水瓶

ファンタジーや日々のこと

「祈りの海」 グレッグ・イーガン

2015-06-26 21:39:35 | 雑記
Amazonのおすすめでしきりに出て来るグレッグ・イーガン。短編集を一冊読んでみました。
1961年生まれ、オーストラリアの人だそうです。これアタリだ…!!

私は最近のSFが苦手なんですが、それは作中に出て来る最先端科学の説明が理解できなかったり、
それをもとにして作者が展開する未来のテクノロジーがイメージできなかったりするからなんですが、
このグレッグ・イーガンも思いっきりそういう類いで、かなりわかりにくいです。
一番わからなかったのはパラレルワールドを扱った「無限の暗殺者」という短編で、
何が起こっていて何が問題なのか、最後にどういう結末を迎えたのかすら、ほとんどわかりませんでした。
他の短編も理解度50%ぐらい……面白く読めるギリギリのラインです。

(でも私が面白いと思う小説って、70%から80%ぐらい理解できたかなあ、ぐらいに感じるものに多い気がします。
読み終えた後に、わからない感がいくらか残されたままのように感じるもの。
ちなみに私が勝手に考えてる50%以下の理解というのは、
作品の意図を正反対に読み間違えてしまいかねない程度の理解のことです。
北向いてるのを南向いてる、のように読み違えてしまうのはやっぱり良くないですよね。。。

でも、そのギリギリかろうじての理解でも面白かった…!!
たとえばある人の脳をコピーしてその機能を完全に果たす、しかも半永久的に劣化しない代替品が出来た未来に、
人間は自分の脳がピークに達する二十代ぐらいに脳をかき出し捨てる手術をしてその代替品を頭に入れて生きるとか、
個人をコピーした人格プログラム(この辺大変怪しい説明になります)みたいなものを作って保存しておいて、
死んだらバーチャル世界、、っていうかなんか多分コンピューター上の世界に再生して生き続けさせるとか、
ほんとにそれでいいの?なんか見落としてることなかったっけ?みたいな、そういう話が多いんです。
このグレッグ・イーガンという作家が、うろうろしている辺りがなんとなーくわかるでしょうか。。
で、しかも、単純にその代替脳とか代替人格とかがいかん!けしからん!みたいな話にもならず、
コピー脳になった人が主格になってお話が進んだりするのがこの作家の面白い所なのです。
そして、そうした葛藤の結論がはっきり出されているようでもないので、この人の本、もう何冊か読んでみたいなあ。

これらの話って、実際にそういうテクノロジーが実現されてから悩んだり考えたりすりゃいいじゃん、
と思うかもですが、そうやって切羽つまった極まった状況を仮定してみることで、
今抱えてるもやもやしたものの正体が、もうちっと見えてくる、みたいな面があるんじゃないかと思います。
SFの醍醐味って、きっとそこにあるんですよね。

>

最後にネタバレっぽい話になってしまいますが、表題作「祈りの海」は、地球から遠く離れた惑星での話で
(遠い昔に地球から宇宙船で移住したらしいけれど、一度文明がとだえて退行してしまった過去があるらしい)、
その星で信じられている神話への信仰がもたらす深い安心感や恍惚感が、
その星のある物質が脳とか神経に働きかけた影響にすぎない、と科学的に説明されてしまったら…?というもの。
読み終えて、たとえば進化論を認めるのと同時に、旧約聖書の創世記を信じることができるものだろうか?
というようなことを考えました。

すごくデリケートな話になりますが、私は、宗教心や信仰心て、
生きていくために必要な狂気のようなものなんじゃないか、と考えることがあります。
誰にでも必要というわけじゃないけど。



・・・でも今月の予算はほとんど使ってしまったので、芥川龍之介を読むのです。
99円で全作品入ってる本が買えちゃうんですよ……すごいですよね。