福島県いわき市小名浜、そこに建つひとつのソープ店が舞台。
突然起こる地震。2011年3月11日以降の1年間、そのお店では何が起こりどんな交流が生まれたのかが描かれる。
3.11から2年半、当時に比べれば落ち着きは取り戻しつつあっても被災地において解決してない事は山積みなはず。”放射能”の話題は絶えずセンセーショナルに取り上げられている中、福島に限らず被災地での生活にスポットが当たることは少なくなった。今回観た『泡』という作品は震災によって大きな影響を受けて生活している地元の人々の存在を正面から伝えてくれ、現在ある日本の日常の片鱗を今一度考えさせられるものであった。
テーマは社会的に重くとも、目の前の舞台で繰り広げられるのはとても人情味のある話である。泣き、笑い、悩み、助け合い、別れがあろうとも繫がりあえている人達。矛盾に葛藤し、怒鳴り合いの喧嘩をしようとも一緒に酒を飲みに行く姿。芝居を観ている感覚が薄れ、訪れたことのない小名浜のソープ店に居るような気持ちになってしまう。本当に日常の風景のようで。だからこそ観終わった後に事の重大さを想ってしまう。
ソープ店の店長は3月11日が誕生日。震災からまる1年のこの日も震災前と変わらず従業員や常連客にお祝いされる。たとえ多くのものが失われた日であろうとも、親しい人の誕生日を祝う光景はとても幸せなそうだった。そしてこの『泡』から受ける前向きな姿勢を象徴するようなシーンでもあった。
抱える問題に嘆くだけでもなく、目を逸らすでもなく、強い意志を受け止めました。