急遽決まったTOCA*の公演。何せ公演案内が届いたのが公演のある週なんて前代未聞。といっても“急遽”には事情がある。本来、今会場である『名曲喫茶ミニヨン』でこの期間あるはずだった公演はHOTSKY「S」。それが公演直前で中止になってしまった為、「S」の演出についていた甲斐氏=TOCA*がまさに急遽公演を打つ運びとなったようだ。
TOCA*の前回公演「錆花」を観て以来、要注目人物に掲げている甲斐博和氏。勝手に個人的にね。「S」という作品で他団体への演出も観たいところではあったが、不意に作・演出の作品を観られるのもそれはそれでラッキーという気持ちで会場に足を運んだ。
荻窪にある『名曲喫茶ミニヨン』はその名の通り喫茶店である。完全予約制、二十五人限定。コーヒーをすするでもなく、談笑もほぼない満員の喫茶店はなかなか異様な圧迫感に包まれていた。
「うなぎとそうめん」これは女性主体の話にまちがいはないが、男女によって響く音が違って聴こえてたんじゃなかろうか。なもんで男である私の楽しんだポイントをば。
喪服風な黒いワンピースを着た女、食材で膨らませたレジ袋を提げてくる女、ミニヨンの店員である若い女。一人の死んだ男と結びつくこれら三人の女性達が物語の肝。この三様のチョイスにまず惚れる。喪服の女で萌え心を、レジ袋女でため息を、女カフェ店員で青さを。このコントラストによって「女ってヤツは……」と部外者的男目線が確立し、「どれどれ」と興味に没頭させられる。始まりは死んだ夫との浮気やら関係やらを問いただしながら痴話喧嘩になる。これはよくある話で、私もその流れで残された女の情のようなものを楽しんでいたのだけど、それは浅はかな視点だったと後でわかる。実は喪服の女は夫の浮気相手にある希望と期待を賭けていた。子供だ。たとえ浮気相手であろうと夫の子供を求めるその女の姿に理屈をはさむ余地はなく、ただ愕然とした。そして引け目を感じた。なんだろうね?「女すげぇ。」そんな気がした。単純かしら。
結局、レジ袋女と女カフェ店員に子供が宿っている可能性はゼロであることがわかり喪服女の昂りとこのお話は終焉を迎える。そしてレジ袋女は帰り際タマゴのパックを取り出し喪服女に差し出す。励ましの言葉と共に。透明に護られたその卵たちが異様な残酷さを醸し出してるように私にはみえた。