そのご老人、私の目をカッと見て一言。ここからは会話としてどうぞ。
老「アンタらは東京もんか?」
ボ「いえ、関西もんですよ。」
老「いや、ここらいろいろ見てきたけど、ちょっと違うからな。」
ボ「え? ま~~、こんなにフリマだとは思ってなかったんで。」
老「そこのえべっさん、ええなあ。」
ボ「有難う御座います。これは東京のイベントで賞を2つ頂きました。」
老「なるほどな。アンタら大阪でやってもアカンで。東京の方が認めて
くれるわ。東京でやり、東京で。」
ボ「あ~、そうですか~。そうでしょうね~。え~っと、何か芸術系の事を
されているのですか?」
老「ワシはいろんな画廊の方から出てくれって言われるぐらいのアレじゃ。
今まで自分の金出して画廊なんか出たこたないわ。ひしゃくで絵を
書いたりもしとるわ。それで飯食っとる。」
ボ「ひゃ~、凄いですね~!!」
老「アンタ、何やっとるんや?」
ボ「私は、適当に絵描いて、適当にこんな事やって……」
老「東京やで。アンタは東京の方がエエ。大阪なんか解ってくれんぞ。」
ボ「あ、はい。」
老「今度、黒田と横尾、紹介したるわ。」
彼が言う「黒田」と「横尾」は、誰もが知っている現代美術作家の
黒田征太郎さんと横尾忠則さんである。そくさま、ミワンコフがキスケの
名刺を渡した。渡されると同時に「そんじゃ。」と老人は立ち去って
行った。彼の名前を聞いてなかった事に気づいた私はそのへんを探し
まわったが、消えてしまったようにどこにもいなかった。
柄杓で絵を…鷲見康夫さん? 嶋本昭三さん? ん~、老人の顔をハッキリ
憶えてない。その前に御両名の顔があまり知らない。写真見ても解らない。
芸術好きの老人が、我々を騙して楽しんだ? それにしてもあれだけ作品を
並べているのに、恵比寿への的確な言葉。嘘を言うにもすんなり流れる言葉。
後日、老人の正体が判明しました。只のじじいでした。しかも、画廊での
オープニングパーティなどを回っては、無料で用意してある食い物や飲み物
を喰らう“荒らし”のようです。今度、会ったら説教してやる。