13期の佐野です。
「UCARO」というインターネットサービスご存じでしょうか。お子様やお孫さんが大学受験生という方は、ご存じかもしれません。これは受験する大学への出願や合否確認が全てインターネット上で行えるサービスです。出願のために分厚い願書を取り寄せたり、合格発表を見るために大学まで足を運ぶ必要がありません。受験のための90%程度の手続きは、このサービス上で完結してしまいます。また、全国の私立大学がこのサービスを利用しているので、1か所で複数の大学への手続きができるという利便性を有しています。
実は私の息子が受験生で、このサービスを利用していました。受験が終わり、合格発表を迎えた2/12に事故は起きました。発表時間の午前10時にサイトにアクセスすると、画面が真っ白で何も表示されません。何度アクセスし直しても反応がありません。そのうち1行だけエラーメッセージが表示され、「時間を変えて再び接続する」よう促されます。そうこうするうちに時間が過ぎ、結果が確認できたのは夕方頃でした。
受験生の中には、合否の結果次第で次の出願を行う必要がある人もいます。ところが、夕方まで結果がわからないと、その日の内に次の行動に移ることができません。おそらく出願機会を逃した人もいたかもしれません。もしかすると人生が変わってしまった受験生もいるのではないかと心配になりました。(幸い我が家には影響ありませんでしたが・・・)
後日運営会社が公式サイト上にトラブルの事象と原因・今後の対策について公表しました。主たる要因は「サイトへのアクセス集中」とのことでした。正直この報告を見て目を疑いました。合格発表時間にアクセスが集中することは当たり前のことです。受験生の数など事前に予測ができる情報が数多くある中で、今回の事象を回避できませんでした。非常に便利なサービスだっただけに、とても残念でした。
最近こういったクリティカルなシステムにトラブルが増えています。記憶に新しいところでは、3/14に国税庁のe-taxが接続障害を引き起こしました。確定申告締切前日にこのようなトラブルが起きれば、納税者にどのような影響が及ぶか想像に難くありません。あらゆる想定のもとでシステムは設計されているはずなのに、なぜこのようなトラブルが頻発するのか。多くの要因があると思いますが、私はクラウドサービスの特性とその運用の仕方にあると思っています。(注)
クラウドサービスは、情報システムをインターネット上に構築・運用しインターネット経由でサービスを利用する形態のもので、企業の建物の中にシステムを構築する形態である「オンプレミス」とは対極的な位置付けにあります。サーバーやストレージといった機器やネットワークを自ら保有する必要が無く、ある程度の運用管理も任せられるクラウドサービスは、利用する側にとってコストが抑えられ社員負担も軽減できることから年々利用が進んでおり、ガートナージャパンの調査によると、日本におけるクラウドサービスの2021年の利用率平均は2020年調査から4ポイント増の22%にまで上昇しています。数年前までは、それほど重要度が高くないシステムで使われてきたのですが、最近はクリティカルなサービスにも採用されるようになりました。国や地方自治体は『クラウド・バイ・デフォルト』をスローガンに掲げ、システムの再構築は”原則”クラウドサービスを利用することにしています。
クラウドサービスはコストメリットが高い一方、システムを保有しないことによるデメリットもあります。その最たるものは、システムを自ら直接コントロールできないことです。構成管理や運用作業は外部のクラウド事業者にお任せになるので、利用者は要求事項だけを伝えてあとは良しなに・・・といったパターンが実は多いのではないかと思います。その結果、事業の責任者であれば当然に予測できることがクラウド事業者には細かいところまで想定できず、結果としてシステム障害を起こして「想定外の事態がおきた」などと同じような言い訳を繰り返すことになるのではと思うのです。
クラウドサービスには様々な機能や使い方があり、例えば稼働が少ないときには少量のハードウエアを利用し、多い時にはハードウェアを自動で増強する、といったオンプレミスでは到底できない所業ができてしまいます。それだけシステムが複雑化しているのですが、クラウドサービスを利用する側にも機能に対する知見やノウハウがあるか否かによって、得られる成果も変わってきます。「良しなに・・・」ではなく、事業と顧客への影響を考察し、適切な指示をクラウド事業者に与える必要があります。クラウド事業者は高度な技術力を持ちますが、事業については素人です。素人に判断を委ねてはいけません。クリティカルなシステムならばなおさらです。利用者側にも適切に状況を判断し指示できる知見やノウハウを持たなければ、今後もこうしたトラブルは減るどころかどんどん増えていくのではないかと思っています。
クラウドサービスの利用は今後も増加していくと思います。しかも利用が大企業から中小企業にシフトしていくことも考えられます。しかし、クラウドサービスを利用する企業がシステム障害による顧客の信頼を損ない、経営的な危機に陥るリスクも孕んでいます。企業の側だけではなく、経営指導する立場の診断士側にも、相応のITリテラシーが求められる時代に来ているのかもしれません。
(注)「UCARO」や「e-tax」がクラウドサービスを利用しているかどうかは公表されていません。ただ、インターネット上にサービスを提供しているシステムの多くはクラウドサービスを利用していますので、注釈以降はクラウドサービスを利用するシステム全体に対する考察とさせていただきました。
合否の結果をみて、次のステップを考える方にとっては、こういったシステム側のダウンは本当に困りますね。
今年は千葉の公立高校の合格発表時にネットがダウンした報道があった、もしかしたらこのサービスだったかもしれないですね。
デスクトップがスッキリする日が少しずつ近づいているのかもしれません。
中学から受験はネットの時代なんですね。でも、人の人生を左右するような大事なシステムには細心の注意を払って欲しいものです。
佐々木さん
クラウドサービスの怖さの一つに、自分の大切なデータが世界中のどこにあるのかわからないことです。利便性が高まる半面、リスクと向き合っていかなければならない時代にもなりつつあります。
日経に「e-Tax障害、サーバー負荷が原因 4月15日まで延長対応」とありました。やはり主因はアクセス集中でした。でもこの言い訳は、システム障害はユーザーのせいだと言っているのに等しいです。