特殊相対論、ホーキング放射、ダークマター、ブラックホールなど

・時間について特殊相対論からの考察
・プランクスケールの原始ブラックホールがダークマターの正体であるという主張
 

ローレンツ変換は「時間の遅れはお互い様」を支持しない件

2023-03-28 19:53:32 | 日記

6、ローレンツ変換は「時間の遅れはお互い様」を支持しない件

「時間の遅れはお互い様」という立場に立った時は時計Aの観測者も時計Bの観測者も「自分が属している慣性系が静止系ある」と主張できるのでした。

そうして「その結果は」といえば図1と図2に表されるような「2つのNM図の登場」となりました。(注1)



ところで時計Aの立場にたって「時計Aが静止系である」として作図したMN図(=図1)と時計Bの立場にたって「時計Bが静止系である」として作図したMN図(=図2)はローレンツ変換によってお互いが入れ替わる事が出来るのでしょうか?

時計Aの立場に立てば「時計Bが右から相対速度0.8Cで近づいてくる」となります。

この判断に基づいて作られたのがMN図1でした。

そうしてこの同じ状況を時計Bの立場に立てば「時計Aが左から相対速度0.8Cで近づいてくる」となるのでした。

この判断に基づいて作られたのがMN図2でした。

それでこの2つの見方は両方共に正しいのであって、従って「時間の遅れはお互い様」というのが「今のところの業界の常識」です。



さてそれはつまり「時計Aから見たMN図1は認めよう。しかし時計Bから見れば静止しているのは時計Bだ。したがってMN図1を時計Bが止まって見える慣性系にローレンツ変換すれば、それが時計Bから見た『目の前で起きている状況を示すもの』となる。」と言う様に主張できます。

そうして「その様にして得られた変換後のMN図はMN図2になるのだ」と。

さあこの主張は本当に成立しているのでしょうか?



それを確かめる為にはMN図1を時計Bが止まって見える慣性系にローレンツ変換して見れば良いのです。

それで「それがどのようにして可能になるのか」といえば「時計Bと同じ速度で右から左に動く観測者⑤を考えればよい」という事になります。

この新たに登場した観測者⑤は時計Bに同期して右から左に向かって時計Aに向かいます。

そうであればこの観測者⑤にとっては「時計Bは静止していて時計Aが左からこちらに相対速度0.8Cで向かってくる」と観測する事になります。

従ってMN図1を相対速度V=-0.8Cとしてローレンツ変換してやれば、それが観測者⑤が時計Aに代わって同じ状況を観測した時に得られるMN図となります。



さてそれでまずはMN図1に現れているイベント①と②の座標を確認します。

イベント①=(t1,x1)=(0,4)

イベント②=(t2,x2)=(5,0)

時計Bはイベント①でリセットされイベント②で時計Aとすれ違います。

そうしてその時までに時計Bが必要とした経過時間は固有時で3秒でした。

さてそれで、時計Aは空間軸方向は原点に静止したままですが、時間軸方向には移動します。

それで時計Aが時計Bとすれ違う時の世界線は原点からイベント②まで引かれる事になります。

そうであれば現状は原点はイベントではありませんが、原点座標は時計Aの世界線を描くのに必要ですので、これもローレンツ変換の対象となります。

原点=(t3,x3)=(0,0)

以上、この3つの座標を相対速度V=-0.8Cでローレンツ変換してやれば良い事になります。

(t,x)から(t',X')への相対速度Vでのローレンツ変換式はこうでした。

x'=(x-βt)/sqrt(1-β^2)

t'=(t-βx)/sqrt(1-β^2)

ここでβ=V/CですがC=1の単位系ですからβ=V

従って

x'=(x-Vt)/sqrt(1-V^2)

t'=(t-Vx)/sqrt(1-V^2)

今V=-0.8C=-0.8ですから

x'=(x+0.8t)/0.6

t'=(t+0.8x)/0.6

これでイベント①、イベント②、原点をローレンツ変換します。

イベント①=(t1,x1)=(0,4)ーー>(t1',x1')=(5+1/3,6+2/3)≒(5.33333,6.66666)

イベント②=(t2,x2)=(5,0)ーー>(t2',x2')=(8+1/3,6+2/3)≒(8.33333,6.66666)

原点=(t3,x3)=(0,0)ーー>(t3',x3')=(0,0)

以上の結果をNM図3として示します。

図3のプロット

y=0,x=0,y=1.25x,x=6+2/3,y=8+1/3,y=5+1/3 プロット  -10<x<10, -10<y<10

図3の実行アドレス

https://ja.wolframalpha.com/input?i=y%3D0%2Cx%3D0%2Cy%3D1.25x%2Cx%3D6%2B2%2F3%2Cy%3D8%2B1%2F3%2Cy%3D5%2B1%2F3%E3%80%80%E3%83%97%E3%83%AD%E3%83%83%E3%83%88%E3%80%80%E3%80%80-10%3Cx%3C10%2C%E3%80%80-10%3Cy%3C10

ローレンツ変換の結果

時計Bの世界線は x=6+2/3 の直線が表しています。

さて、この直線が垂直であるという事は「観測者⑤からみると確かに時計Bは静止して見える」という事を表しています。

つまり「時計Bの移動を止める=静止系にする」と言う事が「今回のローレンツ変換で実現できた」と言う事になります。



それでイベント①は y=5+1/3 と x=6+2/3 がクロスしている所になります。

イベント②は y=8+1/3 と x=6+2/3 がクロスしている所です。

時計Aの世界線は原点からイベント②に引かれた直線になります。

さてこのMN図から分かります様に時計Bの固有時は

イベント②の座標時ーイベント①の座標時=3秒 です。

こうしてローレンツ変換では時計Bの固有時が保存される事が確認できました。

加えて時計Aの世界線の傾きが 1.25 である事は時計Aと時計Bの相対速度Vが0.8Cである事を示しており「ローレンツ変換は2つの時計の間の相対速度を不変に保つ変換である」という事も確認できました。



しかしながらこのMN図3はMN図2と似てはおりますが、MN図2そのものにはなっていません。

そうしてMN図2は「実際に時計Bが静止系である」として描かれたものです。

そうなりますとこれは「時計Bが単に見かけ上止まって見える慣性系=観測者⑤の慣性系はMN図2の示す静止系にはなり得ない」と言う事になります。



さあこの事は何を意味しているのでしょうか?

実際に時計Aが静止系であった時のMN図1が示す状況の時に、単に時計Bの観測者が「いや、時計Bの観測者から見れば時計Bは静止している。したがって本当は時計Bが静止系であり、運動しているのが時計Aである。」と「そのように主張する事はできない」という事をこのローレンツ変換の結果は物語っているのです。

つまり「ローレンツ変換は『時間の遅れはお互い様』を支持してはいない」という事になります。(注2)

さてそれはまた「時計に立っている観測者の主観的判断とは関係なく、別の所に客観的存在としての静止系がある、と言う事を示している」と言えます。





注1:図1と図2は以下を参照願います。

図1のプロット

y=x,y=-x,y=0,x=0,y=-1.25x+5,x=4,y=5  プロット  -10<x<10, -10<y<10

図1の実行アドレス

https://ja.wolframalpha.com/input?i=y%3Dx%2Cy%3D-x%2Cy%3D0%2Cx%3D0%2Cy%3D-1.25x%2B5%2Cx%3D4%2Cy%3D5%E3%80%80+%E3%83%97%E3%83%AD%E3%83%83%E3%83%88%E3%80%80%E3%80%80-10%3Cx%3C10%2C%E3%80%80-10%3Cy%3C10

Y軸上を時計Aが時間軸プラス方向に移動します。(ですからY軸が時計Aの世界線です。)

時計Bの世界線は緑色の右下から左上に向かう直線で示されます。

直線の式は

y=5-1.25X 

時計Bは時計Aに対して相対速度V=0.8Cを持ちますから、傾きは1.25、右側から左側に進行しますので傾きの符号はマイナスです。

そうして時計Bは時計Aの時刻で0秒の時にリセットされます。

その場所はX=4の所になっています。

つまり、X軸上に時計Bが到達した時点で時計Bは時計Aと時刻合わせをするのです。

ですのでそのイベント①の座標はイベント①=(t1,x1)=(0、4)となります。



そうして時計Aの読みで5秒後に時計Bは時計Aとすれ違います。

そのイベント②が起こる座標はイベント②=(t2,x2)=(5、0)です。

但し図1の内容詳細につきましては: http://fsci.4rm.jp/modules/d3forum/index.php?post_id=29864 :を参照願います。



図2のプロット

y=x,y=-x,y=0,x=0,y=1.25x+5,x=-4,y=5  プロット  -10<x<10, -10<y<10

図2の実行アドレス

https://ja.wolframalpha.com/input?i=y%3Dx%2Cy%3D-x%2Cy%3D0%2Cx%3D0%2Cy%3D1.25x%2B5%2Cx%3D-4%2Cy%3D5%E3%80%80+%E3%83%97%E3%83%AD%E3%83%83%E3%83%88%E3%80%80%E3%80%80-10%3Cx%3C10%2C%E3%80%80-10%3Cy%3C10

時計Bが静止している、と見ますから、時計BがY軸上を下から上に移動します。

それに対して時計Aが左から相対速度V=0.8Cで接近してきます。

従って時計Aを表す世界線はy=5+1.25X となります。

距離Lは前回同様に4ですから、時計AはX=-4 で時計Bの時間が0秒の時にリセットされます。

それでこの場所で時計Aとすれ違う時計は時計Dです。

この時計Dは時計Bと同じ慣性系βにあり、時計Bとは同期が取れています。

こうして時計Dを使う事で時計AはX=-4の場所でリセットする事が可能となります。

それで時計Aがリセットされたイベントがイベント③となります。

従ってイベント③の座標は(t3,x3)=(0、-4)です。

さてそれで、時計Aはそのまま時計Bに接近し時計Bの時間で5秒後に時計Aは時計Bとすれ違います。

この時のイベントは前回イベント②としました。

このイベント②の時計Bから見たMN図での座標は(t4,x4)=(5、0)です。

時計Aはイベント③でリセットされそのままイベント②に向かって移動します。

したがって固有時の定義「2つのイベントの間を移動する時計の経過時間が固有時である」に相当するのはこの場合時計Aの時間経過となります。

但し図2の内容詳細につきましては: http://fsci.4rm.jp/modules/d3forum/index.php?post_id=29901 :を参照願います。



注2:「時間の遅れはお互い様」という主張の根拠は「観測者は『自分が立つ時計が移動してはいない=運動系ではない=静止系である』と主観的に判断してよい=特殊相対論はそのような観測者の判断を認める」という認識にあります。

しかしながら上記で示された事は「観測者が単に主観的に『自分は動いていない=静止系である』と自分勝手に認識する慣性系と、実際にそこにある客観的な静止慣性系とでは異なったMN図が現れる」という事です。

従って「観測者の主観的な判断による静止慣性系」は「客観的に存在している静止慣性系とは異なり見かけ上のものである」と言う事になります。



追伸:上記で述べた様にMN図1とMN図2はローレンツ変換によってはお互いに入れ替わる事ができません。

そうであればまたこの事も「MN図1とMN図2は同じ状況を表すものとは言えない」と言う事のもう一つの証明になっている様です。

ちなみにこのあたりの状況ですが、光の場合は静止系と運動系はローレンツ変換で結びつき、そうしてその結果は「静止系で見た時に確認できた、発光点からの同心円状に広がる光の姿を運動系でもまったく同様に確認できる」と言う事になっていました。

それで「光がどうしてそのようにふるまえるのか」という事ですが、光の場合はローレンツ変換対象となる一連のイベントはライトコーンと当該ローレンツ変換によって決められる同時刻平面との交点になっている、と言うのがその理由となります。

そうであれば結局の所、当該ローレンツ変換が決める事になるひとかたまりのイベントはローレンツ変換後は同心円状になるのです。

そのありさまと言えば「まるで出来試合の様」に同心円状になる様に変換対象となるイベント集合を変換を行う当のローレンツ変換が選びだすのですからそうなる以外の結果は出てきません。

そしてこの件状況詳細につきましては:「その3・ MMの楕円の3Dプロット」: http://fsci.4rm.jp/modules/d3forum/index.php?post_id=28869 :を参照願います。


さてしかしながら「時計を使った時間の遅れ確認」ではどうやら「静止系から見た状況」と、「その同じ状況を運動系から見た場合」とでは「違った姿が見える」と言う事の様です。

というのも時計の場合は当該ローレンツ変換が決める同時刻平面はイベントそのものの決定に対しては何の影響も与えないからであります。


追伸の2:時間と空間の非対称性について

ミンコフスキー時空においては2つのイベントの間の距離は固有時で表されます。

そうして勿論「固有時は時間距離」であって「空間距離」ではありません。

したがって「ミンコフスキー時空では時間と空間は対等ではない」という事になります。

さてそうであれば「ローレンツ短縮はお互い様」であったとしても「時間の遅れはお互い様である必要はない」という事になります。


ちなみにミンコフスキー自身は固有時と時間の遅れを別の事であると認識していた様です。

そうであればこそミンコフスキー自身は「時間の遅れはお互い様論者でありえた」という事になります。

そうしてそれに対してランダウ、ジューコフの認識、

『どの様な基準系から見ようと(注4)針が10回転した事実はかわりませんので“固有時”は絶対的な量です。(注5)』
と言う表現はミンコフスキーの認識をさらに一歩進めたものであると言えます。

なおこの件詳細につきましては「固有時パラドックス・相対論」: http://fsci.4rm.jp/modules/d3forum/index.php?post_id=29799 :を参照ねがいます。


PS:相対論・ダークマターの事など 記事一覧

https://archive.ph/4s3Bh

https://archive.md/QNUJ8