西暦2021年神無月蝶人酔生夢死幾百夜
海中なのに、巨大な水中ブルトーザーが、タラバガニのような大きな両腕で、海水を胸に抱え込んでは、次々に陸上に抛り投げていた。10/1
戸塚駅で横須賀線に乗り換えたら、ヴィクター宣伝部のトマツ氏が疲れた顔をして、うす汚れたガラス窓から外を眺めていたので、きっと重電部に異動できなかったに違いないと思ったずら。10/2
うちらあ野球の審判員なんやけど、2塁塁審で毎日60万円貰って、そのチームに有利な判定をしていた上司が、こないだ、とうとう首になってしまいました。10/3
Aという写真家が、商業写真を撮った後の現場を、Bという写真家が撮ると、芸術的写真に変わってしまうのだが、そのAとBを観察しているCは、写真家でも芸術家でもない。10/4
声は鋭い槍になって身を刺し、その身がどうなろうと、強烈な毒素を、全身に垂れ流すのだった。ひとたび身に受けた声は、体の中に沁み込んで、どうしても取り除くことは出来ない。10/5
モザールのト短調交響曲を聴きながら、おらっちはフルヴェンの悲しみが爆走していくのを見守っていた。10/6
「あんたの服には、権力への噛みつき跡が、ありありと残っているから、あれを着る人は、なかなかいないんじゃない」と、アンジェラが言うた。10/7
太平洋上空から見下ろすと、赤と青の2台の水中潜行艇に乗った2人が、楽しそうに海中ブランコしている姿が見えた。10/8
おらっちが校長を務めている小学校に、今年もベルリン・フィルの連中がやって来てミニ・コンサートを開いてくれるのだが、生憎改築中なので、校舎のあちこちを移動しながらの演奏になるので、ちと気の毒だ。10/9
夜、寝ているのに、起きているのに、寝ているようだ。10/10
いつもバスで会社へ行こうとしたら、道路の真ん中に大きな樹が倒れていて進まないので、仕方なくバスに戻ると、隣の黒人の大男が居眠りしながらもたれかかるので、身を躱していると、ソマリアのどすこいオバサンが乗り込んできて、余にウインクするのだが、もしかして、同級生のマリちゃんではなかろうか?10/11
南新宿の南の地下壕には、秘密の地下鉄が走っていて、オームとホームの血を血で洗う地上の武闘から逃れた民草たちが、犇き合っているのだが、おらっちはその群衆の中に、奥村晃作さんが、掃き溜の老鶴のように佇んでいる姿を見つけた。10/12
ピエール・カルダンは、さる伯爵夫人のために、毎年デザインと機能性に配慮した特製の水着を進呈していたそうだが、この話は、おらっちしか知らないと思うずら。10/13
大阪支店の連中と昼飯を食おうと歩いていたら、仲間の一人が黒鬼野郎にとっつかまってレスリングを挑まれ、さんざんやっつけられているので、誰か助っ人しないのか、とお互いに顔を見やるのだが、誰も助けないので、またさんざんにやっつけられて、素っ裸にされている。10/14
イソミ整形外科のイソミ先生に、そのことをどのように伝えるのかを、何度も何度も練習するのだが、そのたびに別の話をしてしまうので、焦りまくっているおらっち。10/15
わいらあ義経なんやけど、さる無名子が、公文書におらっちの名を書きしるしてくれたことだけを今生の名残として、いずこへともなく落ちのびていったのよ。単身で。10/16
せめて独裁的な為政者に蟷螂の斧を打ちおろさんと、余は身にワルサー一挺を携えて、王宮に忍び込んだのであったあ。10/17
偉大なるノーベル賞作家が、20年ぶりに発表した最新作は、たったの1行だけの世界最短小説で、しかもその1行の2/3が伏字になっていて、「その伏字が何であるかを当てた人には1億円を進呈する!」というスポンサーまで現れたので、超話題になっている。10/18
近所のおばさんから、「駅まで行くなら、ちょっと乗っていきなよ」と誘われたので、軽い気持ちで乗っていたら、そのおばさんが、俄かに、俄かめくらになったので、激しく動揺している私。10/19
ナカノ君が、「通産がオーバーランドの交通点」というたので、「キンサ、キレイな海の泡」と答えたら、また「光が輝き、土が唄ってる」というたのであるが、何も答えず黙っていた。10/20
ネモ艦長になった私は、ノーチラス号のスロットルを全開して、この世の悪人どもに体当たりさせ、次から次に海底の藻屑と化していった。10/21
私は星の王子様にテッパン協奏曲を聞かせたら、ことのほか喜んで、「もっと! もっと
!」とリクエストするのだった。10/22
「ここでリハビリを始めてから、まだ半年も経っていないんですよ!」と、おらっちは痛い右腕をブンブン振り回しながら、イソミ院長に激しく抗議したのよ。10/23
人世に消耗した時には、ベートーヴェンの交響曲第4番の出だしを聞くと、パンパンパンビノパンビタンを飲んだくらいには元気になるのだが、近頃は、さっぱり効かなくなってしまって哀しいずら。10/24
ともすれば分裂、崩壊してしまいそうになる「私」を掻き集め、また掻き集めしているうちに、いつのまにか「私」は「私たち」になっていった。10/25
おらっちの小学の同期の秀才は、村の一等地に巨大な銀行をおっ立て、「見てろ、いまに日銀に追いつき、追いこすんだから!」と、豪語するのだった。10/26
その村人たちは、風味絶佳、天下無敵と称されるサルマ茸を、おらっちにどっさり喰わせてくれたのだが、それほど美味くもなく、喰えば喰うほどマズくなるので、近寄って来た豚に呉れてやった。10/27
ゼンダ城の虜なおらっちは、鉄火面で全身を覆われてしまったので、飯を喰うたり、ウンチをしたりするのに、えらく往生したことであった。10/28
「この商売の鉄則は、本物のストラディバリウスのヴァイオリンを、ショオウィンドォに掲げることさ」と、その楽器商は語った。10/29
ボクはそろそろ身を固めようと思って、彼女と付き合い始めたのだが、彼女ときたら「海よ山よ町よ」と、あちこちふらふら遊び回るだけで、ボクと一緒にいる時間なんて、まるでありゃしないのよ。10/30
わいらあ潜水艦の乗組員は、夜狭いベッドに横たわって、「おらっちは今深い深い海の底の底で寝っているんだ」と思う時にしか、楽しみはないずら。10/31
ウウライナの民草殺しに泣いた後さんまのギャクに爆笑してるオレ 蝶人