ムラブリ
2023-06-23 | 本
今日は昼間は家で仕事をして、夜は合唱練習に参加しました。
図書館で借りて、伊藤雄馬の「ムラブリ」を読みました。著者は島根県生まれの人ですが、富山大学を卒業し、富山県の人と結婚したという縁があり、地元の新聞で紹介されていたので、読んでみました。ムラブリというのはタイやラオスの山岳地帯に住む少数民族です。副題にもあるように、文字も暦も持たない、畑仕事もしない、移動して寝床を変えるノマドの民です。言語学者の著者は、ムラブリ語と出会い、文字がないので調査は彼らの住む場所に赴いて行います。
ムラブリ語を話せるようになるということは、ムラブリの身体性を獲得するということだそうです。言葉はその民族の生き方そのものを表しているということでしょう。日本語には日本人の常識が、ムラブリ語にはムラブリの人たちの常識が現れているという話は、とても興味深かったです。例えば気分がいい時には表情もなくぼーっとしているムラブリは、日本人から見ると不機嫌に見えるかもしれませんが、それが一番いい状態です。なのでムラブリにとって、「心が上がる」のは悪いことで、「心が下がる」のは良いことだそうです。
この本は著者のこれまでの生き方や人との関わり方、ムラブリ語の調査の過程や独特の暮らし方や特性をエッセイのように語っていますが、これはムラブリの研究成果だといいます。「ぼくがムラブリとして現代日本に生きることが、ぼくなりのムラブリ研究であり、また同時にその成果だと思っている」というあとがきが面白いです。言葉を通して、民族を知るというのは面白いですね。現代の生きづらさについて、面白い視点で考えさせられる話で、とても興味深く読みました。