Bankの秘密基地

個人日記兼つれづれなるままに

米国の格差問題

2021年03月27日 | マクロ経済
トランプ前大統領がホワイトハウスを去ってバイデン民主党政権が誕生して格差問題の是正が解決する兆しがあるのかというと、そうでもない。アメリカにとって格差問題は日本と違う捉え方がされている。金持ちが余計に金持ちになって不公平感が社会に蔓延しているというのはある程度真実だが、アメリカ社会はある意味自由すぎて格差問題を是正するには政治的にも極めて困難だ。日本においても格差問題が取り上げられて世論が同調し始めるとあっさり最高税率が引き上げられ、高所得者の基礎控除が廃止(2500万以上ではゼロに)された。しかも割と短期間で決まったのが日本らしい。基本的にムラ社会である日本では世論が同調すると一気に物事が決まる。いい面であり、悪い点でもある。これがアメリカではそうはいかない。

自由の国を標ぼうするアメリカ社会は個人資産に対する課税を所得再分配機能として正しいと解釈する人がマイノリティである。税を取るというのは個人の権利の侵害だと考えている人間すら多い。だからこそアメリカンドリームは個人の成功であり、それに対して不公平だというのは「筋違い」と考えている人が多数である。そうはいっても極端な格差が発生するとどうにかして是正する必要がある。日本の格差問題と米国の格差問題はレベルが違うのである。




超富裕層と呼ばれる世界ランキング10位を見るとほとんど米国人である。1位のジェフ・ベゾスはアマゾンの会長。18兆円ですよ。どこかの国の国家予算並みだ。日本人の最高はファーストリテールの柳井会長、その後はソフトバンクの孫さんだが、柳井さんですら33位。その下のグラフは日本とアメリカの上位1%、0.1%の所得シェアだが、格差問題が騒がれた日本は実はほとんどそのシェアが変動していない。「最も成功した社会主義国家」と呼ばれる日本は実は所得再分配機能がしっかり機能している。一方のアメリカは両者ともに過去20年でシェアを上げており、上位1%で所得シェアはほぼ倍になり、0.1%のウルトラ超スーパーリッチは4倍になっている。日本の格差問題なぞはアリ位小さく、一方でアメリカは本当に半端ないのである。(日本の格差問題は存在していないという主張ではない)



米国と日本の富裕層は何が違うかというと保有資産構造がそもそも違う。上図は米国の世帯純資産の分布だが、2013年現在でトップ1%は米国全体の家計資産の36.7%を保有している。上位5%なら64.9%、20%なら88.9%に達する。しかも1962年からの時系列でみるとトップ20のシェアが上昇している。左にジニ係数があるが、新聞などで出るジニ係数は所得に関するものでこれは純資産に関するジニ係数である。0.871.....まあ、はっきりいって資産に関しては米国は超格差社会と断定できる。その理由は保有資産の大部分が株式であることからきている。いわゆるアメリカンドリームの体現として格差が広がっており、一概に「不公平」とは言い難い面がある。アップルがガレージから創業して株式を公開し資産を増加させたことを「ずるい」と主張できるだろうか。少なくともアメリカ人のほとんどはそれをずるいとは感じないはずだ。

一方の日本の富裕層は資産構成の半分は土地になっている。もともと日米では金持ちの質が違うのである。よって日本の世帯純資産のジニ係数は0.6を下回る。つまり、マクロ的には日本の格差問題はアメリカの足元に及ばない。それはすなわち、ジャパニーズドリームがもともと少ないから日本はウルトラスーパー富裕層自体が少ないと言える。グローバルに見ても格差是正を訴える動きは共通しているものの、その処方箋については議論が百出しておりこれといったものがないのが現状だ。最も言われているのは富裕層課税である。富裕層課税に関しては米国でも一部のスーパーリッチが主張している。
 著名投資家であり、スーパーリッチでもあるウォーレン・バフェットなどは富裕層に課税すべきであると主張している。マイクロソフトのビルゲイツ、投資家のジョージ・ソロスも似たような主張をしているが、個人的には少し胡散臭いものを感じている。彼らが主張しているの所得税の増税をメインとしているが、政府が富裕層に対して資産課税をさせないためにそう主張しているのではとの見方もある。例えば、ウォーレンバフェットはランキング6位で10兆円弱の資産を保有しているが、彼の保有するバークシャーは上場以来無配である。マイクロソフトもビルゲイツが引退するまで無配の企業だった。ウルトラスーパーリッチの人たちはフローベースでの所得は少ない。一方で資産課税をされると大打撃を受けるでそれを防止するために富裕層課税を主張しているのだと見ている人もいる。



格差問題の処方箋の決定打はない。例えば、富裕層に懲罰的な税制はキャピタルフライトを招くし、巧妙な租税回避技術の発展を促すだけだ。個人の成功で財を成した人に懲罰的に課税するという風潮が当たり前になると経済の停滞を招き、アニマルスピリットがなくなるだろう。しかしながら方法がないわけではない。特に新しいことをする必要はない、個人的には相続税をちゃんと取り、所得再配分機能を強化すればいいだけと思っている。個人が成功して大きな財を成したときには格差は当然生まれる。むしろそれは許容すべきだ。「成功したのはけしからん」では社会が停滞する。但し、本人が死亡した場合、相続税をちゃんと取るだけで違った風景になるはずだ。



上の図を見てもアメリカの相続税(遺産税と呼ばれている)が日本や欧州と極めて異質な状態になっている。個人の自由を標ぼうする社会は本人が死んでも自由であるべきなのか? システムとして相続税があってもそれが社会の所得再配分機能に組み込まれていなければ役に立たない。最も成功した社会主義国である日本では金持ちは3代たつと普通の人になる。それは相続税システムが機能しているからだ。勿論、租税回避技術をうまく使って財産を保持している一族はいるだろうが、マクロ的には日本はそれがうまく機能している。米国では相続税システムが機能不全であるから金持ちの一族はいつまでたっても金持ちで、資産は複利効果でさらに拡大する。上位1%が富を独占する源泉となりうる。

無論、全てをそれで説明できるわけではない。ウォーレンバフェットもビルゲイツも祖父が大富豪というわけではないし、上位10位で大富豪の一族は一人もいない。成功した者たちだ。それでも、その成功者がこの世を去った時にその財産を受ける子孫がまともに相続税を支払い、社会の再配分機能に組み込まれたときに格差は緩和される方向に向かう。我々ができるのはそのくらいだ。
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« スエズ運河での座礁事故 | トップ | ビットコインバブル »
最新の画像もっと見る

マクロ経済」カテゴリの最新記事