「いっくよー!」
ワタシの掛け声で、超満員のお客さんたちは歓声を上げた。そしてコーナーポストに素早く駆け上がり、眼下の対戦相手を見据える。
そのままワタシは対戦相手…カナダから来たダイナマイト・リンって選手ね…の胸板めがけてミサイルキックを敢行した。
ダァァン!
大きな音と共に、気持ちいいくらいにリンが後ろにひっくり返った。ワタシはすかさず彼女の脚を持ち、身体をくの字に曲げてフォールする。
ワン、ツー……
「ウガァァァ!!」
唸り声(色っぽくないなぁ…)と共に、リンは気合い一発エビ固めを跳ね返すと、ワタシの身体は遠くへ飛ばされてしまった。
何者ですか?このカナダ人。
体勢を立て直して、攻撃を再開しようとするが、一足先に立ち上がったリンが一発ワタシの腹にキックを入れる。
腹にズシッと響く鈍い痛み。
条件反射で身体を屈めると、待ってましたとばかりに彼女に首根っこと腕を捕まれた。そしてワタシの身体を目の前のロープに、これでもかっ!というくらいもの凄い力で振る。
まるでゴム鞠のように、ロープのリバウンドで跳ね返ったワタシめがけて、リンの太い腕が目の前に飛んできた。
クローズラインだ。
ワタシは成す術もなく、彼女の剛腕をモロに首筋に受け、そのままリングに大の字になって頭から倒れてしまった。リンはワタシの肩をガシッと両手で押さえ、上体を反らすような格好でお客さんに見栄を切っている。
ワタシはズキッと疼く痛みと共に、リングを照らす天井のライトを仰ぎ見ながら、レフェリーのスリーカウントを聞いた。
カン、カン、カン!!
試合終了のゴングが打ち鳴らされる。ようやくリンの身体がワタシから離れた。
コーナー際で後輩たちにアイシングをしてもらっている時、リンの奴がコーナーポストに登って、観客に勝利のアピールをしていた。お客さんの拍手と大歓声を独り占めし、リンは喜色満面だ。いーよな、勝ったヤツは。
彼女がファンの声援に応えながら通路を練り歩き、外人選手用控室に戻っていく姿を、ボーッとした頭でしばらく眺めていたが、後輩に「いきましょう」と退場を促され、ようやくリングを降りる事となった。
控室までの帰り道、まばらな拍手とワタシの名を呼ぶ声援が聞こえてくる。少ないとはいえ、声援を飛ばしてくれるファンというのは有り難い。まだこの仕事をやっていける、という自信になるからだ。
「堀ぃーっ!」
「がんばったぞぉーっ!」
選手控室に戻ると、このあとに出場する後輩選手たちが待機していた。どの顔もみんな輝いている。これが上の試合を任された責任感、というのかな?とにかく年上であるワタシが嫉妬する気にならないぐらいに皆堂々としている。
「おつかれさまですっ、堀先輩!」
「お疲れっス!」
ワタシが入ってきたのに気付き、後輩選手…マイティ祐希子とボンバー来島が挨拶に来た。彼女らは、新日本女子プロレスのエースであるパンサー理沙子先輩に対し牙を剥き、正規軍vs革命軍という図式で抗争中で、現在人気沸騰中の、プロレスファンも会社も一押しのコたちである。
「お客さんもいい感じで沸いてきたから…ケガしない様、しっかりね」
ワタシのアドバイスを、真摯な態度で聞いていた祐希子たちだったが、さらに若い練習生たちが試合開始を知らせにくると「失礼します」と礼をし、彼女たちに誘導され控室から出ていってしまった。
「……ふう」
《主役》が舞台に向かい、急に閑散になった選手控室の中で、大きくため息を一つつくと、トレーニングウェアに着替える為、リングシューズの紐を解き始めた。選手の入退場の誘導、売店の売子…試合後にも細々とした雑務が待っているからだ。
……ワタシは堀咲恵、またの名をテディキャット堀。女子プロレスラーである。
ワタシの掛け声で、超満員のお客さんたちは歓声を上げた。そしてコーナーポストに素早く駆け上がり、眼下の対戦相手を見据える。
そのままワタシは対戦相手…カナダから来たダイナマイト・リンって選手ね…の胸板めがけてミサイルキックを敢行した。
ダァァン!
大きな音と共に、気持ちいいくらいにリンが後ろにひっくり返った。ワタシはすかさず彼女の脚を持ち、身体をくの字に曲げてフォールする。
ワン、ツー……
「ウガァァァ!!」
唸り声(色っぽくないなぁ…)と共に、リンは気合い一発エビ固めを跳ね返すと、ワタシの身体は遠くへ飛ばされてしまった。
何者ですか?このカナダ人。
体勢を立て直して、攻撃を再開しようとするが、一足先に立ち上がったリンが一発ワタシの腹にキックを入れる。
腹にズシッと響く鈍い痛み。
条件反射で身体を屈めると、待ってましたとばかりに彼女に首根っこと腕を捕まれた。そしてワタシの身体を目の前のロープに、これでもかっ!というくらいもの凄い力で振る。
まるでゴム鞠のように、ロープのリバウンドで跳ね返ったワタシめがけて、リンの太い腕が目の前に飛んできた。
クローズラインだ。
ワタシは成す術もなく、彼女の剛腕をモロに首筋に受け、そのままリングに大の字になって頭から倒れてしまった。リンはワタシの肩をガシッと両手で押さえ、上体を反らすような格好でお客さんに見栄を切っている。
ワタシはズキッと疼く痛みと共に、リングを照らす天井のライトを仰ぎ見ながら、レフェリーのスリーカウントを聞いた。
カン、カン、カン!!
試合終了のゴングが打ち鳴らされる。ようやくリンの身体がワタシから離れた。
コーナー際で後輩たちにアイシングをしてもらっている時、リンの奴がコーナーポストに登って、観客に勝利のアピールをしていた。お客さんの拍手と大歓声を独り占めし、リンは喜色満面だ。いーよな、勝ったヤツは。
彼女がファンの声援に応えながら通路を練り歩き、外人選手用控室に戻っていく姿を、ボーッとした頭でしばらく眺めていたが、後輩に「いきましょう」と退場を促され、ようやくリングを降りる事となった。
控室までの帰り道、まばらな拍手とワタシの名を呼ぶ声援が聞こえてくる。少ないとはいえ、声援を飛ばしてくれるファンというのは有り難い。まだこの仕事をやっていける、という自信になるからだ。
「堀ぃーっ!」
「がんばったぞぉーっ!」
選手控室に戻ると、このあとに出場する後輩選手たちが待機していた。どの顔もみんな輝いている。これが上の試合を任された責任感、というのかな?とにかく年上であるワタシが嫉妬する気にならないぐらいに皆堂々としている。
「おつかれさまですっ、堀先輩!」
「お疲れっス!」
ワタシが入ってきたのに気付き、後輩選手…マイティ祐希子とボンバー来島が挨拶に来た。彼女らは、新日本女子プロレスのエースであるパンサー理沙子先輩に対し牙を剥き、正規軍vs革命軍という図式で抗争中で、現在人気沸騰中の、プロレスファンも会社も一押しのコたちである。
「お客さんもいい感じで沸いてきたから…ケガしない様、しっかりね」
ワタシのアドバイスを、真摯な態度で聞いていた祐希子たちだったが、さらに若い練習生たちが試合開始を知らせにくると「失礼します」と礼をし、彼女たちに誘導され控室から出ていってしまった。
「……ふう」
《主役》が舞台に向かい、急に閑散になった選手控室の中で、大きくため息を一つつくと、トレーニングウェアに着替える為、リングシューズの紐を解き始めた。選手の入退場の誘導、売店の売子…試合後にも細々とした雑務が待っているからだ。
……ワタシは堀咲恵、またの名をテディキャット堀。女子プロレスラーである。
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