「面倒見がいい? みんなを仕切っている? ………それで?」
ガルは旦那の悩みを忘れたように、ぴーちゃんの事を本腰入れて話す為に
イスに浅く座った。ガルの勢いは衰えることはなく、私の質問をことごとく
吸収していく。そんなに追いつめられている現状では無いと思うのだが、
彼女がいかに現実逃避してるのかが解る。細かくて執拗な説明が続いた。
ガルの説明によると、ヌイグルミ達には各自、意思があって、個性までもが
存在する。たくさんのキャラを言われたが、あまりにも多いので憶えている
だけのキャラを記すと、超ワガママなネコ・ミク、引っ込み思案の勤勉家の
クマ・コタロウ、みんなのアイドルで赤ちゃんパンダ・ルンルン、いじめ
っ子のワニ・ズー、いじめられっ子のイヌ・ハルなどだ。ちゃんと役割がある
ヌイグルミが数えきれないほど存在する7畳の部屋。彼らを上手くまとめる
リーダーがあの写真に写っていたぴーちゃんだ。ガルが会社に出勤したり、
外出時の留守の間の出来事は、ぴーちゃんから毎日報告があるそうで、いつも
家に帰るのが楽しみだと言う。ガルが外出時の報告をぴーちゃんにする事が
楽しみならまだ理解出来るが、全くの逆。ホコリが舞うかどうかの誰もいない
部屋に何が起こると言うのだろうか? それとも、帰って来たらヌイグルミの
位置が変わっているとでも言うのか? 愚問が疑問に変わるが、決して質問
にはならない。ガルの目を見れば、状況がどうあれ、真実なのが解るからだ。
彼女はヌイグルミの話を全て話しきった後に、清々しい顔で私に礼を言った。
「こんな変な事を言ったら、気持ち悪がられるので今まで人に言えなかった
んですけど、ボスは理解してくれる人なんで感謝してます!!」
私は別に理解はしてない。“人形ごっこ”が出来る成人女性に興味があるだけだ。
話を聞いていると彼女はヲタクのそれとは違う。彼らの楽しげなインナーワールド
は近隣と繋がっている。しかし、ガルの話は彼女のあの部屋だけの産物なのだ。
話を終えて満足しているガルはぴーちゃんを思い出したのか、財布からあの
擦り切れた写真を取り出して、ぴーちゃんの部分を愛しく撫でて微笑んでいる。
彼女は幼稚なのか?
それとも
壊れているのか?
まだまだ手探り状態。 ボスヒコ


