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kiske3の絵日記

一コマ漫画、トホホな人の習性、

映画批評、恐怖夜話、あらゆる

告知をユルく描いて書いてます。

箱 7

2007年07月25日 | ボスヒコの「恐怖夜話スペシャル」

「面倒見がいい? みんなを仕切っている? ………それで?」


ガルは旦那の悩みを忘れたように、ぴーちゃんの事を本腰入れて話す為に
イスに浅く座った。ガルの勢いは衰えることはなく、私の質問をことごとく
吸収していく。そんなに追いつめられている現状では無いと思うのだが、
彼女がいかに現実逃避してるのかが解る。細かくて執拗な説明が続いた。


ガルの説明によると、ヌイグルミ達には各自、意思があって、個性までもが
存在する。たくさんのキャラを言われたが、あまりにも多いので憶えている
だけのキャラを記すと、超ワガママなネコ・ミク、引っ込み思案の勤勉家の
クマ・コタロウ、みんなのアイドルで赤ちゃんパンダ・ルンルン、いじめ
っ子のワニ・ズー、いじめられっ子のイヌ・ハルなどだ。ちゃんと役割がある
ヌイグルミが数えきれないほど存在する7畳の部屋。彼らを上手くまとめる
リーダーがあの写真に写っていたぴーちゃんだ。ガルが会社に出勤したり、
外出時の留守の間の出来事は、ぴーちゃんから毎日報告があるそうで、いつも
家に帰るのが楽しみだと言う。ガルが外出時の報告をぴーちゃんにする事が
楽しみならまだ理解出来るが、全くの逆。ホコリが舞うかどうかの誰もいない
部屋に何が起こると言うのだろうか? それとも、帰って来たらヌイグルミの
位置が変わっているとでも言うのか? 愚問が疑問に変わるが、決して質問
にはならない。ガルの目を見れば、状況がどうあれ、真実なのが解るからだ。


彼女はヌイグルミの話を全て話しきった後に、清々しい顔で私に礼を言った。



「こんな変な事を言ったら、気持ち悪がられるので今まで人に言えなかった
 んですけど、ボスは理解してくれる人なんで感謝してます!!」



私は別に理解はしてない。“人形ごっこ”が出来る成人女性に興味があるだけだ。
話を聞いていると彼女はヲタクのそれとは違う。彼らの楽しげなインナーワールド
は近隣と繋がっている。しかし、ガルの話は彼女のあの部屋だけの産物なのだ。



話を終えて満足しているガルはぴーちゃんを思い出したのか、財布からあの
擦り切れた写真を取り出して、ぴーちゃんの部分を愛しく撫でて微笑んでいる。



彼女は幼稚なのか?


それとも


壊れているのか?







まだまだ手探り状態。                      ボスヒコ

 暑いです。夏はそうめんが良いです。押しそうめん。
 
 

2007年02月22日 | ボスヒコの「恐怖夜話スペシャル」

ブー太郎が我がキスケオフィス近所に引っ越して来ました。家賃の割には
部屋数もあり、1人で住むには充分の広さです。で今回はこの部屋の下見の
時の出来事。私は友人・知人が引っ越す時に一緒に部屋の下見をする時が
ある。自ら進んで人んちを見に行くのではなく、引っ越しする人に「得体
の知れない何かがいるかどうか」を視させられる為に呼ばれるんである。
生霊や怨霊、畜生霊や低級霊などが潜んでいるかどうかを探し出してくれ
ってわけですが、いつも適当に言っちゃってます。これがね、後で資料を
調べると言った事が当たっているからしょうがない。だから未だに同行
させられているわけです。ま、間取りとか見るのは好きなんで別に良いん
ですけどね。そのマンションはキスケオフィスから数十メートルしか離れて
いないんで仕事上好都合で、これからブー太郎の仕事っぷりに期待大です。

その部屋は隣の部屋と隣接されてない角部屋だし、5階建ての5階なんで上の
住人が出す音もない。ベランダからは川辺の綺麗な景色も目に入る。なか
なか良い部屋じゃないですか。そして、肝心な似非霊能力者ボスヒコの仕事。
特にブー太郎の新しい部屋には嫌な感じはしない。あ~、この部屋でジジイ
が老衰で死んでるな~とか、このマンションの横の川辺は大昔、大勢の農民
が殺されて川に流されたんだな~ってぐらいです。強いて言えば、寝室に
使われたであろう部屋におっさんが寝ている感じがします。ええ、おっさん
です。死霊じゃない生霊のおっさんが老衰で死んだジジイん所で寝てます。

って事で、何も支障がないので契約成立、私と敏腕不動産タカヤ、カノリンヌ、
ブー太郎の一同は小さく古くさいエレベーターに5階から乗りこんだ。おっさん
以外はなかなか良い部屋だったね~とか雑談しながら降りて行くエレベーター。

私は何かを感じ、ふと天井を見上げた。大して明るいとは言えないエレベーター
の灯り。その四隅に何かが書かれた和紙の切れ端のようなモノが貼られている。


ブ「良い部屋でしたねぇ~。タカヤさん本当にありがとうございますぅ。」

タ「いやいや、礼ならボスに言ってください。ボスの依頼の時だけ、急に
  良い部屋が空くんですよ。急に家賃が安くなったり、絶対に出て行き
  そうにない人が出て行ったり。今回も社員全員で“ボスヒコの呪い”
  だって、騒いでたところです。」

カ「いつもの事じゃん。…ん?………ボス…どうかしたんですか?」

ボ「う、上……。」


私が見上げている方向に3人がゆっくりと目をやる。小さな紙切れに何かが
書いてあった。それを見たブー太郎が悲鳴を上げ、狭い箱の中でもんどりうつ。



呪い



その紙切れには墨で「呪い」と書かれていた。ええ~~!?!?こんなの
行きのエレベーターにあったかよ~!?!? 1階に辿り着き、開いた
エレベーターから吐き出されるように出る私達4人。とにかく、大家さん
に連絡だ!という事で敏腕タカヤが早速聞き出した。ここの大家さんの
高齢のお母さんがこのマンションの為だと思い「おばあちゃんのオリジナル
お札」を貼ったのだそうだ。後日、タカヤは敬意を込めて丁寧に大家さん
を説得してお札をはがしてもらったそうだ。やれやれ、と言ったところだが、
「呪い」って…。何か裏がありそうだが、面倒臭いんで透視をやめた。




しかし、その後、な~んにも霊など感じないブー太郎が部屋のある一角に
何かを感じるらしく、恐いので毎日キスケオフィスで寝泊まりしている。



ひょっとして、お札をはがした事が……























ウンコの霊でもいるんじゃないでしょうか。             ボスヒコ

 読んだあと、押したら除霊が出来ます。
 
 



点滅

2006年12月25日 | ボスヒコの「恐怖夜話スペシャル」

これは萬作(女性)から聞いた実話である。



彼女の知り合いに生け花の先生がいる。その先生はよく不思議な経験をするらしい。


ある深夜の事。シャワーを浴びた後、テレビを観ながら髪の毛を乾かしていた。


目の端にちらちらと何かが見える。その方向を見てみると、ベッドの上に置いていた
携帯電話のランプが点滅していた。マナーモードにした記憶はない。マナーモードに
したとしてもバイブ機能が働いていない。メールを受信したのか、電話がかかって
きたのかもわからない。点滅つづける携帯電話。彼女は気になって、携帯電話を開いた。


ほんの一瞬だったが、写ったもの。それはメール受信画面だった。普通はメールの
マークなり、受信BOXなりをクリックしなければ絶対に見れない画面である。上から
送信者の名前、タイトル、本文と続く。そこには、見ず知らずの人の女性の名前と
タイトルに「さよなら」と一言書かれていた。そして、本文には文章がなく、1枚の
写真が張られていた。その写真はうつろな目をした長い髪の女性の証明写真だった。


脳裏にその映像が焼き付いた瞬間に、携帯電話が待受画面に戻った。わずか1秒の
出来事。彼女は受信履歴を調べたが、知らない女性からの受信履歴は一切なかった。


それから数日後、先生の周辺でこれに関連する不思議な現象は起こってはいない。

否、“まだ” 起こっていないというべきであろうか。













「過去の選択」に似た話ってあるんだね。皆さんも携帯電話にご注意を。ボスヒコ


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過去の選択 最終回

2006年12月11日 | ボスヒコの「恐怖夜話スペシャル」

あの留守番電話の狂人の声を聞いてから、5年が経った。次々と解明されていく
真実。東京の病院で首と両腕を切断されたタカダの遺体が発見される。そのそば
には警官も殺されていた。それに関連ある事件で、あるビルの2階から複数の遺体が
発見される。遺体は身元がわからないぐらい切断されていたが、キヨとヤナギの
遺体は確認された。この事件は、都会での大量殺人事件として世界中を震撼させた。




キヨはタカダの様子がおかしかったのに気づいていたのだと、ワタシは今思う。
それがストーカーなのか、宗教的要素なのかはわからない。ワタシがタカダに
ふられた後、タカダがワタシを狙って(おそらく、誰かの命令で)何かをしよう
とするのを見つけ出し、制止に入って殺されたと考えられる。ワタシは大学の
同級生に連絡をとって真実を聞き出した。タカダとキヨの結婚話は大学の同級生達が
作った悪質なイタズラだった。同級生達はキヨが忘れていった携帯電話を使って、
「今まで黙っていたけど、私はタカダさんとつきあっていました。明日、私達は
結婚します。」とワタシに送信した。その後すぐにワタシを着信拒否して。ワタシに
送ったメール内容を消去した。キヨがあまり大学に来なくなったのを利用して
「結婚して引っ越した」と言う低レベルな嘘を失恋したショックで信じてしまった。

要するにワタシはみんなから嫌われていたのだった。理由はわからないし、知りたく
もない。それから数ヶ月後、キヨが行方不明だとわかり、警察が動き出したが、
ワタシも既に引っ越した後だった。衝動的な引っ越しに誰もワタシの住所は知らない。
失恋と親友の裏切りをまだ引きずっていたワタシは新聞、テレビ、インターネット
などの世間の情報に興味を抱けない状況だった。同級生達は自分達のイタズラを隠す
為に、キヨとアキコは付き合いがなかったと言う情報を作っていた。しかし、その頃
のキヨは家庭内でのトラブルの方が酷く、家出人扱いされていたので、同級生達の
偽情報は警察の捜査にとって、全く必要なく、これで過去の1つの事実が隠された。

ワタシはキヨの事を誤解していた。キヨは良い家庭に育って幸せだと思っていた。
悩んでいるのを一切口にせずに、いつも明るく振る舞っていたキヨの事を思い出す
とワタシは泣きながら自分を恥じた。しかも、自分が殺されたのにも関わらずに
ワタシを助けてくれたキヨ。過去の記憶は自分の選択によって変わって行く。
キヨのお墓に花を添え、感謝の念を込めて手を合わした。その時、携帯電話が鳴る。


「もしもし、アキさん? お疲れ様です~。 ズブロッカが切れてますよ~。
 うちの客はズブロッカ好き多いんスから~、多めに頼んどきましたよ!」


ヤナギの恋人だった彼からの電話だった。彼は今、ワタシの店でバーテン修行中の
身だ。ヤナギを失った傷心の彼は毎日のようにマスターの店に足を運んだ。その
マスターが残してくれた店は、今でもワタシが守り続けている。唯一、ワタシの事を
好きでいてくれたキヨとマスターはこの世にはいない。ジャズが流れる店は彼らの
存在を感じれる、ワタシが一番安心出来る場所となった。彼らがワタシを守ってくれる。


そして、これからはワタシが彼らを守る。


「もしもし、アキさん!? 聞いているんスか~!? アキコマスタ~!?」

「うるさい!!ヤナギ君とキヨに挨拶行ってたんだよ!そして、今からワタシは
 マスターんとこ行ってアンタのサボリを報告しながらバーボン呑むんだよ!」















             終わり












って事で、もう一度、「ボスヒコの恐怖夜話スペシャル」の「泊まり込み」を
読み返してくださいな。         ボスヒコ

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過去の選択 9

2006年12月09日 | ボスヒコの「恐怖夜話スペシャル」

アキコ元気? 今度、そっちへ行く用事が出来たから、また、会って遊ぼうよ。



これは確かにキヨからの最後のメールだった。その当時は何も気づかなかったが、
知らぬ間に保存をかけていた。そのメールをコピーして、自分の携帯電話から自分
へと送っていたのだ。自分にはその記憶はないが、誰かがイタズラでやったとも
思えない。その時刻は自分1人だったし、一瞬たりとも携帯電話を手放した事が
ない。モリが言うには、キヨの霊がアキコにそうさせたのだと言う。にわかに
信じがたい事実。真実は誰にもわからない。しかし、モリはまだ疑っている
ワタシに追い打ちをかけるように、もう1つ事実を付け加えた。


「全てのキヨの受信時刻を確認しろ。」


4時36分。キヨのメールの受信時刻が2回とも4時36分だった。それにモリが答えた。


「それがキヨの殺された時刻だ。」


その時、店内のジャズの有線放送がまた早送りになっていった。今度は音量も大きくなり、
グラスやボトルが震え出す。「お、おいおい!!どうなったんだ!?」マスターが急いで
有線放送の電源を切りにカウンターを出た。バーの電話のモリの声が怒鳴る。「逃げろ!!」
その言葉の後、モリが何かを叫んでいる。通話状態が悪くなったのか、とぎれとぎれに
聞こえる。「もしもし!もしもし!モリさん!?何!?」モリの声が途切れ、一瞬静まった
後、ハッキリ聞こえた一言は聞き覚えのある声。それはワタシの親友のキヨの声だった。



……………………に げ て……………………





バーのドアががたがたと鳴る。それは心霊現象ではなく、人がドアのノブを回す音。
鍵を閉めた記憶が無い。ドアをノックする音。直感でタカダが来た事がわかった。
現状を把握したマスターはワタシを裏口の方へと導く。ワタシは泣きながら、外へ
飛び出して行った。その場でタクシーを拾い、マンションにも帰らずに、出来るだけ
この場所から離れた。タクシーに乗って1分も経たない内に携帯電話が鳴った。その
相手はヤナギからだった。一瞬、ワタシの留守番電話に気づいて電話をかけてきて
くれたんだと思った。本来なら助けを求めれる相手のはずなのに、全身に鳥肌が走り、
脳内に危険信号を出している本能が身体を硬直させた。そして、留守番電話に変わった。



「只今、電話に出る事が出来ません。発信音の後に、メッセージを録音してください。」


ピィーーーー


「………………おい!…………おい!!おおおおおおいいいいいい!!ぼけええええ!
 でろや!でろやああああああああ!!!!おおおおおおおおおおおおいい!!!!!
 にげてもむだじゃあああああああ!!このぼけがあああああああああああああ!!!」













聞いた事があります、この声。ふごっ!ふごっ!           ボスヒコ


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過去の選択 8

2006年12月08日 | ボスヒコの「恐怖夜話スペシャル」

ワタシはマスターの話にショックを受けて震えている。この事実をモリという
男が作ったわけではないのは理解しているのだが、堪え切れない怒りが爆発
した。モリは自分に向けられている理不尽な罵倒を黙って聞いている。ワタシ
が言い疲れた頃、冷静な口調でモリは言った。「信じるも信じないのも貴女の
勝手だ。私もボランティアではないのでね。」彼は呑み代をカウンターに
置いて滑るようにバーから出て行った。一瞬の出来事だったので、現実感が
なかった。しばらくして、客としてのモリに失礼な態度をとった事に気づき、
慌てて追いかけたが、もう姿は無かった。店に帰ってきたワタシにマスターが
笑顔で言った。「アキちゃん、あの人ね、アキちゃんが聞く耳を持たないって
事も解っていてね、コレ渡されていたんだよ。」マスターはコースターの1枚
をワタシに差し出した。コースターの裏にはモリの言葉が書かれてあった。



貴女の親友の霊が、「逃げろ」と言っている。メッセージが来ているはずだ。



ワタシの親友?……………ワタシが今まで親友と言えた友達はキヨ1人だった。
キヨの霊!?………キヨは死んだのか!? ますます意味が解らなくなって来た。
メッセージがなんだって言うんだ!? メール受信の事? ワタシが自分の携帯
電話を出した瞬間にバーの電話が鳴った。受話器を取ると、モリの低くて重い
声が聞こえて来た。ワタシの心の頃合いを見計らって電話をかけてきたのだ。




「もう時間がないので、落ち着いて聞いてくれ。貴女に憑いている親友の霊体が、
 なんとかして連絡を取りたがっている。何か奇妙な現象が起こっていなかったか?」

「………有線がおかしくなった事はあったけど……。それよりも!ワタシの親友
 って誰よ!誰の事なのよ!キヨの事!?キヨなら生きているわよ。ちゃんと
 メールをもらったし!キヨ以外、他に親友って人、いないんだけど!!」

「じゃあ、キヨだ。キヨは殺されている。そして、キヨを殺した奴が貴女を
 狙っている。そしてそいつの意識が徐々にそのバーへ向かいつつあるのだよ。
 わかるか?マスターにも行き先を告げずにすぐにそこから出て行け。」

「殺された!?!? ちょっと、キヨのメールの事が解明されてないのに「はい、
 そうですか」と言って、簡単に出て行けないわよ!」

「じゃあ、教えてやる。携帯の受信メールを開け。そして、キヨからの受信メール
 を探し出して、どこから送信されて来たかを確認しろ。」




ワタシはモリに言われるがままに行動して、送信してきたメールアドレスを確認
した。目の前が真っ白になった。そこにあったのはワタシのメールアドレスだった。









意外にあと2、3話で終わるかも。                  ボスヒコ

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過去の選択 7

2006年12月07日 | ボスヒコの「恐怖夜話スペシャル」

ヤナギへの2回目の電話も通じず、タカダに会う決心もつかないまま、アキコは
バーに向かっていた。足どりは重く、緊張であまり呼吸してなかったのか、鈍い
頭痛がしていた。好きな人と久々に会う気持ちではないこの心臓の高鳴りを
抑えるにはバーに戻るしかなかった。彼女はバーの木製のドアの前に到着した。

ワタシは息を飲んでゆっくりドアを開けた。タカダさんはそこにはいなかった。
そのかわりに髪の長い男がふてぶてしく座っていた。目つきが悪く、顔全体を
覆う髭に所々に剃り込みを入れている、一見、浮浪者のような男だった。彼は
ゆっくりワタシの登場に振り返り、「お帰りなさい。」と言って、カウンターに
入るように勧めた。一見親切の行動だが、ほぼ強制に近く、不快感を感じた。
この不快感の原因はひょっとしてこの男の態度ではなく、タカダさんに会える
のを期待していたのだろうか。ワタシは自分の感情を否定するように、笑顔で
カウンターに入った。そして、髭の男は軽く自己紹介して、恐ろしい話をしだした。


「はじめまして。私、モリと申します。突然ですが、私を信用して頂きたい。
 貴女はすぐにここから、この土地から、できるだけ遠くに離れなければならない。
 理由は信じられないだろうが、貴女を狙う者がもうすぐやって来るからです。」


この男は何を言っているのだろう?ワタシを狙う者?頭がおかしいじゃないのか?
あまりにも突飛で滑稽な内容に、ワタシは黙って聞くしかなかった。モリと言う
男はそれから馬鹿な事を付け加えた。貴女は最悪、命を落とすかもしれないと。

「あの、すいませんが、お客さんのおっしゃっている意味が全く理解できません。」

神妙にこの光景を見守るマスターが口を開いた。「あのね、アキちゃん。誰にも
言ってなかった事なんだけどね……、来年一杯でこの店を閉めようと思ってんだ。」
ワタシはその事実に驚いた。しかし、なぜ今、このタイミングでマスターが話す
のかが解らず、何も言えなかった。だが、マスターの次の一言で理由が解り、自分が
これから遭遇する悪夢と真実を受け止める覚悟を決めなければならなかった。



「このモリさんはね、それを当てたんだよ。そして、僕がガンだって事もね。」











さ、次々。                            ボスヒコ

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過去の選択 6

2006年12月06日 | ボスヒコの「恐怖夜話スペシャル」

「今、連絡しましたけど……お客さん、凄いですね~。っんとにアキちゃんの
 友達の方じゃないんですか?」マスターがうさん臭そうにその男に話しかける。
初めてこのバーを訪れた男は、マスターに軽く会釈して、ラムのパンペロの
ストレートを注文し、イスに深く腰掛けた。彼は店内を見渡したかと思うと、
いきなり「このバーに、昔、芸術をやっていた綺麗な顔立ちの女性が働いて
いますか?」と質問してきた。男が言うには、彼女に早く告げなければいけない
事実があるらしい。マスターは鬼気迫る男の表情に圧倒され、アキコに電話を
したのである。アキコに急激に迫り来る恐怖をマスターはまだ知らない。



アキコはマスターの少し調子のおかしい言い方に不安を感じた為、来訪者の
名前を聞くのを忘れた。考えられる人物は、タカダタカユキ。なぜ今頃?
キヨとの仲を修復しに来たのか? 理由がわからない。複雑に絡み合う過去が
アキコの身体を蝕んでいく。彼女が出来る事はヤナギに電話するしかなかった。

「もしもし、アキコです。あの…」喋り出そうとしたが、留守番電話の女の声に
止められた。そのまましばらく待って留守番電話に吹き込んだ。「もしもし、
ヤナギ君? タカダさんの事を訊きたいんだけど、連絡ください……、では。」



ヤナギは電話が鳴っているのにも気がつかずに必死で走っていた。野球のバット
で殴られた頭がズキズキと痛むが、殺されるよりもマシだった。「くそっ!くそっ!
俺が何をしたって言うんだ!」ヤナギはロープで縛られていた手首をさすりながら
悪態をつく。約100m先にぼんやりと灯りが見えた。その灯りに照らし出される
小さく古い小屋。(人がいるのか!?助かった!!)ヤナギは虫のように明かりに
呼び寄せられて行く。彼は灯りに目を奪われ、足下を見ていなかった。そして、
とうとう、太い木の根っこに足を引っ掛かけて転倒する。その時にジーンズの
ポケットから携帯電話が落ちた。彼は携帯電話を落とした事にすぐに気づいたが、
暗闇の中の林に落ちた携帯電話を探すのは困難を極めた。その時、再び鳴る携帯
電話。ジャズの着信音と点滅するライトで携帯電話の位置が解った。それは同時に、
自分の位置を敵に知らせる事にもなる。(ちいぃっ!!早く取らなければ!!)
彼が携帯電話の近くまで来た瞬間、真っ暗な山の中にとけ込んでいた闇が、ふいに
せり出したかと思うとヤナギの身体に覆いかぶさった。「ぎゃああぁあぁあぁ!!
何だ!?何だ!?おい、ちょ…」巨大な豚かと思われる生物がヤナギの首を一瞬に
してへし折った。静かな深い森がざわめき、後に残るは、邪悪な荒い鼻息と暗闇。








おっと、なんとなくアレに近い気がしますね~。           ボスヒコ

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過去の選択 5

2006年11月26日 | ボスヒコの「恐怖夜話スペシャル」

あの夜はあのまま何事も起こらずに済んで安心したのだが、数日経ってよく考えて
みると、数にしてたった2回のメールに悩まされる日常に嫌気がさした。今度、キヨの
メールが来たら、絶交の内容のメールを送り返してやろう。当然、理解してもらう。

今日は珍しく客が来ない。もう3時なのに、若いカップルといつもの常連客の3人
のみだった。マスターは趣味の将棋の本を読みながら、「アキちゃん、1時間ほど
休憩しておいで。客が増えて来たら連絡するからご遠慮なくね。」と言ってくれた。
ワタシは近くの24時間営業している本屋に行く事にした。歩きながら考える事は、
やはり、キヨの事だった。彼女のメールの着信拒否を解除してからいつ送信されるか
わからないメールに、おどおどしている自分の気持ちが辛かった。キヨへの親しい
気持ちが残っている事はわかっていたが、どちらかが踏ん切りをつけなければいけ
ないのもわかっている。ワタシはこのモヤモヤした気持ちを大型チェーン店の眩しい
明かりに舌打ちをして八つ当たりをする。無意味なのは解っているが、しかたがない。


携帯電話のバイブ機能が鳴る。思わず、本屋を飛び出して暗い路地に入った。恐る
恐る携帯電話を開けてみると、この間、出会った大学の後輩のヤナギと言う文字が
あった。なぜだかほっとしてメールを開く。しかし、送られた内容に愕然とした。


「(*~▽~)/ばんわぁ~♪あの時は楽しかったです!ヾ(@>▽<@)相方もアキコさん
 見てウットリしてました!ガ━(゜ロ゜;)━ン それはともかく、あの話、憶えて
 ますか? 僕の同期でアキコさんに憧れていた奴です。先日、同窓会で久々に
 会ったのでバーの話しちゃいました。なので、嬉し恥ずかしのタカダタカユキ
 って奴が行くと思いますので、そん時はよろしくお願いします!(^o^)v では
 また行きます!!(ノ´▽`)ノ{+++THANK YOU+++}ヽ(´▽`ヽ)」


タカダタカユキ!? ワタシが学生時代に好きだった、ワタシがふられた、ワタシ
からキヨを奪った、キヨの夫の名前と同姓同名だった。まさか…そんな偶然なんて!
その時に、マスターから電話が入った。「アキちゃんにお客さん来てるよ~。」








偶然は必然と言う者もいるが、偶然と言う現象がなければ、偶然と言う言葉は
生まれない。                          ボスヒコ

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過去の選択 4

2006年11月24日 | ボスヒコの「恐怖夜話スペシャル」

携帯電話を開いて受信メールを見た。「アキコ元気? 今度、そっちへ行く用事が
出来たから、また、会って遊ぼうよ。」一ヶ月前と全く同じ文章を送って来たのは、
予想通り、キヨだった。「そ、そんな…」キヨからのメールを着信拒否していたはず
なのになぜ?……。ワタシは、ちゃんと着信拒否しているかどうかを確認してみたが、
なぜか解除されていた。キヨのメールを嫌がっているワタシが着信拒否したのだから、
ワタシが解除するわけがない。何かの拍子で解除されたのか? 例えば寝ぼけて解除
した? 携帯電話を落とした時に解除された? 確率が低すぎる想像を切り裂いた
のは、またもや有線放送だった。再び早送りされるジャズのBGM。徐々に高速に
なっていき、今では音楽ではなくなっていた。ワタシは急いで有線放送のチューナー
の電源を切った。静寂に包まれる独りっきりのバー。嫌がらせのメール。奇妙な現象。

ワタシはこのバーで働き出してから、こんなにもお客さんを望んだ事はなかった。

あと1時間で閉店時間になる。真面目な性格が邪魔をして、早めの後片付けが出来ない。

携帯電話の電源も切って、気持ちを落ち着かせようと自分用にホットワインを作る
事にした。余ったワインを鍋に入れて火にかける。グラニュー糖が切れていたので
代わりにハチミツを入れた。わさと換気扇を消して、ワインの良い匂いを店内に放つ。
そうする事によって、ワタシは自分を安心させようとした。充分加熱されたワインを
グラスに注ぎ、客席の方へ回って、ワタシは椅子に腰掛けた。熱いホットワインを
冷ましながら、ゆっくり一口飲んだ。耳についていたあの忌まわしい早送りのジャズ
が薄れていくようだ。しかし、閉店まで乗り切るにはあと1杯のワインが必要だった。












空間を濁しても、状況を変えても、時間の進み方は変わらない。   ボスヒコ 

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