ビタミンP

苦心惨憺して書いている作品を少しでも褒めてもらうと、急に元気づく。それをトーマス・マンはビタミンPと呼んだ。

どうして日本は「人命が最優先」とならないのか。どうして経済が優先されてしまうのか。

2020年04月14日 00時18分32秒 | Weblog

日本の緊急事態宣言が遅すぎる理由、コロナ最前線の米医師が戦慄の提言
ダイヤモンド編集部 
2020.4.7 5:00

 


――現在の状況を教えてください。
 700床ぐらいの大学病院で、感染症の指導医(臨床と研究を通じて医学生などを教育する医師)という立場で新型コロナの患者をみています。これまでのところ、呼吸困難で酸素吸入は必要だが、人工呼吸器を使うまでには至らない初期段階の症状なら、ヒドロキシクロロキンとアジスロマイシンなど、ある程度効く薬があると分かりました。
 しかし一度重症化したら、薬はほとんど効果がありません。治験段階の薬はいくつかありますが、どれも正直なところ大きな効果は見られてない。中国や欧州から研究レポートがどんどん上がってきているのですが、どの研究でも重症化した段階での薬や治療法には決め手が見つかっていません。このウイルスの重症化のメカニズムは、まだはっきりとは解明されていません。
 そうなるともう対症療法しかない。呼吸困難になったら人工呼吸器に繋いで、それでもだめなら体外式膜型人工肺(ECMO)を使って、治すというよりも症状をなんとか緩和する。その後は患者の治癒力頼みです。そして残念なことに、人工呼吸器に繋いだ患者で「戻って来た」人はほとんどいない。
――「戻る」とは回復するという意味ですか。

 人工呼吸器を外して自分で呼吸できるようになる、という意味です。回復するかどうかは別の問題です。戻って来られた患者はほんの一握り。特にお年寄りは、ほとんどがそのまま亡くなります。重症化してから亡くなるまでの時間は、1週間程度です。この1週間というのも、ICU(集中治療室)の医師が何とか持たせた結果です。もし人工呼吸器やECMOがなければ2、3日で亡くなると思います。
 そして、まったく重症化していなかったのに、ごく短時間で症状が激変して亡くなる人もいます。私が覚えている例では、ICUではない通常の病室にいた患者で、サチュレーション(動脈血酸素飽和度、血液の中の酸素濃度を指す)が急激に下がった人がいます。すぐに人工呼吸器をつけようとなったのですが、その間に亡くなってしまいました。さっきまで起きて新聞を読んでいたような人が、1~2時間で亡くなったのです。これを予期するのは非常に難しい。今はとにかく血圧やサチュレーションを3~4時間おきにこまめに調べていますが、それでもすべては予期できない。

「面」で対処するしか選択肢はない

――その最前線から日本に対しては、何を提言したいですか。
 緊急事態宣言、そしてロックダウン(都市封鎖)のような措置をすぐやるべきです。日本はここまでのところ、クラスターという感染の「点」を把握してそれを封じ込めようと考えてきましたよね。でも医療現場の実感でいえば、それは非常に難しいです。新型コロナは感染力がめちゃくちゃ強く、重症化したらかなりの確率で死にます。
 ですから、ロックダウンで「面」として国民の行動を制限し、短期間で爆発的に感染拡大することをなんとか阻止する。これが何より重要です。長期的には相当数の国民が感染していくとしても、その勢いをとどめなければ、日本全国の病院に新型コロナの患者が一気に増えるおそれがあるのです。
 日本では米国や欧州の惨状と比べて、「われわれは感染者数も死者数もはるかに少ない。新型コロナ対策に成功している」と楽観視する向きが強いように思います。しかし新型コロナの威力を目の当たりにしている医師からすると、その楽観姿勢には極めて強い不安を感じます。今でも日本では電車通勤が普通に行われていて、学校の授業も再開されようとしているそうです。この状況ではクラスターどころではなく、不特定多数が日常的に感染リスクにさらされます。

 前述したように、病院では初期の症状の患者にきちんと投薬などの治療をし、サチュレーションなどのきめ細かい管理をする必要があります。それを徹底し、重症化する人を少しでも減らす。そして本当に必要な人に、間違いなく人工呼吸器を使ってもらう。そこから回復できる可能性がわずかであっても、その可能性を設備のキャパシティであきらめさせるなんてしたくない。そのためには、感染の勢いをなんとか抑制することが大前提として欠かせないのです。
 うちの病院では、人工呼吸器やICUのキャパシティがそろそろ限界に近づきつつあります。人工呼吸器はたくさんあったのに、現時点ではあと20基ぐらいしかない。これが尽きたら、後は命の取捨選択をせざるを得ない。倫理委員会で議論して「どの様な患者からは人工呼吸器を外させていただく」と決めなければいけない。そういう時期が、間もなく来る可能性を覚悟しています。うちの病院だけでなく、州全体でも全受け入れ能力の8割程度に達していると思います。
 隣のニューヨーク州では、すでに命を選ぶ状態になっています。ニューヨークの新型コロナ患者を受け入れ可能な病床数は、合計5万3000床、うちICU 3000床(州の人口は約2000万人)あります。それがほぼ埋まって、人工呼吸器も枯渇しそうになっています。一方で東京都は700床(都の人口は約1400万人)程度しかない。これでは全く足りません。重症患者が少ない今のうちに、受け入れ能力を引き上げておくのがいいと思います。

ERの医師は高いリスクを抱えている

――感染症の専門家という視点で、新型コロナのウイルスについてどんなことが言えますか。

 まず、毒性が極めて強い。このウイルスに対して人間の免疫能力が強く反応し、多臓器にダメージが生じる「サイトカインストーム」が起きます。肺が最初にやられますが、腎臓などにもダメージが出て、ショック状態に陥り、最後は心肺停止で亡くなります。
 そんな毒性の強いウイルスが、鼻水や唾液の中にものすごくたくさん入っている。その数たるや、インフルエンザの何倍もあるといわれている。話すだけで辺りにウイルスがまき散らされます。ましてやくしゃみなんてしたら、ものすごい量の飛沫をまき散らします。それが空気中に3時間程は漂っているという研究結果がある。
 ですから私たちは患者が入室したら、空気感染が起こると考えて行動します。そのためにN95という高い規格を満たすマスクで防御することが重要なのです。ところがそれが今、全然足りていません。私は同じマスクをもう1週間ぐらい使っています。洗ったり、アルコールで消毒したり、紫外線を当てて滅菌したりして、使い続けています。
――本当に滅菌できていますか。安全ですか。

数がないので、そうするしかない。ただ私は、自分はもう感染しているかもしれない、と考えて行動しています。帰宅したらすぐシャワーを浴びて、自宅では自室に閉じこもります。勤務以外に外出はほとんどしませんし、家族とも家庭内別居状態。自分が無症状であっても、話をするだけでものすごく感染力の強いウイルスを撒き散らしかねないのですから、人から距離を置くしかありません。
――実際に医師など医療従事者の方で、感染して重症化した方はいますか。

 ER(救急患者の治療を行う部門)の医師で重症化した人が何人かいます。ICUに入って、人工呼吸器を繋がれています。
 ERが怖いのは、新型コロナに感染しているのかどうか分からない人が、別の理由で担ぎ込まれるのです。一応、病院駐車場に置いたテントの中で患者に簡単な検査をやって、発熱の有無などで振り分けるスクリーニングはしています。それでも新型コロナって本当に巧妙にできたウイルスで、症状がいろいろあって必ずしも事前に分からないんです。8~9割は高熱がなかなか下がらないパターンですが、頭が痛いだけで熱が全くないという人もいるのです。
 そしてERに担ぎ込まれる患者の場合、病院に来た時点ですでに意識がなくて、新型コロナの自覚症状があるかどうかなんて分からないケースも多分にあります。例えば先週は、胸をナイフで刺された患者が来ました。ギャングの抗争なのか、けんかなのか、刺されて意識を失っていました。傷を見るためにCTスキャンを撮ったところ、両肺にすりガラスのような影があった。それで初めて感染が疑われ、新型コロナだと分かりました。「激しい乱闘をする人が呼吸困難を併発しているわけがない」と、先入観で対応してしまう。そして、思いもよらず感染してしまう。ERの医師はそんなリスクを抱えているのです。
 もっとかわいそうなのは看護師です。看護師1人で患者10人を担当していたら、毎日50~60回はウイルスがある部屋に入らざるを得ない。解熱剤の投与だけでも、1人につき1日何度も投与に行くのですから。これでは感染のリスクは極めて高くなります。ですから医師は、できるだけ投与頻度の低い薬を使うなど工夫していますが、感染のリスクはけっこう高いのが事実です。
――米国立アレルギー感染症研究所(NIAID)のファウチ所長が、「米国では最低でも10万人、新型コロナで死亡する」と予測しました。臨床の体感値で、この数字をどう思いますか。

 荒唐無稽な数字などでは全然ありません。起こりうる事態だと思いますし、この勢いなら10万人で抑えられればいいほうかもしれません。
 ニューヨークの多くの病院では今、建物の隣にトレーラーが停まっています。何が入っているかというと、遺体です。どこも霊安室がいっぱいになりつつあるので。しかも非常に悲しいことに、感染力が高いので、その遺体を家族に戻してあげられない。トレーラーで冷やして保存した後は、おそらくすべて焼却することになります。米国では火葬した後の灰を墓に入れる文化はないので、遺族には「火葬しました」という通知が来るだけだと思います。
 日本もこのまま行ったら、人口が大きく減るおそれがあります。私自身、実家が東京なので、今すごく心配です。友だちも、昔の同僚もたくさん東京にいます。彼らが無事でいられるかどうか。
 そして私、すごく疑問に思うのです。どうして日本は「人命が最優先」とならないのか。どうして経済が優先されてしまうのか。衛星放送のニュースを見ると、企業の決算期が終わってから非常事態宣言を出すほうがいいだとか、論点がものすごくずれているように感じます。薬害エイズでも非加熱製剤の危険性が分かっていながら、製薬業界は人命より経済的利益を優先しましたよね。その判断がどれだけ悲惨な結末をもたらしたか。それを思い出せば、日本政府が今下すべき判断は明らかだと思います。

斎藤 孝(さいとう・たかし)/米ニュージャージー州大学病院で感染症指導医。総合商社の米国駐在員を経て、米国医科大学院に進学。卒業後、ニューヨークで内科レジデント、感染症フェローとしてエイズや結核などの感染症患者の治療に従事。

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