特殊相対論、ホーキング放射、ダークマター、ブラックホールなど

・時間について特殊相対論からの考察
・プランクスケールの原始ブラックホールがダークマターの正体であるという主張
 

その2・電子の異常磁気モーメントの精密測定

2024-05-18 01:47:44 | 日記

まずは「電子g 因子の“anomaly”」: https://www.jahep.org/hepnews/2021/40-3-3-g.pdf :を参照することから始めましょう。

『一方で電子とよく似たミューオンの g 因子についても,4.2 標準偏差の理論値と実験値の乖離が発表されたことは記憶に新しいだろう [22–24]。様々な標準模型を超えた物理が提唱されているが,それらがフレーバーによらずまた十分に重いという比較的弱い仮定を置くと,ミューオン g 因子のズレを電子 g 因子に質量二乗比(me/mμ)2 でスケールすることができる。これを計算すると,もしミューオン g 因子で観測された “anomaly” が新物理によるものならば,現在の電子 g 因子の測定精度のわずか 5 倍の向上(と微細構造定数の 2 倍の精度向上)により確認できるはずなのだ。この意味で,電子 g因子の測定はミューオン g 因子のズレの独立な検証となりうる。(注1

電子とミューオン両方の g 因子に現れたこの新しい“anomaly”は標準模型の初めての綻びなのだろうか?答えは新しい測定によってのみ与えられる。我々はNorthwestern 大学において現在の電子 g 因子の測定精度を数年以内に 10 倍改善することを目標に研究を進めている。
その開発の様子を紹介する。』

『Penning trap とは電場と磁場による荷電粒子のトラップである。電場により粒子は z 軸方向に沿って閉じ込められ,磁場により動径方向に閉じ込められる。その中での粒子の軌跡は三つの独立した振動で表される—

(I)磁場による cyclotron 振動 νc,

(II) 電場による z 軸方向の axial 振動 νz,そして

(III) 磁場と残留電場によるmagnetron 振動 νm である。

Penning trap 自体は陽子・反陽子や荷電イオンなどにも使われるが,電子の場合はその質量の軽さから,他の粒子の Penning trap より数桁高い周波数スケールを持つ。この非常に高い周波数スケールが電子の Penningtrap の特徴であり,それが様々な利点(と苦悩)をもたらす。

我々の典型的なトラップパラメータでは,cyclotron 周波数が νc = 150 GHz,axial 周波数が νz = 200 MHz,magnetron 周波数が νm = 130 kHz,そして spin 歳差周波数が νs = 151.7 GHz である1。このうち,実験的に直接観測可能なのは axial 振動のみである。Cyclotron 振動は周波数が高すぎるため直接観測が難しく,magnetron振動は本質的には外乱に不安定なため観測には向いていない。よって電子に関する全ての情報は,axial 振動をモニターすることで調べる。

このトラップを,低ノイズ実現のために希釈冷凍機を用いて 50 mK まで冷却する。これにより,電子のさまざまな量子性があらわになる。』

現状については

『以上の研究開発をもとに 2021 年春頃からコミッショニングを進めている。上記の開発のうち,SQUID 検出器以外のシステムは既に装置に組み込まれている。
現在はまず,最も重要である余剰拡がりを抑制できたかを確認するための測定を行っており,またそこから実際の測定感度を見積もっている。詳細はここではまだ書けないが,装置の安定性向上と温度の改善により,1 日あたりの統計誤差は 2008 年の測定のおよそ半分程度まで改善された。』

まとめとして

『電子 g 因子の測定は一種の理想的な物理測定であると思う。電子を一つだけトラップし,量子基底状態へ落とし込み,そこで二つの周波数の比を測る。モデル依存性や系統誤差補正をなるべく無くしたシンプルな系は,そもそも不確定要素が少ない。これらは Dehmeltや Gabrielse らが一見空想のようなアイデアを粘り強く開発し続けた結果である [25, 43, 44]。まさに精密測定と呼ぶべき実験の一つであろう。
1 節で紹介した “anomaly”は本物なのだろうか。それに答えられる日も近いかもしれない。』2021 年 (令和 3 年) 10 月 7 日

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さて同じような文脈ではありますが、次の記事も参考になります。

「電子の磁気モーメントで新しい物理を探る」: https://archive.md/HhTTI :2023 年 2 月 13 日• 物理学16、22

『電子の磁気モーメントの測定は前例のない精度を達成し、標準モデルを超えた物理学の探求に大きな可能性を示しています。

目覚ましい成功にもかかわらず、素粒子物理学の標準モデルは明らかに完全ではありません。暗黒物質暗黒エネルギー宇宙の物質と反物質の非対称性は、その最も重大な欠陥の一部です。したがって、実験者は、標準モデルを完成または置き換えることができる理論のヒントを提供する可能性のある異常を熱心に探しています。

電子はこの探求において重要な役割を果たします。電子の磁気モーメントは、これまでで最も正確に測定された素粒子の特性であり、最も正確に検証された標準モデルの予測でもあります。イリノイ州ノースウェスタン大学のジェラルド・ガブリエルス氏のグループによる新しい測定 [ 1 ] により、2008 年に得られた以前の最良の推定値より 2.2 倍正確に電子の磁気モーメントの値が決定されました [ 2 ]。この結果は、今後数年間でさらに大きな精度向上への道を開き、これらの測定を使用して標準モデルを超えた物理を探索するという興味深い見通しを提供します。

物理学者の格言によれば、新しい物理学は次の桁の精度から始まります。電子の磁気モーメントの歴史がそれをよく示しています。電子にスピンがあることが実験で明らかになった後、ポール・ディラックは有名な相対論的方程式を使って電子スピンの正式な記述を提供しました。彼は、電子のg係数 (粒子の磁気モーメントと角運動量を関連付ける無次元量) は 2 になるはずだと予測しました。しかし、1947 年、物理学者のポリカープ クシュとヘンリー フォーリーの高精度実験により、gが 2 よりわずかに大きいことが判明しました。この「異常な」磁気モーメントは物理学者のジュリアン・シュウィンガーによって説明され、 g の計算に量子力学的補正を含めることで 2 よりわずかに大きい値が得られることを示しました。シュウィンガーの計算は、量子電気力学 (QED) の理論の基礎を築きました。それ以来、電子の磁気モーメントは QED と標準モデルのテストで重要な役割を果たしてきました。

しかし、素粒子の磁気モーメントを標準モデルのテストにどのように使用できるのでしょうか?その答えは、量子物理学によれば、真空には、飛び出したり消えたりする仮想粒子が溢れているという事実に関係しています。これらの粒子は、電子やミューオンなどの特定の粒子と相互作用して、磁場に対する粒子の応答を変更し、磁気モーメントとg係数に影響を与えることができます。理論家は、標準モデルによって予測される素粒子との相互作用を考慮して、粒子のg係数の期待値を計算できます。実験値が予測から逸脱すると、粒子または相互作用のモデルのレパートリーに欠落している部分が明らかになる可能性があります (図1 )。電子の場合、予測からの逸脱は、電子が素粒子ではなく内部構造を持っていることを意味する可能性さえあります。

現在、この分野で最も興味深い謎は、ミュオンの磁気モーメントに関する理論と実験の間の永続的な不一致であり、その不一致は現在 4.2σ に達しています。𝜎統計的有意性 [ 2 ]。

この不一致が新しい物理学の特徴であるならば、それは電子でも観察されるはずです。注2

電子の質量が 207 倍軽いとすると、電子に対する影響はミューオンに対する影響よりも約 40,000 小さくなります。

ガブリエルセのグループによる新しい測定では、電子磁気モーメントの相対精度が 0.13 兆分の 1 (ppt) に達しました。これは、ミューオンで達成された精度よりも 3000 分の 1 以上小さい値です [ 2 ]。得られた値の結果は、やはりガブリエルセ率いるチームによってハーバード大学で実施され、0.28 ppt の精度を達成した 2008 年の実験と一致しています [ 3 ]。』(注3

『電子のg -2 の標準モデル予測をテストするために測定を使用する機能は、予測精度が微細構造定数αの値に依存するという事実によって現在妨げられています。

残念ながら、2 つの最も正確なαの測定値間の5.5- σの不一致 、これらの測定はカリフォルニア大学バークレー校のチームによって実行され [ 4 ] 、フランスのソルボンヌ大学の私のグループによって実行されました [ 5 ]。

両グループは、この不一致を解決するために新しい測定キャンペーンを計画しています。最後に、新しいセットアップにはさらなる改善の大きな可能性があります。

近い将来、電子g -2 測定は、新しい物理学に対して、興味深い 4.2𝜎標準モデルの張力- を明らかにしたミュオンg -2 測定と同等の感度に達すると期待するのは合理的です。[ 2 ]。(注3

これらすべての発展は、電子がこれまでにないほど新しい物理学への扉を開く準備が整ったということを示しています。』

この記事の参考文献として: Measurement of the Electron Magnetic Moment : https://link.aps.org/accepted/10.1103/PhysRevLett.130.071801 :

 

注1:レプトンという素粒子の分類の中では「電子とミュオンは質量が200倍ほどミュオンが重い、という事を除けばほぼ同じ挙動をするはずである」となっています。

従って「ミュオンで確認された異常磁気モーメントのアノマリーが新物理現象によるものであるならば電子においてもそれが確認できるはずだ」となります。

しかしながらここでは「ミュオンの場合は回転運動が必要であった」という「地球が静止系に対してドリフトしている事による影響の話」は指摘されていません。

その事は置いておいて「ミュオンを電子に入れ替えても同じようなアノマリーが確認されるならばレプトンについては新物理現象が実在する事を示している」と主張しているのです。

それに対して当方は「電子の異常磁気モーメントの測定は静止系での測定になっている為、ほぼ理論計算を再現できるものになっている」と主張しています。

そうしてまた「そこには新物理がないであろう」というのも当方の読みであれば「電子の場合は測定精度がミュオンと同じレベルに到達しても実測値と理論計算との間に有意な差は検出される事はない」と主張します。

注2:この書き方から分かる様に「現時点では電子の異常磁気モーメントの測定精度においては実測値と理論計算との間に有意な差は検出されていない」のです。

つまりQEDの計算が与える答えの通りの結果を実験が出している、という事になります。

ちなみに電子の場合はミュオンで問題になっている計算上でのハドロン項の影響がないので、QED計算だけで異常磁気モーメントの値が決定出来る様です。

注3:『電子に対する影響はミューオンに対する影響よりも約 40,000 小さくなります。』のであれば「電子の測定実験の感度はミュオンの40,000倍にする必要がある」という事になります。

そうして現状では『電子磁気モーメントの相対精度が 0.13 兆分の 1 (ppt) に達しました。これは、ミューオンで達成された精度よりも 3000 分の 1 以上小さい値です [ 2 ]』

さてそうであれば 40000/3000=13.3 つまりは「あと14倍精度をあげればミュオン測定に追いつく」という事になります。

これが上記pdfで出てきた数字『我々はNorthwestern 大学において現在の電子 g 因子の測定精度を数年以内に 10 倍改善することを目標に研究を進めている。』につながるのです。

追記:速報:「世界初 素粒子ミュオンの冷却・加速に成功」: https://archive.md/zl1dZ :

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PS:相対論・ダークマターの事など 記事一覧

https://archive.md/ThJeT

 


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