心霊現象とカテゴリーされる恐怖以外の恐怖。ほとんどが「命からがら」
とか「もう少しで死ぬとこだった」というものでしょう。自分や他人の
単なるミスから発生する事が多いかもしれません。これを経験すると何年
経っても「あぁ、生きてて良かった!」とか「あぁ、神様仏様!有り難う
御座います!」と心底、思ってしまいます。まずは、私が芸大時代の話。
当時、作品制作で立体造型を作っていた私は、針金で基礎となる骨格を
作っていました。太さが各サイズの針金は、ある一定の輪の状態に綺麗に
巻かれている。それをシャリシャリ鳴らしながら、ペンチで適度な長さも
カットしては骨組みに巻いたりしていた。深夜、朦朧としながら、なかなか
進まない行程に苛立ちを感じていた。ある針金が輪の途中で絡まっている。
それをほぐそうとするほど、難解なパズルになっていく針金の輪。ストレス
のピークに達した時、右手に持ったその針金の輪を振り下ろした。その時、
“シュッ”と空気を切り裂く薄い鋭角な音と共に、右目とこめかみの間に
痛みを感じた。円を描いて、針金の尖った先が目の1センチ横に刺さった
痛みだった。幸い、こめかみの骨の上の皮をえぐっただけで済んだものの、
私は痛みに叫ぶ前に青ざめ、そして言った。「か、神サマ!アリガトウ!」
次は弟の話。彼も芸大時代に起こった恐怖の話です。
当時、弟の友人の間でサバイバルゲームが流行っていた。サバイバルゲーム
とは、主にエアソフトガンとBB弾を使って行う、戦争の歩兵による戦闘を
模した撃ち合いを行う遊び、もしくは競技である。一般の人に解りやすい
ように言うと、要するに戦争ごっこである。さすがに軍服は着ないが、エア
ガンには凝っていたので、毎週末のゲームは白熱していた。紅組と白組
で戦い、戦場は夜中の芸大校内だった。もちろん、夜中の校内には入れない。
当時は管理が甘かった上、卒業制作の学生の深夜制作も黙認されていたので
易々と入れたのだった。数々のゲームの中、まだサバゲー初心者だった弟は
すぐに射撃され、「ヒット!」と両手を上げて自分が「死んだ」事を告げる
ばかりだった。今夜こそ生き残ってやる、と意気込んだ弟は、敵がよく
見えそうな校舎の屋上に上がった。芸大はほぼ田舎のど真ん中にあったので
街灯や周囲のライトなどほぼ皆無。自分が装備しているライトで照らそう
ものなら、自分の居場所を敵に知らせる事になるので御法度。弟は暗闇の
屋上を、敵が現れそうな場所を仮定し、見晴らしの良い屋上の縁まで
ゆっくりと静かに歩いていった。突然、自分の身体が傾いた。回る遠くの
街灯。自分が屋上から落下するのが解った。とっさにエアガンを捨てて、
屋上の縁を左全身で手すりを掴もうとした。そこには屋上にあるべき
手すりが無かった。凍り付いた脳は左手と左脚でコンクリートの本当の
「縁」を叩き付けるようにして掴み、しばらく腰が抜けたまま、右半身
だけ宙に浮かんでいた。数十秒後、力が入った身体を一気に屋上に持ち
上げて、大声で叫んだ。「か、神サマ!アリガトウ!」その声で敵に
見つかった弟はゲーム上での永遠の死、すなわち、サバゲー脱退を目的に
手を挙げて敵前に出て行ったのである。もう一度言う。「あぁ!神様!」
まだ、ありますけどね。 ボスヒコ

