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フランス「農業未来法」

2013年05月23日 | 農業
稲川盆地も田植の時期になった。遅い春と天候不順で例年より一週間ほど遅れた農作業だ。苗の管理と田んぼの代かき作業等の真っ最中なのだが、トラクター作業で頭から離れないのがフランス「農業未来法」制定を準備の報道記事だ。

この国は農業基本法制定以来掲げ続けられる「規模拡大論」、なんとかミクス論者は10年後農業所得倍増を宣言。TPP対策などと云われてるが結果は「推してするべし」の感。

さすが農業王国フランスと想わせる報道記事。以下は全文。

フランス「農業未来法」制定を準備 農業生産と生態系の対立を克服する農業・環境プロジェクト

 フランスで「農業の未来法」(Loi d'avenir pour l'agriculture)制定の準備が進んでいる。ステファン・ル・フォール農相が4月15日に農業食料経済方向付け上級会議に提出した法案の骨子によると、「この法案は今後20年のフランス農業に必要となる変化とその挑戦に備え、農業者・消費者・市民の期待を両立させることを使命とする」。法案は今年9月に提案を予定する。

 Loi d'avenir pour l'agriculture‐Stéphane Le Foll lance la concertation sur les six thèmes de son projet,Terre-net,16/04/2013

 農相は昨年12月18日以来、この法律の内容と哲学を語り始めているが、法案は農地保全と青年農業者の自立就農に加え、「農業・環境プロジェクト」(projet agro-écologique)をいくつかの柱の中心に据えるという。

 Stéphane Le Foll lance la trame de son « projet agro-écologique pour la France »,Terre-net,18/12/2012
 Stéphane Le Foll a présenté son projet « Agricultures : produisons autrement »,Terre-net,28/02/2013

 農業・環境プロジェクトとは、生産、食料安全保障だけではなく、環境サービスにも同等に配慮した農業を構築しようというものだ。20年後のフランス農業は、環境を最大限尊重しながら、同時にフランスと世界の食料安全保障に寄与せねばならない。生産的農業と生態系の絶対的対立というパラダイムの転換、フランスは、敢えてこの難題に挑もうというのである。

 そんなことが可能なのだろうか。フランス農学協会は、早速批判の声をあげた。「高いエコロジー的、経済的、社会的パフォーマンスを合わせ持つ生産様式は存在しない。環境を尊重する農法が高い収量を確保するなど想像するのも難しい」と言う。

 Préparation de la loi d’avenir - Pas de mode de production à la fois performant écologiquement et économiquement,Aglisalon,13.5.11

 とはいえ、農相の発案は決して唐突なものではない。2009年2月、当時のバルニエ農相は、既に、2050年には90億に達する世界人口の必要を満たす生産を確保すると同時に、希少化する自然資源と生物多様性の保全も可能にするフランス農業を2020年までに作り上げるという壮大なプランを発表している。

 それは、①希少化する水の利用方法の改善、②良好な水域生態系の再建への貢献、③豊かな生物多様性と景観への貢献、④農地土壌の保護、⑤エネルギー制御の改善と気候変動防止を挑戦すべき主要課題に据え、こうした課題に応えるための主要な行動計画として農薬使用半減計画、農業経営のエネルギーパフォーマンス計画、有機農業計画、農業経営の環境認証、持続可能な養蜂のための蜜蜂計画を掲げていた。

 2020年のフランス農業 生産性維持と自然資源・生物多様性の保全,09.3.2

 「農業の未来法」の中心的柱となる農業・環境プロジェクトは、既存のこうしたアプローチを延長、拡充するものと言えよう。そして、農学研究も、「高いエコロジー的、経済的、社会的パフォーマンスを合わせ持つ生産様式は存在しない」とは言い切れないところまで進んでいることにも注意する必要があるだろう。

 2010年、フランス国立農学研究所(INRA)は、アグロ・エコロジーを二つの重点研究分野の一つに据えた。INRAのアグロ・エコロジー班を指導するフィリップ・ラマンソゥによれば、研究は当面、農業面(収量)、環境面(化学肥料・農薬投入や温室効果ガスなどの削減)、経済面(生産費と経営マージン)、社会面(どれほどの農業者が受け入れることができるか)など、「科学的認識の開発と実現可能性の検証」にとどまっている。将来のEU共通農業政策(CAP)において、この種の農業にどれほどの補助金が当てられるかという政治的次元の問題も忘れてはならないという。

 それでも、いくつかの研究は、既に上首尾の証拠を示しているという。特に雑草に関する実験では、特殊な土壌耕耘、適切な輪作、”窒息させる”植物の利用、播種日遅延、機械的除草などで除草剤使用を減らせることが分かったという。

 L'agroécologie, un chantier prioritaire pour l'INRA,Le Monde,4.25

 将来の農業のモデルの一つを提供することになるかもしれない農家=農学者の農場がヴァンデ県にある。ここには、えんどう豆、大麦、小麦、青刈り空豆、トウモロコシ、ナタネ、えんばく、ソルゴー、牧草、小さな木立ち、ポプラなど29種もの作物がモザイク状に並び育つ。蜜蜂の巣箱もあり、雌牛や若鶏もいる。この組み合わせはでたらめではない。例えば、エンドウ豆は大麦が必要とする窒素を固定する。病気に弱い大麦は、病原体が畑に入るのを妨げる別の種に混じって育つことで病害を免れる。

 この農場は1990年代にアグロ・エコロジーに転換した。これは生態系のサービスを利用するやり方で、「自然と戦うのではなく、折り合う」のだという。経営面では、トウモロコシや小麦のような穀物に関するかぎり、収量は通常の農業に比べていくぶん劣る。ただし、収量減は品質の良さで補償される。種子、飼料、肥料、農薬は一切購入しない。これで生産費が減り、19人がこの農場で働くことを可能にする収益が出る。

 木や糞尿を播くことが土壌生産性の基盤である土壌微生物の発達を促し、土壌の耕耘も減る。圃場の周りの生垣が殺虫剤の代わりとなる天敵昆虫を育てる。

 何やら、福岡正信氏の自然農法を連想させる。

 L'agroécologie est-elle l'avenir de l'agriculture française ?,Le Monde,4.25

 農地集積=大規模化=生産効率改善ばかりを追い求める日本農政の発想の貧しさが際立つ。
「農業情報研究所」2013.5.13(http://www.juno.dti.ne.jp/~tkitaba/index.html)

さらに、「欧州の農地集中と土地収奪 若者等の農業参入を阻む 小農民グループの新たな研究

「ほんの一握りの「担い手」(専業農家、法人経営など地域の農業を牽引するとされる農業者)への農地集積による規模拡大・効率化の追求を基軸とする日本の農業政策、あるいは「戸別所得補償」を万能の政策手段とするような日本の農業政策は、高齢化と農業就業人口の減少に象徴される日本農業の後退を決して止めることができなかった」
「農業情報研究所」農業問題 2013年4月19日

一方我が国与党はこのほど「農村所得倍増目標10カ年戦略」― 政策総動員と現場の力で強い農山村づくりを発表した。 (https://www.jimin.jp/policy/policy_topics/pdf/pdf098_1.pdf)

フランス「農業未来法」とのスタンスの違いは明らかだ。
これまで現れている負の現象の原因を検証もせず、新しい方向が生まれることはない。農業、農村、地方の再生はこれまでの負の現象の徹底した検証し問題点を洗い出す作業から始めるべきだ。欧州でも農業生産者の立場は変わりはない。与党の「農村所得倍増目標10カ年戦略」等、この国の農業政策はやればやるほど生産現場は停滞もしくは衰退の方向に向かっていく。小さな土地でも、丁寧な管理で作物を育ててきた喜びを無残に壊してしまった政策は、ますます耕作放棄地が拡大されていくことになる。6次化、農業法人、、、、この流れは今までの多くの勤労農民を抹殺してきた方向を加速させるに違いはない。

フランスの「農業未来法」に注目している。法として制定まで曲折がありそうだが、「生産的農業と生態系の絶対的対立というパラダイムの転換」を前面に出した政策の提言に共感。

政府の産業競争力会議や規制改革会議の効率追求、経済最優先、働く人より企業経営者重視の姿勢が鮮明、解雇規制を緩めて企業が金銭解決で労働者を解雇できる方策を検討している。この政策で兼業農家の不安定な職場はさらに増幅される。
農産物の圧倒的生産は多くの兼業農家の支えられている状況からして、このような考え方が根底にある政策遂行では、いづれ食料の自給力は低下し、生活保護世帯が地方、農村の現場に確実に増えていくことにつながる。








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