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片山修のずだぶくろ Ⅰ

経済ジャーナリスト 片山修のオフィシャルブログ。2009年5月~2014年6月

トヨタ、「世界一」と「持続的成長」のジレンマ

2014-04-25 18:06:06 | トヨタ

トヨタが、2013年度の世界販売台数で、
ついに1000万台を達成しました。
しかし、以前も書いた通り、これはスタートに過ぎません。
トヨタがぶつかるジレンマについて、書いてみたいと思います。

トヨタは、00年以降、世界中で生産能力を急速に拡大しました。
ところが、結果として、08年のリーマンショックで大打撃を受けた。
いわば、拡大戦略の失敗です。
09
年6月に社長に就任した豊田章男さんは、拡大戦略を痛烈に反省し、
「台数や収益は、本来は結果。目的にしてはいけない」と、
いたずらに台数を追わない方針を表明しました。

Dsc02611

 

代わりに、章男さんが掲げたのが「持続的成長」です。
つまり、急激に成長しても、急激に落ちるのでは意味がない。
「山高ければ谷深し」です。
リーマンショックのときのように、業績に大きな波がついてしまえば、
たくさんの人に迷惑をかける。
それよりは、地道に、少しずつでも、継続して成長していこうということです。
だからこそ、13年度以降、
「3年間は新工場を建設しない」方針を打ち出しました。

しかし、トヨタは、今回の1000万台達成だけではなく、
12年、13年と、暦年の世界販売台数において、
すでに2年連続で「世界一」の称号を手に入れました。
ライバルの独VW(フォルクス・ワーゲン)は、その称号を得ようと、
トヨタの追撃に躍起です。先だって北京モーターショーで、
VW会長のマルティン・ヴィンターコルン氏は、
14年の暦年の世界販売台数で1000万台達成を目標にすると発表しました。

世界の自動車大手にとって、「世界一」の称号は、
何物にも代えがたいもののはずです。
トヨタは、一度、その称号を得てしまったからには、
フォルクス・ワーゲンの猛烈な追撃を、
手をこまぬいて見ているわけにはいかないでしょう。
実際、すでに、トヨタは「3年間工場凍結」期間を解禁して、
新しい工場を建設するかもしれないという情報も流れています。

では、トヨタは、再び規模の拡大に走るのか?
それは、危険すぎるでしょう。
リーマンショックの際の大打撃では、
規模の拡大に、グローバル人材の育成が追い付いていないという
課題が浮き彫りになりました。
その課題が、5年経った現在、完全に解決されたとは思えません。

トヨタは、できることなら、地道な成長を積み重ねていきたいことでしょう。
しかし、悠長なことをいっていると、
ようやく手に入れた「世界一」の称号を、ライバルに奪われてしまう。

それでもいいんじゃないかという人もいます。
「数」を追わないといった以上、そうかもしれませんが、
しかし、だからといって、果敢に攻めてくるVWを前に、
ズルズルと後退したら、どうなるでしょうか。
トヨタの成長のイメージ、勢いなど、色あせかねません。

いま、トヨタは、ジレンマに陥っているのです。
世界一の自動車メーカーとして、いかなるビジョンを描くのか。
1000万台をこえての前人未到の世界の闘いは、これからが本番。
トヨタはいま、試されているのです。

しかし、これは、見方によっては、じつに贅沢な悩みです。
と同時に、これまでのように危機感をテコに突破することもできないでしょう。
私は、「いいクルマ」を世に出し、それが結果として世界一売れる、
というのが、理想だと思います。

それが実現するかどうかのポイントは、
トヨタがいま、総力をあげて取り組んでいる、
車づくりの構造改革ともいうべき“モジュール戦略”すなわち、
「TNGA(トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャ)」
ではないかと思っています。

 

 


豊田章一郎さんの「私の履歴書」の読み方②

2014-04-18 15:59:33 | トヨタ

日本経済新聞に、トヨタ名誉会長豊田章一郎さんの、
「私の履歴書」が連載中です。今日は「石油危機」の回でした。
第2次石油ショックの際、ガソリン価格の高騰から、
世界的に小型車志向が高まった。結果、日本車が人気となり、
輸出の伸びがトヨタを牽引します。
このとき、輸出車の主役となったのが、「カローラ」でした。

章一郎さんは、今日の「私の履歴書」の中で、
「カローラ」の輸出台数が50万台に達した80年、
「当時、私の目に浮かんだのは初代のカローラの開発責任者、
長谷川龍雄主査(元専務)の顔だった」と書いていらっしゃいます。

私は、02年に『トヨタはいかにして「最強の車」をつくったか』(小学館)
を上梓しましたが、その取材で、長谷川さんにインタビューしました。
今日は、長谷川龍雄さんについて、私の知っていることを、
少し書いてみたいと思います。

長谷川さんは、もともと東京帝大の航空学科出身です。
戦時中、立川飛行機でB29の迎撃用防空戦闘機を設計したという、
航空機のプロでした。
戦後、GHQが航空機の開発・生産を禁止したため、
長谷川さんのような多くの航空技術者が、自動車メーカーに就職しました。
これが、いまの日本の自動車産業の発展に、大いに貢献していると思います。
トヨタは、戦後の混乱期に、航空技術者を約200人も採用しています。
モノがなかった時代に、優秀な技術者を採用して技術を担保したのです。

長谷川さんは、入社当時のことを、次のように語っていました。
「驚くのは、当時社長の豊田喜一郎さんは、雇ったおよそ200人の人間を泳がせたまま、働けとも、稼げともいわなかったことです。そうなると、こっちも、頑張らなくちゃという気になる。覚悟を決めて、もう何でもやりましたよ」――。

長谷川さんは、航空機技術を自動車技術に移転することを考え
自動車ボデーに、風洞実験の考え方を取り入れたり、
モノコック構造の軽量化技術、強度規定などの移転に取り組みました。
その後、今日の「私の履歴書」にもある通り、
61年に「パブリカ」を、主査として開発し、発売します。

章一郎さんは、「パブリカのなかで人気が最も高かったグレードは
比較的高価な『デラックス』だった」と書いていらっしゃいますが、
この「デラックス」について、長谷川さんは、こう説明しました。
「『パブリカ』の結果は惨憺たるものでした。案の定、売れなかった。
 売れない理由は明白。気持ちが贅沢になっているお客さんには、どうみてもチャチな車にしか見えなかったのですよ。買う気にならないわけですね。
 急遽、デラックスタイプを投入したところ、人気が持ち直してそこそこ売れるようになった。しかし、所詮、お客さんの目をごまかしただけの話ですから、人気が長く続くはずがないという思いはありましたね」

このままではいけないと考えた長谷川さんは、
次の一手として「カローラ」構想を描き始めます。
「カローラ」は、しかし、「パブリカ」がようやく売れ始めた当時、
上層部から時期尚早と判断され、開発をさせてもらえませんでした。
そこで、長谷川さんは、なんと、
当時トヨタ自販社長の神谷正太郎さんに直談判し、
2度にわたる3時間に及ぶ説得と説明の結果、
開発プロジェクトを実現してしまいます。

「はっきりいって、社外に応援を求めるというやり方はトヨタ自工のメンツをつぶすことであり、職制を飛ばしたことにもなるので、非難の声があがって当然でした。しかし、そこがトヨタのおもしろいところで、非難の声は、ついぞ聞かれませんでした」
と、長谷川さんは振り返ります。

「カローラ」は、1966年に登場して以来、
累計生産台数は4000万台を超え、
現在、世界15拠点で生産、140か国以上で販売されています。
「カローラ」大成功のウラには、数々のドラマがあるハズですよね。

 


トヨタのHV車を軸に燃費競争は激化!

2014-04-14 16:47:40 | トヨタ

クルマは、環境対応車をめぐる競争になっています。
つまり、燃費が決め手です。

日本車メーカーの環境対応車といえば、
まず思いつくのがHV(ハイブリッド)車です。
トヨタのHV車「アクア」は、37.0km/lと、
世界一の低燃費を誇ります。

しかし、世界市場を見れば、HV車はまだまだ少ないのが現状です。
HV
車は効果ですからね。ガソリン車が主流です。
2020年でも、グローバル市場では、
7割以上が従来型のエンジンだろうといわれています。
つまり、トヨタなどHV技術をもつ自動車メーカーも、
新興国市場など規模を狙うなら、ガソリン車の燃費向上が課題です。

トヨタは、10日、新型の低燃費のガソリンエンジン群を発表しました。
HV専用エンジンの技術を応用し、1.3㍑エンジンでは、
従来型比15%、ダイハツと共同開発した1.0㍑エンジンでは、
最大約30%の燃費向上を実現しました。
15
年までに、世界で14機種を順次導入します。
HV
車に限らず、ガソリン車でも低燃費を追求します。

この新型エンジンは、14日発表された「パッソ」にも搭載されています。

 ※新型「パッソ」(上)と、「プラスハナ」(下)

結果、1.0㍑エンジン搭載車の燃費は、
従来の23.0km/lから、27.6km/lへと大幅改善しました。
これは、ガソリンエンジン車トップの燃費です。
この技術を使い、新型HVは、40km/lも視野に入っているといいます。

ガソリン車の燃費競争といえば、軽自動車です。
スズキの「アルトエコ」は、35.0km/lと、
HV
車に見劣りしない低燃費を実現しています。
HV
のような特別な技術があるわけではありませんが、
「エネチャージ」と呼ばれる、リチウムイオン電池を使った独自機構、
さらに、地道な軽量化や、細かい技術や機能の改善によって、
この燃費を実現しています。

マツダの「SKYACTIVE」の技術も、
ガソリン車の低燃費を実現した一例です。
SKYACTIVE」搭載車第一弾の「デミオ」の燃費は、
25.0km/l
ですから、トヨタの新型エンジンとも張り合えますよね。

HV
車、ガソリン車以外にも、環境車の市場は広がっています。
例えばポルシェは、今月から、国内の富裕層向けに、
PHV
(プラグインハイブリッド)車の販売を始めました。

BMW
も、今月、小型EV(電気自動車)を国内市場に投入しましたし、
年内には「ゴルフ」や「up!」のEVを発売する計画です。
国内のEVは、日産や三菱自動車手掛けていますが、
まだまだですね。これをきっかけに、
市場拡大の可能性もあるといえるでしょう。
夏にはPHVのスポーツカー「i8」も投入します。

HV
車、PHVEV、さらにガソリン車など、
環境対応車といっても、さまざまな技術が競り合っている。
HV
車は、やや突出している印象ですが、
それだけでは、グローバル市場のニーズには応えられない。
自動車メーカー各社は、今後ますます、
激しい燃費、価格競争を繰り広げることになりそうです。

 


トヨタ、ホンダ、続く大量リコールは“悪”なのか?

2014-04-11 17:49:11 | トヨタ

今月9日、トヨタは、国内13車種の108万台のリコールを届け出ました。
海外を含めると、計639万台という大量リコールです。
トヨタは、2月12日にも、「プリウス」99万台、
輸出分を含めて190万台のリコールを行っています。

トヨタに限った話ではありません。
ホンダは、昨年9月に発表した「フィットハイブリッド」、
同12月に発売した「ヴェゼルハイブリッド」を、
同10月、12月、さらに今年2月と、3回にわたってリコールしました。
2月のリコールは8万台を超え、ホンダは、消費増税前の駆け込み需要のなか、
両車種の出荷を17日間停止する事態になりました。

国産車、輸入車を合わせた国内のリコールの件数を見ると、
99年以降は100件以上のリコールが続いています。
台数でみると、昨年は、797万8639台と、
69年の制度創設以来最多でした。

リコール一件あたりの台数も、近年、増加傾向といわれます。
理由は、さまざまです。
一例をあげれば、クルマが高機能化した結果、
一台あたりに積み込まれるコンピュータの数が急増した。
クルマのIT化ですね。
さらに、ハイブリッド車などの制御技術が複雑化し、
プログラムに関する不具合が増えているのです。

実際、今回ホンダが、続けざまに3回リコールを繰り返したのは、
ホンダは初めて採用した、ハイブリッド用デュアルクラッチ式自動変速機の
制御プログラムの不具合です。
トヨタの「プリウス」99万台のリコールも、
ハイブリッドシステムを制御するプログラムの不具合でした。

一件あたりの台数の増加については、
部品の共通化、共用化が、一因として指摘されています。
クルマづくりには、いま、モジュール化の波が押し寄せています。
モジュール化のメリットの一つは、異なる車種であっても、
共通化、共用化する部品を増やすことで、
部品の調達コストを削減できることです。
しかし、一つの部品に不具合が起きると、その部品を使っている、
すべての車種にまで、不具合が拡大します。
今後、これらの問題への対策が求められます。

ただ、注意しなければいけないのは、
自動車メーカーが、リコールを繰り返す背景には、
これらとは別の事情もあるということです。
メーカーのリコールに対する考え方が、変化しているんです。

契機となったのは、09年から10年に発生した、
北米を中心とする、トヨタの大量リコール問題です。
この事件は、トヨタ車の販売の落ち込みに加え、
品質への不信、ブランド力の低下など、深刻な問題につながりました。
トヨタは、つい先月、米司法省と、自動車メーカーとしては過去最大となる
12億ドル(約1220億円)を支払うことで、和解が成立したばかりです。
トヨタ車オーナーらとの集団訴訟でも、11億ドルを支払って和解しましたが、
ほかにも、いまだに数百件の訴訟が手続き中です。

つまり、この事件は、リコールの対応を一つ誤れば、
企業の存亡にすらかかわるという、大きな教訓を、
トヨタのみならず、世界の自動車メーカーに残したのです。

現在、米国では、GM(ゼネラル・モーターズ)の650万台のリコール、
また、不具合の放置、組織的なリコール隠しの疑いが、
社会的に大きな問題となっています。
この問題を見ても、不具合への対応の遅れ、情報開示の遅れなどが、
企業の経営そのものを揺るがすことが、よくわかります。

トヨタの大量リコール問題の教訓から、自動車メーカーは、
「欠陥」とまではいえないような小さなトラブルでも、
早めはやめにリコールを申請し、問題が大きくならないうちに、
芽を摘み取ってしまおうと、神経を使うようになっているのです。

日本自動車工業会会長でトヨタ社長の豊田章男さんは、
せんだっての自工会の定例会見の席上、
「リコール=悪だとは考えないでほしい」といいました。

つまり、リコールは、消費者の「安全」を第一に考える結果です。
もちろん、リコールしなくてはいけないような不具合は、
ないにこしたことはないのですが、問題が発覚した以上、
できるだけ早く直して、消費者の安全を確保することが
求められるということです。

消費者の企業に対する安全への期待は、近年、大きくなるばかりです。
企業は、その期待に応え、高度化する技術に対応すると同時に、
世界規模で、スピーディな対応をとることが求められます。
昨日の続きになりますが、1000万台時代の自動車メーカーは、
リコールなど不具合をめぐる問題においても、
これまでとは、一段階レベルの違うマネジメントが求められるのです。

 


トヨタは、1000万台時代を疾走できるのか?

2014-04-10 17:47:04 | トヨタ

トヨタは、いよいよ前人未到の領域に入りました。
いよいよ、真の“戦争”の勃発です。

トヨタ自動車(日野、ダイハツ含む)の2013年度の世界販売台数が、
1000万台を超えることが、確実になったと報じられています。
年間販売台数が1000万台を超えるのは、
世界の自動車メーカーを見ても、初の快挙です。
まさしく、前人未到の快挙といっていいでしょう。

よく知られているように、トヨタは、
2000年代以降、世界中に工場を新設し、
生産能力を猛スピードで拡大してきました。
結果、世界販売台数は、07年度には約943万台と、
1000万台を目前とするところまで伸びました。
トヨタの販売台数は、08年度には1000万台をこえ、
世界一となるのではないか、といわれていました。

しかし、実際には、同年9月に発生したリーマン・ショックにより、
世界の自動車需要は蒸発しました。つまり、躓きましたね。
トヨタは、08年度に832万台まで販売台数を落としましたが、
12年度には969万台まで回復させました。
そして、13年度、ようやく1000万台の大台に乗せたというわけです。
今度は、どうでしょうか。

というのは、トヨタは、1000万台を目前に、リーマン・ショックに続き、
09年末からの北米を中心とする世界的な品質問題、
さらに、11年の東日本大震災やタイの大洪水で表面化した
サプライチェーンの問題などに、次々と行く手を阻まれました。
新興国市場への出遅れも、明らかになりました。
これは、いわば、1000万台達成に向けた試練だったと思います。
ですから、今度はどうかな……となるわけです。

これらの試練があったからこそ、トヨタは強い危機感をもった。
ただ、いっておきますが、1000万台は、ゴールではない。
むしろスタートです。

1~2年の間に、ライバルのフォルクスワーゲンやGMも、
1000万台を超えてくるでしょう。
ということは、世界の自動車メーカーの競争は、中国、インドなど、
新興国の自動車市場が拡大するなかで、1000万台に、
いくら上乗せできるかという段階に入ります。
問題は、このとき、800万台、900万台時代とまったく同じマネジメントが、
果たして、通用するのかどうかということです。

設計開発分野においては、間違いなく、
モジュール化がポイントになるでしょう。
ただ、グローバルマネジメントは、どうか。
グローバル・オペレーションができるのか。
まだ、誰も経験したことがないので、わかりません。
これが、前人未到の恐ろしさといっていいでしょう。

どんな危険、落とし穴が隠れているか、わからない。
しかし、トヨタは、世界一の自動車メーカーとして、
1000万台時代のマネジメントを、
切り開いていかなければなりません。
豊田章男さんの手腕に、期待がかかりますね。