかけてると、人生、間違えることもあるんだ。


 だから、おれがお前らに、頼みたいのは、こういうことだよ。
 どうせ、お前らは、歳とともに、親切な、利己的でない人間に、なっていくんだから。いくら、お前が、いま、親父やおふくろを理解できなくてもな。
 だから、今、急げよ、そのスピードを上げろって。
「成功」を追っかけるな、と言ってるんじゃないんだ。追っかけろよ! スピードを上げて!

 金持ちになってみろ、名誉を求めろよ、胸を焦がす恋に落ちろよ、旅をしろよ、革新を起こせ、リーダーシップをとってみろ! そういうこったよ。
 そして、裸でジャングルの川に飛び込んで、存分に遊べ!
(ただし、サルたちのうんちには気をつけろ。)

 だけど、やがて、歳とともに、自分の中で大きくなる光、人のことを深く思いやるお前の芯にある灯、そいつの存在を信じて、大切に育てることを忘れちゃいけないぜ。
 それを大きく、大きく育てるんだ。
 何か困難な問題に直面して迷った時は、その光の照らす方へ進めばいい。それこそが、お前を大きな成功に導くはずだよ。
 そして、万一、社会的な成功が、お前の目前で、誰かほかの者の手に落ちたところで、そんなこと、どうだっていうんだ?
 その灯を育てること、その輝きを放つこと、それ以上に、大切なことなんてないぜ。
 そして、いつか、シェイクスピアのように、ガンジーのように、マザーテレサのように、その灯を、まぶしいばかりの輝きにするんだ。


 で、お前らが80才になったときにさ、110才になったおれがもし生きてたらだけど、「おれの人生は、素晴らしかった」って聞かせてくれ。

 以上だ、卒業、おめでとう!

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