ヒスバナアラカルト

香西善行の雑記ドコロ
諸々の感想には具体的内容も含んでいますので、お気をつけくださいね。

雨上がりの朝に

2014-03-29 15:40:14 | 日記ニ非ズ

 

『催花雨』という言葉を聞いた。
 
 春先になると桜をはじめ、花たちがいよいよ咲き始める。暖かくなり私たちの気持ちもほぐれ、ついつい色鮮やかな花たちを愛でるモードへと世の中は動き始めるものだ。そんな時、冷たい雨など降るとため息まじりに「せっかく咲いてきたのに」なんて憂いた言葉が漏れる。しかし、この時季の雨こそ花にとっては恵みの雨であり、ここで力を蓄えポカポカ陽気が巡って来た時に存分に咲き誇れるのだ。そんな大切な雨のことを誰かが名付けた『催花雨』と。
 
 意味、用いた漢字、共に季節の変わり目の情景が広がる素敵な言葉である。

溶解

2014-03-27 01:53:45 | 日記ニ非ズ

 

 暑い。
 昨日もじゅうぶん春のうららかさを味わったが、それよりさらに気温は上がり初夏の域に達している。
 都内で運転していると窓を開けたくない。なぜなら、臭いから。いくら規制をかけたところで排ガスは出される。列をなした車たちが撒き散らす煙は更なる気温上昇の種になる。
 
 エアコンの効きも悪いなか日差しと格闘すること小一時間、だんだん身体が溶けてき始めた。まずは窓側の右手からその変化は始まった。ぼたぼたと足に垂れてくる右腕。指から消え、手首へ、あっという間に肘まで溶け、そのまま肩まで溶けた。
 
 「まずいな……」
 
 右手を失い心配したが、大丈夫。左手でハンドルさばけばよい。そんな事をぼんやり考えている間に左手も消えていた。
 だらだら、ぼとぼと。身体は絶え間なく溶けてゆく。さんさん、ギラギラ。太陽は容赦なく照りつける。
 
 アクセルを踏んでいた足も消えた。それでも車は止まらない。
 溶けた身体は車体に浸み込み、ガソリンタンクへぽたぽたと集まっていく。
 私の溶けた身体はエンジンで小爆発を繰り返し、時速60kmで山手通りを疾走する。
 どこまでも黒く、肉の焦げた匂いの煙を撒き散らしながら。

季節モノ

2014-03-24 23:47:50 | 日記ニ非ズ

 

 高層マンショや上場企業のビルが建ち並ぶ埋立地の一画。
 
 私は車を路肩に寄せ配送伝票をめくりながら届け先を確認する。目の前のビルだ。
 見上げていた視線を水平に戻すと、そこには一組のカップル。
 制服姿。背は高いが幼さが消えていない、中学生だろう。
 二人は向かい合い、身体を寄せ合い、お互いにしか聞こえない言葉を確認し合う。
 その内、そんな言葉すら邪魔になったのか二人の口、……唇は隙間なく重なり、腕を相手へと絡ませ始める。
 まじまじ見るわけにもいかず、そこは大人の対応として素通りを決めこむ。大人は仕事をしなくちゃいけないのだ。
 配送を終え戻ってくると二人の姿はなかった。
 遠く伸びる歩道には人の影はない。
 
 今日の東京は四月中旬の暖かさ。
 すっかり春ですね。